第372話「最後の審判」(通算第582回目)

放映日:1979/9/14

 

 

ストーリー

吉岡浩(5歳)(大原和彦さん)は自宅の前の公園で、他の子供と一緒に遊んでいた。

浩の母親の吉岡典子(梶三和子さん)は、浩のそばで編み物をしていた。

典子は自宅で電話が鳴っていることに気付き、自宅に戻って電話に出たが、すぐに切れてしまった。

その直後、再び電話が鳴ったが、無言のまま切れてしまった。

典子が公園に戻ったが、謎の女が浩を連れ去っていた。

山村と石塚と島は吉岡宅で待機していた。

午前11時40分、野崎が不動産会社社員に扮装し、吉岡宅に入った。

誘拐犯からの連絡は入っていなかった。

山村は浩が消息を絶った経緯が計画的すぎることから、誘拐であると判断し、共犯者が吉岡宅の窓から見える電話ボックスから電話をかけたものと推測した。

山村は誘拐犯に気付かれないように電話ボックスの指紋を採取するため、岩城と五代に電話工事作業員の扮装をさせ、その電話ボックスに使用禁止の張り紙を付けた。

岩城と五代は電話線の故障を口実に、慎重に聞き込みを行った。

浩と一緒に公園で遊んでいた子供は五代に、浩を連れ去った若い女性がジーパンを履いていたこと、黒い眼鏡をかけた若い男と一緒に白い乗用車に乗ったことを伝えた。

浩の父親の吉岡正義(菅貫太郎さん)はボクシングのレフェリーで、1970年と1973年に表彰状を授与されていた。

吉岡は事件発生の5分前にタイトルマッチの会場の後楽園ホールに出発したため、誘拐事件を知らなかった。

誘拐犯が吉岡の出発を待ち構えていた可能性があった。

今日はNBA世界フェザー級タイトルマッチが開催される日であり、そのレフェリーが吉岡だった。

午後0時、吉岡は自宅に電話をかけ、典子の発言から浩が誘拐されたことを知った。

吉岡のところにも誘拐犯から電話が入っていた。

山村が典子と電話を代わり、慎重に行動していることを強調し、誘拐犯が警察の介入に気付いていないことを伝えた。

誘拐犯は吉岡に、警察に通報すれば浩を殺害すると脅迫していた。

吉岡は山村から誘拐犯の要求を質問され、今日のタイトルマッチで、主審の立場を利用し、挑戦者の古旗 元男を強制的に勝利させろというものであることを教えた。

誘拐犯は吉岡に身代金を要求しておらず、万一にチャンピオンのダン・サライが勝利すれば浩を殺害するというものの一点張りだった。

吉岡は誘拐犯の声が若い男だったこと、訛りや声に特徴がなかったことを話していた。

試合開始まであと2時間30分、試合が開始したら1時間で試合が終わることとなっていた。

野崎と岩城と典子は後楽園ホールに駆けつけ、吉岡と会った。

岩城と典子は吉岡に、今日の試合の主審を止めるように懇願したが、世界タイトルマッチで、自分がレフェリーとしてリングに上がらなければ、サライも古旗も納得しないという理由で断られた。

野崎は岩城に犯人が、吉岡がレフェリーを行うことを前提として要求しているため、吉岡がレフェリーを降りても浩が安全になるとは限らないと説得した。

岩城は吉岡が不正ジャッジをしても、古旗が敗北するとは限らず、ノックアウトで勝利してしまう可能性があることを懸念した。

吉岡は岩城に、今日の試合が2人ともテクニックで判定に持ち込むタイプであるため、ノックアウトで勝利が決まる可能性が少ないと意見した。

山村は事件が一見すると八百長の強要に見えるが、八百長を目的とするならば選手やトレーナーを選び、レフェリーを抱き込んでも成功の確率が低いことを不審に思い、野崎に電話連絡した。

藤堂と山村の意見は犯人の目的が吉岡を苦しめることであるというものだった。

犯人は吉岡に恨みを抱いている人物の可能性が濃厚となった。

山村は野崎に吉岡の審判記録のチェックを、岩城に典子を吉岡宅まで送迎し、待機している島と一緒に子供の証言から誘拐犯の女性の特徴の割り出しをするように命令した。

午後1時、試合開始まであと2時間となった。

山村は暴力団関係の捜査に、石塚は白い乗用車の捜査に、五代は現場の聞き込みに向かった。

山村の捜査で、吉岡が担当した試合の中で唯一、ボクシング界から身を引き、暴力団関係の仕事をしている男がいること、その男が岡宮浩三(金井進二さん)であることが判明した。

岡宮には賭博の前科があった。

岡宮は自宅のアパートでタイトルマッチの開始を待ち、苛立っていたが、岩城と五代が自宅に突入してきた。

岡宮は岩城と五代に事情聴取されそうになると、2人を突き飛ばし、窓から逃走した。

岡宮は岩城と五代に追跡され、殴って抵抗したが、身柄を取り押さえられた。

岡宮は吉岡を知っていたが、浩については全く知らず、逃走した理由も競馬のノミ屋に手を出したからだった。

岩城と五代は競馬法違反で岡宮を連行した。

野崎は吉岡の同期のレフェリーの津村大造(灰地順さん)と面会した。

津村は野崎に、吉岡に恨みを抱いている人物のことを尋ねられ、レフェリーが選手やトレーナーから恨まれるが、相手もスポーツマンであると述べた。

去年(1978年)の秋頃、吉岡は新宿で津村と一緒に酒を飲んでいた時、下沢勉(23歳)(鈴木恒さん)に声を掛けられ、殴られた。

下沢は吉岡に、吉岡のミスジャッジのせいでボクシング界を免職されたと糾弾した。

下沢は3年前(1975年頃)の7月10日、4回戦ボーイを2年も続けた挙句、やっとタイトルマッチの前座試合に出場する権利を得ていた。

下沢は2ラウンドまで快調だったが、吉岡が3ラウンドでカウントを取る判定をしていた。

下沢はそれが影響で、激情して調子を崩してしまい、それからチャンスを失ったことを話し、吉岡を激しく糾弾した。

吉岡は下沢のことを思い出していたが、謝罪せず、その時の試合がダウンだと言い放った。

野崎は下沢の勤務先と住所を突き止め、直行した。

試合開始まであと1時間30分となっていた。

誘拐犯の女性の深谷夏子は玩具屋で浩に玩具を買い与えていた。

玩具屋のテレビには、吉岡が2人の選手に注意を与えている姿が映されていた。

野崎はビルの建設現場を訪れ、下沢と対面した。

NBA世界フェザー級タイトルマッチの第1ラウンドが開始された。

リングアナウンサーの白石(相原巨典さん)は試合の展開について、2人とも実力が伯仲で、全く予断を許さないと評した。

下沢は吉岡を全く恨んでおらず、ダウンの判定が正しいと分かっていたが、セコンドがスリップと怒鳴っているのを聞き、その気になっていた。

下沢は吉岡について立派な人物であると思っていた。

吉岡は下沢を自分の息子のように親身になって、現在の就職先の世話をしていた。

午後3時30分、藤堂と山村はタイトルマッチの実況中継を見ていた。

山村は審判に絡んで、吉岡を恨んでいる人物がいないと思い、再捜査に出発した。

誘拐犯の上杉二郎はプールにて、ラジオでタイトルマッチの実況中継を聞いていた。

深谷は浩を連れ、玩具を買ってプールに戻り、二郎と合流した。

二郎はサライが勝利した場合、浩を殺害する気でいた。

深谷は二郎と一緒に実行するつもりだった。

島と岩城は浩と一緒に遊んでいた子供から、深谷の顔の特徴を聞き出し、似顔絵を完成させた。

典子は深谷の似顔絵を見て、約1週間前、公園で浩を見守りながら手芸をしていた際、浩が懐いていた若い女と似ていることを伝えた。

浩はとても人見知りが強い性格だったが、深谷と笑って話していた。

典子は深谷が大きな木の葉のペンダントをしていたことを記憶していた。

浩は深谷と、乗り物やテレビの漫画の話をしていたようだった。

島は岩城に、似顔絵のコピーと手配を命令し、似顔絵作成に協力した子供に感謝した。

吉岡は第6ラウンドに入る前、ジャッジペーパーを集めていた。

第6ラウンドが開始されたが、チャンピオンのサライが攻勢に試合を進めていた。

あと9ラウンドだった。

野崎は人見知りの浩が深谷に最初から懐いたことが引っかかっていた。

藤堂は深谷が子供の扱いに慣れている職業であることに賭け、その線で捜査する方針とした。

山村は吉岡の経歴を再調査し、吉岡が大学のボクシングトーナメントで優勝していることを突き止めた。

吉岡は城北大学の学生時代、ボクシングの選手だったが、大学4年の秋に拳を痛め、引退していた。

島は吉岡のボクシングの選手の時のスクラップブックを拝見し、吉岡のパンチで城南大学の上杉哲郎選手が重態になったという25年前(1954年頃)の記事を発見した。

上杉は第3ラウンドで吉岡の痛烈な右ストレートを顔面に受け、崩れるように倒れ、カウントを終えても起き上がらず、救急車で城南大学病院に搬送されたが、脳に障害を受けたまま重態となっていた。

上杉には二郎という一人息子がおり、杉並区高井戸2-3-6 弥生荘に住んでいた。

五代は石塚と合流し、弥生荘に急行した。

第10ラウンドが開始された。

石塚と五代は上杉宅に突入したが、室内には上杉がいるだけだった。

上杉はひどいアルコール中毒者で、ボクシングの実況を全く見ておらず、犯人ではなかった。

五代は室内から、二郎と恋人が一緒に写っている写真を発見した。

二郎の恋人は似顔絵の女と酷似しており、木の葉のペンダントをしていた。

上杉は石塚と五代に、二郎と恋人のことを詰問されても、笑うだけで何も答えなかった。

石塚は藤堂に、誘拐犯が二郎であることを報告した。

電話のメモには二郎の住所や電話番号が記されていなかった。

友愛保母学校の職員は、誘拐犯の女の似顔絵を見て、学校の生徒だった深谷夏子という女性と似ていること、深谷が木の葉のペンダントをしていたことを証言した。

野崎は藤堂に、深谷と深谷の住所の世田谷区玉堤を報告した。

山村、石塚、五代は玉堤に急行した。

タイトルマッチは第14ラウンドとなっていた。

現在、試合はわずかに古旗が劣勢だったが、観客が古旗の勝利を望んでいた。

ドクターが古旗の傷を診るため、試合が中断された。

古旗の傷はそれほど深くなかった。

タイトルマッチは残り1ラウンドとなっていた。

第14ラウンドが終了し、あとは最終ラウンドを残すのみとなった。

野崎と岩城は後楽園ホールに到着した。

石塚と五代は玉堤の深谷宅のアパートに到着し、二郎と深谷の白い乗用車を確認した。

最終ラウンドが開始された。

石塚と五代は拳銃を装備し、深谷宅の扉の前まで接近した。

試合が終了し、判定に持ち込まれた。

タイトルマッチは吉岡の匙加減一つで勝負が決まることとなっていた。

二郎は吉岡が不正ジャッジのレフェリーに転落することを心待ちにしていた。

石塚と五代は深谷宅に突入し、二郎に銃口を向けたが、二郎が浩にナイフを突きつけた。

吉岡は浩のことを思い出し、ジャッジに苦悩していた。

石塚は二郎に、吉岡がたとえ古旗の手を挙げても、子供の命のためで不正ジャッジではないと言い放った。

二郎は吉岡について、汚い人間と糾弾したが、そこに山村が現れた。

上杉は20年間、吉岡がわざと自分の頭を狙ったと言い続けていた。

吉岡はサライを勝者と判定した。

二郎は浩を殺害しようとしたが、石塚に二郎を救出され、自身も五代に組み伏せられた。

山村は二郎に、吉岡が上杉に故意にストレートを出したのではないこと、吉岡がどんなことがあっても絶対に不正をしない人間であると諭した。

二郎の犯行の動機は吉岡の惨めな顔が見たかったというものだった。

五代は二郎を逮捕した。

吉岡は最後の判定の瞬間、負けている挑戦者の手をあえて上げようかと一瞬苦悩したことから、辞表を出していた。

吉岡の思いは、迷った以上、レフェリー失格であるというものだった。

吉岡は非常に安堵した表情で、捜査員を信じ、チャンピオンの勝利を宣言して本当に良かった、世界タイトルマッチを汚さないで済んだと満足気だった。

 

 

メモ

*久々のチーム編。

*前回の「愛するもののために」と同様、ボスの台詞が非常に少ない。

*『太陽』唯一の出演となった菅氏。厳格で常に冷静沈着なレフェリーを好演。

*ボクシングの試合のシーンはボクシングに詳しくないので割愛。

*事件は解決したが、吉岡がレフェリーを辞めるという結果になってしまった。

*ロッキーは、第14ラウンドの試合中断がなければ、ゴリさんとスニーカーが浩殺害を食い止められなかったと判断。試合中断がボスによるものなのかは不明。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

岩城創:木之元亮

五代潤:山下真司

野崎太郎:下川辰平

 

 

松原直子:友直子

吉岡正義:菅貫太郎、吉岡典子:梶三和子

佐々木充、土田悦子、岡宮浩三:金井進二、津村大造:灰地順、下沢勉:鈴木恒

白石:相原巨典、猪野剛太郎、本庄和子、桜井恵美子、吉岡浩:大原和彦、アナウンサー:今井伊佐男

ボクシング指導:角海老ボクシングジム、上江津隆(全日本バンタム級1位)、葛谷政幸、田中栄民(コーチ)

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、古内一成

監督:竹林進