第538話「七曲署・1983」(通算第453回目)

放映日:1983/1/7

 

 

ストーリー

深夜の新宿ニューシティホテルにて、西井賢三(52歳)(奥野匡さん)が2628号室の窓から階下の駐車場に転落し、死亡する事件が発生した。

午前2時40分、西條と原は2628号室を捜査し、目覚まし時計が午前7時にセットされているのを確認した。

西井は東郷建設経理部部長で、神奈川県相模原市北町3-2-2に住んでいた。

西井の直接の死因は墜落時の衝撃による全身打撲、複雑骨折、内臓破裂だった。

西井は肺癌を患っており、本人も自覚していた。

発作的な自殺の線も考えられたが、井川は西井がパジャマ姿で死亡していることが釈然としなかった。

井川は西井が長年経理畑を歩いてきた男で、何事につけても几帳面な性格であるため、1通の遺書も残さずにパジャマ姿で飛び降り自殺をするものかと思っていた。

西條は2628号室の灰皿が使用されていて汚れており、サイドテーブルの煙草の箱も封が切られ、中身が半分以上減っているのに、吸殻が灰皿からも屑籠からも発見されないことを不審に思った。

西條は何者かが煙草を清掃したのではないかと思っていた。

原は目覚まし時計に違和感を抱いていた。

藤堂は西山署長(平田昭彦さん)に、署長室に招集され、地方検察庁の田島検事(内藤武敏さん)を紹介された。

田島は藤堂に、徹底的に昨夜の西井の変死事件を捜査するように依頼した。

5年前(1978年頃)、首都圏再開発の大工事が行われていたが、最近になり、その工事に不正入札が行われた疑惑が浮上していた。

当時、まだ二流以下の会社だった東郷建設が、当時の政務次官の木村伝兵衛(河村弘二さん)に多額の金品を贈与し、工事の便宜を図ってもらったものと思われた。

木村は戦後の混乱期に闇商売で大儲けし、その金で政治家の地位を築いていた。

東郷建設社長の前川信二郎(田島義文さん)も、ヤクザ紛いの強引な手口で社長の地位を築いていた。

木村と前川は5年前の大工事を機に、手を握り合っていた。

当時から黒い噂はあったものの、確証を掴み取ることが出来ていなかったが、今回に図らずしも、内部告発があり、その告発者が西井だった。

田島は西井の記憶から、前川が木村に賄賂を渡した日時と場所も判明したが、もっと確実な物的証拠が欲しかった。

今朝午前8時、田島は新宿ニューシティホテルで西井から物的証拠を受け取るつもりだったが、その直前に西井が消されていた。

春日部と竹本は事件解決に躍起になったが、原は木村や前川が直接、西井を殺害したとは思えず、金で雇われた連中による犯行の場合、贈収賄事件を解決できないことを危惧した。

藤堂は西井が自分の身に危険が迫っていることを察知したからこそ、昨夜に家族にも黙って新宿ニューシティホテルに宿泊したことを発言した。

西井は警戒しているにもかかわらず、すんなり部屋に相手を入れているため、事情をよく知る同じ会社の人間がいたと考察された。

実際に贈収賄が行われたのは5年前であるため、贈収賄事件の時効が成立すれば、この事件は殺人事件として解決する可能性が出た。

贈収賄事件の時効成立は、明後日の1月7日の午前0時だった。

ホテル宿泊者の外国人のカップルが赤坂のナイトクラブで遊んだ帰りの午前2時、真向かいの2628号室から怒鳴り声が聞こえたことを証言した。

しかし、外国人のカップルは日本語が話せないため、会話の内容までは理解できなかった。

西井の口論の相手が西井を突き落としたとすれば、その後どうしたかが問題点となった。

午前2時前後ともなれば、ホテルであっても客の出入りが少なく、正面から出入りすればフロントに目撃されるが、そのような人物は発見されなかった。

昨夜、事件発生の前後に裏口の駐車場に出入りした車は無かった。

山村は西條に、西井の口論の相手が同じホテルに宿泊しているのではないかと助言した。

西井は几帳面な性格が災いし、一円の金の出し入れにもうるさく、社内では浮いた存在となっており、部下からも上司からも忌み嫌われていた。

そのため、西井は部長といっても飾り物的存在で、経理部の実権を握っていたのは、経理課長の久野隆夫(北村総一朗さん)だった。

久野は実務にも強く、持ち前の人当たりの柔らかさから重役の評判も良く、社内の同期の中では傑出した出世頭だった。

西井はいわば窓際族だったが、久野には好感を抱き、いろいろ相談をした。

春日部は久野が出世を餌に、前川から依頼されて西井を殺害したのではないかと直感した。

久野は見るからに華奢な優男だが、西井は学生時代に柔道をしていたため、がっしりした体型だった。

井川は久野が単独で西井を突き落とすのは不可能と判断した。

竹本は久野を尾行した。

ホテル内の関係者の中に久野を記憶している人間は不在で、ホテル宿泊リストの中にも久野の名前が無かった。

一係室に田島から、久野の扱いに慎重を期すようにという内容の電話が入った。

西井が死亡した今、久野の存在が何よりも大きなものとなっていたが、今すぐ逮捕できるほどの証拠が固まっていなかった。

田島は時間が切迫しているが、慎重に捜査するように忠告した。

東郷建設の下請けに「明和土建」という会社があるが、ほとんど実体のない会社で、工事が反対派の妨害に遭ったとき、命知らずの連中を金で雇って排除するのが主な仕事だった。

殺人の実行犯は明和土建の関係者ではないかと推測された。

西條と春日部は久野が変装した姿で、西井が殺害された日にホテルに宿泊されたことを突き止めた。

久野は「作家の久松一郎」という偽名を使っていた。

山村と竹本は、東郷建設を出発する久野を尾行した。

山村は歩道橋にて、サングラスの男が自分を尾行していることを察知した。

山村は浮浪者に成り済ました殺し屋(井上三千男さん)が、服の中に短刀を隠して、前方から久野に接近しようとしていることに気付き、瞬時に久野を突き飛ばした。

サングラスの男は山村の存在に気付き、逃走した。

竹本は井川達に、山村が久野を逮捕したことを告げた。

現在判明しているのは、久野らしき男がホテルに宿泊していることだけで、それだけでは殺人の証拠にならなかった。

井川は西條達に、山村が逮捕という名目で、西井の久野を保護したと言い聞かせた。

竹本が全く殺し屋の存在に気付いていなかったため、襲撃の証拠は皆無であった。

山村は久野を取り調べ、殺人容疑で逮捕したことを告げた。

久野は1月5日の夜、偽名を使ってホテルに宿泊し、西井の部屋を訪れ、5年前の汚職事件のことで口論した。

西井は5年前の首都圏再開発計画の際、東郷建設が木村と結託し、巨大な利権を得たことを告発しようとしており、死亡する前の贖罪と考えていた。

前川は西井の意思を知り、西井が信頼している久野を西井と会わせ、告発を慰留させようとした。

久野は交渉が決裂したことで、部屋にあらかじめ呼び寄せていた殺し屋を入れ、西井を突き落とした。

久野は証拠が皆無であることを理由に、七曲署捜査一係の推理を全面否認した。

久野は取調室を退出しようとしたが、山村に阻まれ、逮捕の理由が殺人であることを強調された。

久野は弁護士を通じ、七曲署捜査一係を告訴する決意を固めていた。

田島が七曲署を訪れ、藤堂に対し、久野を令状なしで逮捕したことを厳しく詰問した。

西山は久野を釈放しようとしたが、藤堂は田島に全く弁解する気も、久野を釈放する気も無かった。

藤堂は田島に、人権問題の基本が人間の権利、その根本にある生命を守ることであると説明した。

藤堂は山村が久野の生命に危険が迫っていることを察知し、違法性を承知で逮捕したことにより、久野が安全を確保し、西井の悲劇を繰り返さないようにしたと詳しく説明した。

原はゴルフ場で巨頭会議中の、木村と前川を撮影した。

原の撮影した写真には、下請け会社の大山(柿木恵至さん)も写っていた。

久野と久松の筆跡が鑑定の結果、同一人物の筆跡と90%認定された。

久野はやや動揺した素振りを見せた。

山村はホテルの従業員に久野を面通しさせようとしたが、久野は弁護士を招集するまで黙秘を決め込もうとしていた。

井川は取調べが重要な段階に入っているという名目で、久野に弁護士の黒岩(穂高稔さん)を接見させなかった。

井川は黒岩にこのままでは済まされないと警告されつつも、強制的に黒岩を退室させた。

藤堂は田島に会いに行っていた。

西條は久野に対し、風貌に似合わずしぶとい男で、山村も自白させるように苦労するのではないかと感じていた。

山村が今日の夜までに久野を自白させられなかった場合、西井殺害については有罪にこぎつけたとしても、時効成立前に木村と前川の逮捕状を申請することが不可能となった。

藤堂は背後から殺し屋(徳弘夏生さん)に尾行されていることに気付いていた。

藤堂は喫茶店で、田島と会話した。

藤堂は喫茶店に入店し、殺し屋も席に座ったのを見逃さなかった。

藤堂は田島に、もうすぐ久野を自白させられそうになること、久野が自白すれば、木村と前川の逮捕状の請求の際、地方検察庁が集められた証拠も提出を求められることを伝えた。

久野はあくまで無実を主張し続けていた。

1月5日の夜、西井と久野は喫煙しながら、廊下に声が通るほどの大声で激論を戦わせていた。

しかし、灰皿に吸殻が貯まった頃、交渉が決裂し、久野は扉を開け、殺し屋を引き入れていた。

久野は部屋を漁った際、煙草から証拠が出るのを恐れ、吸殻を持ち帰ろうとしたが、西井も偶然同じ煙草を吸っていたために見分けがつかなくなり、やむを得ず、灰皿の吸殻を全部持ち出していた。

山村は久野に、どんなに無実を主張しても、殺人の命令者にとっては無用の存在であり、七曲署捜査一係が久野に着眼したのを知り、西井と同じように抹殺しようとしたことを伝えた。

久野は前川直々の命令であることを漏らしてしまったが、あくまで何も自白しようとしなかった。

汚職事件の時効は今夜の午後12時で成立し、久野が自白しなければ、木村と前川は逮捕されなくなった。

山村は久野に、殺人の時効が15年あるため、西井の殺害を必ず立証してみせること、汚職の時効が成立すれば、事件が久野の個人的怨恨から起きたという扱いになることを言い聞かせた。

久野は山村に30分だけ休憩を要求し、許可を貰った。

殺し屋が中華料理屋の出前持ちに扮し、山村と久野の前に現れ、拳銃を発砲してきた。

一係室にいた藤堂も銃声に気付き、西條と竹本に殺し屋を追跡させた。

殺し屋はサングラスの男の運転する自動車に乗り逃走した。

山村は藤堂からの連絡で、殺し屋の襲撃に備え、防弾チョッキを着用していた。

久野は落胆していた。

藤堂は単独で出発していた。

殺し屋の乗用車は西條と竹本、原と春日部に挟み撃ちにされた。

殺し屋とサングラスの男は拳銃を発砲して抵抗したが、西條と原に拳銃を撃ち落とされ、春日部と竹本にそれぞれ逮捕された。

藤堂は木村と前川の乗る外車の前に立ち塞がり、木村を収賄容疑、前川を贈賄並びに殺人教唆容疑で逮捕すると宣言した。

藤堂は木村と前川に、久野が全て自白したことを告げた。

藤堂は自分に掴みかかってきた、木村と前川のボディガード(戸塚孝さん)を殴り倒し、発砲しようとした大山の拳銃を撃ち落とし、逃走しようとした木村と前川に威嚇射撃した。

井川と西條、春日部、竹本が現れ、木村、前川、大山、ボディガードを逮捕した。

井川は藤堂に、出発した頃にはまだ久野が自白していないことを知らせた。

木村と前川は強気な態度になり、藤堂に手錠を外すように強要した。

山村から、久野が自白し、逮捕状が出るという連絡が入った。

 

 

メモ

*1983年初放映作品。山さんの辞職覚悟の捜査と綿密な取り調べ、ボスの人権に対する考え、ボスと山さんの信頼関係が描かれ、個人的な「太陽」後期の最高傑作。

*長野氏×竹林監督の「黄金コンビ」による最後の作品。この2人が手掛けた「不屈の男たち」と「真相は……?」を足して2で割ったような感もある。

*内藤氏、北村氏、河村氏、田島氏、奥野氏他と、豪華かつ渋い面々のゲスト。

*久野の顔写真に堂々と落書きするドックとボギー。

*ジーパン編の「どぶねずみ」で初登場し、「蒸発」以来、約9年半に渡って七曲署の署長を務めた西山の最終出演作となる。なお、平田氏は今回を放映して僅か1年半後に逝去されている……

*9年前の「勇気ある賭け」では、「山さんから見たボスの人物像」が語られたが、今回は「ボスから見た山さんの人物像」が語られている。ボス曰く、山さんの勘が100%当たるとは信じていないが、今までもこれからも山さんの捜査方法を信じるのみ、というもの。この台詞がボスの長年の山さんへの信頼を描いて感銘を受ける。

*西山の後任の大和田は「アイドル」にて初登場するが、いつ着任したかは不明。

*危険な賭けを承知で、殺し屋にわざと、久野がもうすぐ自白しそうということを聞かせるボス。

*病気から復帰後のボスの、最初となる外出及びアクション、発砲シーンがかなり燃える。本当に一見の価値あり。

*実は久野を自白させる自信が無かった山さん。ボスも自信が無かったという。今回はかなり危険な橋を渡った捜査だった。

*今回は「死因」と同時撮影。

*また、今回は第1話から「太陽」の監督を担当し続け、メイン監督の1人だった竹林監督の「太陽」最終作。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

春日部一:世良公則

竹本淳二:渡辺徹

原昌之:三田村邦彦

 

 

西山署長:平田昭彦

田島検事:内藤武敏

久野隆夫:北村総一朗

黒岩弁護士:穂高稔、木村伝兵衛:河村弘二、前川信二郎:田島義文、西井賢三:奥野匡

殺し屋:徳弘夏生、浮浪者風の殺し屋:井上三千男、高杉哲平、大山:柿木恵至

ノンクレジット 木村と前川のボディガード:戸塚孝

 

 

西條昭:神田正輝

井川利三:地井武男

山村精一:露口茂

 

 

脚本:長野洋

監督:竹林進