第517話「落書き」[終](通算第730回目)

放映日:1982/7/30

 

 

ストーリー

午後10時、横田一郎(45歳)(門脇三郎さん)は帰宅途中、謎の男にガソリンをかけられてライターで火をつけられ、焼死した。

七曲署捜査一係が現場に急行した。

野崎はガソリンのポリバケツに横田の指紋が付着していないことから、自殺ではないと断言した。

ガソリンは発電機用のもので、現場付近の工事現場から強奪されたものだった。

焼死体の身元は、24時間営業のミニスーパーマーケットチェーン「スーパー・丸幸」の紙袋が燃え残っていたことから、横田であると特定された。

横田はスーパー・丸幸の本社の人事部長で、チェーン店の勤務評定が厳しかった。

工事関係者によると、ガソリンはいつも同じ場所に置かれており、保管がルーズであるため、その気になれば誰でも強奪できた。

事件は怨恨の可能性と、通り魔犯罪の可能性が考えられた。

山村は1週間前に城南署管内で発生した宙吊り事件が、横田の焼死と同様に残酷で通り魔的要素を持っているという感想を抱いていた。

宙吊り事件は暴走族の青年が投げ縄で首を吊られた事件で、通り魔とも怨恨とも推理される事件であり、犯人が逮捕されていなかった。

藤堂は山村と岩城に横田の身辺捜査を、他の捜査員に現場付近の聞き込みを指示した。

山村と岩城はスーパー・丸幸の東京本社を訪れていた。

東京本社の重役は山村と岩城に、オフィスコンピューター1台で100軒以上のチェーン店の売り上げを記録、保存できることを説明した。

山村と岩城は、挙動不審な社員(吉田太門さん)に、横田を恨む人物について尋ねた。

山村は社員に、勤務評定に厳しい横田ならトラブルがあって当たり前であると説得し、スーパー・丸幸中山店の店長の浦山浩(下塚誠さん)が1ヶ月前の店長会議で、名指しで非難されたことを聞き出した。

山村と岩城はスーパー・丸幸中山店で浦山と会い、横田についての話を聞いた。

浦山は中山店が東京で最も成績が低い店だったため、非難されたことを認めつつ、事件発生時刻の午後10時にはいつもジョギングをしていることを話した。

浦山は岩城から、ジョギングを証明する人物について質問され、最初には言い渋りつつ、緑風荘の管理人の小倉三郎が知っていることを打ち明けた。

山村と岩城は浦山が住むアパート「緑風荘」に直行し、小倉(村田正雄さん)と対面していた。

小倉は山村と岩城に、浦山がいつも定時に、雨の日以外にはジョギングに行くこと、昨晩も行ったことを伝えた。

浦山の隣人で、占い師の松原(山谷初男さん)も、浦山のジョギングのことを知っていた。

小倉は約2週間前、付近の矢追町2丁目派出所の吉野巡査が、落書きの件で浦山について調査していたことを思い出した。

小倉は浦山が以前から、とんでもないことをする人物であると思っていた。

山村は吉野(横谷雄二さん)と会い、2週間前のことを聞いていた。

吉野は巡回中、公衆便所に入ろうとした寸前に浦山とすれ違った際、浦山が自分の制服を見て驚愕したことを不審に思っていたが、切羽詰まっていたために見逃していた。

吉野は用を足した後、公衆便所の壁に「60-26は絞首刑」という落書きが書かれていたのを発見した。

吉野は落書きの内容が穏やかではなかったため、翌晩にジョギングに現れた浦山に注意していた。

浦山は落書きについて、人違いと言い張っていた。

吉野は浦山の緑風荘まで同行し、浦山の字を見せてもらったが、落書きの字体とは違うものだった。

岩城は占いの話ばかりする小倉に閉口していた。

山村は落書きが浦山と無関係であると思えず、落書きの絞首刑という内容に、宙吊り事件との関係性を見出していた。

吉野は山村と岩城を、壁に落書きが書かれた公衆便所まで案内した。

落書きには、以前にはなかった、赤い「OK」の字が書き足されていた。

山村は「60-26」の意味を疑問に思い、警視庁城南署に赴き、刑事(山田俊司さん)から説明を受けた。

宙吊りの被害者の時田常夫(19歳)が乗っていたオートバイのナンバー「品川 け 60-26」と、落書きの数字が一致した。

事件は発生してから1週間が経過していたが、容疑者も動機も不明なもので、時田を恨んでいる人物もいなかった。

時田は暴走族ではなく、1年間のアルバイトでようやく購入したオートバイを乗り回しているだけの、おとなしい性格の青年だったが、事件当夜に運転中、橋の上から投げられたロープで首を宙吊りにされ、死亡していた。

オートバイはそのままガードレールに衝突していた。

山村と岩城は時田の母親と面会した。

時田の母親は時田を恨む人物に心当たりがなく、浦山の名前を聞いたこともなかった。

時田はオートバイで苦情を受けたことも、交通事故を起こしたこともなかった。

山村と岩城は藤堂から、吉野が新しい落書きを発見したという無線連絡を受け、現場の高架橋下に急行した。

落書きは橋脚に書かれたもので、横田の焼死を予告する内容となっており、赤い「OK」の字も書かれていた。

吉野は大事件と思い、裏門を張り込んでいる途中、スプレーで落書きを消そうとする浦山を発見していた。

浦山は他にも、停車中の乗用車のドアに書いた落書きを消そうとしていた。

落書きの内容は、小倉の撲殺を予告するものとなっており、ここにも赤い「OK」の字が書かれていた。

山村は岩城に、野崎に連絡し、小倉を大至急保護するように命令した。

しかし、小倉は外出中、謎の男に頭部を石で殴られ、階段から蹴り落とされて死亡した。

野崎は連絡を受けて緑風荘に急行したが、小倉が買い物に外出した後だったために間に合わなかった。

浦山は小倉の事件時刻には、店で勤務していた。

岩城は浦山が落書きを通じて殺し屋に殺人を依頼したこと、その連絡が「OK」という返事だったのではないかということ、それが露見しそうになったため、浦山が落書きを消そうとしたことを推理した。

山村と原は、軽犯罪法容疑で浦山を取り調べた。

浦山は自分が殺人犯の扱いを受けていることに憤慨し、スプレーをかけたことを認めたが、落書きを書いたことについては否認した。

浦山は落書きが嫌いであり、ジョギング中に落書きを見たためにスプレーで消したことを言い張った。

時田は毎晩、アルバイトの帰途に就く途中、オートバイで赤ん坊が泣き出すレベルの爆音を立てていた。

石塚は時田の通勤路に浦山の緑風荘があることから、神経質な性格の浦山が時田のオートバイの排気音で眠りを妨げられていたのではないかということを考察した。

落書きは殺人の指令で、その返事が「OK」だったのではないかと考えられ、3件の事件が繋がった。

石塚は被害者3人と浦山がどちらかというと平凡な生活をしているのに、殺人の手口がどれも突飛で残酷であることが引っかかっていた。

山村は落書きを見た何者かが、ただ面白半分に書かれている通りの手口で殺害した、殺人ゲームだったのではないかと推理した。

浦山は落書きの通りに殺人が実行されて激しく動揺し、慌てて落書きを消しに行っていた。

コンピューターの筆跡鑑定の結果は、浦山の字と落書きの字が異なっていて、同一人物のものとは全く判定不可能というものだった。

鑑定の結果は、左手で書いた可能性が40%であるという結果も出されていた。

浦山は左利きではなかった。

山村は浦山を徹底的に調査することを決定し、翌日に浦山の故郷を訪れた。

浦山の元担任教師は山村に、浦山があまり目立たない生徒だったこと、勉強の成績が中の上だったこと、小柄だったためにいじめられっ子だったことを話した。

浦山は気が小さい性格の割に負け惜しみが強く、次の日に決まって黒板や学校の塀に、自分をいじめた生徒を呪う落書きを書いていた。

浦山をいじめた生徒は落書きが浦山の字とは違っていたため、不気味さを覚え、浦山をいじめなくなっていた。

石塚と原はスーパー・丸幸東京本社で、横田のオフィスコンピューターに保存されている、中山支店の売上状況のデータを確認していた。

岩城と竹本は緑風荘の住人から、小倉がかなりのうるさ型であり、住人の留守中に合鍵で部屋に無断で侵入し、部屋の中を調べたことがあるという情報を入手していた。

西條は松原と会い、小倉についての話を聞いていた。

松原は小倉に占いを教えたことを認めたが、関係性がそれだけで、他には何も知らないこと、浦山を占ったことがないことを伝えた。

山村は喫茶店に浦山を呼び出し、左手で字を書くように促した。

浦山の父親は恵まれない生涯を送ったことから、浦山の弱点や欠点に対して殊の外うるさく、決して人に弱みを見せないように注意しており、幼少期の浦山が左手で箸を使っていたのを矯正したことがあった。

浦山は全ての欠点を封じられたことにより、唯一のストレス発散方法として、誰にも自分が書いたとは判別できない落書きを書くという手段を使っていた。

浦山は左手で自分の名字を書いたが、落書きの字体とは異なっていた。

山村は浦山が、詰問されたときのために対策をしていたことを見抜いた。

現状では、浦山が落書きを書いたかどうかが立証できなかった。

西條と岩城は浦山が殺人事件に関係しているのではないかということ、浦山が落書きを通じて知り合った異常者と手を組んだのではないかと意見した。

山村は浦山が捜査員と会話するときの動揺した表情に、ただの落書き犯とは思えない何かを感じ取っていた。

山村は犯人を誘い出す手段として、危険を覚悟で浦山に落書きを書かせることを提案した。

山村は浦山を執拗に尾行し、浦山に、証拠がないからといって諦めるわけにはいかないと告げた。

浦山は山村に、プライバシーの侵害、職権乱用と言い放ち、告訴しようとした。

山村と岩城はジョギング中の浦山をわざと尾行し、挑発した。

吉野は巡回中、山村の射殺を予告する落書きを発見し、西條と岩城に見せた。

山村の計画は、浦山に落書きを書かせることだった。

吉野は一係室の石塚に、西新宿公衆便所の壁に、山村の射殺を予告する内容の落書きを発見したこと、落書きに「OK」の返事が付いていることを電話連絡した。

山村は野崎に、周辺の目撃者の捜索を指示した。

謎の男が巡回中の巡査の後頭部を鉄パイプで殴打し、拳銃を強奪した。

山村は石塚から、巡査の拳銃が強奪されたことを告げられ、すぐに七曲署に戻るように喚起されたが、どこにいても危険が同じであるという理由で戻らず、石塚に巡査が搬送された病院の場所を尋ねた。

巡査は生命に別状がなかった。

山村は巡査が搬送された矢追病院に急行し、西條と岩城と合流後、犯人が街灯の下から拳銃を発砲しようとしているのを発見した。

犯人は山村に対して4発乱射し、西條と岩城に向けて3発乱射した後、乗用車を運転して逃走した。

犯人が逃走に利用した乗用車は、2時間前に盗難届が提出されていた物だった。

山村は犯人が自分に拳銃を向けて乱射しただけだったことから、犯人が自分を射殺する気がなく、事件が異常な殺人ゲームに偽装して、殺したい人間を殺害したという結論に至った。

犯人は殺害された3人の中に動機を抱く人物であると推理されたが、そのような容疑者が1人もいなかった。

山村は浦山が何かを知っていると確信し、浦山を取り調べた。

山村は浦山に、犯人が巡査の拳銃を強奪し、自分を狙ったことを告げ、傷害及び銃剣刀類違反、そして殺人未遂の共犯にあたると忠告し、無実を主張する浦山に、証拠が浦山であると突き付けた。

山村は無実を主張する浦山の動揺ぶりを指摘し、浦山に、落書きの中でしか本音を書けない性格をやめるように諭し、仕事熱心で落書きを除けば何も間違ったことをしていないと褒め、胸を張って生きるように、怒ったら堂々と怒りをぶつけるように説得した。

浦山は横田が、店長会議で自分のことを無能と言ったことを根に持っており、誰も自分の苦悩を理解してくれないと思い込んでいた。

山村は浦山に、横田が作成したコンピューターの実績グラフに、中山店の売り上げが都内で最低だが、中山店の総合点数が5位であることを教え、犯人が捜査の混乱のためだけに落書きを実行し、横田を殺害したことを告げた。

浦山が落書きを書いたことを全面的に認めた。

浦山は時田が殺害された日の翌日、自分に金で雇われた殺し屋と名乗る男から、時田を絞首刑にしたという内容の電話を受けていた。

男は浦山に、報酬金の支払いを先に延長する代わりに、警察に自分のことを何も話さないように要求し、今逮捕されれば浦山も殺人の共犯になると脅迫していた。

浦山はその後、横田と小倉が次々と殺害されたことに驚愕しつつも、怖くて何も言えなかったが、山村に追及され、山村の射殺を予告する落書きを書いてしまった。

浦山は電話の男の声について、何かで口を覆った作り声であり、会社関係以外の、聞き覚えのある声であるという感想を抱いていた。

山村は小倉と松原のことを思い出していた。

松原は高架橋下の河川敷の地面を掘り、アタッシェケースを埋めようとしていたが、山村に発見された。

山村は松原に対し、横田と時田と小倉の殺人容疑で逮捕すると宣言した。

松原が本当に殺害したかったのは、自分の秘密を握っている小倉であり、他の2人についてはどうでもよかった。

松原の客が、松原からマリファナを購入したことを自白していた。

松原は年に数回の東南アジア旅行で大麻を密かに持ち帰り、自室でマリファナ煙草に作り変えていたが、小倉に発見されていた。

岩城と竹本は松原が埋めようとしたアタッシェケースを奪い取り、中身が大麻と拳銃であることを確認した。

岩城と竹本は松原が何の罪もない人間を冷酷に殺害したことに怒りを燃やし、数発殴って逮捕した。

松原が全面自供した。

松原はマリファナを見られてから、いつ警察に訴えるか不安に思っていた。

 

 

メモ

*久々の山さん単独主演作。山さん主演作の謎解き編と人情編の両方の要素が入った傑作。

*サブタイトルはいつもと違い、メインタイトルのような「起き上がり式」となっている。なぜこの回で導入されたんだろう。

*危険なガソリンが、その気になれば誰でも盗める場所に置いてあるというのは、今だと確実に問題になりそう。

*『太陽』で初めて、コンピューターが登場。七曲署にコンピューターが導入されるのは「コンピューター計画」までお預けとなる。

*占い師で、今回の犯人の名字は「松原」だが、ナーコとは無関係。

*吉野は「バイオレンス」で重傷を負った時以来の登場。傷も完治したようだ。

*浦山が左手で書いた落書きは、非常におぞましい字体で、赤い「OK」の字とともに陰惨かつ不気味な代物。

*ジプシーがオフィスコンピューターを操作。かなり手慣れている様子。

*真面目な性格だが、左手で落書きを書いてストレスを解消している浦山、朴訥なように見せて残酷な殺人を実行していた松原、無断で部屋に侵入していた小倉と、登場人物のキャラクターが濃い。

*松原はドックの手相を見て、金銭や女性には無関係で、今の仕事に行き詰まりを感じていると占い、退職を勧める。

*刑事の仕事について、「重労働だがやりがいがある」と確固たる自信を持っているドック。

*詰問されたときの対策のため、左手で、落書きとは違う字体で書く練習までしていた浦山。用意周到であり、執念を感じる。

*事件は殺人ゲームから、殺人ゲームに偽装した、ピンポイントでの殺人ではないかという推理になり、混沌としたものに。

*殉職直前であることが理由か、ロッキーの出番が多め。

*浦山を叱咤激励し、落書きを書くのを止めるように説得する山さん。久々に熱い山さんが見られて、非常に良かった。

*「絶対ばれないって占いに出ていたのに」と言い残す松原だったが、山さんの推理力と捜査ではその占いも効果がなかった。

*ラスト、「ボスの評価が低くても実際の能力がすごく高いということもある」と言うドック。山さんはボスの手帳に書いてある、ドックとラガーの勤務評定を見て、「これはひどい」と評するも、手帳の中身は白紙だった(笑)。

*OPのハイライトには、ゴリさんが主婦から聞き込むカットが挿入されているが、本編では未使用となっている。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

西條昭:神田正輝

竹本淳二:渡辺徹

岩城創:木之元亮

原昌之:三田村邦彦

 

 

松原直子:友直子、吉野巡査:横谷雄二

浦山浩:下塚誠

松原:山谷初男

小倉三郎:村田正雄、大坪日出代、岸野一彦

城南署刑事:山田俊司(現:キートン山田)、スーパー・丸幸東京本社社員:吉田太門、山崎之也、芹沢洋三、三沢もとこ

ノンクレジット 横田一郎:門脇三郎

 

 

石塚誠:竜雷太

野崎太郎:下川辰平

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、四十物光男

監督:竹林進