第698話「淋しさの向こう側」(通算第392回目)

放映日:1986/6/6

 

 

ストーリー

島津は非番の日、喫茶店「エルザ館」にて、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

「エルザ館」の向かいにあるローンズマルイチでは、黒いライダースーツにヘルメットを着けた強盗犯が女性社員に拳銃を突きつけ、鞄に大金を詰めさせていた。

強盗犯は密かに警報ベルを鳴らそうとした社員の金井に気付き、拳銃を2発発砲した。

1発目は花瓶に命中し、2発目は金井の胸に命中した。

強盗犯は、社員が通行人に警察と救急車を呼ぶように叫んでいる隙に、オートバイに乗って走り去った。

「エルザ館」の客が社員の叫び声を聞き、店内が騒然となっていた。

島津は異常事態に気付き、精算しようとした際、香川万里子(25歳)(香坂みゆきさん)という女性が冷静にコンパクトを見ながら髪を整えているのを発見した。

ローンズマルイチに捜査員が駆けつけたが、島津が既に捜査活動を開始していた。

被害金額は2986万円であり、金井が救急車で城北病院に搬送されたが、胸を撃たれて重傷だった。

逃走中の強盗犯を目撃した中華蕎麦屋の出前持ちは、強盗犯が中肉中背だったこと、顔がヘルメットで見えなかったことを証言した。

島津は「エルザ館」を訪れ、従業員に香川について質問した。

香川は10分前に店を立ち去っており、2,3度来店していた。

島津は従業員から鏡を借り、香川の座っていた席からコンパクトを使用すると、強盗犯の逃走した出入口を見ることができることを察知した。

強盗犯の沖田信二(時本和也さん)は駐車場でオートバイを乗り捨て、ナップザックを背負ったまま立ち去った。

島津は香川が犯行自体を知っており、共犯の容疑があるという意見を出した。

被害者の金井が死亡した。

沖田の撃った銃弾には条痕が無く、密造拳銃であり、弾丸の一部に傷が残るという宮本の密造拳銃と一致した。

宮本は武蔵野刑務所に服役した。

井川は宮本(江幡高志さん)と面会したが、宮本は2丁だけ拳銃を密造したと頑強に主張した。

宮本は井川から、密造拳銃で死者が出てしまったことを告げられ、名前も知らない男に拳銃を渡したと自供した。

宮本は沖田に拳銃を販売したことを認め、銃弾6発詰めて手渡したのに、それ以上欲しがったために辟易していたことを話した。

宮本はそれ以上の銃弾を所有しておらず、それ以降沖田と会っていなかった。

西條と水木は、沖田の上司のコンクリート工場の工場長(加地健太郎さん)と会った。

沖田は半月前から職場のコンクリート工場を無断欠勤しており、仕事上でも色々と問題のあった男だった。

沖田は傷害の前科1犯で、暴力団と関係ないが、昔から激昂すると見境のつかなくなる男だった。

澤村は沖田の勤務先やマンションの隣人の話から香川が現れないため、事件と無関係ではないかと考えていた。

島津は偶然、渋谷区神陽町の歩道橋で香川を発見し、職務質問した。

香川は3日前に「エルザ館」にいたことを認めたが、島津のことを記憶していなかった。

島津は「エルザ館」に香川を連れて行き、事件のことを聞き出そうとしていた。

島津は香川に容疑者の沖田の写真を見せたが、香川は沖田について知らないと述べた。

香川は短大を卒業後、ブティック「SOU」にハウスマヌカンとして勤務していた。

香川の店内の評判も良く、強盗の共犯とは思えなかった。

島津は香川の表情が強盗事件のことを認めていたため、香川が強盗事件と関係していると推測した。

香川は神宮前三丁目のバス停で副都心新宿駅西口行きのバスに乗り、自宅のパールマンションに帰宅した。

島津と澤村は香川を張り込んでいた。

井川と令子は沖田のオートバイが乗り捨てられた駐車場に急行した。

井川はオートバイが盗難車だが、通行人が沖田の顔を目撃していたことを報告した。

藤堂は井川の報告から沖田を犯人と断定し、沖田の逮捕状を申請した。

沖田は広場にて、警察官2名に追跡され、発砲しながら逃走していた。

沖田は警察官1名の胸を撃ち抜き、逃走した。

胸に被弾した警察官は即死した。

沖田は強盗事件と警察官への発砲事件で4発発射しており、残りは2発だった。

通報者は広場のベンチに座っていた沖田を目撃して通報しており、電話の際、通りすがりの主婦とだけ名乗っていた。

島津は沖田宅に直行し、捜索していた井川と令子と合流したが、室内からは強盗に関係する手掛かりが発見されていなかった。

未だに沖田と香川の関係が立証出来ていなかった。

井川と島津は沖田が現金3000万円を強奪しているため、香川と恋仲であれば、必ず香川と接触すると推測した。

島津は沖田宅に置かれていた雑誌の中に、「SOU」のパンフレットの切り抜きが挟んであるのを発見した。

パンフレットには香川が大きく取り上げられていた。

島津と澤村は香川宅に突入し、室内を捜索し、香川を詰問した。

島津は香川に、沖田が香川の写真を切り抜いていたことを伝えたが、香川は頑強に知らないと主張した。

島津と澤村は香川宅にかかってきた電話の音を聞いた。

島津は香川の様子の不審さから、ブティックに行かないと予測し、尾行した。

井川と水木、澤村が別方面から香川を張り込んでいた。

澤村は東日生命保険相互会社から現れる沖田を発見した。

香川は横断歩道を渡ろうとした際、横断歩道を急いで渡ろうとした人と衝突し、転倒した。

沖田はその際、香川と捜査員を発見し、逃走した。

井川と水木と澤村は沖田を発見し、島津は香川の尾行を続行した。

井川達は沖田を見失ってしまった。

藤堂は一帯に検問を敷設していたが、電車に乗られたらどうしようもなかった。

島津は沖田が香川に歩み寄ろうとして急に止め、捜査員に注目したことから、香川が捜査員側から見えない体の陰で合図をしたのではないかと憶測していた。

香川にはエリートの銀行員の婚約者がいたが、結婚寸前で嫌になり、放棄していた。

香川が結婚を放棄した理由は、結婚したら銀行員の夫人と言われる、銀行員の付属品になるのが酷くつまらなく思えたからだった。

香川は婚約者と別れた後、寂しくなり、ディスコで沖田と初めて会い、好意を抱いたことを自白した。

沖田は香川の制止を無視し、一緒に高飛びしないかと求めていた。

香川は沖田にこれ以上罪を犯させないため、今後全面的に警察に協力すると約束していた。

藤堂は西條と令子と澤村に、沖田の発見に全力を尽くすように命じた。

沖田はドヤ街のベッドハウスに潜伏中、宿泊客(中瀬博文さん他)に大金の入った鞄を強奪されそうになり、宿泊客に銃口を向けた。

沖田は宿泊客に、撃ったらただでは済まないと言われ、鞄を捨てて逃走したが、鞄の中身は大金ではなかった。

島津は香川の乗る、副都心渋谷駅行のバスに同乗し、ガードしていた。

島津は香川に、沖田の所持していた鞄に大金が入っていなかったことから、追い詰められた沖田が必ず香川に接触することを話した。

島津と香川はバスを降りた。

香川は尾行が嫌いであると主張し、島津の張り込みにならないという要求を無視し、島津に寄り添ってきた。

沖田は島津に寄り添う香川を見て動揺した。

島津と香川は沖田が近辺にいるのではないかと直感した。

島津は香川に、沖田からの連絡を取るため、早急に「SOU」に出向くように要請した。

香川は沖田から連絡が来るのは、いつも待ち合わせに使う喫茶店だけであることを話し、自首するように説得するため、沖田と二人だけで会話させてくれるように懇願した。

香川は島津が自分の要求を断ったため、怒って島津から離れてしまった。

島津と水木は喫茶店にて香川を張り込んでいた。

喫茶店にいる香川宛に、沖田から電話が入ってきた。

沖田は香川に、翌日の午前10時、船の科学館前に行くように要求してきた。

香川は沖田の逮捕の瞬間を見たくないため、船の科学館前には行かないと話し、もう自分には構わないように頼んだ。

島津は喫茶店の公衆電話のメモに、「午前9時 東京港13号埠頭」と書かれた痕跡があるのを発見し、こちらが本物の指定場所であると考えた。

島津は電話のメモであるにも関わらず、明瞭に丁寧に書かれていること、備え付けの鉛筆があるにも関わらず、鞄から取り出したボールペンで書いていることを疑問に思った。

島津は香川が、沖田と警察をより危険な状態で衝突させようとしているのではないかと推理していた。

藤堂は両面作戦をとり、西條と水木を船の科学館に直行させ、令子と島津と澤村に香川のマーク、井川に香川の身辺の再調査を命令した。

島津は香川を尾行していたが、香川に気付かれたため、令子と交代した。

香川はタクシーに乗っている最中、令子の尾行に感付いた。

パールマンションの住人は、沖田が香川の肩を抱きながら、仲良さそうに香川の部屋に入って行ったことを記憶していた。

井川は住人から、沖田が大きな紙袋を持っていたことを聞き出した。

香川の目的地は13号埠頭だった。

澤村は香川に対し、嘘が多いが、チャーミングな美人で、男への愛情と怖さと狭間で思い乱れているのではないかという感想を抱いていた。

島津は香川が少しも思い乱れておらず、乱れたのは最初の鏡のときだけであり、それから後はまるで筋書きを全て知っているかのように乱れないという意見を出した。

澤村は事件の首謀者が香川ではないかと疑った。

島津は警察官が殺害された事件の密告電話の通報者が、通りすがりの主婦と名乗ったことを不審に思い、通報者が香川ではないかと直感した。

島津は藤堂から、強盗事件の翌日、沖田が香川宅に強奪した3000万円を持ち込んだ容疑があるという連絡を受けた。

香川は東京港13号埠頭にて待機していたが、沖田が香川に接近してきた。

沖田は香川を連れて逃走したが、令子と澤村と島津に銃口を向けられ、包囲された。

沖田は香川に拳銃を突きつけ、人質にした。

島津は香川が沖田に人質にされているにも関わらず、全く怖がらないことを疑った。

香川は突然、やめてと叫び、沖田のもとから離れた。

島津は沖田に詰め寄り、沖田を叩き伏せ、強盗殺人容疑で逮捕した。

島津は沖田に人質にされても、全く冷静だったため、沖田の拳銃に弾が入っていないことを見抜いていた。

沖田は拳銃を撃つのが初めてだったため、練習で使用したと話した。

島津は筋書きを作ったのが香川であると看破していた。

香川は沖田が強奪した3000万円を預かったが、沖田を危険な男であると考え、沖田が警察官と銃撃戦の末に死亡するように仕向けた。

香川は島津に鏡で犯行を確認しているのを見られ、島津の聞き込みを目撃し、島津が刑事であると知った。

香川は島津を利用するために接近し、次々に沖田と警察官の銃撃現場を用意していた。

香川は最後の手段として、自身を囮として沖田射殺を演出しようとしていた。

香川はあくまで、沖田を説得しようとして、警察を騙したつもりだったと主張し、鈍いために表情に出なかったと弁解した。

島津は香川の鞄を調査したが、何も出なかった。

香川は沖田から3000万円を預かったことを認めたが、花火橋の下に捨てたことを伝えた。

花火橋の下から3000万円の入った紙袋が発見され、島津の推理が土台から崩壊した。

香川は贓物隠匿罪に少し引っかかる程度で、微罪で釈放となると予測された。

島津は高架橋脇の、木製の柵から、2発の銃弾を繰り抜き、沖田が試射していたことを確認していた。

島津は香川を取り調べた。

島津は香川の沖田殺害計画の動機を金と思い込んでいたという間違いを犯していた。

香川の動機は、気まぐれに選んだ火遊びの相手がとんでもない男だったことから、ただその男にいなくなって貰いたかっただけだった。

香川は自分を傷つけず、手を汚さない方法で実行しようとしており、失敗して沖田が逮捕されたとしても、重罪にならない一種の「ゲーム」を楽しんでいた。

島津は、香川の靴箱に放り込んでいた香川のハイヒールから、沖田が試射した高架橋下近くの泥と花粉が付着していることを突きつけた。

香川は沖田が試射をした晩、沖田を尾行し、試射で2発使用したのを目撃していた。

香川は沖田がローンズマルイチ強盗事件と警察官射殺事件で6発使用し、もう拳銃に弾が装填されていないことを知っていたからこそ、安心して刑事に沖田を射殺させる筋書きを書けていた。

島津は香川に、立派な殺人未遂罪と立証されることを伝えた。

香川にとって殺人は、ゲームで駒が減ることと同じだった。

 

 

メモ

*非番の日、喫茶店で優雅に新聞を読んでいるデューク。

*ハウスマヌカン(死語)とは、洋服店の女店員のこと。「犯人の顔」にもこの用語が登場している。

*「捜査に手を出すな!」に引き続き、自分(もしくは他人)を利用しようとする女性の演技を見抜くデューク。

*女性のゲーム感覚の犯罪ということで、「すれ違った女」を彷彿とさせる回。

*ラスト、今までには見せなかったコミカルなジェスチャーをするデューク。今回の捜査をゲーム感覚でしていた節あり?

*今回は「そして拳銃に弾をこめた」以来、13年半ぶりとなる手銭氏の監督作品。また、脚本の今野氏の「太陽」唯一の執筆作品。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

島津公一:金田賢一

澤村誠:又野誠治

水木悠:石原良純

岩城令子:長谷直美

 

 

香川万里子:香坂みゆき

沖田信二:時本和也、宮本:江幡高志

沖田の上司:加地健太郎、西田純平、川中亜紗里、伊尾明子、石川裕見子

宇佐美彩、深作覚、ベッドハウスの宿泊客:中瀬博文、大貫幸夫、村上久勝

 

 

西條昭:神田正輝

井川利三:地井武男

 

 

脚本:小川英、今野いず美

監督:手銭弘喜