ほどなくして、松本から、オーディションの書類審査に通ったという知らせが入った。

「絶対、翔くんの写真が良かったからだって!ホントに、翔くんのおかげだよ!」

いつの間にか、「翔くん」と呼び始めるようになった彼は、バイト先で跳びはねるくらいの勢いでそう言って、俺に報告してきた。

 

「これで、面接と実技に進めるんだって!うわー楽しみ!」

キラキラとした笑顔を振りまく彼の姿は、まぶしかった。

 

 

夏が来て、大学が休みになると、松本はオーディションに向けてレッスンの数を増やし、俺は俺で、就活に向けてインターンシップに行ったり、卒業研究に向けた課題を探したりと、忙しい日々が続き、時間が合わない事も多くなった。

 

就活とはまた残酷なもので、いかに自分が無価値であるかを、いやというほど思い知らされる。インターンに行っては、自分という存在が大して必要とされていないと勝手に感じ、また別の企業を見学しに行っては、妙に熱く勧誘をされるので、一体こんな俺の何を評価しているのだろうかと、うさんくさく感じたこともあった。

 

俺は欲張りなのだろうと思う。

 

 

そんなときに、久々に松本に会っては、弱音を吐くことだってあった。彼は決まって、真剣な顔で飽きずに俺の話を聞いてくれた。

 

時々、不思議になるのだ。彼は一体俺の何が良くて、こうやって付き合ってくれるのだろうと。

そう、彼に問うたこともある。

 

「何で、お前は、俺と一緒にいてくれるの?俺の、何が良かったの?」

「うーん。全部かな。」

「・・・お前、適当に答えてんじゃねえよ」

「適当じゃないって。全部好き。」

 

俺が呆れて、ため息をついていると、彼は不思議そうな顔をして、微笑みかける。

 

「翔くんはめちゃくちゃカッコイイし、いつだって俺に優しいし、頭いいし・・・。でも、そうたくさん並べたって、どうせ翔くんは納得してくれないじゃん。どうせまた、自分に価値がない、とか言って決めつけるでしょ?」

「・・・確かに、そうかも。」

「そんなのいくら集めたって、翔くんを説明できるわけじゃないし、だったら無理に説明をつけようとしなくて良いと思うけどな。・・・そもそも、足し算引き算で人を選ぶ訳ないでしょ?」

 

彼の言うことが分からず、聞き返す。

「足し算・・・?」

「例えばさ、一つの事でその人の事嫌いだなって思うときもあれば、別の人では大して気持ちに関わらない場合だってあるじゃん。・・・俺は、別に翔くんに多少かっこ悪いところがあっても、気持ちは変わんないけどね。まあ、たまに面倒くさくてムカつくけど、それも含めて翔くんだし。」

 

そっか、と頷く。

 

「それに、損得感情で付き合うのは変じゃない?俺は翔くんが好きだからそばに居たいし、翔くんが困ってる時は自分の損得とか関係なしに、助けになりたいって思うよ?」

 


そう言われて、自分の中で何かがストンと腑に落ちた。


「・・・そっか。そういう、事なんだね」

「何が?」

「あ、いや・・・。よく考えれば、俺もお前と同じ気持ちだなって。そういう事だったか、って。」


そう。好きだからそばに居たいし、好きだから助けになりたい。自分の身は関係なしに、彼を大事にしたい。どんな彼だって受け入れたい。

 

「・・・愛するって、そういうことだったのかも」

「うん?」

 

俺がつぶやくように言ったその言葉は、彼には聞こえなかったようだった。

だから、代わりというように、彼の肩に頭をコテンと載せて、ただただ、温かい気持ちを抱きしめていた。