『我が同胞』
鬼である風間さんは、はっきりと私にそう言った
皆の前で私の腕を傷つけ、その傷が瞬時に消える様を見せつけた
信じたくはなかった、知りたくはなかった
普通と違う事、人間ではない事
自分が人を傷つける『鬼』である事を…
「何辛気くせぇ顔してやがる」
ふと顔を上げると、渋い顔をした土方さんがいた
「…」
言葉が出なかった
どうしたらいいかさえもわからない
いっそ風間さんに私を差し出してくれたのなら、何もかも諦めがついたかもしれない
「風間の元に行けば良かったと思ってるのか?」
「あっ…」
違う…
行きたくなどない
だけど、私を庇った意味がわからない
「千歳…鬼は何処にいるか知ってるか?」
肩が震えた
鬼は此処に居る
「鬼って奴は此処に居る」
そう言って土方さんは胸元を指した
「心の中にいる。誰もが心の中に鬼を住まわせてやがる。それを引き出して巻き散らかすか、そうしないか。それだけだ」
呆然とする私に、土方さんは言葉を続けた
「平気で人を傷つける奴の顔を見てみろ。まさに悪鬼だ。傷つけるものは刀だけじゃねぇ。言葉もだ。紡ぎだす言葉が邪となり人の心をえぐる。お前は好んで人を傷つける言葉を吐くのか?」
「…いいえ」
「だったら鬼なんかじゃねぇだろうが」
土方さんは呆然とする私の腕を強く引っ張り、行くぞと短く呟いた。
「痛っ」
「すまねぇ。斬られた傷は大丈夫か?」
傷があるはずの腕を見られて、私は気まずそうに俯いた
傷などない
瞬時に消えてしまったからだ
「…傷が残らなくて良かったな」
何事もなかったように振る舞う、土方さんの優しさが心に沁みた
「言っとくがな俺は正真正銘の鬼だぞ。粛清で血を浴び、罵倒の言葉を履き続けてきた。それに比べたらお前なんざひよっ子だ。鬼なんて名乗る資格もない」
そう言って優しい鬼は私の手を取り、皆の元へと歩き出した