如月の最後の日、私は夢のような時間を過ごした。
ずっと会いたかった、そう思っていたあの人にやっと会えた。
声をかけようと思った。
でも声はかけられなかった。
ただ黙って…見ている事しか出来なかった。
そう言えば、あの日に見た細い筋状の不思議な雲の正体はなんだったんだろう。
あれからいくらかの時が過ぎました。
今は苗が植えられ田には水が必要な【水張月】とも、長雨で天の水が無くなるから【水無月】とも言われています。
昨日はお天気が良かったから、張り切って洗濯物を片付けていました。
洗い終わった洗濯物を干している時、ふと空を見上げてみました。
真っ青な空にまた不思議な筋状の雲が見えました。
それも二本。
交差してどんどん長く長く伸びて行きます。
あの時のようの雲の先端に何かいるのかどうか、それは確認出来ませんでした。
馬鹿みたいに雲の動きを追っていたら、血相を変えた山崎さんと目が合いました。
「雪村君、すぐに来てもらえないだろうか!沖田さんが…」
「沖田さんが倒れたんですか!?」
慌てて駆け寄ると山崎さんは落ち着く様にと私を軽く制し、ため息混じりに言葉を発しました。
「いや…沖田さんがまた稽古中に無茶苦茶をして、新入りを滅多打ちにした。」
「…はぁ、じゃあすぐに手当てをしないといけませんね。」
ぼんやりとしている暇はなさそうです。
当然夢を見ている暇もありません。
(あの人…もしかしたら存在自体が夢だったのかな…。)
私が会いたいと思っていた人は…いつのまにか消えていなくなってしまいました。
理由はわかりません。
気がつけば何もかも…ここにいた痕跡さえ残されていないのですから。
(私はあの人に声をかけるべきじゃなかった…そういう事になるのかな?)
空に伸びる不思議な雲は、どうやら私に夢を見せてはくれないようです。
(今回は白い月が見えなかったしな…。ううん、違う。現実を見ろ。きっとそういう事だ。うん。)
「雪村!何をしている、早くしろ。これ以上怪我人を出すわけには行かぬ。」
「はい!斎藤さん!ただいま石田散薬をお持ちします。」
まだまだ慌しい日々が続きそうです。
次はいつ頃お会い出来るかわかりませんが、皆様どうぞお体には十分お気をつけてお過ごしください。
そうですね…もし七夕の頃に会えたなら、あの空に流れる美しい川へ願いを捧げるのもいいかもしれませんね。
あなたと二人で(微笑)