第268話「偶然」(通算第478回目)

放映日:1977/9/16

 

 

ストーリー

佐竹文男(村井国夫さん)は非常階段を登り、4階の興東物産経理課に侵入した。

佐竹はガスバーナーで金庫を焼いていたが、午後8時45分に友人から来た電話に出た。

佐竹は麻雀に誘われたが、残業で出席できないと誤魔化し、電話を切った。

佐竹は金庫の扉を焼き切り、中身を取り出そうとした際、指を負傷した。

佐竹は金庫の中身の大金を強奪した後、わざと非常ベルを押してから階段を降り、立ち去った。

守衛(町田幸夫さん他)は警報で4階の経理課に急行し、金庫が破られていることを知り、警察に通報した。

守衛は捜査中の山村に、犯人が午後9時頃、わざと非常ベルを押したとしか考えられないと証言した。

経理課に通じる非常扉の鍵は内側から施錠されていた。

興東物産の出入り口は、夜には表玄関が閉鎖されているため、外部から出入りするには、地下の守衛室を通り、通用口に抜ける以外になかったが、社員が退社した後、通用口を出入りした人物がいなかった。

山村は興東物産のビルを隈なく調査し、推理を立てた。

佐竹はあらかじめ4階の非常扉の鍵を外し、非常階段からビル内に侵入し、再び扉の内側から施錠して経理課に忍び込み、犯行後には非常ベルで守衛をおびき出した隙に階段を伝って通用口から逃走していた。

被害金額は経理課長の森田が調査中だった。

興東物産は穀物の相場を扱う会社で、現金の動きが激しかった。

興東物産の約100人の社員のうち、大半が営業関係で、そのうち13人が経理課員だった。

藤堂はまず経理課から捜査することにした。

山村と田口は森田(日恵野晃さん)と面会した。

森田は被害額が現金約1000万円であり、小切手や手形が無事だったこと、最後に退社したのが係長の佐竹であることを話した。

佐竹は4階のフロアの責任者であり、火気の点検、窓の鍵、非常扉のロックを確認し、社員の中で最後に退社することになっていた。

山村と田口は佐竹から事情聴取を行った。

佐竹は左手の人差し指に絆創膏を巻いていた。

佐竹は午後8時に帰社し、4階の非常扉が施錠されていたと答えた。

佐竹は課長から仕事について注意された後、課長に警察が内部者に容疑をかけていることを伝えた。

山村と田口は佐竹を疑った。

佐竹は大学を卒業と同時に興東物産に入社し、以来10年間経理課に勤務し続けていた、ベテランの経理マンだった。

佐竹には過去の金銭のトラブルが無く、実家が四国の素封家だったため、金には困らない生活をしていた。

金庫のダイヤルから微量の、ごく新しいA型の血液が検出された。

山村は佐竹の絆創膏を思い出し、興東物産を訪れ、佐竹と会った。

佐竹は勤務中であることを理由に、事情聴取を断ろうとしたが、山村が指の負傷について質問しようとしたため、事情聴取に応じた。

佐竹は山村から、金庫のダイヤルに付着していた血液が、自分と同じA型だったことを告げられ、自分の血液であることを認めた。

佐竹は夫人が子供を連れて帰郷しているため、酒のつまみを作ろうとして包丁で手を切って負傷し、未だに傷が塞がっていないと誤魔化した。

佐竹は犯行時刻の午後8時から午後9時に自宅におり、午後8時45分に大学時代の友人から電話を受けたというアリバイを主張した。

佐竹の友人の坂本設計士(小沢忠臣さん)は午後8時45分に電話をかけたことを認めた。

電話の内容は、坂本が佐竹と麻雀をする予定だったが、伝票の整理が残っているために自宅に戻って仕事をする、午後9時頃には終了するから15分前に電話をくれるようにというものだった。

坂本は、佐竹と自分達が家賃を出し合って借りているビジネスマンション「矢追マンション」の201号室から電話をかけていた。

佐竹達は矢追マンションを、麻雀や飲酒、仕事場など、お互いに好きな時や好きなように利用していた。

山村は坂本から鍵を借り、201号室に入室した。

矢追マンション201号室のプッシュフォンの、佐竹宅の短縮番号は「*01」だった。

田口が山村と合流し、佐竹の同僚の中には、佐竹が昨日の昼間に絆創膏を巻いていたことを記憶している人がいなかったことを報告した。

山村は「*01」で佐竹宅に電話し、プッシュフォンの機能を確認し、佐竹にアリバイが成立したことを連絡した。

山村は佐竹が友人に電話を指定した時刻が、犯行時間と一致することについて、偶然とは思えず、アリバイ工作をしたのではないかと考えた。

佐竹が犯行直後に非常ベルを鳴らしたのは、守衛に犯行時間を知らせるためだった。

山村は「*01」の短縮番号にセットされている電話番号を七曲署の番号に変更し、田口に電話をかけさせ、佐竹のトリックを説明した。

佐竹は犯行前日に矢追マンション201号室を訪れ、「*01」の自宅の番号と興東物産の番号を入れ替えた。

坂本は何も知らずに「*01」に連絡し、佐竹が電話に出たため、佐竹宅に電話したと勘違いしていた。

佐竹は翌日、再び201号室に来て、自宅の電話番号にセットし直し、アリバイ工作をしていた。

山村はレストランで食事中の佐竹と同席し、佐竹にプッシュフォンのトリックのことを伝えた。

山村は佐竹に自信が何なのかを尋ね、警察との知恵比べならプロフェッショナルであるため、止めた方がいいと警告した。

佐竹は競争社会の原則が、どんな仕事でも能力の優れた者が勝つことであるが、サラリーマン社会には年功序列という悪い慣例があり、それに怒っていることを説明した。

佐竹の主張は「能力の優れた者が勝ち、劣った者が負けるという原則」だったが、山村に過信が禁物であると警告された。

山村は佐竹の犯行動機が、一種の遊びであると推察した。

付近の聞き込みの収穫は得られなかった。

山村は興東物産の向かいのビルの関係者に、犯人の目撃者がいるのではないかと考えた。

ビル清掃員の荒井(五藤雅博さん)は犯行時刻に清掃をしていた際、非常階段を登る佐竹らしき男を目撃していた。

荒井は男が作業服を着用し、ジュラルミンケースを携えていたことを記憶していたが、暗がりで顔をはっきりと覚えていなかった。

荒井は山村と田口から面通しされ、犯人が佐竹とよく似ていると証言した。

山村は佐竹に目撃者が発見されたことを伝え、同行を求めた。

佐竹は犯行時刻の午後8時30分、偶然に出会った青年のことを思い出した。

その青年は、佐竹宅の近所の自動車修理工場で働く北川(保積春大さん)だった。

佐竹は山村に挑戦しているようだった。

山村と田口は勤務中の北川と会い、佐竹と会った経緯について質問した。

北川は東2丁目の裏通りで、自動車のタイヤが側溝にはまって出られなくなった佐竹を発見し、自動車を押して側溝から出す協力をした。

北川は佐竹から、自宅に来てシャワーを浴びるように勧められ、佐竹宅に招待された。

北川は時計を所持していなかったが、シャワーを浴びた直後に、読売巨人軍の野球中継が終わったことから、午後9時ではないかと証言した。

北川はウイスキーを振る舞われ、泥酔した後に帰宅しており、午後8時45分頃に佐竹が電話していたかどうかは知らなかった。

田口は北川の証言が真実であると思っていた。

山村は佐竹の自動車が側溝に落ちた地点を訪れていた。

山村は佐竹が自宅から遠回りしてまで、狭い道を通ったことを不審に思っていた。

佐竹は偶然を装い、誰かが通りかかるのを待った可能性が出た。

佐竹宅から興東物産までは自動車で30分かかり、溝から自動車を出すのに10分を費やしたとしても、帰宅したのは午後9時40分となった。

田口は北川が時計を見たとは発言していないことから、佐竹がビデオを使用し、時間差のトリックを可能にしたことを推理した。

山村は北川が佐竹と会うまでの足取りを追跡し、1時間のずれを掴もうとしていた。

焼鳥屋の主人(永谷悟一さん)は北川が犯行当日の晩に焼鳥屋に入り、ビールを2,3本飲み、午後7時頃に帰宅したことを話した。

北川が常連のパチンコ屋店長は、客が数百人いるため、北川がパチンコ屋にいた正確な時間を記憶していなかった。

山村は佐竹が、人間の曖昧な時間間隔を巧みに利用した時間差トリックを使用したのではないかと推理した。

佐竹は最初から、時計を所持していない北川をアリバイ工作の証人に仕立て上げることを計画し、パチンコ屋から出た北川を尾行した。

佐竹はわざと自動車のタイヤを側溝に落し、北川と偶然出会ったように演出した。

佐竹は北川の時間間隔を麻痺させるため、酒を飲ませていた。

北川は佐竹の暗示を受け、1時間の誤差を信じ込んでしまったと思われた。

残念ながら全て推理で、裏付けの証拠が皆無だった。

佐竹と北川の関係性は無く、2人が口裏を合わせているわけではなかった。

山村は佐竹と対面し、北川のことを伝えた。

佐竹は山村から遠回りの理由を尋ねられ、表通りが工事で通行止めだったため、迂回路を通ったと答えた。

山村は藤堂に、事件に勝算があり、逮捕状を用意しておいても構わないと連絡した。

山村は佐竹宅に待ち伏せし、帰宅した佐竹と会い、再度の事件時刻のアリバイの確認を要求した。

山村は佐竹の、テープレコーダーを用意し、アリバイの録音をするという冗談にあえて乗った。

佐竹は午後9時の少し前、野球中継を見ていたと述べた。

佐竹は山村から、野球中継がビデオだったのではないかと疑われても、動揺しなかった。

山村は表通りの工事が水道管の工事であり、犯行当日の午後8時30分から午後9時30分までの1時間、一帯が断水だったことを告げ、アリバイの矛盾点を指摘した。

佐竹は潔く敗北を認め、山村との能力の差を痛感し、逮捕された。

佐竹が興東物産経理課から強奪した金は500万円であり、森田が虚偽の報告をしていた。

森田は株に手を出し、会社の金を約500万円横領していたが、偶然事件が発生したことを利用し、被害金額に500万円水増しし、帳簿の穴埋めをしていた。

佐竹の犯行動機は年功序列だった。

佐竹は経理マンとしては誰にも負けない自信があったが、取引先を定年退職した、無能な老人の森田が経理課長になったこと、会社が自分を新入社員のように扱うことに激しい屈辱を覚えていた。

石塚は佐竹の動機がよく分からなかった。

佐竹は森田の横領を薄々知っており、課長として対等な立場に立つため、犯行を決意していた。

課長の横領を知っている社員は佐竹のみだった。

佐竹は完全犯罪として成功させ、永久に森田の弱みを握ることで、新入社員扱い出来なくさせることだった。

佐竹には森田を告訴するだけの確証がなかった。

森田の横領罪が立証された。

断水は山村の引っかけだった。

 

メモ

*「山さん推理編」の1作。「手口こそ単純だが、計算しつくした」佐竹との対決。

*プッシュフォンのトリックをすぐに見抜いた山さん。電話には詳しい?

*「無言電話」に出るはめになるアッコ。

*プッシュフォンやビデオなど、巧妙なトリックを仕掛ける佐竹。ビデオは1977年当時、かなり高価なものだった。

*偶然を装ったアリバイの工作をした佐竹だが、山さんの「偶然」を利用したカマかけに敗退。

*経理課長もまた、「偶然」を利用していたという真相。

*佐竹の犯行動機は「裏の裏」に通じるものがある。

*ラスト、アッコに茶を頼むも、断水のために入れられないことを知る捜査員。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

佐竹文男:村井国夫(現:村井國夫)

森田課長:日恵野晃、荒井:五藤雅博(後の武内文平)、北川:保積春大(現:保積ペペ)

坂本設計士:小沢忠臣(現:小沢象)、阿部六郎、宮坂正則、工藤美智子

日笠潤一、石島泰介、興東物産守衛:町田幸夫、加藤茂雄、焼鳥屋主人:永谷悟一

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:中村勝行

監督:小澤啓一