
私はうれしい派!
本文はここから春は嬉しいと答えましたが…
正直何が嬉しいのか、明確な答えが良くわかりません(苦笑)
お花見が出来る事も嬉しいのひとつですが、夏も秋も冬も季節の花を愛でる事が出来ます。
気温が徐々に上昇し、陽射しが柔らかくなる事も嬉しいのひとつですが、冬の身が引き締まるような冷たい空気も、実は嫌いではありません。
原田さんと永倉さんは『春だ!酒が飲めるぞ~』と浮れていますが、お二人とも年がら年中飲める時は飲んでいるので、春にならなければお酒が飲めないと言うわけでもありません。
そうですね…
しいて言えば…
暖かくなれば外に出る機会が増えるから、それは嬉しいかな…うん…嬉しいです。
それは遊びではありません。
皆さんの巡察に同行して父様を探す事が目的です。
どこかで父様とすれ違うかもしれない。
良い知らせが聞けるかもしれない。
それが駄目でも…私が江戸から京の街に来ている事を父様に気づいてもらえるかもしれない。
一縷の望みをかけて、私は春の京の街へと足を運ぶのです。
「あの…斎藤さん、一体何処に連れて行ってくださるのですか?」
「目的地に着けばわかる」
「はぁ…」
見せたいものがあると言われ屯所を連れ出された私は、未だに勝手のわからない京の街を斎藤さんと歩き回っていました。
青く澄み渡った空を見上げながら、気紛れに浮かぶ白い月を探したり、大空を翔ける鳥を眺めたり…そうやってどのくらい歩いたのでしょうか。
先を歩いていた斎藤さんはピタリと歩みを止め、一本の木のそばに立ち尽くしています。
「どうかされましたか?」
「見ろ」
「…わぁ~」
指差す先には春を象徴する、あの薄紅色の花が咲いていました。
「この陽気で早咲きの桜が花開いたようだ」
「斎藤さん、春ですね!」
「あぁ…春だな」
「桜、綺麗ですね」
「あぁ…綺麗だな」
「なんだか嬉しくなりますね」
「そうだな…嬉しくなるものだな」
まったくの鸚鵡返しの返事を、私は笑いを噛み締めながら聞いていました。
それは春だから嬉しいと言うより…
誰かと同じ時間を共有する事が出来たから。
誰かと同じ気持ちを共有する事が出来たから。

春という季節は些細な事さえも嬉しくさせる、そんな力を持っているのかもしれません。