五月号

 

                 早田 千畝

 

  すつぽりと身のひとつ席にをさめたるあの人へ会ひに行くバスのなか

 

  おいしそうだねうんそうだねと炊き出しの豚汁を待つ列に並びて

 

  世界にはいま俺一人と真夜中の高速道路ひた走るなり

 

  「いまそこへわたし降りてもいいですか」ひとひら春の綿雪ふりく

 

  陶芸の粘土をぴしゃりと潰すごとワープロの歌一首打ち消す

 

  固まつた蜂蜜の瓶を掻く朝の窓にカチカチ霰の叩く

 

      

 

 

 

 

                       早田 洋子

 

    あきらめの寂しさなるや紅(くれなゐ)のいちまい拾ひふはり焚火へ

 

    さがしても探してもわが故郷のあらぬ孤独になづむ身重し

 

    音なくて積もれる雪の篁へいざなふか潤む鹿の眸

 

    雪原に寥しと瞑る瞼(まなぶた)に白き骨浮く嗚呼われの骨

 

    樹といふはその地に生きて終はるなるわれは幾たび家移りけり

 

    眠るまへの猫の欠伸の大口に蛇の喉みる猫ぞおそろし

 

 

   ・・・・・・・・・・

 

     お元気ですか。

     

           

    

    フジコ・ヘミングが好きでした。

    彼女の強靭な姿勢が好きでした。

    その波乱万丈な生い立ちに重ねることもわが身にもありました。

    フジコ・ヘミングが逝きました。

 

    一度くらい自分のことを大事に思ってみよう、と思わせてくれました。

    だって、考えて見たってどうにも仕方がない事ってあるじゃないですか。

    だったら、一番信頼できるものを大事にしようって気づいたんです。

    欠点も、ちょっとばかし自慢できるところも、自分の事なら知っている。

    この私の手が触れるもの、私の耳に聞こえたこと、目に読んだこと、そして

    私がしゃべったこと。それらを謙虚に、ええ、自分に謙虚に、です。大事に

    しようって決めました。

    むずかしいとは知っていますが、自分に自由をあげよう、と。

    だれでもない、いま、この私のことを一番大事にしようって決める勇気を

    もらいました。

 

         *****

 

    「あれ、蝶々が・・・」と、

    散る落葉に蝶をみて、いない蝶々を追うてさまよう娘、

    お夏の舞姿とこのセリフがず~と

    もう七十年以上昔から、私の脳裏に残っています。

    周りの登場人物に狂乱だとからかわれながらも

    哀れに舞うお夏のその振りまで、覚えているのです。

    

    何が言いたいって?

    わたしのことを知ってくれている人、知ろうと思ってくださっている人、

    そういう人が居てくださることを有難く思います。

    その方々に伝われば十分、私は自由なのですと知りました。

 

 

   一日一日が

   よい日でありますように