見えない月 | 千歳日記

千歳日記

この先にある未来を…

たとえどんな未来でも私は見届けてみせる

最後まで…必ず

ずっと空を見上げていた


どんなに探しても月が見えなくて…


どんなに探しても…父様の行方はわからない。


(斎藤さんは「焦るな」って言うけど…無理。)


もうこの空に、月はいないのかもしれない。


もうこの地には、父様はいないのかもしれない。


私一人が取り残されている。


私一人だけが動けずにいる。


心が重い


ずっと重くて


動けなくなる。


壊れてしまいそうなのに


私を支えてくれる人は誰もいない。


「うっ…ふぇ…ぐす…」


涙を堪えようとすればするほど、嗚咽が止まらなくなる。


私は廊下で一人膝を抱え、泣き声を押し殺して泣いた。


秋の虫の声も聞こえない。


聞こえるのは、私のみっともない嗚咽だけだ。


「おい…」


声の主の正体に気がついて、恐怖で体がビクンと震えた。


「ごめんなさい…。」


「俺に謝るような事したのか?お前はよ…。」


土方さんの前で泣くなと言われているからです


そう言い訳をしようとしたが、声が震えて言葉にならない。


「ちっ…めんどくせぇな…ほら、顔拭け。」


無造作に目の前に突き出された手拭いをぼんやりと眺めていると、いきなり手拭いが顔に押しつけられた。


「顔拭けってんだろうが。ったく…手間のかかるガキだな。」


「えっ、ちょっ…痛っ…」


無造作な所作に抗議の声を上げようと、土方さんへと目を向けた。


土方さんは相変わらずの不機嫌そうな顔だ。


しかし真剣に私の顔を拭い続けている。


それがなんだかおかしくて、笑いが込上げてきた。


「…ふっ…くすくす。」


「泣いた烏がもう笑いやがった。やっぱりガキだな。」


「すいません。なんだか土方さんの表情が可笑しくて。」


「俺は見世物じゃねぇ。」


「すいません…」


「…鋼道さんの事か?」


体がビクッと震えた。


新選組は父を探すのなら、娘である私がいた方が有利であると判断し、私は殺されずこうやって生きていられる。


父様らしき人を見かけたという話は、一度だけ聞けた。


でも、それは新選組にとっては良くない情報だった。


もし父が新選組を裏切ったのだとしたら…父は…私はどうなってしまうのだろう。


「焦るな…って言っても仕方ねぇよな。だがな、道は必ず開けるもんだ。必ず見つける、必ず会える。それに鋼道さんだってお前に会いたいだろうよ。


「でも…月も父様も消息も…何も見えなくて…不安で…私…。」


「月?…千歳、空を見ろ。」


千歳日記

土方さんが静かに指差した先には、欠けた月の姿がありました。


「ここのところ天気が悪かったからな。雲隠れしてたんだろうよ。だがな、たとえ雲に隠れて見えなくても、月は必ず空にある。鋼道さんが生きてって事は確かだ。何を考えているのかはさっぱりだが、少なくとも生きていればいつかは会える…そうだろ?」


「そう…ですね。いつか会えますよね。父様は私を置いて…どこにも行きません…よね?」


土方さんは何も言わず、ただ黙って私の頭を数回軽くポンポンと叩きました。


その手はあたたかく、優しく、私に少しだけ勇気と元気を与えてくれた…気がしました。


「…もう寝ろ。風邪ひくぞ。」


「はい。」


私は立ち上がり、もう一度空に浮かぶ月を見上げました。


白く明るく光り輝く月。


どうか私の進む道を明るく照らして


迷わないように


惑わないように


私を照らして…。