
私は誰にでも優しい人派!
本文はここから※今回の日記はSSLのため現代口調となります
好きになる人は私に優しい人がいい。
その優しさをたくさんの人にも向けられる、そんな人がいい。
私にしか優しく出来ないなんて、それは本物の優しさじゃないから。
「千歳、いつまで寝てるつもりだ?朝飯早くしろ。」
「お前はいつも寝癖つけてるんだな。さっさと直せよ。兄である俺が恥をかく。」
「赤点なんか取ったらどうなるかお前はわかっているんだろうね?クリスマス?そんなものあるわけない。浮かれる暇があったら家の事と勉強をしろ。」
朝起きてからさっそく薫の嫌味攻撃が始まる。
同居を始めてから半年以上経った今、単なる日常の一コマとなってしまった。
「おい?」
「何?薫。」
「なにニヤニヤ笑ってる?」
「へ?」
「俺の台詞を聞きながらニヤニヤしてたじゃないか。」
「笑ってた…かな?」
ごまかすように慌てて席を立ち、コーヒーのポットに手を伸ばした。
ポットの持ち手は想像以上に熱くて、私は伸ばした手を瞬間引っ込めてしまった。
「あちっ!」
声を上げた瞬間何かが割れる音が響き渡り、熱い飛沫が手や足にかかった。
割れたガラス、飛び散った黒っぽい液体。
目の前に広がる惨状が良く理解出来ない。
「馬鹿!何やってる!」
薫に罵声を浴びせられ、ますます頭の中が真っ白になった。
「ごっごめ…」
「モタモタするんじゃない!」
強い力で腕を引っ張られ、いきなりシンクに押しつけられた。
痺れるくらい冷たい流水が腕を濡らす。
かすかに痛みを感じる。
「足は?」
「あっ足?」
「足にコーヒーがかかったのかって聞いてんだ!」
「あっ…ちょっとだけ…」
薫はそばにあったタオルを濡らし、しゃがんで私の足を冷し始めた。
「だっ大丈夫だって。大した事ないし。」
「跡が残ったらどうする!お前に傷がついてたら…あの綱道のハゲに責められるのは俺なんだぞ。」
「ごっごめん…朝からこんな事やらかして。」
薫はそれ以上私を責める事をしなかった。
俯き加減の薫の表情を見取る事は出来ない。
でも不機嫌である事は間違いないと思う。
「薫もう学校に行く時間だよ。私は大丈夫。たいしてかからなかったし、もう少しだけ冷せば直るよ。ほら…遅れると斎藤先輩が心配するし…。」
「火傷したお前を放って学校に行くほうがよっぽど後味が悪い。それに帰ってきてこの惨状のままだったら余計に気分が悪い。」
「…」
薫はなんだかんだ言っても私に優しくしてくれる。
意地悪な事も嫌味も沢山言うけど私に優しくしてくれる。
あのね…私知ってるんだよ。
薫が公園に捨てられていた猫にミルクをあげてた事も、雨が止むまで傘を差してた事も。
下駄箱の靴が無くなって困ってた人の靴を一緒に探してあげてたことも(嫌味タラタラ言いながらだったけど)。
本当は誰にでも優しく出来るはずなのに、人に対してどう優しくしてあげたらいいのかわからないだけだって事も全部知ってる。
「薫、ありがとう。」
「…」
ありがとうの言葉になんて言葉を返していいのかわからないくらい不器用な事も、私はちゃんと知ってる。
大好きだよ、薫。
この世でたった一人、血を分けたお兄ちゃんだもん。
嫌いになれるわけがないでしょ?
二人の繋がりを消す事なんて、神様でさえ出来っこないんだから。

でもね…
もうちょっと普通に笑ってくれると嬉しいんだけどな(笑)