キマグレの在処 | アマヤドリ

キマグレの在処

以前バイトが一緒だった友達と会う約束の日。
やはり仕事がずるずると長引いてしまった。帰ろうと思えば帰れたのに軽口を叩いているうちに仕事を発見してしまったから。
いい匂いがする、と言われて自分の肌の匂いを嗅ぐ。わからない。赤ちゃんみたいな匂いがするかなと思う。チョコレートを食べていたからその匂いのことかもしれない。

少し約束の時間に遅れてしまった。一年ぶりくらい?前回は私の彼を交えて突然カラオケに行ったんだった。あの時ハナミズキを歌う彼女の声が抜けるように綺麗なことに初めて気が付いたんだ。
雨の中二人で一緒の傘に入って歩いたら急に親密な気持ちが久しぶりを飛び越えて帰ってくる。そうそう、これ。このひとはいつだってすごくお姉さんみたいに私を迎え入れてくれる。さりげなく傘を持ってくれて、そんなことに慣れない私は手持ち無沙汰なようなちょっと居心地のいいような、感覚になる。変だな。急にできたその空間の中でぱしゃぱしゃと歩く。変だ。うんと年下になったような気持ちになるよ。

少し歩いて到着したのはまだ高校生の私が当時の彼と来ていた居酒屋の入っていたビル。あ、ここ…と思っていたらまさにその居酒屋があった場所が韓国料理屋さんになっていた。
お刺身が安くておいしくて貧乏な私たちはしょっちゅうここに来ていたっけ。同じようにひとつの傘に入って。
雨降りの傘とそのひとをつなぐのはかなしい思い出ばかりな気がしていた。でも、ああよかった。ひとつ思い出すことができた。

チヂミとか韓国餅の入ったカレー風味の炒め物、冷麺、カルビを葉で包んで食べるやつ。名前がどうしても覚えられないなぁ。サムゲタンは覚えたけど、食べてもいないものだった。
とりとめもなく色んな話をした。特に会わなかった空白を埋めるでもなく深いところまで降りてゆくでもなく。ふんわりとしたこの空気に包まれているこのことこそが今日の主体みたい。ちょっと不思議な友達だ。ふらっと時折会う大好きな親戚のお姉さんみたい。そのひとがどんな時間を普段過ごしているのか、あまり知らないしあまり想像もしない。かといってどうでもいいわけじゃない。なんだろうか、なのに心がすっと落ち着いて。

帰りの電車の中でこんこんと眠ってしまった。

夜の雨はすきだ。