眼鏡 | 千歳日記

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眼鏡は顔の一部なんですか? ブログネタ:眼鏡は顔の一部なんですか? 参加中
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日本への眼鏡の伝来は十六世紀の頃、イエズス会の宣教師フランシスコ・ザビエルが来日し、周防(現在の山口県)の国主・大内義隆の献上されたものが一番最初だとされています。

今のように耳にかける形ではなく、すべてが手持ちの眼鏡でした。

今の形の眼鏡が現れたのは十七世紀の頃。

今では当たり前のようにある眼鏡の鼻当ては、日本人が考え出したものと言われています。

鼻が低いがために眼鏡が顔にくっついてしまうからが理由だそうです(笑)

十三世紀頃の西欧では『年をとって近くのものが見えず楽なるのは神が与えた苦痛だから、じっと耐えるべき』と考え【眼鏡は悪魔の仕業】【レンズは悪魔の道具】とみなしていました。

…なんだか修行僧のようですね(笑)

また東西問わず眼鏡は博学の象徴とされ『自分より目上の人の前に眼鏡をかけて出るのは失礼にあたる』と考えられていたそうです。

実際に教育水準、文化水準の高さに比例して眼鏡の装着率も高くなっています。





父様も薬の調合・研究の際には、眼鏡を着用していました。

目の前にある命を生かすも殺すも父次第。

『私は神ではないからね。けして万能ではないのだよ』と言いながらも、父様はたくさんの命を救い続けました。

たくさんの知識を持ち、人の生命に関わる事に従事する父は私の誇りです。

確かに眼鏡は【博学の象徴】と言えると思います。











父様の他に眼鏡と言えば山南さんです。

眼鏡と言えば学者や医者の印象が強かったため、新選組の中に眼鏡をかけた人がいる事は違和感を感じました。

眼鏡と武士の印象が自分の中で、上手く結びつかなかったので。

残念ながら…腕に傷を負ってからは、剣術より研究に力を入れています。

精神的に追い詰められ手を伸ばしたあの忌まわしい赤い液体は、山南さんに新しい力と変若水の研究という新しい生き甲斐を与えました。

剣客としての山南さんを取り戻せないまま、彼を【夜に生きる者】に変えてしまいました。

ただ真夜中の誰もいない道場で無心に竹刀を振る山南さんの姿は、やはり剣客以外の何者でもないのだと…そう思いました。

夕刻、いつもの通り私は山南さんの部屋へ食事を運びに行きました。

襖越しに声をかけましたが声は聞こえず、誰かが動く気配も感じられません。

(まさか…思い詰めて…じっ・・・自害とか)

勝手に襖を開ける事に躊躇い、でも緊急時だから仕方がないんじゃない?と自分に自問自答しながら部屋の前でうろうろしていると、すっ…と襖が開きました。

「山南さん!大丈夫で…すか…」

そこに立っていたのは、私の知らない男の人でした。

目覚めたばかりなのか、少しぼんやりしている風にも見えます。

(あれ?えっと…まっまさか…)

「申し訳ございません!部屋を間違えました!」

「…雪村君ですか?」

「えっ?」

(この人誰?なんで私の名前を知ってるの?)

その知らない人は顔を顰めながら私を一瞥し、「あぁ…」と一言呟いて部屋の中に戻っていきます。

文机の上にあった何かを手にして戻って来たその人は…

「あれ?山南さん…です…よね?」

「おはようございます…いえ、こんばんは…ですね、雪村君。眼鏡を付けていなかったので、君の姿が良く見えなかったようです。」

事態が飲み込めず目をぱちくりさせている私を見て、山南さんが笑い声を洩らしました。

「ふふっ…君も眼鏡がなかったために、私とわからなかったようですね。眠っている間は眼鏡は外しているのですよ。明け方遅くに眠りについたため、君に声をかけられるまで熟睡していました。」

笑いながら山南さんが眼鏡を外すと、そこにはさっきと同じ知らない顔がありました。

「あっ…そうか!眼鏡。眼鏡がないから山南さんじゃないって決めつけていました。眼鏡ってずいぶん人の印象を変えてしまうんですね。」

「そうですね、眼鏡は自分の顔の一部と化していますね。最近はもっぱら研究ばかりだから、ますます眼鏡が手放せません。」

そう言った山南さんの顔はやはり寂しげで…でも私は気の利いた言葉をかけられるわけでもなく…。

山南さんは黙って膳を受け取り、そのまま背を向けようとしている。

(えっと…何か明るい話題…)

「えっと…あっ!眼鏡ってどんな風に見えるんですか?」

いきなりの質問に山南さんは訳がわからないといった、ひどく驚いた顔を私に向けました。

(うわっ…変な事聞いちゃった)

「…かけてみますか?」

部屋に膳を置いた山南さんが、おいでおいでと手招きをしています。

私は招かれるままに部屋に入り、山南さんの隣に腰を下ろしました。

山南さんから差し出された眼鏡を手に取り目に近づけて、文机の上の書物を覗いてみました。

「わぁ~よく見える!」

山南さんと同じようにつるを耳にかけてみると…。

「うわっ!目が…くらくらします。」

「おやおや…雪村君には合わないようですね。」

笑いながら眼鏡をかけた姿は、やっぱり私が良く知る山南さんでした。

「やっぱりその眼鏡は山南さんのものです。すっかり山南さんの体の一部になってます。博識な山南さんにぴったりです。それに不思議な道具ですね。」

「眼鏡はかの徳川家康公も使用していたといいます。眼鏡の歴史は意外と古いのですよ。遡れば…」

私は食事の事も忘れ、暫し山南さんが語る眼鏡の歴史について耳を傾けたのでした。










余談ですが

私が食事の場に戻った時、私のお膳の食べ物は当然のようにほとんど食べつくされていました(苦笑)。