第555話「一枚の絵」(通算第434回目)

放映日:1983/5/6

 

 

ストーリー

何者かが坪内宅の厨房の窓に石を投げた。

坪内恵子(水沢有美さん)が厨房の状況を確認している間に、息子の坪内真(2歳)が誘拐される事件が発生した。

坪内宅には誘拐を知らせる脅迫状が置かれていた。

一係室に真の誘拐事件の通報が入り、捜査員が坪内宅に出動した。

脅迫状の内容は午後3時までに、古紙幣で2000万円を用意し、警察に通報したら殺害するというものだった。

坪内家の主人の坪内光弘(広瀬昌助さん)は警察に通報するべきかどうか迷っていたが、何とか2000万円を用意していた。

誘拐犯は坪内家の間取りや、真の日光浴の習慣を知っていた。

坪内宅は約1ヶ月前、5分間の「マイホーム」という番組で紹介されており、日光浴の日課のことも放送されているため、誘拐犯の特定が困難だった。

坪内宅に誘拐犯から電話が入った。

誘拐犯は坪内にショルダーバッグに身代金を入れるように強要し、坪内から車載電話の番号を聞き出した後、助手席に恵子を乗せ、アンテナの先に目印の赤い紐を着け、国道246号線を渋谷方向に向かうように脅迫した。

井川は山村に代わって現場の指揮を担当することになり、国道246号線に春日部と竹本を先回りさせた。

坪内は恵子を乗せて出発した。

井川と西條、春日部と竹本、令子は坪内の車を尾行していた。

誘拐犯は坪内に首都高速道路に乗るように脅迫し、無線を全て傍受できることを伝え、復唱を禁止させた。

井川は坪内が誘拐犯に口止めされたことを察知し、春日部と竹本に先行して首都高速道路に入るように、令子に一般道路から行くように指示した。

坪内は首都高速道路に入り、激走して4号線に入っていた。

井川と西條は高速道路を激走するオートバイを目撃し、誘拐犯が高速道路で身代金を受け取るかもしれないと推理し、春日部にオートバイを警戒させた。

誘拐犯は坪内夫妻に、進行方向左側に車を寄せて走り、次の指示を待つように強要した。

令子はBランプで渋滞に巻き込まれてしまったが、井川からサイレンを鳴らして突破するようにという指示を受けた。

坪内の車は高速道路上で渋滞に巻きこまれてしまった。

春日部と竹本は坪内の車をかなり先行することとなり、井川からBランプからCランプに入り直すようにという指示を受けた。

誘拐犯は車載電話に電話をかけ、坪内夫妻に真の声を聞かせた。

恵子は誘拐犯の指示に従い、首都高速道路4号線の下の若宮町にショルダーバッグを投げつけた。

誘拐犯は公衆電話から、カセットテープに録音した指示を送っていたが、ショルダーバッグを回収し、オートバイで城山方面に走り去ってしまった。

井川は令子と春日部と竹本に、誘拐犯のことを連絡したが、誘拐犯を見失ってしまった。

誘拐犯は黒いヘルメットと作業服を着用しており、身長170cm前後だった。

誘拐犯が身代金を入手してから5時間が経過していたが、真は戻ってきておらず、誘拐犯からの連絡もなかった。

誘拐犯が乗り捨てたオートバイは盗難車で、持ち主の学生も事件とは無関係だった。

誘拐犯は首都高速道路があの地点で渋滞することも計算していた。

山村は井川の責任問題よりも、真の発見を優先した。

オートバイや脅迫状からは指紋が検出されなかった。

山村は誘拐犯の手掛かりを掴むため、西條と春日部と竹本に坪内関係を捜査するように命令した。

井川は目撃者を捜索することにし、山村に真を必ず探し出すため、藤堂と本庁に公開捜査の保留を進言するように懇願した。

井川は誘拐犯が真を殺害することを危惧していた。

坪内は号泣する恵子を励まし、身代金を渡した以上、誘拐犯が真を返すと思っていた。

本庁は手掛かりが皆無であることから、公開捜査を決定し、藤堂も同意していた。

山村は誠の目撃者の情報に賭けるべきと考えていた。

井川は真を取り戻すことに静かなる情熱を燃やしていた。

誘拐犯と思われる中年の男が、真に似た少年と魚料理屋「さかなや」で食事をしたという情報が入った。

しかし、その少年は真ではなく、父親(篠田薫さん)も誘拐犯ではなかった。

西條と春日部は誘拐犯の金山(桑原一人さん)という男を逮捕した。

金山が誘拐したのは少女だった。

釣り人(加藤茂雄さん)が多摩川河川敷にて、真が着用していた赤いベストを発見した。

井川と竹本は警視庁南多摩署に急行し、西條と令子と春日部と合流した。

恵子はベストに「M・T」の刺繍がなされていたことから、ベストが真のものと断定した。

坪内夫妻は真が殺害されたと思い、悲しみに暮れていた。

鑑識の鑑定はベストの汚れ具合から、ベストが一昨日に川に捨てられたというものだった。

竹本は川を捜索し、浅瀬の川底の石に引っかかっていた、真の靴下を回収した。

誘拐事件が発生してから3日が経過していたが、真の遺体は未だに発見されていなかった。

昨日、真に酷似した幼児を連れた中年男が富士急ハイランドを訪れていたという通報が入った。

井川は竹本を連れ、富士急ハイランドに直行し、通報した従業員から話を聞いていた。

従業員は出口で真の姿を目撃していたが、誘拐犯の方は後姿しか目撃していなかった。

従業員は真が赤と黒の毛糸の吊りズボンを着用していたこと、誘拐犯が右手で真の手を引き、左手にスケッチブックを抱えていたことを記憶していた。

井川はかつて家族で富士急ハイランドに行った際、日帰りでも楽しめたという経験から、目撃者の捜索に全力をかけた。

井川と竹本は富士急ハイランド近辺で子供連れが訪れる場所を調査していた。

河口湖の遊覧船乗り場の守衛が、遊覧船に乗る際にはしゃいでいた真を目撃していた。

守衛は真が殺害されて多摩川に捨てられたと思い込み、遊覧船に乗った幼児が真ではないと思っており、誘拐犯の方は記憶していなかった。

誘拐犯と真が乗った遊覧船は午前11時の便だった。

井川と竹本はロープウェーに乗り、最も景色が良く、誘拐犯と真が昼食をとったと思われる高台を捜査した。

井川は高台に落ちているプルタブを拾い、真の指紋を採取しようとしていた。

井川は多摩川で発見されたベストと靴下を誘拐犯の偽装と推測し、誘拐犯が発見される危険を冒してまで、真の喜びそうな場所を歩き回っている行動から、真に情が移り、可愛がっているのではないかという結論に至っていた。

井川は高台の木の下で真のスケッチブックを発見した。

誘拐犯と真は食事の後、にわか雨が降ったため、スケッチブックを落としたのに気づかないまま高台を立ち去っていた。

スケッチブックから検出された唯一の幼児の親指の指紋と、積木から検出された真の親指の指紋が完全に一致した。

藤堂が本庁と相談した結果、スケッチブックの件はしばらく公表しないことが決定した。

井川は坪内夫妻に、真が描いた4枚の絵を見てもらった。

4枚の絵のうち、1枚は以前に真が富士山を見て描いた絵と似ていた。

富士山の絵より後の絵は、河口湖で描いた絵であるということとなり、手掛かりになるのは1枚だけだった。

手掛かりの1枚の絵には、赤色、白色、水色、黄緑の4本の線が引かれていた。

藤堂は富士山の絵の色が本物の土色に近いことから、真が色に対して感受性が強いと推量し、4色の何かが真の目の前にあると思っていた。

井川も藤堂の意見に同意し、ビルのデザインではないかと考えた。

井川は街中を歩き回り、絵の正体を突き止めようとしたが、何も得られないまま一係室に帰還した。

山村は井川に、幼児が自分の興味のある物しか描かない、興味のないものが目に入らないことを助言した。

井川は恵子と会い、真が動物好きであることを聞いた。

恵子は井川に、真の落書きした絵本を手渡した。

落書きは黄緑色の線だった。

井川は真の玩具箱に入っていた電車の模型から、4本の線の正体が電車の車両の色であると確信した。

4本の線のうち、黄緑色は山手線、水色は京浜東北線、赤色は京浜急行か丸ノ内線、白色はオールステンレス車両ではないかと推定された。

井川は2歳の幼児が絵を描くのに時間がかかるため、4色の電車が停まっている車庫を見下ろせる場所に真がいると断定した。

捜査員は4色の車庫を見下ろせる場所を探し回った。

品川の車庫には赤と緑の電車が、京浜急行には赤と黄緑色の電車が、京成には黄緑色の電車が無かった。

品川、池袋、浦和、東十条、蒲田と、山手線と京浜東北線の車庫は全て、4色の電車が揃わなかった。

井川は無駄を覚悟で、横浜線の車庫がある東神奈川に向かうことにした。

横浜線は山手線と同じ鶯色だった。

井川は東神奈川の車庫に、絵と同じように4色の電車が停まっていることを確認した。

東神奈川の車庫は私有鉄道と国有鉄道の車庫が隣り合っていた。

井川と竹本は車庫をはっきり見下ろすことができる場所を突き止め、誘拐犯の自宅が近辺にあると断定し、一帯を虱潰しに調査した。

井川は誘拐犯の細山正雄(高岡一郎さん)が真を連れて自宅に帰るのを目撃した。

井川と竹本は細山宅に突入した。

細山は包丁を構え、真を人質に取ろうとした。

細山は井川に、自分の子供のように可愛い真を傷つけることができないと説得され、観念して包丁を捨てた。

真は竹本に救出され、細山は井川に逮捕された。

細山宅の窓から、4色の電車が停まっている車庫がはっきり見下ろせた。

細山は身代金の2000万円を全額預金し、真の養育費に充てる気でいた。

細山は失業して夫人に逃げられ、自暴自棄の犯行であったが、身代金を入手したところで真を愛おしく思うようになっていた。

 

 

メモ

*トシさんの妥協のない捜査が描かれた回。

*軽々しくマミーに茶汲みを要求するドック、ボギー、ラガー。

*誘拐犯が子供好きで、誘拐した子供に情が移るという珍しいケース。

*富士急ハイランド、河口湖、ロープウェーとちょっとした山梨ロケーション回となった。

*真の描いた絵はまるで抽象画。ドック曰く「シュールレアリズム」。

*幼児の描いた絵を調査するトシさんに、山さんが同じく子供(養子)を育てている立場からアドバイス。

*浩史は自動車の絵、由利は花や人形の絵、隆は動物の絵を多く描いていたという。

*真が落書きした絵本の題名にぼかしがかかっている。理由は一切不明。

*「一枚の絵」の内容は、4色の電車が停まっている東神奈川の車庫だった。古内氏は後に、「四色の電車」や「エスパー少女・愛」で脚本にマニアックな電車ネタを取り入れている。

*ラスト、事件解決の功労者のトシさんに頭を下げる、ボスと山さん。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

春日部一:世良公則

竹本淳二:渡辺徹

岩城令子:長谷直美

 

 

坪内恵子:水沢有美、坪内光弘:広瀬昌助(後の廣瀬昌亮)、細山正雄:高岡一郎(現:谷本一)

山河連滉、早田文治、金山:桑原一人

風中臣、少年の父親:篠田薫、千葉茂

志賀沢子、山田鑑識課員:三上剛(後の三上剛仙)、釣り人:加藤茂雄、大谷創帥

 

 

西條昭:神田正輝

井川利三:地井武男

山村精一:露口茂

協力:富士急行

 

 

脚本:古内一成、小川英

監督:高瀬昌弘