「うんにゃ」
●と言うか言わないうちに、雅男の唇は映子の唇に吸い込まれていた。
「男って、生き方なり気性なりが顔に現われるっていうけど」
●映子はキスを交わしたまま後を続けた。雅男は一瞬びっくりして目を丸くしたが、形容しがたい心地よさに酔い痴れるばかりだ。
「四国の男は、特にその傾向が強いんじゃないかな、龍馬のように」
●そのままの状態でいたいところだが、映子は弄ぶように唇を離し、結論を導いた。
「龍馬のような面構えって、歴代の首相にはいなかったはずだぜ」
「それは観察が足りないだけ。その大きな目をガッツリ見開いて調べてみたら、二人がまったく同系統の顔ってことに気づくはずよ」
●雅男はなんとなく、おちょくられているような気がしないでもない。けれども映子の態度は存外、真面目だ。
●いつの間にか窓外の紅はいよいよきらびやかに、いよいよ純色に塗り込められていた。室内から空の色はまったく望めないが、染め上げられた真向いに壁から容易に想像がつく。そんな落日の狭間で向かい合う二人の影も、すっかり濃くなっていた。
「暑さはともかくも、素敵な夕暮れね」
●女が吐息のように呟いた。
「ああ」
●頷く男の肩に、女はそっと頭を寄り添えた。
●二人の視線に見守られながら、モルタル塗りの粗末な壁は次第に闇に被われていった。