第263話「罠」(通算第473回目)

放映日:1977/8/5

 

 

ストーリー

山村宛に差出人不明の小包が届いた。

藤堂と山村は小包から時計の音を聞き、プラスチック爆弾の可能性を仮定し、爆発物処理班を出動させた。

爆発物処理班は山村の立ち合いのもと、小包を開けた。

中身は使い古しの腕時計だったが、時計バンド全体に血痕が付着しており、殺人事件があったことを示唆していた。

腕時計は製造番号がかなり古く、持ち主の特定が困難だった。

山村は腕時計について、殺人犯への自分、もしくは警察に対する挑戦ではないかと推理した。

藤堂は捜査を開始し、山村に前科者、野崎と田口に郵便局、石塚と島と岩城に腕時計の捜査を指示した。

矢追南郵便局の局員は小包について、午後4時頃に受け付けたことを記憶していたが、最も忙しい時間だったため、誰が贈ったかについては記憶していなかった。

中光時計事務所でも、腕時計の所有者の特定はできなかった。

再び、山村宛に小包が届いた。

小包の中身は使い古しの革靴だった。

山村はその革靴の踵が、ゴム張りではなく、現在(1977年当時)では珍しい革張りであること、最近に修繕した形跡があることを発見した。

時計と革靴の所有者は、かなり頑固に古いものを使用してきた男と推測された。

藤堂は山村と野崎に都内の行方不明者の捜査を、田口に革靴を鑑識への提出を指示した。

矢追北町の村上靴店にて革靴が、4月に修理した大杉正巳という男の靴にそっくりであることが判明した。

山村は岩城と合流し、マンション506号室の大杉宅に入った。

室内のカーペットには血痕が付着していた。

山村と岩城は浴室にて、服を着たまま、浴槽に沈められて死亡している大杉を発見した。

大杉は胸にナイフが刺さっており、片方の革靴と腕時計が無くなっていた。

大杉は城東中学校の数学教師で、温厚篤実な性格であり、人に恨みを買う人物ではなかった。

大杉は非常な倹約家で、1500万円の銀行預金があったが、殺害される前日に全額を下ろしていた。

岡山から駆けつけた大杉の両親によると、先月に届いた大杉の手紙には、夏休み中に両親と同居できる家を購入すると書かれていた。

大杉には家を購入した形跡が無く、1500万円の現金も発見されなかった。

解剖の結果、大杉の胃の内容物が、コーヒー、パン、レタス、ハム、胡瓜のピクルスであり、食後約1時間の消化状態であることが判明した。

大杉のポケットには、レストラン「WHO」のマッチが入っていた。

「WHO」ウェイトレスのユミ(増田佳子さん)は岩城に、大杉がサンドイッチとコーヒーを注文したことを証言した。

ユミは大杉が初めての客だったが、電話で午後5時30分に大杉と会う約束があるが、急用で行けなくなったことを伝えるようにという伝言を頼まれたこと、大杉が午後5時30分に来たことを記憶していた。

大杉がサンドイッチを食べ終えたのは午後6時、殺されたのは午後7時ということになった。

山村は大杉が交渉していた不動産業者の中に、西尾功次(久富惟晴さん)がいることを不審に思った。

10年前(1967年頃)、山村は西尾を逮捕していた。

西尾は当時、国立大学を卒業した新進気鋭の弁護士だったが、運転中に男(柿木恵至さん)を轢き、男を救護せずに石で殴りつけて殺害し、逃走していた。

西尾は約3時間後の午前7時30分には大島にいたが、その3時間の間に大島に渡る船も飛行機も無く、絶対のアリバイがあると言われていた。

西尾は前日、定期船で大島に渡ったと主張し、車がガレージから盗まれたに違いないと証言したが、山村に逮捕された。

西尾の自動車のブレーキペダルに、西尾の靴裏に付着していたのと同一の花粉が付着していた。

西尾宅の玄関に、かなり高価な蘭の鉢が飾られており、鑑識の結果、その蘭の花粉が落ち始めたのは犯行当日の朝と証明された。

西尾は山村に花粉の証拠を突きつけられて自白し、殺人罪で懲役9年の刑に服していた。

西尾は知り合いのパイロットに大金を積み、密かにヘリコプターで大島に飛んでいた。

山村は花粉の証拠を突きつけたときの西尾の顔をはっきり覚えていた。

西尾の表情は決して、事実を暴かれて観念した顔でも、罪の深さに慄いている顔でもなかった。

西尾は最高学府を卒業した一流法律家の自分が、一介の刑事の山村に叩きのめされたことを、死ぬほど悔しがっていた。

山村は岩城を連れて西尾の事務所を訪れ、西尾と再会した。

西尾は田舎に残していた田畑を処分し、不動産屋を経営していた。

西尾は山村に質問される前から、山村の来訪の目的が大杉の件であることを見抜いた。

西尾は大杉が殺害されたという記事を見たとき、山村がきっと自分を疑うだろうと予感したと話し、後ろ暗いことが何もないと強調した。

西尾は大杉が2ヶ月前、通りすがりに不動産屋を訪れ、老人2人と3人暮らしに良い家がないかと探していたが、気に入らなかったことを話した。

西尾は山村から先月26日の午後7時前後のアリバイを質問され、明確なアリバイがあると答え、近所の小料理屋「大竹」に山村と岩城を招待した。

西尾は板前の中川に、山村と岩城に26日の行動を説明するように依頼した。

先月26日、西尾はパチンコ屋でチョコレートを取り、中川に渡していた。

中川は先月26日、西尾が午後6時35分に「大竹」に入り、午後8時30分までずっといたこと、西尾に時計が遅れていると指摘されたことを証言した。

先月26日、「大竹」には常連客で家具店に勤務する水木と、50年輩の夫婦がいた。

中川は年配の夫婦については、初めての客だったため名前を知らなかったが、角の書店で小火騒ぎがあったことを話題にしていたことを思い出した。

山村は藤堂に、水木の捜索を依頼した。

田口の調査で、水木は2丁目の家具店の販売主任であることが判明した。

水木(山本廉さん)は26日に「大竹」にいたこと、西尾が午後6時30分頃に入店したことを証言した。

岩城は矢追消防署では、1ヶ月間、書店で小火が発生したという記録が全然ないことを報告したが、藤堂に東京に消防署が1ヶ所しかないのかと注意された。

岩城は西尾が犯人ではないと考えていた。

藤堂は野崎に中川と西尾の関係性の調査を、島に西尾の張り込みを指示した。

岩城は小火騒ぎのあった角の書店を探し当てた。

小火は軽度だったため、被害届が提出されていなかった。

書店の近所に、「大竹」の客である50年輩の老夫婦が住んでいた。

50年輩の老夫婦の夫はテレビ放送の野球に夢中だったため、店内に西尾がいたことを記憶していなかった。

老夫婦の妻は、西尾の目の形が死亡した兄に似ていたため、はっきり記憶していた。

岩城は西尾が犯人ではないと確信した。

山村は西尾が腕時計や革靴を送ったのは、大杉の死体が腐らないうちに、捜査陣をアリバイの罠に陥れるためだったと推理した。

山村と岩城は西尾のアリバイ及び、ユミが思い違いをしていないかの確認のため、「WHO」に赴いた。

ユミは日にちも時間も正確であると証言した。

ユミは大杉の特徴については電話の男から、眼鏡をかけ、紺色の縞の背広を着ていたことを教えてもらったこと、大杉がテーブルの奥の席に座っていたことを述べた。

店主(鹿島信哉さん)も、ユミの証言が間違いないと話した。

山村は西尾のアリバイの盲点を探ろうとしていた。

山村は赤茶系統の背広を着て、サングラスをかけ、煙草を吸っている状態で、西尾の席に座り、コーヒーとサンドイッチを注文した。

ユミは最初、その男が山村であると気が付かなかった。

山村はユミが、電話で大杉の服装を教えられて、大杉だと思い込んでしまったのではないかと推理した。

ユミは山村から大杉の写真を見せられても、そのときの客が大杉であると断言できなくなっていた。

西尾が大杉の死亡推定時刻を工作するため、大杉に化けて「WHO」に来店した可能性が出てきた。

ユミは事件当日の昼過ぎに、矢追の釣り堀に、2人前のコーヒーとサンドイッチの出前を運んだことを思い出した。

ユミによると、釣り堀の小屋には誰もおらず、テーブルの上には代金が置かれており、空いたカップと皿を取りに行ったときにも誰にもいなかった。

出前したサンドイッチの中身はレタスとハムとピクルスだった。

釣り堀の主人(里木佐甫良さん)は26日には親類の結婚式のため、釣り堀を休業していたことを話した。

西尾が送った腕時計と靴は山村への挑戦であると同時に、捜査陣を罠に陥れるための道具だった。

26日、西尾は手始めに、「WHO」のサンドイッチとコーヒーを釣り堀に届けさせた。

小屋に潜伏していた西尾はサンドイッチとコーヒーを持って行き、大杉のマンションを訪れた。

午後3時30分頃、西尾は言葉巧みに勧めて、大杉にサンドイッチを食べさせ、コーヒーを飲ませた。

何も知らない大杉は両親と住む家を買うため、西尾の話を聞いていた。

午後4時前後、西尾は前もって知っていた登山ナイフで大杉を刺殺していた。

西尾は大杉の服を着て、「WHO」を訪れ、コーヒーとサンドイッチを注文したと推察された。

大杉の服は血で染まっていたため、西尾がそれを着用して「WHO」に行くことは不可能だった。

山村は西尾がこの推理に到達することまで予測し、推理を破綻させるため、あえて凶器にナイフを使用していたと推理した。

西尾は大杉の背広そっくりの自分の服を着て、「WHO」で自分に電話をして、大杉に成り済ました。

山村は西尾に罪の償いを必ずさせると宣言した。

山村は西尾宅を訪れ、西尾に事件が迷宮入りしたと騙し、茶飲みに誘った。

西尾は山村から、数種類の色の背広を所持していることを指摘され、動揺した。

山村はわざと、西尾に紺色と縞の背広を着用させるように誘導した。

山村は「WHO」に西尾を連れて行った。

山村は西尾が大杉に化けていないと言い切れる自信があるため、平然と山村を見返すため、紺と縞の背広を着用していたと推察した。

山村はユミが西尾の顔を知らないと言っていたことを伝えた。

西尾は微妙な違いを指摘できる目撃者がいないと自信があったが、山村から、無意識に出てしまう癖を見た途端、ユミが26日の男を西尾と証言するかもしれないことを教えられた。

山村はわざと、26日と同じ席に西尾を座らせた。

西尾は大量に汗をかき、山村からユミが汗を拭く動作で記憶を取り戻すかもしれないことを告げられた。

西尾は左から汗を拭く癖があった。

西尾はユミがずっと自分を見ていることに気付き、激しく動揺した。

西尾は山村から、砂糖の入れ方にも癖があると指摘され、遂に観念した。

山村は西尾に、隠さなければならないことがあるが、自分には何もないため、勝てないと伝えた。

山村は西尾が10年前と全く変わっていなかったことについて、やり切れないと感じていた。

西尾は山村に、金欲しさに大杉を殺害したことを自白した。

ユミは山村から、西尾をずっと見ること、山村が水を飲み終わったらそっと接近してくることを指示された。

ユミは西尾のことを全く知らなかった。

西尾が全面自供した。

 

 

メモ

*山さん対決編(アリバイ崩し編)の1作。

*七曲署の住所は新宿区矢追町1-5-1。

*山さん宛に2通の差出人不明の小包が届くところから開始する、ミステリアスで不気味な冒頭。この小包が、実はアリバイ工作の一環として生かされているのが凄い。

*風呂場に大杉が沈んでいるシーンも実に不気味。

*1967年頃には、既に七曲署捜査一係にはボスと山さんが在籍していたようだ。

*珍しく赤茶系統の背広を着る山さん。

*人間の先入観などを利用した、巧妙なアリバイトリック。久富氏のキャスティングを十二分に生かしていると思う。捜査一係が最後の推理まで到達することを予測していたこともあり、「山さん対決編」の犯人でも上位に入る?

*山さんとしては、10年前に逮捕した男が何も更生していなかったということで、心情的に辛い事件になったと思われる。

*ラスト、ボンとロッキーに西尾がなぜ絶対的に犯人であると信じていた理由を質問される山さん。ボスは「勘を頼った捜査はいかんが、勘1つに賭けて物事を実証するのが刑事の極意」というよく分からない答えを出す。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

田口良:宮内淳

岩城創:木之元亮

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

西尾功次:久富惟晴

ユミ:増田佳子、水木主任:山本廉、釣り堀の主人:里木佐甫良、山田貴光

伊藤健、猪野剛太郎、近松敏夫、進藤幸

大田黒武生、「WHO」店主:鹿島信哉、渡辺巌、大峰順二、荒瀬寛樹

ノンクレジット 西尾に殺害された男:柿木恵至

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:柏倉敏之、小川英

監督:竹林進