第440話「強き者よ、その名は……」(通算第650回目)

放映日:1981/1/16

 

 

ストーリー

午後10時頃、吉野巡査(横谷雄二さん)は自転車に乗って巡回中、逃走する不審な男と衝突し、追跡したが、見失ってしまった。

岩城は令子(長谷直美さん)と自宅で一緒に過ごしていたが、殺人事件の連絡を受け、現場に急行した。

吉野は西條と岩城に、午後10時頃に衝突した男が犯人ではないかということを報告した。

吉野は男が鼠色っぽいコートを着ていたことを記憶していたが、顔については目撃していなかった。

被害者は中光観光の営業部長の古沢昇一(50歳)で、壺で後頭部を滅多打ちにされ、死亡していた。

室内の様子から、強盗の犯行ではないと考えられた。

近所の話によると、古沢は約5年前(1976年頃)に夫人と死別してから、ずっと一人暮らしをしていた。

古沢の弟の古沢健次が世田谷に、古沢の妹の古沢圭子が埼玉に居住していた。

山村は捜査員に目撃者の捜索と、古沢の周辺調査を指示した。

健次(早川純一さん)と圭子(執行佐智子さん)が古沢の遺体と対面し、号泣した。

古沢の死亡時刻は発見時の約5分前だった。

逃走したコートの男が第一容疑者とされた。

凶器から検出された指紋は前科者の中には該当者がいなかった。

石塚は古沢に、動産と不動産を合計し、約1億2000万円の遺産があるという情報を入手した。

古沢の遺産は、古沢の両親が既に死亡していること、古沢に子供もいないことから、健次と圭子で折半されることになった。

藤堂は捜査員に、健次と圭子の経済状況の調査を指示した。

岩城は西條と一緒に七曲署を出動しようとする途中、古沢妙子(27歳)(伊佐山ひろ子さん)という女性が、赤ん坊の古沢太郎(生後5ヶ月)を連れて七曲署に入ろうとするのを目撃し、声を掛けた。

妙子は古沢が死亡したことをニュースで知って驚愕し、七曲署で捜査していることを知っていた。

妙子の夫は古沢であり、1ヶ月前に古沢と結婚していた。

太郎は古沢の子供だった。

野崎は役所に行き、古沢と妙子の婚姻届が提出されていることを確認した。

古沢は昭和5年(1930年)6月8日生まれ、妙子は昭和28年(1953年)5月10日生まれ、太郎は昭和55年(1980年)8月4日生まれだった。

妙子が単独で婚姻届を提出していた。

野崎は妙子が届け出た印鑑が三文判であること、古沢が既に死亡していることから、妙子を疑っていた。

妙子は古沢の死に号泣した。

山村と岩城は妙子から話を聞いた。

妙子は生命保険の勧誘員をしており、2年前(1979年頃)に古沢と結婚したこと、半年前に太郎が誕生し、ちゃんと結婚していないのが不安で、早く入籍するように促したことを伝えた。

妙子は古沢から、好きにしろと言われ、自分で婚姻届を提出していた。

古沢は自分が高齢であることを理由に恥ずかしがり、周辺には再婚したことを打ち明けていなかった。

妙子も再婚であり、3年前(1977年頃)に前の夫に他の恋人ができたことから、離婚していた。

妙子は前の夫とは最近会っておらず、どうしているかを知らなかった。

妙子は山村に、印鑑のことを尋ねられ、古沢が所持していたものと答えた。

妙子は生活費の足しにするようにという理由で、古沢から与えられた預金通帳を見せ、その時に印鑑も作ったことを話した。

預金通帳の預金残高は28万円だった。

妙子は婚姻届の保証人は、妙子の会社の上司にしており、古沢が頭を下げるのを嫌がったことを知っていたために、上司に頼んでいた。

古沢は初めての子供である太郎を可愛がっていた。

妙子は古沢と同居しなかった理由について、古沢がそうしようと言わないのに自分で押し掛けるのも嫌だったからと答えた。

妙子の会社の社員は、妙子の出産前から、古沢と妙子の関係を知っていた。

妙子が住むアパートの住人も、妙子が自分から話すことから、大半が古沢も入籍のことも知っていた。

岩城は妙子の話に嘘がないと思っていた。

滝は古沢の家族も会社の人間が誰も妙子のことを知らないことから、妙子が吹聴して回ることについて、一種の偽装工作ではないかと意見した。

岩城は滝に、古沢が周囲に話しにくくなったからだけであると反論した。

野崎と滝は古沢の戸籍を疑っており、妙子が勝手に古沢の承諾なしに入籍し、計画的に古沢を殺害したのではないかと怪しんでいた。

石塚は岩城に、コートの男が単なる通りすがりではないかということを告げた。

滝と西條はさらに、妙子が前の夫か、新しくできた恋人に古沢の殺害を依頼したのではないかと推察した。

山村は岩城の、妙子が飾りっ気のない好感の持てる女性という意見に同調してはいたが、妙子に差し出した茶の湯飲みから、妙子の指紋を採取していた。

藤堂は捜査員に、古沢の家族、周辺の人間の指紋の採取、妙子の男関係と以前の夫の調査を命じた。

西條と岩城は古沢の葬式が執り行われている、古沢邸を訪れた。

古沢邸の庭では、圭子が健次に大声で、妙子が喪主であることに納得できないこと、妙子が古沢の後妻であることを認めないことを愚痴っていた。

圭子は何者か分からない妙子に、古沢の遺産全額を差し上げることに納得できなかった。

妙子は圭子の愚痴を立ち聞きしており、健次と圭子に、古沢の夫人であることを強調し、これから太郎を抱えて生きていかなければならないこと、貯金が古沢からもらった28万円しかないことから、貰えるお金を全て貰うと開き直った。

圭子は怒り、その場を立ち去った。

近親者の指紋は妙子も含め、全て凶器の壺から採取された指紋と不一致だった。

岩城は事件と遺産が無関係であると思っていた。

健次と圭子は裁判に持ち込むつもりだった。

岩城は妙子の立場に同情し、信じていた。

妙子の前の夫は竹田徹(辻シゲルさん)といい、横浜で港湾作業員をしていたことまでは判明したが、それ以降の行方が不明だった。

竹田は一緒になった女性ともすぐに喧嘩別れしており、腰の据わらない性格だった。

喫茶店で食事をしていた岩城と五代のもとに、滝が駆けつけた。

滝は妙子の親友から、妙子が400万円から500万円相当の銀行の債券を所有していることを聞き出していた。

岩城は妙子の自宅を訪れ、妙子と対面した。

妙子は快く自宅に岩城を招き入れ、葬式の時に激情したことを謝罪し、古沢の遺産について、あくまで当然の権利だからであると思っていた。

妙子は岩城に銀行の債券のこと、古沢が入籍を承諾したことを知っている人間が皆無であることを持ち出された。

岩城は妙子に、つまらない嘘をついたら不利になるだけであり、もう嘘を吐かないように説得した。

妙子は竹田の以前の居場所を知らないことを強調し、二度と竹田の顔を見たくないと言い、竹田を激しく嫌っていた。

岩城は帰り際、おでん屋の屋台に入り、大根とガンモドキを注文した。

おでん屋台は酔漢の客が多く、深夜午前2時と3時に利益が多かった。

主人(篠田薫さん)は岩城に、3年前には新宿で営業していたことを伝えた後、竹田の写真を見て、竹田がこの半年間に屋台に2,3度訪れていることを証言した。

岩城は妙子の発言が全部嘘なのかもしれないと思い始めた。

令子は自宅でケープを編んでいた。

岩城は妙子が竹田と今でも会っていると仮定すると、妙子が竹田と2人で仕組んで事件を起こしたのではないかと推理していた。

妙子の入籍が古沢の知らない間に行われていた場合、殺人の第一容疑者は妙子と竹田ということになった。

藤堂は岩城に、妙子の自宅の扉の指紋の採取を命令した。

妙子は太郎を連れて街を歩いていた時、後方から疾走する黒の乗用車に轢かれそうになった。

妙子は、巡回中の吉野が乗用車の存在に気付き、危険を呼び掛けたことで、轢かれなかったが、倒れ込んで負傷した。

妙子は転倒し、倒れ込んだ。

吉野は乗用車の進路を塞ごうとしたが、自転車ごと転倒し、失敗した。

一係室に妙子が襲撃されたという通報が貼り、石塚と西條と岩城が病院に急行した。

吉野は乗用車のナンバー「品川57 ま-243」を記憶していた。

妙子は頭を強打して気絶し、膝に擦り傷を負っていたが、生命に別条がなかった。

妙子は事故だと思っていたが、石塚から乗用車のナンバーが盗難車であること、西條から、現場の状況的にハンドルの切り損ねや居眠り運転とは思えないということを告げられた。

石塚と西條は護衛に岩城を残し、病室を出た。

西條は古沢に重要な秘密を握られている人間が古沢を殺害し、妙子も秘密を知っていると思い込み、妙子を襲撃したと推測していた。

健次は農産省の役人で、圭子はサラリーマンの夫人で、2人とも平凡で慎ましい生活をしており、2人が殺し屋を依頼した可能性は低かった。

妙子が前の夫を利用して古沢を殺害させ、捜査の混乱のために自分を襲撃させる偽装工作をした可能性も浮上した。

妙子は岩城に、竹田が自分のアパートまで来て、扉を開けたが、顔も見ないで追い返したことを打ち明けた。

妙子は竹田の発言に耳を塞ぎ、顔も見ていないため、会っていないのと同じであると主張した。

妙子は竹田が使用した食器や茶碗を全て処分していた。

妙子は岩城が怒っていることから、これ以上何も言わなかった。

パトロール中の警察官が資材置き場にて、妙子を襲撃した盗難車を発見したが、発見した時には既に無人だった。

車内の指紋はハンドルやチェンジレバーの指紋が拭き取られている状態だった。

野崎は山田鑑識課員(三上剛さん)に、無意識に触ることが多く、拭き忘れることが多いのがシートであることを教えた。

車内から、持ち主のものとは違う、中山修(若尾義昭さん)という男の指紋が検出された。

中山は傷害の前科1犯だったが、現在は喫茶店を経営しており、古沢との関係性も無かった。

中山は石塚が警察手帳を見せた直後に逃走したが、西條に進路を塞がれ、逮捕された。

中山は山村と石塚に取り調べられ、客の健次の情報で、商品相場に手を出したことを自白した。

中山は健次が確実であると安全を保証したため、各所から金を借り、5000万円を投資したが、大暴落で3000万円の損害を出していた。

中山は古沢を殺害したことを否定し、古沢が死亡するまで、遺産のことを知らなかったことを供述した。

中山は遺産が入ることを聞き、健次もそれで弁償すると言ったため、安心していたが、妙子と太郎の影響で金が入らないと聞いて激情し、妙子と太郎を殺害し、金を得ようとした。

圭子と太郎を殺害しようとしたのは中山の一存で、健次は全くの無関係だった。

健次は農産省小船町分室で石塚から中山のことを告げられ、役所を辞職することを決意していた。

滝は一係室に戻り、藤堂に、妙子の自宅の指紋の一つが、凶器の指紋と一致したことを報告した。

岩城は藤堂から、竹田が妙子の共犯者なら、必ず妙子と連絡を取るという理由で、妙子の張り込みを命令された。

妙子は病院を退院した妙子と太郎を尾行していたが、竹田に尾行されていた。

妙子は玩具屋で熊の人形を買った後、熊の人形を路上で落とし、拾ったところで岩城の尾行に気付いた。

岩城は妙子に、中山が古沢の殺害とは無関係であることを告げた。

妙子は岩城を食事に誘った。

野崎と滝は農産省小船町分室に赴き、健次と圭子と面会した。

圭子は中山の事件を知り、怖くなって健次に相談していた。

圭子は古沢が妙子の入籍を承諾していたことを知っていたが、自分さえ黙っていれば妙子の入籍を無効にできると思い、隠していた。

古沢は生前、妙子の入籍を圭子にだけ打ち明けていた。

岩城はレストラン「シークック」で妙子と食事をした後、藤堂から、妙子が古沢の正式の妻であること、別の動機がない限り、古沢を殺害する理由がないことを連絡された。

妙子は犯人ではないことが確定した。

岩城は連絡中、駐車場から妙子の悲鳴を聞き、妙子と竹田が一緒にいるのを発見した。

竹田は妙子が今でも自分の夫であると思い込んでおり、古沢に妙子を返せと迫ったところ、笑われたために古沢を殺害していた。

竹田はナイフを振り回して岩城を襲撃しようとしたが、岩城にナイフを落とされ、殴り飛ばされた。

岩城は妙子に、自分を捨てないように懇願したが、拒絶された。

岩城の目は妙子と令子が重なって見えた。

妙子は今朝、一係室に、礼にケーキを差し入れていた。

メモ

*アパートにネズミが出るとして、ロッキーにネズミを捕まえるように頼む令子。令子はネズミ嫌いで、見るだけで気絶してしまうらしい。

*「ロッキーと(赤ん坊の母親役)の伊佐山氏」は「爆発! ロッキー刑事」も同じ組み合わせ。

*早川氏と執行氏は「死」でも共演しているが、そちらは夫妻役だった。

*長さんとスコッチが珍しく意見が合っている。

*他の捜査員が妙子を疑う中、ただ一人、妙子を頑なに信じるロッキー。

*フォークを持ちながら、スニーカーに熱弁するロッキー。

*「妙子に惚れているのか」とスニーカーに尋ねられ、「彼女の立場に同情しているだけ、一種の人類愛」と答えるロッキー。「奥さん(令子)にそう言っておこう」とからかわれてしまう。

*喫茶店に入っても、いつも何も注文していないスコッチ。

*令子に再三、ネズミ捕りを買うように催促されるロッキー。

*妙子を警護中、交通規制中の令子に発見されてしまうロッキー。令子には仕事だと弁解するも、嫉妬から足を蹴られてしまう。

*足に蹴られた部分を痛がり、ネズミに噛まれた古傷と誤魔化すロッキー。令子に嫉妬の目を向けられる(笑)。ただ、事件解決後に「仕事だったらいい」とロッキーを受け入れていた。

*ラスト、帰宅後にネズミを発見し、捕まえようとするロッキーだったが、そのネズミは令子が買ってきたネズミ捕りにかかっていた。なお、令子はネズミを1匹、水に漬けて殺したようだ。

*「女に負けてたまるか」と言った後にケーキを食べようとするが、ボスにその発言を突っ込まれるロッキー。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

滝隆一:沖雅也

岩城創:木之元亮

五代潤:山下真司

西條昭:神田正輝

 

 

岩城令子:長谷直美

松原直子:友直子、吉野巡査:横谷雄二

古沢妙子:伊佐山ひろ子

古沢健次:早川純一、古沢圭子:執行佐智子、竹田徹:辻シゲル(現:辻三太郎)、おでん屋台の主人:篠田薫

中山修:若尾義昭、山田鑑識課員:三上剛(後の三上剛仙)、看護婦:高崎蓉子、酒井郷博、加藤美月

 

 

石塚誠:竜雷太

野崎太郎:下川辰平

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、尾西兼一

監督:山本迪夫