第353話「ラスト・チャンス」(通算第563回目)

放映日:1979/5/4

 

 

ストーリー

田口と岩城は野崎に招かれ、康江(西朱実さん)の手料理を食べていた。

野崎と田口と岩城は矢追南通りで、大貫進(35歳)という男の変死体が発見されたという連絡を受け、タクシーで現場に急行した。

大貫は貸しビルの屋上から転落し、死亡していたが、自殺かどうかは不明だった。

死亡時刻は約30分前の午後9時頃で、自動車で付近を通りかかった男が遺体を目撃し、通報していた。

大貫の身元は不明だったが、背広の内ポケットには菊池雪江の写真が入っていた。

捜査員は目撃者を捜索することにした。

平松不動産の社長は島に、遺体の身元が大貫であること、大貫が生前に現金1億円を所持していたことを伝えた。

大貫が1億円を横領するつもりだったが、仲間割れで殺害されたか、大貫が最初から利用されただけの2つの可能性が浮かんだ。

大貫は独身で、青森が郷里であり、約10年前(1969年頃)から平松に付き、不動産の勉強をしていた。

鑑識の結果、大貫がかなり多量の睡眠薬を飲み、ビルから転落した時刻には薬の効力が出ており、眠っていた可能性が多いということが判明した。

平松は雪江のことを何も知らなかった。

午前9時10分、田口と岩城は一係室に目撃者(八代駿さん)を連れてきた。

目撃者は午後9時頃、自動車で通行した際、殺害現場の貸しビルに入っていく3人連れを目撃していたこと、1人の男をあとの2人が抱えていたこと、1人が女性のような気がしたことを証言した。

藤堂は事件を他殺と断定し、田口と岩城に目撃者の事情聴取を命令した。

野崎は石塚と一緒に出動しようとした時、七曲署の玄関に菊池三郎(46歳)(柳生博さん)という男が佇んでいるのを発見した。

菊池はふとした出来心から他人の自宅に侵入し、背広を盗んでしまったが、良心の呵責に耐えかね、自首をしに来たと述べた。

背広と、背広のポケットに入っていたハンカチにシミが付着していた。

菊池は新宿のみどり荘に住んでおり、前科が無く、失業中だった。

菊池は昨夜の午後8時頃、矢追町のあるマンションの前を通り、3階まで上り、偶然に扉が施錠されていなかった部屋に侵入したことを話したが、泥酔していたためにマンションの名前を覚えていないと弁明した。

野崎は菊池が何かを隠しているのではないかと思った。

菊池は石塚に怒鳴られ、今朝から何も食べていないことを打ち明け、盗んだ背広について、地下鉄の電車の座席に置き忘れていたものを拾ったと訂正した。

野崎は菊池の調書に署名押印し、菊池を定食屋に連れて行き、食事を振る舞った。

菊池は失業してから半年になること、それまで東名食品工業の守衛をしていたが、何度か強盗に入られて嫌になり、自分から辞めてしまったことを打ち明けた。

菊池は何をしても運が悪く、人に馬鹿にされるようにできていると悲観し、謝罪した。

野崎は菊池がそれほど空腹に見えないことを疑問に思った。

山村は藤堂に、矢追1丁目のスナック「白鳥」の常連客で、銀竜企画の篠田社長が生前の大貫と親しかったこと、篠田のほうから大貫に接近したという情報を入手し、報告した。

銀竜企画は竜神会が経営しているサラリーマン金融だった。

山村と田口と岩城は銀竜企画を訪れ、篠田(深江章喜さん)と対面した。

篠田は自分の会社が堅気の会社で、何も事件を起こしていないことを強調し、昨日には銀竜企画の創立5周年記念のパーティーに出席していたことを話した。

雀荘のマスターは、篠田が仲間と午後7時30分頃から午後10時まで麻雀をしていたことを証言した。

マスターは篠田がシチューを零し、背広の胸の部分を汚してしまったと発言していたことを記憶していた。

野崎は、パーティー会場のホテルから殺害現場のビルまで、自動車で10分の距離であること、マスターが篠田の顔を目撃したのは最初と最後で、途中の行動を目撃していないことから、パーティーが篠田のアリバイ工作であると推理し、パーティーの参加者を捜索することにした。

しかし、誰も外出する篠田を目撃しておらず、決定打となる証拠が無かった。

菊池は取引のために、上杉コーポにある篠田宅を訪れ、篠田夫人の篠田和子(藤瀬雅子さん)に、警察に1億円の話やアリバイ工作の話をしていないことを伝え、室内に入れてもらった。

篠田が帰宅し、菊池と対面した。

菊池は一昨日の夜の午後8時頃、菊池宅に侵入し、物色をしていたところ、篠田夫妻と大貫が入ってきたため、篠田の私室に隠れた。

篠田は酒に睡眠薬を入れ、大貫に飲ませ、眠らせた。

菊池は篠田の私室から篠田夫妻の話を盗み聞きし、カセットテープに録音していた。

篠田は背広の上着にわざとシチューを零し、ハンカチで拭くことで、アリバイ工作をしていた。

菊池は篠田に詰問され、篠田夫妻が外出した直後、箪笥に入っていた背広とハンカチを強奪し、警察に預けたことを告げた。

菊池は背広について、警察の尋問があまりにもしつこいため、電車の中で拾ったと誤魔化していた。

菊池は自分の身に危険が迫ったら、カセットテープをすぐに警察に送られるようにしていた。

菊池は篠田がカセットテープの会話やハンカチについて、全て作り物であると言い張った時のために、自分が一部始終を目撃していた絶対的な証拠に、大貫の背広の内ポケットに、雪江の写真を入れていた。

菊池はちょうど外に出た時、偶然にタクシーに乗り、篠田夫妻の乗用車を尾行していた。

菊池は1億円の10分の1である1000万円を要求したが、篠田に金が自宅にないと返答されたため、一旦退却した。

野崎は上杉コーポに向かう途中、菊池の姿を目撃した。

管理人(辻村真人さん)は野崎に雪江の写真を見せられ、和子の顔付きがもうちょっときついことを伝えた。

野崎は管理人から、篠田宅が3階にあることを聞き込み、菊池の話を思い出し、菊池を疑った。

野崎はみどり荘に赴いたが、菊池が不在だった。

管理人によると、菊池は夫人の雪江に追い出され、みどり荘に転がり込んできており、3ヶ月分の家賃を滞納していた。

野崎は東名食品工業の守衛から、雪江が以前住んでいたアパートから転居していることを聞き出した。

菊池の勤務時間に会社が2度盗難事件に遭ったが、別に菊池が責任を問われるような事件ではなかった。

しかし、菊池はすっかり落胆し、急に退職してしまった。

野崎は別の会社の、菊池の元上司(阪脩さん)と会っていた。

元上司は菊池に植字のミスが多かったため、度々怒鳴っていたが、初心者にミスが当たり前であると思っていたため、あまり気にしていなかった。

菊池は東名食品工業でも別の会社でも、「自分は運が悪い」と愚痴をこぼしていた。

菊池は元上司に、満州にいた頃、屋敷に住んでいたが、引き上げで無一文になってから、何もかもうまくいかなくなっていたと愚痴っていた。

野崎は雪江の実家の雑貨店を訪問した、

雪江の父親は、菊池から雪江を別れさせていた。

雪江(信沢三恵子さん)は、大貫の背広のポケットに入っていた写真の女と同一人物だった。

雪江の写真は10年以上前のものだった。

菊池はこの頃の雪江が優しかったという理由で、いつもその写真を所持しており、いつも愚痴をこぼしていた。

雪江は大貫のことを全く知らなかった。

菊池は昨日、雪江の父親と会っており、いつもは父親に怒鳴られて逃げてしまうが、昨日はそうではなく、戻ってきてくれればきっと不自由をさせない、これが最後だと自信満々な態度で発言していた。

菊池は雪江の父親に怒鳴られても見向きもせず、雪江に最後のチャンスという理由で信じるように頼んでいた。

菊池は守衛の退職を機に自暴自棄になり、空き巣を働くようになったが、その狙った場所がたまたま篠田宅だった。

石塚は菊池が篠田を強請ろうとしているのではないかと直感した。

菊池はこの件が大金を掴む最後のチャンスと思い、身の安全を確保するために雪江の写真を大貫のポケットに忍ばせたうえで、背広とハンカチを警察に預けていた。

ハンカチの汚れは、篠田のパーティーのシチューと完全に一致したが、篠田が大貫を殺害した証拠が皆無だった。

篠田の背広はメーカー品だった。

野崎は藤堂に、菊池を自分のことに任すように進言した。

野崎は菊池が篠田に殺害されることを危惧し、菊池を探し当て、自白させようとしていた。

菊池は篠田宅に電話し、取引の場所と時間を明朝の午前8時、恵比寿駅前広場に指定した。

篠田は菊池に、絶対に警察に発見されないように念押しした。

野崎は公園で水飲み中の菊池を発見し、追跡して取り押さえた。

菊池は逃走した理由について、空き巣が狂言だった件での逮捕を恐れたからであると答えた。

午前1時30分頃、野崎は焼鳥屋に菊池を連れて、食事を振る舞った。

菊池はあくまで、電車の座席の上で背広を拾ったと強調した。

菊池は野崎に、上杉コーポに知人がいるのかと質問され、単にいいマンションだと思って眺めていただけと嘘をついた。

山村は野崎が菊池に自首をさせたがっているのではないかと推測した。

午前5時31分頃、野崎と菊池は自動販売機で購入したホットドッグを食べながら、話し合った。

午前7時4分頃、野崎は非番と偽り、菊池と一緒に行動した。

石塚は、上杉コーポから外車「品川33 た-3546」で出発する篠田を尾行したが、トラックに進路を塞がれ、見失ってしまった。

篠田は外車から、あらかじめ駐車させていた乗用車に乗り換え、出発した。

野崎は菊池と一緒に喫茶店に入り、菊池に雪江の写真を見せ、雪江が今でも菊池を愛していることを伝えた。

菊池は他人に馬鹿にされないような男にはならないと必死に頑張ったが、何をやってもどこの会社に勤務しても嫌な目にばかりあい、何してもいいことがないと絶望していた。

菊池は不運なだけで一生を終わらせたくないと決意していた。

野崎は富山の造り酒屋の家に生まれ育っており、裕福だったが、父親が戦死し、店が倒産し、一家離散していた。

野崎も自分が不運だと何度も思っていたが、ある時不意に運がいいってことにどれほどの値打ちがあるのかと思うようになっていた。

野崎は菊池に、篠田がヤクザであることを教えて警告し、人生に最後のチャンスなどなく、つまらないことでも一つ一つ積み重ねるのが生きるということであると説得した。

菊池は野崎の説得に耳を貸さず、取引の場所と時間を教えなかった。

野崎は定時連絡で、藤堂から石塚が篠田にまかれたことを告げられた。

菊池は野崎の定時連絡の隙をついて、喫茶店から脱走した。

午前7時55分、菊池は恵比寿駅前広場にて待機していた。

篠田が紙袋を携え、3人の構成員(戸塚孝さん他)を連れ、菊池を取り囲んだ。

紙袋の中には1000万円が入っていた。

篠田は菊池からカセットテープを手渡された後、カセットテープの中身を確認するために菊池を拉致し、構成員に菊池にナイフを突きつけさせた。

野崎と石塚と島と田口と岩城が駆けつけ、篠田と構成員を逮捕した。

野崎は菊池に、更生のチャンスを大事にするように説得した。

和子はコインロッカーから残りの現金入りの鞄を取り出そうとしたが、山村に阻止された。

カセットテープに録音されていたのは篠田の歌だった。

菊池は執行猶予になると思われた。

 

 

メモ

*長さん版「したたかな目撃者」のような話。

*冒頭、康江の手料理を美味しそうに食べるボンとロッキー。非常に温かく微笑ましい。「恐怖の食卓」でもこのようなシーンがある。ボンとロッキー曰く「いつも外食かインスタントラーメン」らしい。

*テアトル・エコー所属の声優が多数出演されている。

*今回、美味しそうな食べ物がやたら出てくる。

*長さんの好物は焼鳥。

*「列車の中の女」と並び、長さんの過去が語られている回。幼少期は壮絶な人生を歩んでいたようだ。

*「満州」や「戦時中」など、時代を感じさせるワードが。

*長さんの温かい説得がすごく胸にしみる。

*結局、カセットテープに録音されていたのは篠田の歌だった。

*今回は脚本の渡辺氏の「太陽」初執筆作。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

松原直子:友直子、野崎康江:西朱実

菊池三郎:柳生博

篠田社長:深江章喜

菊池の元上司:阪脩、篠田和子:藤瀬雅子、林孝一、槐柳二、菊池雪江:信沢三恵子(現:信澤三惠子)

沼波輝枝、上杉コーポ管理人:辻村真人、目撃者:八代駿、峰恵研、入江正徳、仁内達之(後の仁内建之)

ノンクレジット 銀竜企画構成員:戸塚孝

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、渡辺由自

監督:小澤啓一