第269話「みつばちの家」(通算第479回目)

放映日:1977/9/23

 

 

ストーリー

田沼幸平(加藤嘉さん)はデパート屋上の遊園地にて、北原明彦(27歳)(若尾義昭さん)と待ち合わせ、お互いに携えていた紙袋を交換した。

デパート屋上の老婆(飯田テル子さん)は田沼の紙袋の中身を不審に思ったが、同席していた老人(日野道夫さん)は特に気にしていなかった。

北原はうっかり、ペンキ塗りたての壁に紙袋を接触させ、水色のペンキを付着させてしまった。

北原が矢追町4丁目の資材置き場にて、撲殺死体となって発見された。

北原の死因は頭蓋骨骨折で、現場に落ちていた角材で頭を滅多打ちにされていた。

足跡も逃走路も不明だった。

北原の片方の革靴の中から、コインロッカーの鍵が発見された。

野崎と島と岩城はアパート201号室の北原宅を捜索した。

北原の机の引き出しから、東南アジアのツアーのパンフレットと、「9.10. AM10.30」と書かれたメモが発見された。

北原は今年(1977年)の初め頃までディスコのマネージャーをしていたが、最近は無職だった。

北原の預金通帳には、最近に預金が急に増加し、600万円となっていたことが示されていた。

石塚と田口はコインロッカーを開け、中に入っていたヘロインを押収していた。

ヘロインはかなりの高純度で、市場価格が2億円以上のものだった。

北原は麻薬の売人で、取引のもつれが殺害の動機と考えられたが、誰からどのようにしてヘロインを入手したかが不明だった。

北原がどこかの組織と関係している様子は無かった。

手掛かりは紙袋とペンキだった。

藤堂は石塚と田口に、ペンキ屋とペンキを塗ったばかりの場所の捜査を、山村に島と組んで麻薬の販売ルートを捜査するように命令した。

島と岩城はヘロイン中毒者(広田正光さん)を逮捕した。

石塚と田口は東京都内の、水色のペンキが塗りたての最後の地点である、デパート屋上に辿り着いた。

デパート屋上の老人は石塚と田口に北原の写真を見せられたが、北原のことを記憶していなかった。

老婆は石塚から北原の服装と紙袋のことを聞き、田沼が北原と紙袋を交換したことを思い出した。

田沼は老人と老婆の仲間で、以前には毎日来ていたが、ここ半年間には時々しか来なくなっていた。

田沼は以前にも2度ほど、紙袋を交換したことがあった。

石塚と田口は田沼が「みつばちの家」に住んでいることを聞き出し、急行した。

「みつばちの家」には田沼以外に、山本和江、今井フミ、加藤正市、中川修、堺敏郎、水谷潤一、木下昇が住んでいた。

石塚は「みつばちの家」のリーダー格である木下(山西道広さん)と会った。

田沼は裏の菜園で作業中だった。

木下は「みつばちの家」について、4人の老人と4人の若者が家族のように暮らそうということで始めた共同生活体であることを説明した。

住人は全員が全員、お互いにどのような知り合いがいるかを知らなかった。

木下は石塚と田口が刑事であることを知り、暗くなった。

木下は田沼を呼び出し、石塚と田口と対面させた。

田沼は石塚と田口に、北原が昨夜に殺害されたことを告げられ、北原とは無関係で知らない男であると強調した。

住人は石塚と田口の事情聴取を目の当たりにして、動揺した。

石塚は「みつばちの家」を素晴らしい家であると心から思っていた。

田沼は「みつばちの家」に入居できたことを嬉しく思っていたが、石塚から北原と紙袋を交換したのを目撃した者がいることを突きつけられた。

田沼はいつも行くデパートの屋上にて、正体不明の男から、北原に紙袋を手渡すように依頼されたことを告白し、状況を説明した。

田沼は屋上のベンチで暇つぶしをしていた際、中年のサングラスの男から、「九州から上京する弟とすれ違いで会えないから、紙袋を預かり、1時間後に取りに来る弟に手渡してほしい」と依頼されていた。

サングラスの男が携えていた紙袋の目印は赤いリボンだった。

サングラスの男はデパートの閉店間際、再び戻っていた。

田沼は紙袋の中身を見ていなかった。

田沼は石塚から、事件が殺人事件であると同時に麻薬組織が関与していると告げられ、激しく動揺し、本当に何も知らないと主張した。

木下は田沼の話を聞き、石塚と田口に田沼が嘘を吐いていないと弁解した。

木下は田沼が自分達に豪勢な食事を振る舞ったときの1万円が、麻薬組織から貰った金であることを知り、落胆した。

田沼は住人の中で全く働きが無かったため、役に立ちたかったということを伝え、謝罪した。

田沼はサングラスの男に、金につられて黙って紙袋を預かっており、住人には公園清掃のアルバイトで稼いだと誤魔化していた。

麻薬の卸元と北原は田沼を取引の仲介者にすることで、お互いの顔を会わせないで済んだ。

卸元は北原を知っていても、北原は卸元を知らなかったが、相手の所持している金を確認できないという点で、非常に危険な取引だった。

北原は3度目の取引の際、代金の代わりに新聞紙を渡し、麻薬を持ち逃げしようとしたが、相手に襲撃されて殺害されたと推測された。

石塚は田沼と麻薬組織の関係性が無いと思っていた。

藤堂は「みつばちの家」について、夢のような綺麗な生活がいざとなると脆いことを助言した。

島が手掛かりを掴み、一係室から帰還した。

北原宅から発見されたパンフレットの旅行地域には世界有数の麻薬地帯が含まれていたが、北原が麻薬を仕入れに行った様子が無かった。

メモの正体は旅行社の東南アジアツアーの帰国時間だった。

北原は卸元の正体を知っていることとなった。

藤堂はメモに書かれていた日時に帰国したツアーの旅行客を捜査することにした。

石塚は競艇場に田沼を連れて行った。

田沼は「みつばちの家」住人の若者に身の潔白を証明するため、冷静さを無くしていた。

「みつばちの家」住人の若者の1人が、麻薬の片棒を担いだ男と同居できないという理由で、出て行っていた。

田沼の嘘の影響で、他の住人の老人の嘘がばれてしまっていた。

田口は容疑者とみられる今西(中村孝雄さん)に田沼を面通しさせた。

田沼は今西がサングラスの男であると証言した。

今西は競艇場の裏でノミ屋と取引をしていたが、石塚に発見されて逃走し、逮捕された。

ノミ屋も田口に逮捕された。

石塚は今西を取り調べた。

今西はノミ屋に載せられて3万円をすられ、今日に払ったことを自供した。

田沼は今西を再度面通ししたが、全然違うとして証言を翻した。

今西はノミ行為については認めたが、人違いで逮捕されたことを知ると、開き直り抗議した。

石塚はノミ行為も立派な犯罪行為であると激怒した。

田沼は「みつばちの家」を素晴らしいと褒めた石塚の役に立ちたかったこと、「みつばちの家」を建て直したかったが、失敗ばかりで役に立てなかったことを謝罪した。

田沼は靴作りを仕事としており、小さな靴屋を経営していたが、ある時に一人息子がその店をゲームセンターに作り変えてしまった。

田沼は行き場所を失い、毎日デパートに通う日々を送っていたが、半年前に知人の老人から「みつばちの家」のことを聞いて嬉しく思い、住人の若者を息子や娘のように思えていた。

田沼は自分に出来ることが、住人の靴を修理することだけで、親切にしてくれる住人に何もしてやれないことを激しく悔やんでいた。

田沼は石塚から、今まで働き詰めに働き、社会に十分貢献したと説得されたが、住人のために何かしてやらないと気が済まなかった。

旅行社の東南アジアツアーは今年の夏場には5組あった。

島は旅行社社員に、今年と去年(1976年)の旅行客の名簿を見せるように依頼した。

石塚は藤堂から、今朝早くに田沼が身の回りの道具を持って「みつばちの家」を出たという連絡を受け、立ち回り先を捜索するように命令された。

石塚は木下から話を聞いた。

田沼は早朝に家を出ており、住人の誰とも会っておらず、書置きもなく、行き先も不明だった。

木下は綺麗事だけを並べ、嘘ばかりついている人たちに一生懸命尽くしていただけだったと思い、自分の甘さを痛感していた。

木下は昔に家出したことで、両親の死に目に会っていなかった。

木下はデザイナーとしてやっと生活して実家に戻って来た時には、既に両親が亡くなっていた。

木下は「みつばちの家」を始めたのは一種の贖罪で、家族という夢の中に浸っていたに過ぎないと思っていた。

石塚は老人と若者の助け合いの素晴らしさを説き、「みつばちの家」が崩壊しかけているのは、若者が最初から老人を家族とは思っていなかったと指摘した。

石塚は若者が老人を労わりすぎたこと、老人が親切にされると引け目に感じるしかなくなり、嘘を吐かざるを得なくなることを熱弁した。

田沼は木下達の親切に報いるため、嘘を吐いたことを詫びるため、自力で殺人犯を捜索するために出て行った。

木下は住人の若者の1人(上恭ノ介さん)の呼びかけから奮起し、住人の全員を招集した。

田沼は朝、老人にサングラスの男がデパート屋上に現れていないかと尋ね、現れていないことを知ると、靴屋を調査していた。

田沼はサングラスの男が「キット」という特殊な靴を履いていたことを思い出し、聞き込んでいた。

木下と住人の若者の1人は屋上の老人から田沼のことを聞き出し、靴屋を調査していた。

石塚は木下達に、桜井町から菊田町の調査を任せた。

山村と島の捜査で、旅行社の添乗員の大場晴夫(剣持伴紀さん)が容疑者として浮上した。

島は去年と同じツアーの旅行客を捜査し、大場が香港の賭博場に出入りし、多額の借金を作ったが、今年の春頃から突然金回りが良くなったことを突き止めた。

田沼も靴の線から大場のマンションを突き止めていた。

大場はマンションに戻った際、田沼を発見し、追跡した。

田沼は矢追4丁目の公衆電話から一係室の藤堂に、大場が犯人であることを突き止めたこと、矢追神社まで大場を誘い出すことを通報した。

田沼は危険であることを理由に、安全な場所に隠れるように藤堂から制止されたが、それでも行動を続けた。

田沼は矢追神社のベンチに座り、大場を待ち伏せた。

田沼は神社から観光ツアーの団体客とガイドがいなくなったことから、激しく動揺し、離れようとしたが、大場に絞殺されそうになった。

大場は石塚と田口が矢追神社に到着したことで逃走したが、張り倒されて逮捕された。

田沼は石塚から、「みつばちの家」の住人が自分を捜索していたことを話された。

捜査員と木下達が矢追神社に駆けつけ、田沼の無事を喜んだ。

 

 

メモ

*老人と若者の生活共同体「みつばちの家」をメインとした話。アイディアが非常に面白く、一時的に崩壊しかけるも、再び元に戻るという暖かみのある話でお気に入りの話。(実際には生活観や価値観の違いでうまくいかないんだろうけど)

*バスで勤務中、老婆(原ひさ子氏)に優先席に座るように勧められるも、突き飛ばされてしまうゴリさん。

*1977年の時点で既に「高齢化社会」と呼ばれていることに驚き。

*今回の山西氏は善人役。髭が無いと二枚目でかっこいい。

*「厳しさの蔭に」でも競艇場で逃走していた中村氏。

*加藤氏の独特の熱演で、田沼が濃厚なキャラクターとなっている。

*自分だけ何も働きが無いことを引け目に思う田沼、精一杯老人に親切にしてきた木下、そしてゴリさんの3者の考えが面白い。

*「虫けら」でも命を賭けて犯人をおびき寄せた加藤氏。

*剣持氏の「太陽」初出演。台詞は無かった。

*ラスト、「みつばちの家」に一時的に入居するも、畑仕事の件で田沼と揉めるゴリさん。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

田沼幸平:加藤嘉

木下昇:山西道広、「みつばちの家」住人:上恭ノ介、大場晴夫:剣持伴紀、今西:中村孝雄

デパート屋上の老人:日野道夫、バスの乗客:原ひさ子、福地悟朗、岡崎夏子、デパート屋上の老婆:飯田テル子、「みつばちの家」住人:高杉哲平、近松敏夫

北原明彦:若尾義昭、安藤雅之、荻野三枝子、三上ひろみ、ヘロイン中毒者:広田正光、笠井心

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、柏倉敏之

監督:小澤啓一