第279話「愛と怒り」(通算第489回目)
放映日:1977/12/2
ストーリー
田口はバスで通勤中、いつも矢追3丁目の停留所からバスに乗る、立花冴子(立枝歩さん)という女性に思いを寄せていた。
田口が立花を見かけて10日が経過していた。
田口は立花に話しかけようと決心したが、七曲署前の停留所で降りざるを得ず、立花に話しかけられなかった。
一係室に通勤中の石塚から、田口が通勤に利用していた「新宿西口発四谷行」の宿51のバスが、七曲署前から二つ先の矢追橋停留所で爆発したという連絡が入った。
石塚が矢追橋停留所で、バスが爆発するのを目撃していた。
捜査員は矢追橋停留所に急行した。
被害者は即死者2名、重傷者2名で、重傷者は矢追病院に搬送されていた。
田口はバスの中で立花のハイヒールを発見し、石塚から立花が重傷であることを告げられ、単身矢追病院に急行した。
田口は立花の所持品の京王バスの定期券を発見し、立花の名前を知った。
バスの運転手を含め、乗組員全員が重軽傷を負っていた。
藤堂は矢追病院の石塚に、乗客の身元を確認するように命令していた。
田口は手術室の前で、立花の手術を見守っていた。
爆破事件の死亡者のうち、1人は上山純と確認されたが、もう1人は身元不明だった。
乗客の大半はサラリーマンか学生だったため、身分証か定期券で氏名を確認することができた。
しかし、身元不明の死亡者だけは身元を証明するものを何も所持しておらず、顔の損傷が酷くて人相も分からなかった。
爆発物は時限装置が付いていたことと、座席の下に設置されていたのが明確だった。
犯人はバスの始発地点から矢追橋停留所までの間に、その座席に座った人間と推察された。
停留所は13ヶ所あり、乗客の乗降がかなり激しかった。
藤堂は野崎と岩城に乗客の捜査を、島に爆発物の捜査を指示した。
藤堂と山村は声明文が出ていないことから、動機が思想的ではなく、愉快犯にしてはリスクが高すぎるため、不特定多数を狙ったと見せ掛け、その中の何者かをピンポイントで狙ったのではないかと推理した。
石塚も、特定の個人を狙った犯行だと仮定すると、爆発場所の近くにいた即死者か重傷者の誰かが狙われた者であると考えていた。
田口は激しく動揺し、立花が平凡なOLであることから、立花が誰かの巻き添えを喰らってしまったものと信じたかった。
10日前、田口は気まぐれでバスに乗って通勤した際、立花を初めて見かけていた。
田口はバス通勤を連続させ、次第に立花に恋心を抱くようになっていた。
立花が息を引き取った。
立花は一人暮らしで、引き取り手が誰もいなかった。
田口は立花の故郷の信州に問い合わせたが、親兄弟や親しい者がいなかった。
田口は、死亡しても泣いてくれる家族がいない立花を悲しみ、自分に犯人を逮捕することを決意した。
立花が勤務していた新世界保険のOLは、立花の死を知らなかった。
立花の上司は立花について、陰気なところがあったが、仕事がよくできたと話し、立花の死を信じていなかった。
田口は聞き込みの補助に来た岩城と一緒に行動した。
田口は立花の存命中、立花を見て会うだけで満足し、話しかけなかった自分に激しく後悔していた。
2人目の即死者の身元が、元竜神会幹部の山崎二郎であることが判明した。
山崎はかつて、暴力団関係で鳴らした男だったが、服役と出所を繰り返すうちに嫌気がさし、更生していた。
田口は竜神会が裏切り者の山崎を消したのではないかと意見したが、藤堂にヤクザが爆薬を使うことが稀であると返された。
石塚と田口は竜神会組員(吉中正一さん他)から聞き込んだ。
組員は山崎を殺害していないと述べたが、「あんな奴の1人2人やる気になれば」と言い洩らしたことで、感情的になっている田口に胸倉を掴まれ、乱闘になった。
石塚と田口と岩城は拳銃を所持していた組員を逮捕したが、爆薬を発見することはできなかった。
聞き込みを総合した結果、爆発の中心点に座っていた男が、爆破地点の1つ手前の矢追橋停留所で降りたことが明確となった。
その男は立花と思われる女に席を譲ろうとしたが、立花が断ったため、その代わりに即死した上山が座っていた。
矢追橋停留所で降りた男は目撃者の記憶が不明瞭で、40代の痩せ気味の男であることしか分からなかった。
田口は立花の顔に見惚れていて、何も見ていなかった。
山村はその男を犯人だと仮定すると、男が立花らしい女に声をかけたことを疑問に思っていた。
犯人の目的が立花の殺害である可能性が出た。
田口は立花自身に殺害されても仕方がない理由があるとは思えないと進言したが、藤堂に立花の身辺を重点的に捜査するのが当たり前であると窘められた。
藤堂は捜査の的を立花に絞ることにした。
石塚と田口は立花宅を調査していた際、立花の戸棚に、会社勤務では着て行かれない派手な服が多数あるのを発見した。
立花の預金通帳には、残高が800万円あること、30万円ずつ積み立てられていることが記されていた。
立花は多数の株券を所持していた。
立花のアパートの大家(上野綾子さん)は、立花が夕方に一度帰宅した後、誰かと見違えるほどの派手な服を着て外出しているところを目撃しており、バーに勤務していたのではないかと証言した。
立花の戸棚の中の記念品から、立花がバーを鞍替えしていることが判明した。
立花が1年前(1976年頃)まで勤務していたバーのバーテンダー(阿部六郎さん)は石塚に、立花が銀座の一流の店に鞍替えしたことを伝えた。
立花は支度金をごっそり貰い、そのバーを退職していた。
クラブ「ジョアンヌ」のホステスは、立花が金に汚い性格で、大金を貯金していたことを話した。
立花は「ジョアンヌ」の前にバーを3軒鞍替えしていたが、そのどの店でも非常に評判が悪かった。
石塚は立花が金を貯めるという当たり前の行為をしているにもかかわらず、立花だけがひどく嫌われる理由を不審に思っており、田口にそれを捜査するのが自分たちの仕事であると念押しした。
田口は立花が1000万円以上の大金の入手先を、馴染の客を回って捜査することにした。
石塚は立花がバーに勤務するのを開始したのが2年前(1975年頃)なのに、その間に大金を稼いだことが引っかかっていた。
山村は藤堂に、犯人の狙いが立花であると決まっていないこともあり、立花の故郷の信州に行くことを申請し、許可を貰った。
バーテンダーは客が立花を嫌っていたのに、誰も立花から離れないこと、立花が秘密を握っていたことから、強請をしていたと推測していた。
バーテンダーは客が「立花を殺害してやりたい」と呟いていたのをはっきり聞いていた。
島の捜査で、城所公三という男が容疑者として浮かんだ。
城所はかつて花火工場で働いていたことがあったが、年恰好が矢追橋停留所から降りた男と似ていた。
城所はここ2,3日金回りが良くなり、競馬に毎日熱中していた。
立花と城所の関係性は不明だったが、城所が殺し屋の可能性があった。
田口は藤堂達に、強請の証拠を入手できたことを報告した。
山西重工の伊沢という重役が、女性問題で立花に強請られていたことを自白していた。
田口は城所をマークしようとしたが、石塚に立花の正体が判明してもまだ冷静になれないのかと怒られた。
田口は立花を殺害したから城所が憎いのではなく、立花が汚い金を貯蓄しなければ、バスの乗客が死んだり負傷したりしなかったと思うようになっていた。
田口は立花が死んだ際、犯人をかなり憎んでいたが、立花の正体が分かった時、立花の巻き添えで2人が死亡し、そのことでも同じように犯人を憎まなければ刑事失格であると思っていた。
田口と岩城は競馬場で城所をマークしていた際、城所が立花の前の席に座っていたことを思い出した。
城所は岩城に発見されるとすぐに逃走した。
田口は城所を見失った直後、城所が何者かの乗用車に轢かれるのを目撃した。
田口は岩城に城所を任せ、一般人の乗用車を拝借し、城所を轢いた犯人の乗用車を追跡した。
田口は赤い乗用車の運転手が、城所に殺害を指令した者だと確信した。
赤い乗用車の運転手の安田(田口計さん)は広大な空き地を走り回って逃走していたが、田口の乗用車共々、水溜りに入ってしまい、停止した。
田口は水溜りの中で安田と格闘になり、逃走した安田を取り押さえた。
田口は城所殺害とバス爆破を否定する安田を殴り続けた。
田口は一係室に帰還したが、藤堂に一般人の乗用車を破壊したこと、命を粗末にした行動を取ったことを叱咤された。
田口は安田が過失で城所を轢いたと思えなかった。
安田はヤクザ崩れで、現在は中古車の販売会社社長をしていた。
石塚達は安田と立花の馴染の客との関係性を調査していた。
山村は田口に、立花の家族のことを告げた。
立花は3年前(1974年頃)まで、幸福な織物工場の家の娘だったが、不況のあおりで工場が倒産し、切羽詰まって一家心中していた。
立花は偶然にも一命を取り留めたが、それ以来金以外何も信じない性格に変わり果てていた。
立花家と付き合いがあり、東京でも立花の周辺にいたのが、星美商事の坂口常務だった。
坂口は以前から星美商事の乗っ取りを計画しており、安田の会社を隠れ蓑に、星美商事の株を密かに買い集めているという情報が入っていた。
石塚の捜査で、坂口が立花のバーを訪れ、立花に指輪や宝石を言いなりに買っていたことが判明した。
藤堂は安田の会社の捜査令状を申請し、山村に安田の取調べを、田口と岩城に坂口の張り込みを命令した。
安田はただ過失で人を轢いただけと言い、坂口との関係性を自白しようとせず、山村を挑発した。
野崎と石塚と島は安田の中古車販売会社を捜索した。
坂口が明日の一番機でニューヨークに飛び立つことが判明した。
猶予は半日となった。
田口と岩城は帰宅した坂口を張り込んだ。
野崎達は未だに証拠を発見できなかった。
藤堂は野崎達に、事務所を捜索すると聞いたときの安田の動揺という山村の直感から、じっくり探すように命令し、奮起させた。
安田は未だに自白しようとしなかった。
翌朝、田口と岩城は空港に向かう坂口を尾行した。
島は隠し金庫をようやく発見した。
野崎と石塚と島は、隠し金庫を発見されて、逆上して襲い掛かって来た社員(森岡隆見さん他)を叩きのめした。
田口と岩城、山村と石塚は飛行機に乗ろうとした坂口を引き止めた。
安田が、坂口の指図で立花を殺害し、直接の犯人の城所の口封じもしたことを自白した。
安田は一筋縄ではいかない性格で、坂口の懐刀であると同時に、いざというときに坂口の弱みを握っておくために、坂口との会話をカセットテープに録音していた。
坂口は立花が悪女で、殺害されても仕方のない性格だったと言い捨てた。
田口は坂口を、殺人教唆及び背任容疑で逮捕した。
メモ
*バスで通勤中、偶然見かけた立花に片思いし、なかなか声をかけられないボンが微笑ましい。その気持ちはよく分かる。しかし…
*ロッキーは電車で通勤、ボンは(立花に片思いしてから)バス通勤。
*ロッキーに、立花に一目惚れしているのをからかわれるボン。同じく立枝氏が出演した「拝啓ロッキー刑事様」では立場が逆転しているのが面白い。
*朝から昼はOL、夜はホステス兼強請屋と、表と裏の顔が激しすぎる立花。しかし、立枝氏のイメージとかけ離れているためなのか、夜の仕事については全く描写されていない。
*一時は片思いしていた立花が殺されたことで犯人を憎むも、立花の正体が分かるにつれ、巻き添えで死んだ2人のことも思って犯人を逮捕しようとするボン。初期から大きく成長したと思える。
*ボンと安田の乗用車が水溜りに突っ込んで停止した後、ボンが安田と水溜りで格闘するシーン。安田の顔が映らないが、代役か?
*メインキャストの3人だが、神田氏と田口氏は後半のみの登場で出番が少なく、立枝氏は前半で退場。神田氏は白髪が目立ってきたが、まだ黒髪の率が多い。
*ラスト、矢追3丁目の停留所からバスに乗ってくるボス。気紛れと言っているが、ボンを励ますためのようだ。
キャスト、スタッフ(敬称略)
藤堂俊介:石原裕次郎
田口良:宮内淳
岩城創:木之元亮
野崎太郎:下川辰平
矢島明子:木村理恵
坂口常務:神田隆、安田:田口計、立花冴子:立枝歩
バーテンダー:阿部六郎、津田亜矢子、アパート大家:上野綾子、中島公子
山本寛、小池幸次、名塚新也、立花に強請られていた男:草間璋夫、熊谷卓三
久本昇、竜神会組員:吉中正一(現:吉中六)、中村文弥、藤原隆雄、岩下純三
ノンクレジット 安田中古車販売社員:森岡隆見
石塚誠:竜雷太
島公之:小野寺昭
山村精一:露口茂
脚本:長野洋、小川英
監督:木下亮