Ep 71 ☆風が吹いた☆

中学生になっても、女子たちからの”無視"の生活は変わらなかった。
けれど、小学生の頃とはどこか違っていた。

当時は、不良やツッパリが流行っていて、少し大人びた格好の先輩たちが、まるで別世界の住人のように見えた。

それに憧れたのか、自分より下の子にわざと強い態度を見せつけ、
”中学デビュー”を気取る子たちも現れた。

友達もいず、皆に嫌われている私も、そんな子のターゲットにされた。

知らない子から、通りすがりに「バカ」「ブス」と投げられる言葉。
その軽さに、もううんざりしていた私は、ふと立ち止まり、
くるりと振り向いて言った。

「はい、そぉ~でぇ~す。
私は、ばっかでぇ~す。」

小学生の頃は、振り向いても誰もいなかった。
反論する”場”すらなかった。
でも中学生になった私は、ようやく言い返せる”場所”を手に入れていた。

***
キーンコーンカーンコーン♪
授業終わりのベルが、いつものように響く。

「今日の授業はここまで」

起立、礼。
わぁーー!

ーー孤独の休み時間の始まりだ。

「チッチちゃん、トイレに行こう
!」

…耳を疑った。
振り向くと、同級生の女子が立っていた。

「ねえ、チッチちゃん。一緒にトイレに行こう!」

当時、”一緒にトイレに行く”は、
仲の良い友達同士の合図。

まさか私に向けられるとは思わなかった。

「は?誰に言ってるの?
私に話しかけると、あなたも嫌われるよ」


すっかり荒んでしまった私は、そんな言い方しかできなかった。

それでもその子は、笑って言った。

「大丈夫!
私ね、見てたの。悪口言われている時、チッチちゃんが言い返してるの。
強い人なんだなぁって思ったの。
だから大丈夫。
一緒に行こう♪」

ーーその瞬間、風が吹いた。

強くなんてない。
あの時だって、体は震えて、涙もにじんで精一杯の言葉を絞り出していただけなのに。

それでも。

私はその日、ひとりの”友達”を手に入れた。

その友達は、今もずっと続いている。

     「チッチ物語」続く...