枇杷の木 | アマヤドリ

枇杷の木

大切な人の好物をひそかに覚えているのは素敵な心持ちがする。
大切な友達でもこいびとでも尊敬するひとでも。
食べさせてあげたい、食べている幸せの中に一緒にいたい、と思えるもしかしたら一番幸福なことのひとつ。

 * * *

まあるくて確かな重み。水を弾いてしまうような手触り。
子供の頃枇杷は高くてなかなか口にできなかったもののように思う。透明のパックにきれいに揃って並んでいるそのさらさらした実を、そっと指でつついてみたいという衝動に駆られた。

あんな乾いた皮につつまれながら枇杷は驚くくらい瑞々しくて甘い。
そしてあんなに固いように見えて枇杷の種は案外簡単に芽を出して育つらしい。

いつか庭を持つことがあったなら、食べるそばから種を植えて実を待とう。
いつも私の傍にいたひとが枇杷の木をみるたびにそう言ったのを思い出す。