第312話「凶器」(通算第522回目)

放映日:1978/7/21

 

 

ストーリー

藤堂は警視庁に赴き、特捜部部長(稲葉義男さん)と会っていた。

丸の内商事がプラント輸出を巡り、大規模な裏金が動いているという噂があり、事件は利権を巡る贈収賄事件となっていた。

特捜部は既に証拠固めの段階に入っていたが、敵に薄々感じられた気配があった。

特捜部部長は用心のため、東京地方検察庁と相談し、関係諸人物の監視を各所轄に依頼することにした。

七曲署が監視を担当にすることになった、贈収賄事件の関係者は、丸の内商事の経理部長の市木高雄(門脇三郎さん)だった。

しかし、その市木がビルの建設現場で死体となって発見された。

市木の死体からは、財布や名刺入れといった身分証の類のものが全部無くなっていた。

鑑識課員(村上幹夫さん)は、市木は首の骨が折られており、吐血していることから、内臓にもかなりの損傷があると鑑定した。

凶器は棍棒や鉄パイプといった棒状のものと推測されたが、現場が工事現場で、資材や鉄パイプが大量にあったため、凶器の断定が困難を極めた。

死体の背広の裏ポケットには、「市木」という刺繍が入っていた。

死体の年恰好は50歳前後で、サラリーマン風の格好をしていた。

野崎は市木の写真を見て、遺体の身元が市木であると断定した。

市木は汚職の鍵を握る重要人物で、贈賄側の直接責任者であるため、抹殺されたものと考えられた。

島は藤堂に検視報告書を提出し、市木の肋骨が折られていたことを報告した。

市木は内臓破裂しており、首にも腹にも致命傷を与えていた。

藤堂は石塚に、凶器の捜索を命令した。

田口と岩城は建設現場を徹底的に捜索したが、鉄パイプの中には凶器として断定できるようなものが皆無だった。

工事現場付近の店の店員は、昨日の午前0時頃、ゴミを出しに行った際、建設現場から出てきた男を目撃したことを証言した。

板前風の男は犯人の男について、中肉中背でスポーツシャツを着ていたこと、何も所持していなかったことを伝えたが、男がサングラスをかけていたため、顔立ちまでは分からなかった。

捜査員は犯人が現場に凶器を処分したものと考察した。

丸の内商事は贈収賄事件について、知らぬ存ぜぬの一点張りだった。

山村は丸の内上層部に安堵した空気を感じていた。

午後8時20分、一係室に公園通りでチンピラ同士の喧嘩が通報され、石塚と田口と岩城が出動した。

石塚と田口と岩城はチンピラを制圧し、警察官3人にチンピラの身柄を渡した。

石塚と田口と岩城は七曲署に戻ろうとした直後、ビルの屋上から、澤本久男という男が転落する光景を目撃した。

澤本は即死していたが、転落場所には段ボールが積まれており、即死するには不自然だった。

石塚はビルから、江島慎二(矢吹二朗さん)という男が出てくるのを発見し、呼びかけた。

石塚は江島が呼びかけに応じなかったため、付近を巡回していた警察官に声をかけ、江島を事情聴取した。

石塚は江島がズボンのポケットに手を入れたため、身柄を拘束したが、江島が取り出したのは「キングズベンチ」のマッチだった。

江島はマッチを持っていたことについて、常連のバーで、今から酒を飲みに行こうと思っていたと述べた。

石塚は江島を任意同行の形で連行した。

野崎と島が殺害現場に駆けつけた。

野崎は澤本を所持品の道具からビル荒らしと推測し、足を踏み外して転落死したと考えていた。

岩城は野崎に、澤本の首の骨が折れていたため、殺害されたのではないかということを伝えた。

島と田口はビルの屋上を調査し、まだ乾いていない血痕を発見した。

ビルは無人だった。

澤本の死因は首の骨折と内臓破裂で、市木と全く同一だった。

江島は約1ヶ月前から、消火器などを扱う会社の外交を担当しており、その以前には大阪の町工場に勤務していたが、その工場が倒産していた。

石塚は江島を取り調べた。

殺害現場のビルの周辺は全て見通しが良く、チンピラ同士の喧嘩騒動でパトロールカーが集合し、野次馬もいた。

しかし、ビルからは江島以外の人間が出入りしていないことが確定していた。

ビルの屋上はかなり高い手摺があり、足を踏み外すような場所ではなく、しかも転落場所から考え、首の骨を折ることは絶対になかった。

石塚は江島が澤本を殺害してから突き落としたのではないかと尋問した。

江島は淡々とした口調で、犯行を否認した。

山村は江島について、殺人容疑で連行されたにしては落ち着きすぎていること、犯人であるが逃げ切る自信があると判断した。

藤堂は証拠を突き付けない限り、江島が自白しないと推察した。

凶器がビルの屋上、転落現場、ビルの中、いずれも発見されなかった。

死体の身元が、ビル荒らしの常習犯である澤本と判明した。

澤本の死因は頸部骨折と胸部打撲による内臓破裂で、転落前に死亡していたものと診断された。

澤本の死因と市木の死因がほぼ同一だった。

市木と澤本の接点が不明だったが、藤堂は同一犯であると断定した。

石塚は江島がプロフェッショナルの殺し屋であると考えていたが、証拠が皆無だった。

藤堂は江島を釈放することにした。

田口は江島を尾行した。

石塚と岩城、野崎と島は凶器の捜索に奔走していた。

野崎の捜査で、市木と澤本が繋がった。

市木が殺害された工事現場付近のマンションに、澤本が盗みに入っていた。

澤本が盗みに入ったのは7月15日の夜午後12時ごろで、市木が殺害された時間とほぼ同一だった。

澤本は盗みを働いた後、逃走中に市木の殺害を目撃したが、犯人がそれに気づき、澤本を標的に定めて殺害したと推理された。

2つの殺害の動機は丸の内商事の汚職だった。

江島が供述した、元の勤務先の町工場は実在していたが、経営者が一家心中し、誰がいつ頃働いていたかは知る者がいなかった。

江島は角を曲がった地点で、田口をまいて逃走した。

田口が江島を見失ったのは、江島が角に入ったほんの2,3秒間であり、逃走するには高い塀を飛び越える以外になかった。

特捜部部長が一係室に入り、捜査一係が江島にまかれたことを確認した後、藤堂に今西謙一という男の捜索を依頼した。

今西は収賄側の窓口を務めており、特捜部が昨夜に七曲署管内でまかれていた。

特捜部部長は既に交通機関を手配しており、藤堂に管内の旅館とホテルの捜索を命令した。

藤堂は各派出所に緊急連絡を指示した。

大崎は旅館を調査中、旅館「たまはら」の塀を飛び越えて逃走しようとする江島を発見し、連行しようとしたが、江島に殴り倒された。

山村と石塚が「たまはら」に到着し、大崎の遺体を発見した。

山村が旅館の女将の制止を振り切って旅館を捜査し、旅館の一室で今西の遺体を発見した。

特捜部部長は霊安室にて、藤堂に、なぜ江島を釈放したのか、批判覚悟でなぜ別件逮捕をしなかったのかと激しく糾弾した。

特捜部部長は贈賄側と収賄側の両方の責任者が抹殺されたため、事件が迷宮入りし、手の打ちようがないとして激怒し、霊安室を立ち去った。

藤堂は捜査員に、犯人の凶器が体全体であり、犯人が一流の空手使いであると告げた。

大崎は江島と遭遇し、首と腹部に一発ずつ猛烈な威力の打撃を受け、即死していた。

藤堂は、一流の空手使いが常識では信じられないことを可能にするということから、江島が空手使いで真犯人であると断言した。

江島が犯人である確証がなく、逮捕状を取ることは不可能であり、江島を逮捕するには、江島が空手使いであるという証拠が必要だった。

藤堂は捜査員に、全国の空手道場の徹底的な捜索を指令した。

山村は、黒幕が中田清造ではないかという情報を突き止めた。

藤堂はスポーツ会館を訪問し、中田(佐々木孝丸さん)と対面した。

中田は事情聴取に対し、5分間のみと制限を設けた。

中田は市木と今西のことを知っている素振りを見せ、丸の内商事との関係を質問されると、質問の意図を読み取り、黒幕が自分であると認めたら逮捕するのかと返した。

中田は藤堂から、汚職と殺人の黒幕であるのかと尋ねられても、話題を逸らし、答えなかった。

中田は武道に興味があり、空手について、徒手空拳が武器を持つことを許されなかった民族の、悲しくも壮絶なる武術であると語り、その場を立ち去った。

中田は捜査員が空手に注目したことを察知していた。

中田が江島を殺害する可能性が浮上したが、全国どこの空手道場にも江島の名前が無かった。

藤堂は山村に、出入国管理事務所の調査を命令した。

中田は車内電話で、何者かに密航船の手配を依頼した。

7月10日、江島は香港から日本に入国していたことが判明した。

中田も同時期に東南アジアを旅行しており、江島と中田の結び付きも香港であると考えられた。

藤堂は新東京国際空港から飛行機に乗り、香港に向かった。

中田は藤堂が香港に飛び立ったことを察知し、密航船の手配を急いだ。

丸の内商事の社員保養寮は閉鎖されていたが、3日前に自動車が停車していたのを目撃した者がいた。

藤堂は香港警察の刑事(デビット・フリードマンさん)に案内され、殺し屋が修練場として利用していた部屋に入った。

ベッドには週刊東京が置かれていた。

江島は日本人が処分していった書籍や新聞を拾っては読んでいた。

島は丸の内商事社員保養寮から出発する乗用車を尾行した。

その乗用車に乗っているのは、運転手を含めて2人だけであり、江島が車内にいるかは不明だった。

野崎の捜査で、江島の前身が判明した。

江島の正体は8年前(1970年頃)、九州で殺人を犯して逃亡した、江川進という男だった。

社員寮から出発した乗用車は、波止場に向かっていた。

その乗用車の後部座席には、江川が潜んでいた。

島は乗用車の尾行を石塚と交代した。

江川と男2人は波止場に到着した。

江川は密航船を見て激しく動揺し、船に乗ろうとせず、男2人を殴り倒して逃走した。

江川は田口と岩城に包囲されたが、岩城を昏倒させ、田口の拳銃を蹴飛ばし、腹を殴って倒した。

江川は石塚の覆面車に追跡されるが、海に追い詰められそうになると、覆面車を華麗に大ジャンプで飛び越えて逃走した。

江川は大ジャンプで倉庫の屋根の上に飛び移り、石塚に麻袋を投げつけ、昏倒させた。

江川は乗用車で逃走した。

島は江川を港まで送り届けた2人を七曲署まで連行した。

江川は水に対する激しい恐怖感があり、船を拒否していた。

藤堂は明朝の一番の便で、香港から日本に帰国したが、新宿駅から江川に尾行されていた。

江川は藤堂に尾行を察知されると、歩道橋にいた女児の首を掴む仕草をして、藤堂を脅迫した。

藤堂は成田空港から電車を使い、わざと江川に尾行されるようにしていた。

藤堂は休館中のスポーツ会館の裏口から館内に入った。

江川も続いて館内に入り、藤堂と対峙した。

江川は駅前や街の通りで、藤堂が行動すれば、手近な人間を次々と虐殺するように行動していた。

江川が藤堂に接近した理由は、藤堂が香港で何を調査したかを知るためだった。

藤堂は香港で、江川が8年前に日本を捨てて香港に潜入したこと、空手を身に付け、暗黒街の殺し屋に成り下がったこと、中田に拾われて日本に舞い戻った経緯を突き止めていた。

江川は日本に舞い戻る理由について、金であると答えたが、藤堂に再度日本人として生きたくなったからであると看破された。

中田は江川の、日本が恋しい気持ちに漬け込んでいた。

江川は中田と取引をして、中田にとって邪魔な人間を殺害する代わりに、江島という別人として日本で生きていくことを決意していた。

江川は2人を殺害すれば、消火器を売る平凡な男として暮らせたと話したが、藤堂に実際には4人を殺害したと突き付けられた。

藤堂は江川に、空手が身を守り、不屈の精神を練り上げるためのものであると説いた。

江川は会話を切り上げ、藤堂を襲撃した。

藤堂は江川と一進一退の攻防を繰り広げた。

藤堂は江川の攻撃で劣勢になり、ボールの入った籠を倒し、転倒させた。

藤堂と江川は互いに腹部を殴られ、倒れこんだ。

藤堂はプールに江川を誘い込み、プールに叩き落した。

藤堂は江川が溺れているのを見かけ、飛び込んで江島を取り押さえた。

中田は地方検察庁に身柄を送致された。

江川は幼少期に溺れかけたことがきっかけで、水に対して恐怖感を抱いていた。

 

 

メモ

*「太陽」6周年記念作品。後の「バイオレンス」や「屈辱」に大きな影響を与えたと思われる、空手の達人の犯人との対決回。

*空手道場の聞き込みシーンは「ゴリさんのテーマ」。

*ボスが香港に飛び立つ。しかし、香港の場面はライブラリー映像とセット撮影であり、実際に香港でロケーションしているわけではない。

*捜査一係内でも屈指の強者のゴリさんだったが、江島に麻袋を投げつけられてしまい、敗退。

*悪役がかなり様になっている矢吹氏。

*スポーツ会館内での、ボスと江川の死闘。大迫力で見ごたえ満点。

*空手の達人の江島と、互角に渡り合うボス。結果はボスの、プールに誘い込むという頭脳プレーで勝利。ボスは格闘についてはゴリさん並に強いようだ。

*ラスト、負傷したゴリさんとボンとロッキーに、鍛え方が違うと言いつつ、腰を痛めていた?ボス。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

江島慎二(江川進):矢吹二朗

中田清造:佐々木孝丸、本庁特捜部部長:稲葉義男

桐原史雄、鑑識課員:村上幹夫、丹羽たかね

香港警察の刑事:デビット・フリードマン、加藤恒喜、市木高雄:門脇三郎、那須のり子

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

協力:財団法人 スポーツ会館

 

 

脚本:長野洋

監督:竹林進

※2020/7/21執筆