第2話「信じるか、迷うか」

サロンの扉を開けた瞬間、ふわりと心地よい香りが広がった。
緊張で固まっていた肩が、少しだけ緩む。
「いらっしゃいませ」
笑顔で迎えてくれた担当スタイリストの声は、不思議と安心感をくれた。
席に案内されると、鏡越しに目が合った。
差し出されたカウンセリングシートに記入しながら、これまでの悩みを正直に打ち明ける。
「白髪も増えて、クセも強くなって…。毎朝アイロンしても、すぐ広がってしまうんです」
うつむく私に、彼は真剣なまなざしでうなずいた。
「大丈夫ですよ。髪は変わります」
タブレットには、他のお客様の“ビフォーアフター”の写真。
同じようにうねりや白髪に悩んでいた女性たちが、つややかに笑っている姿に思わず息をのむ。
「○○さんの場合は、1年かけて改善していくのがベストです」
「まずは土台を整え、白髪染めと髪質改善を組み合わせて、少しずつ髪を“健康な状態”に戻していきます」
1年――そんなにかかるの?
焦りが胸をかすめた。
でも同時に、彼の言葉には迷いがなかった。
「焦らなくても大丈夫です。今日から始めれば、必ず変わりますから」
その言葉が、胸の奥に静かに響く。
信じたい。
でも、裏切られたらどうしよう。
しばらく沈黙した後、小さく息を吸い込んだ。
「…お願いします。私、変わりたいんです」
その瞬間、涙がにじんだ。
きっとこれは、髪のためだけじゃない。
自分をもう一度好きになるための、最初の一歩なんだ。
第3話へ続く
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