第516話「白いスーツの女」(通算第725回目)

放映日:1982/7/23

 

 

ストーリー

ホステスの恭子(松岡ふたみさん)は職場のバー「パンサー」に忘れ物を取りに戻った際、バーテンダーの宮原哲二(高岡健二さん)が、血の付着したアイスピックと布を持っているのを目撃した。

バーのママの近藤智加子(30歳)が宮原のすぐそばで死亡していた。

宮原はアイスピックを放り投げて逃走した。

七曲署捜査一係が現場に急行した。

近藤は心臓を一突きにされていた。

宮原はごくおとなしい性格で、口うるさい性格の近藤に逆らったことがなかった。

野崎はアイスピックの柄に付着している血液が少な過ぎるのを見て、12年前(1970年頃)、北署に在籍していた時、大木刑事(菅野忠彦さん)と一緒に小原精一郎(山本清さん)を取り調べていたことを思い出した。

小原は野崎から、凶器の包丁の柄が綺麗に拭われた後、再度握られているのを指摘され、刺殺してすぐに逃走しようとして拭いたが、その時に隣人の夫人が入るのを見て、また夢中で握ったと供述していた。

山村と石塚は宮原が誰か真犯人を庇うために、柄を拭って指紋を消したと推理した。

野崎は、一度逃走しようとして柄を拭いたが、そこを人に目撃され、思わず反射的に握ってしまったものではないかと感情的に反論した。

西條と竹本はアパートの宮原宅に突入したが、宮原がまだ帰宅していなかった。

野崎は矢追駅前で聞き込み中、山村から、2丁目の矢追コーポの屋上にて、背格好が宮原に似ている不審な男を目撃したという無線連絡を受けた。

野崎と岩城は矢追コーポの屋上に急行し、宮原を発見した。

宮原は何をしていたのかを尋ねられ、飛び降りようとしたが、できなかったと答え、近藤の殺害を認め、岩城に逮捕された。

野崎と岩城は宮原を取り調べた。

宮原は店の掃除をしていた際、近藤に、掃除の仕方や接客について罵られ、日頃抑えていた不満が爆発して、後ろから羽交い絞めにして、いつも店で使用しているアイスピックで胸を刺してしまったと供述した。

野崎と岩城は、宮原のワイシャツの袖に返り血が付着していないことを不審に思った。

宮原は殺害時には袖をまくっていたこと、手に付着していた血液を駅前の便所で洗ったことを述べた。

近藤の死亡推定時刻は午前1時前後で、宮原が目撃された時間とほぼ一致した。

アイスピックは拭われていた。

宮原は野崎に、凶器の柄を拭いたことを質問され、逃走しようとしたが、恭子が戻ってきたために慌てて握ってしまったこと、逃げられるだけ逃げようと思ったが、それも無理だと思って自殺しようとしたことを答えた。

宮原はアイスピックを拭ったハンカチーフを2丁目の橋からドブ川に処分したことを伝えた。

宮原は野崎に、誰かを庇っているのかと詰問されたが、あくまで自分が近藤を殺害したと主張した。

喫茶店のウェイターは原に、午前1時の少し後、白いスーツを着用した女性が「パンサー」の方面から走ってくるのを目撃したこと、その女性が「パンサー」のホステスの律子だったことを証言した。

原は「パンサー」の女性から、律子の本名が荒井友子であることを突き止めていた。

荒井は以前に居住していたアパートを引っ越しており、現住所が不明だった。

荒井は1年前(1981年頃)まで「パンサー」に勤務しており、合計2年間勤務していた。

宮原が「パンサー」に勤務し始めたのは4年前(1978年頃)からだったが、荒井とは特別な関係ではなかった。

野崎は宮原の様子が不自然過ぎると感じ、再度取り調べることにした。

藤堂は石塚と岩城と原に、荒井の捜索を指示した。

宮原は野崎に、荒井と会ったのかを尋ねられ、一瞬動揺するも感情的になり、犯人が自分であると強調した。

野崎は山村に取り調べを任せ、聞き込みに向かった。

宮原は山村から、アイスピックを現場に放置し、目撃者の恭子もそのまま残したのに、ハンカチーフだけ処分した理由を指摘され、ズボンのポケットに突っ込んでいたため、なんとなく持って出てしまい、川でそれに気付いて処分したことを話した。

西條は近藤の兄に依頼し、マンションにある近藤の自宅を調査し、終えたところを原と合流した。

西條は現場に落ちていた、近藤のハンドバッグの中からも、自宅の中からも、近藤の手帳が発見されないことを不審に思い、犯人がハンドバッグから手帳を奪い去ったのではないかと推測していた。

西條は近藤宅から、名前と金額が書かれたメモを発見していた。

メモに書かれた金額は全て数十万円だった。

岩城の捜査で、荒井の現住所のアパートが判明した。

野崎と岩城は荒井(相原友子さん)と対面した。

荒井はニュースで近藤の死を知っており、宮原がとてもおとなしい性格であったため、宮原の自供に驚愕していた。

荒井は3日後に結婚を控え、引っ越しのための荷物整理をしていた。

荒井は野崎に、現在、新宿の輸入品を取り扱う店「ロアンヌ」に勤務していたが、今日から10日間、休暇をとっていること、退職してから「パンサー」に一度も来ていないこと、昨夜の午前1時に偶然、「パンサー」の付近の矢追公園にいたことを伝えた。

荒井は以前から矢追公園が好きで、店の帰りに一人で考え事をしていて、昔のことを思い出してぼんやりしていたこと、午前1時に終電車で帰宅したことを述べた。

荒井は昨夜、白いスーツを着用していたことを認めた。

野崎は荒井から白いスーツを拝借し、アパートを立ち去った後、帰り際に警視庁北署に立ち寄り、大木と再会した。

12年前、野崎と大木は通報を受けてアパートに急行した際、後妻の小原雪子を殺害した後、包丁を持って呆然としている小原を発見した。

小原は雪子がひどいアルコール中毒で、以前の夫人の息子である小原宏(事件当時11歳)をあまりに虐待するため、激情して雪子を殺害してしまったと自供した。

野崎は事件当時に小学校5年生で、体が大きかった宏が犯人ではないかと思い始めた。

大木は事件から12年が経過し、小原の刑期が8年であることから、野崎に事件が既に終結していることを訴えた。

野崎は12年間、宮原の事件が起きるまで、宏が犯人ではないかということに気付かなかった自分自身に責任と甘さを重く感じていた。

野崎は真相を何としても掴むため、大木に小原親子の捜索を依頼した。

近藤のメモに書かれていた数十万円の現金は、表向きこそ「パンサー」の改築資金の寄付だったが、実際には店の常連の会社社長に店のホステスをデートの相手として世話させてもらった強請りの金だった。

宮原はその件に関与していなかった。

野崎は、結婚を目前に控えた荒井が近藤に強請られた、もしくは再度デートの相手をするように強要され、近藤を殺害した疑惑が浮かんだ。

荒井が提出した白いスーツからは、返り血の痕跡が全く出なかった。

白いスーツを着た荒井を目撃した者は、荒井がスーツの袖を捲っていたと証言していた。

白いスーツは大手のレディースメーカーが販売している物で、荒井がもう1着同じスーツを所持している可能性があった。

藤堂が捜査員に、メーカーに問い合わせ、卸している店の総チェックを命令した後、大木から電話が入った。

大木の調査の結果、小原が8年間の刑務所生活の途中、6年目に獄中で病死していること、宏が高等学校を卒業後、施設を出た後に消息を絶っていることが判明した。

野崎は小原が自分を騙したのか、それとも小原が真犯人なのか懐疑的になっていた。

竹本は、荒井と親しくしている、アパートの1階の住人の主婦から、荒井が結婚式を終えてから、婚約者の村上とすぐヨーロッパに1週間、新婚旅行に行くことを聞き出した。

村上は真面目そうな性格で、荒井が「ロアンヌ」で知り合った商社マンであり、「パンサー」とは無関係だった。

荒井のアパートの向かいのアパートに住む浪人生は、荒井に好意を抱いており、荒井の出入りをほとんど記憶し、姿も目撃していた。

浪人生は事件が発生した日、荒井の帰宅が遅いのを心配し、窓から荒井宅をずっと見ており、荒井が落胆し、白いスーツの袖を捲っていたことを記憶していた。

野崎は血液の付着した白いスーツが荒井宅の中にあると断定した。

竹本は野崎に、荒井が明日には引っ越しをして、明後日には荒井新婚旅行に出発するため、ヨーロッパで白いスーツを処分するのを阻止するために、強引に踏み込んで捜索することを提案したが、却下された。

石塚は荒井の旅行鞄の中に白いスーツが入っていると思っており、野崎に、荒井の新婚旅行の前に令状が取れなかったら、警察側の敗北であると意見した。

荒井の転居先は村上の自宅で、姑も一緒に住んでいた。

村上は荒井宅を出て行ったが、荷物を何も持っておらず、白いスーツを渡されていないと考えられた。

西條は「ロアンヌ」に荒井の写真を貰いに行ったとき、関係者に宮原の写真を見せたところ、宮原が複数回、店に来たという情報を入手していた。

宮原はただ荒井の顔を見たくて店に来ており、1ヶ月前に荒井の不在時に来店し、関係者から荒井の結婚を話題に出されると、驚愕していた。

野崎は、宮原が5年前までずっと住んでいた焼津に赴き、調査を開始した。

西條と竹本は、引っ越しの手伝いをする荒井を張り込んでいた。

荒井は2個の旅行鞄を携え、タクシーに乗った。

荒井は今夜、ホテルに宿泊する予定だった。

野崎は、宮原がかつて焼津に住んでいた時に勤務していた漁港の漁師(大木史朗さん)から、宮原についての話を聞いていた。

宮原は漁港で勤務していた時、同じ職場の、佐藤陽子という女性と交際していた。

しかし、佐藤は宮原との結婚が決まった直後、交通事故で死亡してしまった。

宮原が高等学校時代に交際していた、高橋幸子という女性も死亡していた。

佐藤と高橋は荒井と似ていた。

宮原は荒井を愛していたが、佐藤と高橋を亡くしてから、女性に対して消極的になってしまい、荒井に何も言えなかった。

宮原は荒井に片思いのまま、荒井の幸福を守るため、荒井を庇っていた。

宮原はそれでも自分が犯人であり、荒井が無関係であると頑なに主張した。

翌日、スプリングホテルで、村上と荒井の結婚披露宴が開催されることとなった。

荒井の新婚旅行への出発が3時間後に迫っていた。

西條は野崎に、荒井の旅行鞄が友人の乗用車のトランクの中に詰め込まれたこと、いよいよ荒井が出発することを報告した。

野崎は12年前に真犯人かもしれない男を見逃してしまったことへの反省から、荒井の旅行鞄を親類縁者の目の前で強引に開けさせることを決意していた。

村上(菅生隆之さん)は荒井から事件のことを聞いており、野崎を非常識であると糾弾した。

野崎は鞄を開けるのを断った場合、自分の責任において証拠隠滅容疑で緊急逮捕すると宣言した。

村上は旅行鞄を開けて何もなかった場合、野崎を職権乱用と名誉棄損で告訴すると警告した。

2個の旅行鞄からは、白いスーツが発見されなかった。

野崎と西條と竹本は、新東京国際空港に向かう荒井を尾行した。

野崎は村上が不在の隙に、荒井に宮原が今夜に送検されること、宮原が荒井を庇っているのは、荒井を愛しており、荒井の幸福のために自分を犠牲にしているからであると告げた。

荒井は白いスーツを着て、近藤をアイスピックで殺害した際、宮原に目撃されていた。

宮原は荒井からアイスピックを奪い取り、荒井に逃走するように唆していた。

荒井は野崎から、無実の男を利用して、幸福になれるのか、嘘で善意の人間を踏みつけにしたやり方ではまともな暮らしをすることが決してできないという説得を受け、何か言おうとした直前、村上が帰って来た。

村上は帰国後、弁護士と相談するつもりだった。

野崎はやり過ぎの捜査だったことを自覚しており、荒井と村上の帰国後、告訴されることを覚悟していた。

荒井は飛行機に乗らず、村上と別れて野崎と西條と竹本のもとに駆けつけ、近藤を殺害したことを自白した。

荒井は野崎に説得されるまで、宮原の好意を知らず、自分のために犠牲になることに罪悪感を覚えていた。

荒井はハンカチーフを落としてしまったが、宮原が何も言わないと聞き、不安になっていた。

荒井は血液が付着した白いスーツを細かく切断し、焼却していた。

宮原は荒井の犯行を目撃し、逃走を唆したが、その時では罪を被る気持ちが無かった。

宮原はアイスピックの指紋を拭ったところを恭子に目撃され、仕方がないと思い、罪を被っていた。

宮原は野崎に謝罪し、野崎からもっと積極的に生きるように激励された。

荒井のハンカチーフは、宮原がマンションの裏手に埋めていた。

野崎は小原の事件に激しく責任を感じ、藤堂に辞表を提出した。

山村は宏の施設時代の友人を捜索し、宏の居場所を突き止めていた。

宏は幼少期から徹底的な左利きで、右手では箸を掴めなかった。

12年前の事件の犯人は小原であると確定された。

 

 

メモ

*久々に北署時代の長さんが描写された。今回が最後となる。

*過去の事件との関係性から、いつになく感情的になる長さん。

*小原の事件の真相が闇の中になってしまったこと、荒井の新婚旅行が迫ったことから、いつもの冷静な感じとは違い、非常手段をとる長さん。

*村上、宮原、浪人生と男性にもてまくりの荒井。

*事件は八方塞がりになると思いきや、結果的に長さんの説得が決め手になったようだ。

*事件は解決したが、小原の事件に責任を感じ、辞職しようとする長さん。4話後の「野崎刑事 カナダにて最後の激走」の前振り?(同じ山本監督)

*そんな長さんの辞職も、山さんが宏を探し当てたことにより、撤回された。長さんの涙ながらの、山さんへの握手が胸に響く。

*今回は脚本の斉藤氏の『太陽』唯一の執筆作。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

西條昭:神田正輝

竹本淳二:渡辺徹

岩城創:木之元亮

原昌之:三田村邦彦

 

 

松原直子:友直子

宮原哲二:高岡健二

荒井友子:相原友子(現:あいはら友子)

大木刑事:菅野忠彦(現:菅野菜保之)、小原精一郎:山本清

恭子:松岡ふたみ(後の紀ノ川瞳)、村上:菅生隆之、焼津の漁師:大木史朗、岡田和子、萩原竹夫

 

 

石塚誠:竜雷太

野崎太郎:下川辰平

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、斉藤猛

監督:山本迪夫