第500話「不屈の男たち」(通算第710回目)

放映日:1982/3/19

 

 

ストーリー

3日前にパリにて、通称「ゼイ」と呼ばれる男が、乗用車に轢かれて死亡していた。

ゼイはフランス治安当局にかねてからマークされていた殺し屋で、死亡したのは事故だったが、吉行圭介(北村総一朗さん)という男の写真を所持していた。

吉行は日本音楽大学の教授で、国際的にも有名なピアニストであった。

ゼイは吉行が滞在していたパリのホテル、演奏会、パーティーの会場など、詳細にメモした手帳を所持しており、吉行を殺害するために狙っていた疑惑が濃厚だった。

七曲署捜査一係の任務は、吉行がゼイに狙われる理由の調査だった。

吉行はヨーロッパでの演奏旅行を終え、フランス治安当局が接触する直前にパリを飛び立っていたが、日本に向かっているかどうかは不明だった。

吉行はこれまでにもたびたび海外で演奏旅行を行っていたが、終わるとしばらく疲労を癒すために気ままな一人旅を楽しむことを習慣にしており、所在が不明な状態だった。

吉行は3月23日には大学での授業を再開するため、今日から授業再開の前日の3月22日の間に帰国することが確定していた。

七曲署捜査一係が事件の担当になった理由は、吉行の自宅が矢追町4丁目46-12であるからだった。

吉行には芸術家特有の気難しい面があったが、吉行夫人(吉野佳子さん)も吉行が生命を狙われることについて、全く心当たりがなく、気にしていなかった。

吉行は東京にいる時、毎朝欠かさずジョギングをしており、途中で出会う人にも気さくに会話をするため、評判が良かった。

吉行は学生に厳しく接していたが、学生にしても一流の演奏家を志しているためには当然のことと考えていた。

西條は吉行の生命を狙うほど憎んでいる人間がいるとは思えず、何かの間違いではないかと意見した。

藤堂は岩城と原に成田空港に行き、到着便を調査するように命令した。

一係室に、吉行宅に空き巣が入ったという通報が入り、野崎と石塚が出動した。

夫人が買い物に出た隙に、自宅の和室に空き巣が入っていたが、それ以外の部屋には侵入した形跡がなかった。

野崎と石塚は、和室の床に土足の跡が付着しているのが気になった。

和室から強奪されたのは、着物2,3点と指輪とネックレスだが、さほど高価なものではなく、現金も手元に置かれていなかったために無事だった。

吉行宅の裏口からは数種類の指紋が検出されそうだったが、犯人の指紋があるかどうかは不明だった。

鑑識課員(村上幹夫さん?)は、空き巣の、通用口の扉の鍵の壊し方が素人であると診断した。

目撃者は皆無だった。

石塚はリビングルームの床にも土足の跡があるのを発見した。

科学警察研究所の分析の結果、和室の床に付着していた土とリビングルームの床に付着していた土が一致した。

リビングルームには異常がなく、何も強奪されていなかった。

石塚は犯人がただ金目の物を強奪しただけではなく、パリの殺し屋の一件と関係があるのではないかと直感したが、犯人の目的に見当がつかなかった。

岩城と原は成田空港で、黒いコートとサングラスを着用した男が各所のカウンターで係員に話しているのを発見し、職務質問をした。

男はトップ屋で、私事でハワイに行った芸能人のカップルを待っていただけであり、事件とは無関係だった。

原は山村に、航空会社に手あたり次第に電話し、吉行の帰国日を探っている人物がいることを連絡した。

石塚と竹本は覆面車を走行中、川に野次馬(篠田薫さん、阿部渡さん他)が集まっているのを目撃した。

野次馬は石塚と竹本に、川に和服が浮かんでいることを知らせた。

石塚と竹本はボートを漕ぎ、和服を回収した。

川に浮かんでいた和服は吉行夫人の物だった。

石塚はリビングルームの土の跡のことを思い出し、西條を連れて吉行宅に急行した。

石塚は犯人の目的が和服の強奪ではなく、何かを持ち込むことではないかと推理していた。

夫人は吉行からの電話に出た。

吉行は夫人に、ジュネーブの空港にいること、明日の午後3時に成田空港に着くことを伝えたが、夫人が石塚と電話を代わろうとした直後、電話を切ってしまった。

石塚と西條は送話器の中に盗聴器が隠されているのを発見した。

犯人の目的は吉行宅の電話に盗聴器を仕掛けることであり、このことで吉行の帰国時間が犯人に筒抜けになってしまった。

翌日の午後3時、吉行が成田空港に到着し、石塚と岩城と原の覆面車に乗った。

吉行は他人に生命を狙われることに全く心当たりがなかった。

原は後方から赤い外車にマークされていることに気付いた。

赤い外車の運転手の女(康有良さん)は覆面車がスピードを緩めた後、覆面車を追い越して走り去っていった。

覆面車が高速道路を出た直後、前方からトラックが蛇行運転をしながら覆面車に突撃しようとてきた。

覆面車はトラックを回避したが、停車中の乗用車に左側のフロントドアが激突した。

岩城は吉行を庇い、腰に重傷を負った。

原は、付近を走行中の一般人のオートバイを借り、トラックを追跡した。

トラックは工事現場に逃げ込んだ後、バリケードに突撃し、資材を回避しようとして横転し、木箱とドラム缶に突っ込んだ。

トラックの運転手の中田徳二は死亡した。

岩城は病院に収容されたが、鎖骨にひびが入っている上、頭を強打しているため、精密検査の結果が出るまで絶対安静が必要な状態だった。

吉行は西條が運転する覆面車で、自宅に到着した。

吉行は石塚に、狙われる理由に心当たりがないことを強調し、長旅での疲労を理由に、勝手に休んだ。

西條は冷淡な吉行に対して不満を抱いたが、石塚にそれが自分達の仕事であると諭された。

西條と竹本は吉行宅を張り込んでいた。

今まで調査した範囲では、吉行が後ろ暗い背景を隠している気配がなかった。

トラックは昨夜、川崎で盗まれたものだった。

中田は免許証1枚を元手に、運転手として各地を渡り歩いており、何者かに運転の腕を買われ、吉行の殺害を命令されたことが推測された。

山村は捜査員に、吉行の身辺の再調査を指示した。

吉行を警護していた竹本は吉行宅の前で石塚と合流した時、ジョギング中の杉田公平(宮部昭夫さん)と杉田の娘(高崎蓉子さん)とすれ違い、毎夜に吉行宅の前をジョギングで通ることを伝えた。

中田の事件から1週間が経過したが、吉行の身辺には何の変化もなかった。

野崎は山村に、日本音楽大学関係者、吉行の演奏家仲間、吉行の個人的な仲間の名簿を提出し、名簿の者が何らかの理由で吉行を殺害しようとした場合、殺し屋を雇いうる財力を持っている者であることを説明した。

山村は名簿の中の該当者の、宅間開発社長の宅間新三が既に死亡していることに注目した。

宅間は先日に宅間開発が倒産したことを苦にして、焼身自殺していた。

石塚は山村と野崎に、吉行が18日に、夫人が関係している慈善団体の依頼で、演奏会の開催を急遽決定したことを報告した。

吉行はさらに、演奏会に備えて体力づくりのジョギングを再開することを決定していた。

竹本はジョギングの吉行に同伴し、警護した。

吉行は警察に付きまとわれることに嫌気がさしており、トラックの一件もただの居眠り運転で逃走しただけではないかと思い込んでいた。

吉行と竹本は公園に入り、トレーニングをしていた。

杉田がジョギングのために公園に入った際、ナイフを取り出し、吉行を刺そうと突進してきた。

竹本は吉行を庇い、杉田に腹部を刺されてしまった。

杉田は竹本を突き飛ばして逃走したが、石塚に身柄を取り押さえられた。

竹本は流血し、吉行に心配されながらも、吉行の警護に全力を注いでいた。

竹本は病院に搬送された。

執刀医は野崎に、竹本の傷について、もう少し出血していたら危険だったが、一命を取り留めたこと、若いからすぐ回復することを告げた。

原は杉田を取り調べ、完全黙秘な杉田に苦戦していたが、取調室に山村が入室した。

杉田は昭和37年(1962年)、殺人罪で懲役20年の判決を受けており、当時、まだ赤ん坊だった女児がいた。

山村は杉田に、今年1月末に倒産した宅間開発の内幕を調査中に殺害されたルポライターの写真を見せた。

当時の捜査資料によると、ルポライターはバーで飲酒中、若い女性に声を掛けられ、一緒に外に出た後、殺害されていた。

山村は杉田と娘がルポライターを殺害したのではないかと突きつけたが、証拠が無かった。

宅間は以前、土地取引に絡む詐欺事件で2年間服役しており、杉田とは刑務所仲間であり、その時の縁で杉田にルポライターの殺害を依頼していた。

山村は杉田に、今朝の公園に娘が来なかった理由を尋ね、竹本が吉行を警護していたことを知っていたため、失敗を覚悟の上で吉行を襲撃し、これで最後であると安心させて、娘に吉行を殺害させるのではないかと指摘した。

杉田は何度も娘が無関係であると強調した。

山村は杉田が、囮の話を持ち出した際、初めて狼狽の表情を見せたため、杉田の娘が吉行を襲撃するのではないかと予測し、演奏会の当日が最も危険であると考えていた。

吉行は石塚と西條に、演奏会を中止させる気がないことを主張し、西條から演奏会の中止を要請されても、多忙と、チャリティーであるために中止すると慈善団体の運動に支障をきたすという理由から断固拒否した。

吉行は石塚から、命がかかっていると忠告されても、それを守るのが刑事の仕事であると冷たく言い放った。

西條は吉行の、刑事がどうなっても知らない態度に怒りを燃やしていたが、藤堂に、文句があるなら刑事を辞めるように叱咤された。

藤堂は西條に、吉行がピアノを演奏するのを止める権利が誰にもなく、黙って吉行の生命を守るのが自分達の仕事であると言い聞かせた。

原は石塚と一緒に杉田宅を調査中、杉田の娘の写真を発見したが、その直後、杉田の娘が帰宅してきた。

杉田の娘は小さな運送会社で事務員として勤務しており、杉田の逮捕後、ショックでしばらく旅行に出ており、事件とは一切無関係だった。

山村は、ルポライター殺害事件で、ルポライターをバーから誘い出した女性が杉田の娘ではなく、杉田が殺人の助手に利用していた女性が別にいるという情報を突き止めていた。

3月18日、福祉事業団ひかりの会主催のもと、吉行のピアノチャリティーコンサートが開催され、捜査員が会場のホール内と周辺を警護していた。

岩城と竹本が病院を退院し、捜査に復帰した。

藤堂と山村は、宅間の自殺についての捜査資料を見ていた。

焼死体があまりにも惨たらしいという理由で、遺体の確認をしたのは家族ではなく、宅間開発専務の中尾孝になっていた。

宅間開発の倒産には数々の疑惑があり、偽装倒産の疑いもあった。

吉行は山村に宅間の写真を見せられ、ヨーロッパの演奏旅行の途中、パリのホテルで宅間を目撃したことを打ち明けた。

宅間は吉行に話し掛けられても、知らない顔で歩いて行っていた。

山村は吉行がパリのホテルで目撃したのが宅間で、焼身自殺が偽装であると断定した。

宅間は意図的に会社を倒産させ、多額の資金を横領した上、別人に成り済ましてヨーロッパに逃亡したが、パリのホテルで吉行に目撃されてしまい、日本に帰国した吉行の口からそのことが漏れることを恐れ、殺し屋を利用していた。

吉行の演奏が開始された。

西條はマンション716号室を訪れ、中尾(加地健太郎さん)と対面した。

西條は中尾を取り調べ、中尾に尋問していた。

中尾は街で拾った浮浪者を殺害し、宅間の身代わりにしたことを認めたが、杉田と組んでいる殺し屋の女性については知らないと述べた。

原は会場内を捜索中、着物の女性が縄で拘束されているのを発見し、救出した後、石塚にそのことを知らせた。

吉行の演奏が終了した。

石塚と原は、吉行に花束を贈ろうとしている和服の女性が、赤い外車を運転していた女性と同一であることから、殺し屋であると断定した。

殺し屋は花束から拳銃を取り出そうとしたが、石塚と原に阻止され、逮捕された。

山村は藤堂に、殺し屋を逮捕したこと、吉行が何も知らずにさかんに観客にアンコールを要求されていることを電話連絡した。

吉行は捜査員のために、竹本が唯一知っているクラシックの、テクラ・バダジェフスカの「乙女の祈り」を演奏した。

本庁に、宅間がニースにて逮捕されたという電報が入った。

 

 

メモ

*『太陽』放映500回記念作。「燃える男たち」と「男たちの詩」と同様に、チームの奮闘ぶりを描いている。

*今回放映の半年後から、トシさんの夫人こと井川圭子としてセミレギュラー出演する吉野氏がゲスト出演。

*北村氏は神経質かつ気難しい役がよく似合う。

*ラガーが刺された時にはラガーを心配する素振りを見せながらも、「自分を守るのが刑事の仕事」と冷たく言い放つ吉行。しかし、宅間の写真を見せられた時には普通に情報提供をし、事件解決時には、ラガーが唯一知っているクラシック「乙女の祈り」を弾く粋なころも見せた。

*「乙女の祈り」、落ち着いた曲調でいい曲。

*ラスト、大病から復帰した直後なのに喫煙しているボス。

*ラスト、クラシックの演奏会に一緒に行かないかと捜査員を誘うラガー。山さんと長さんは演歌派、ドックはロック派、ナーコはニューミュージック派らしい。ニューミュージックという言い回しに時代を感じさせる。

*ロッキーは「令子が浪花節好き」と話す。

*「カルメン(ジプシー)、お前は(音楽について)どうなのだ」と質問され、「松田聖子ちゃん」と明るく言うジプシー。神田氏の後の夫人は松田氏であり、予言? ジプシーはこの時に明るく笑っており、すっかり他のメンバーにも心を開いているようだ。

*「学生時代にはベートーベン、ブラームス、ショパン、シューベルト、ドボルザーク、チャイコフスキーに夢中になった」と語るボス。しかし、作曲家の名前が出なくなり、仕事が終わったらさっさと帰るように促すボス。

*今回は「ある巡査の死」と同時撮影。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

西條昭:神田正輝

竹本淳二:渡辺徹

岩城創:木之元亮

原昌之:三田村邦彦

 

 

松原直子:友直子

吉行圭介:北村総一朗

杉田公平:宮部昭夫、吉行夫人:吉野佳子(現:吉野由樹子→吉野由志子)

杉田の娘:高崎蓉子、殺し屋:康有良、飯田テル子、鑑識課員?:村上幹夫、宮田光

野次馬:篠田薫、野次馬:阿部渡、今久保満、中尾孝:加地健太郎、浜口竜哉

 

 

石塚誠:竜雷太

野崎太郎:下川辰平

山村精一:露口茂

 

 

脚本:長野洋

監督:竹林進