第652話「相続ゲーム」(通算第346回目)

放映日:1985/6/14

 

 

ストーリー

ガラス工場長の北原哲男(50歳)(村上幹夫さん)は早朝の河原にて釣りを行っていたが、背後から忍び寄ってきた何者かによりスパナで撲殺された。

午前6時35分頃、西條と澤村はパトロール中に北原の遺体を発見し、駆け寄ったが、逃走する車の爆音を聞いた。

午前6時55分頃、ガラス工場の事務員の北原志保(中村明美さん)も何者かにスパナで襲撃された。

ガラス工場の工員が志保の悲鳴を聞いて駆けつけ、やはり逃走する車の爆音を聞いた。

北原は志保の父親で、北原親子の殺害を目的とした犯行と思われた。

志保は軽傷で済んでいたが、背後から頭を殴られたまま気絶したため、何も覚えていなかった。

河原の現場から、父親思いの志保が北原のために作った弁当が発見された。

志保は脳に異常がなく、外傷も無いため退院することになった。

志保は北原の死に号泣した。

志保は北原の養女ではあったが、実の父親以上の存在だった。

北原は頑固な性格で、仕事が気に入らない人や志保に付き纏う人を辞職させていた。

志保は北原の3人の兄弟たちが、北原を最も恨んでいたものと思っていた。

北原は前の母親の子供で、後の3人の兄弟は後妻の子供だったが、北原に金を借りようとして断られ、喧嘩していた。

北原は工場、敷地、生命保険を加算し、3億円程度の資産を有していた。

北原の葬式が執り行われた。

葬式の参列者は志保の他、北原の妹の荻尾知子(47歳)(根岸明美さん)、知子の妹の山岸恵子(川口敦子さん)、北原の弟の北原信夫(高岡一郎さん)、知子の夫の荻尾秋生(塚本信夫さん)、恵子の夫の山岸孝史(小笠原弘さん)、山岸の息子の山岸史彦(井上肇さん)だった。

志保は葬式の終了後、北原の遺影の前に佇んでいた。

志保は西條に、自分の婚約者になるように懇願した。

志保の目的は犯人の目的が北原の財産にあると仮定し、自分が結婚すると分かれば、結婚前に自分を狙ってくるため、犯人を西條に逮捕させることだった。

西條は志保に養女になったきっかけを質問した。

志保は3年前(1982年頃)に酔ったとき、北原が小学生のクラスメイトとの初恋の話をしたが、その相手の女性が自分の母親だったからであると答えた。

志保は親戚とは全く音信不通で、突然婚約者が登場しても不自然ではなかった。

西條は4日後の初七日の席上にて発表しようとしていた。

藤堂は西條の捜査を許可し、井川達に北原の親戚を捜査させた。

知子は会社社長の荻尾と2人で暮らし、かなり裕福だが、兄弟の悪さが有名だった。

竹本と澤村は知子と会ったが、知子は北原を一番恨んでいるのが山岸家ではないかと話した。

知子は事件発生時刻に寝ており、荻尾は仕事で会社に宿泊していた。

車を運転できるのは荻尾だけであり、車を会社に置いており、爆音を発しなかった。

恵子は浪人生の史彦とサラリーマンの山岸と3人で暮らしていた。

恵子は今年の春、史彦が歯科大学に補欠合格したことで、北原に寄付金を借りようとしたが断られた。

史彦は落第し、3浪中の身だった。

令子と水木は山岸家を訪れたが、室内には史彦のみがおり、恵子は事件の1日前である先週の金曜日から修理に出していた車を回収しに行っていた。

山岸の車は赤い小型車で、山岸夫婦は車を運転することができた。

史彦は両親が自宅で寝ていたこと、朝の午前6時30分まで、2階で勉強していたことを証言した。

恵子が帰宅し、山岸が金を貸してくれなかったから史彦が落第したと怒っていた。

恵子は犯人が信夫ではないかと思っていた。

井川は信夫と対面したが、信夫はいつも昼まで寝ていると述べた。

信夫は免許証を所持していたが、車を所持しておらず、犯人が知子と恵子ではないかと思っていた。

長女の知子はアリバイが不明確だが、裕福で動機が一番弱く、車の免許を所持していなかった。

荻尾は会社に泊まり、自家用車を会社の駐車場に置いていた。

山岸夫婦は史彦の証言でアリバイが成立、車が使用できなかったことも確認された。

信夫はサラリーマン金融の借金地獄で、動機が十分であり、アリバイが不明で、免許を所持しているため車を入手できれば犯行が可能だった。

データの結果、知子の犯人の可能性は5%、恵子の犯人の可能性は15%、信夫の犯人の可能性は40%だった。

遺産相続者の志保の周辺には容疑者が皆無で、工場関係者で北原親子に共通の恨みを持つ人物にはアリバイがあった。

容疑は3人兄弟に絞られた。

山村は3億円の遺産を握っており、軽傷で済んだ志保の犯行が偽装である可能性もあると仮定した。

西條と志保は宴会の席に参加した。

西條の設定は、ブラジルで両親と一緒にコーヒー園を経営し、志保が北原に婚約者として紹介するために帰国したというものだった。

西條と志保の出会いは、1年前(1984年頃)に志保が北海道を旅行した際、北海道の大学院で農業経営を勉強していた西條と、観光で行った牧場で偶然会ったという設定だった。

西條は北原の納骨終了後、志保をブラジルに連れて行き、挙式すると語った。

志保は工場の経営権を工場長に任せようとしたが、荻尾夫妻と山岸夫妻が口論となった。

西條は経営権を志保に握らせ、ブラジルから度々帰国させるという形にしていた。

史彦は受験勉強のため、宴会から帰宅した。

水木は史彦の張り込みを担当した。

令子は志保に頼まれた近所の住人と称し、宴会に潜り込んだ。

西條は北原の死で最も得をするのが志保であると推定し、令子に志保の調査を依頼した。

午前3時10分、水木は史彦が山岸家の窓から見えなくなったことから、2階に上がり込んで窓を開けたが、史彦は熟睡していた。

史彦は4月に3浪が決まって以来、夜に勉強せず、熟睡していた。

西條は山村から、史彦の熟睡で恵子のアリバイが不明確となった以外は変化なしという連絡を受けていた。

西條は志保が冷蔵庫から取り出した乳酸菌飲料に青酸カリが混入されていることに気付き、鑑識を手配した。

乳酸菌飲料から青酸系毒物の反応が検出された。

昨日、信夫が頻繁に酒を取りに行くために冷蔵庫を勝手に開けていたため、蓋を開けて毒物を混入させたという容疑が濃厚だった。

澤村は信夫に2日間スポーツカーを貸していた男を探し当てたが、走行距離は不明だった。

そのスポーツカーの排気音は犯行現場から聞こえた爆音と一致した。

澤村と水木は信夫を連行した。

西條と志保はユーロピアンレストランで会食し、容疑者の逮捕で安堵していた。

信夫は犯行時刻にはスポーツカーに女性2人を乗せ、箱根に1泊のドライブ旅行に出ているため、殺人については犯人でないと判明した。

西條は井川から、志保の母親の話が嘘であることを告げられた。

志保の母親は北原と郷里も同じ、初恋の人と名前が一致したが、全くの別人であるため、志保は財産が目的で養女になった可能性が浮上した。

北原の納骨まであと3日あり、志保と親戚は寺が伊豆であるため、伊豆山水葉亭に1泊旅行に出かけることになっていた。

西條は納骨終了後に志保と一緒にブラジルに飛び立つため、伊豆の1泊旅行に参加し、犯人を誘い出そうとしていた。

西條と志保と親戚は伊豆を訪れていた。

荻尾は日曜日にも勤務し、後から旅行に加わることになっていた。

信夫は犯人が一族を狙うために追跡しているのではないかと心配していた。

西條と志保と親戚は納骨を済ませ、水葉亭に到着した。

西條と志保は2人で宿泊することになった。

志保は知子と恵子から食事前に大浴場に行かないかと誘われたが、部屋の風呂に入浴するために断った。

澤村は男湯に入浴する山岸と信夫を張り込み、水木は女子浴場の入口を監視することとなった。

ホテルの個室の浴室は窓から海が見えた。

西條は庭を見張り、志保に入浴を勧めた。

西條は見張り中に浴室の窓が閉まっていることに感付き、窓を開けたが、室内にシアン化カリウムが投げ込まれた。

シアン化カリウムは青酸カリで、水に溶かすと有毒ガスを発する性質があり、西條の発見が1分遅れていれば、志保が吸引して死亡している危険性があった。

竹本の監視している位置からは庭が見えなかったが、志保が室内から投げ込み、西條を暗殺しようとしているというのではないかという疑惑が生じた。

澤村は水木が女湯を張り込んでいたため、4人とも完全にアリバイがあると意見した。

西條は竹本と澤村に女湯を調査させた。

西條と志保は親戚と共に会食した。

西條は明日のブラジル行きの飛行機の切符の確認と称して退出し、竹本と合流した。

女湯は西條と志保の宿泊する個室の浴室、駐車場と近距離にあった。

西條は会食に戻った。

電車で伊豆まで来た荻尾から送迎を要望する電話が入った。

山岸、知子、恵子、信夫は飲酒してしまっていたため、西條が車の運転を担当し、志保も同行することとなった。

西條は志保に、青酸ガスの件で容疑をかけたことを謝罪した。

西條は志保が運転する車に同乗したことから、志保への容疑を完全に晴らし、犯人を突き止めていた。

犯人は西條の運転する車のブレーキを細工し、ブレーキの無効化で走行後に崖から転落、炎上させ、西條と志保を殺害する計画を立てていた。

西條は中座した際、車のブレーキの細工を見つけ、ブレーキを戻していた。

夜になり、知子が追加の注文をしようとした寸前、西條が熱燗を持って会食に戻ってきた。

知子と恵子と信夫は西條が生存していることに驚愕したが、誤魔化した。

西條は荻尾と志保がいないことについて、車のブレーキが無効化し、駅まで行けなかったと話した。

水木は志保と一緒に西條を部屋の外から監視していた。

山岸は熟睡してしまった。

西條は警察手帳を示し、知子と恵子と信夫に、事件の真相の推理を語った。

*恵子は山岸と史彦の熟睡を見計らい、山岸宅を抜け出した。

*信夫は事件当日、爆音を発するスポーツカーに乗っていた。

*証拠は青酸ガスとブレーキの細工で、信夫が男湯でアリバイを作っている間に、知子と恵子は女湯を抜け出した。

*知子は志保の部屋の浴室に青酸カリを放り投げ、恵子は青酸ガスの失敗の用意に、車のブレーキパイプに細工した。

*知子と恵子は、信夫が爆音を発するスポーツカーでアリバイ工作をしている間に、荻尾の会社の駐車場に置きっぱなしになっていた車「品川58 ひ 94-95」に用意した合鍵で乗っていた。

*恵子は河原にてマフラーを、爆音の発するタイプのものと交換した。

*知子は女性でも容易に殺人が可能なスパナで北原を殺害し、志保を襲撃した。

西條は青酸ガスとブレーキパイプの細工の謎を解いた際に、殺人のトリックの謎を解いていた。

荻尾が部屋に現れ、知子と恵子が車に乗ってどこかに出かけていくのを目撃していたことを告白した。

知子と恵子と信夫は観念し、西條と竹本と澤村に殺人及び殺人未遂容疑で逮捕された。

荻尾は号泣し、西條から協力を感謝された。

水木は西條の手柄を鮮やかと評した。

志保は遺産の3億円の入手が可能になったが、西條が、自分が北原についた嘘を見抜いたことに気付いていた。

西條は早くに両親と死別し、寂しかった志保が、北原の初恋の相手が偶然、郷里と名前が母親と同じだったため、小さな夢を見ただけと励ました。

志保は北原を誰よりも愛しており、北原は志保を実の娘以上に愛していたからこそ養女にしていた。

志保は北原と西條の思い出を大事にして、元の事務員に戻って働くことを決意した。

志保は西條に、別な夢を見せてくれたことを感謝した。

 

 

メモ

*2時間サスペンス、金田一耕助や明智小五郎のような作風の話。

*容疑者の親族のゲストがなかなか豪華。

*女湯を張り込む羽目になり、完全に挙動不審なマイコン。こういうときにマミーがいれば…

*ホテルの食事の刺身盛り合わせが非常に美味しそう。

*知子、恵子、信夫ともに条件が不足しているために容疑者から外されるが、出来る事を分担(共謀)すれば可能な巧妙な手口。ドック曰く「三人寄れば文殊の知恵」。

*終盤、神田氏が歌う「思い出のキーラルゴ」が流れる。キャストテロップが出れば、完全に2時間サスペンスのエンディングの雰囲気。

*OPのハイライトシーンには、マイコンが女子浴場の看板を男子浴場のものに裏返すカットがあるが、本編ではカットされている。

*ブルースが初めて喫煙。

*今回は「赤い財布」でデビューした亜槍氏の「太陽」最終作。今回も亜槍氏らしい、銃撃戦のない比較的落ち着いた作風の話だった。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

竹本淳二:渡辺徹

澤村誠:又野誠治

水木悠:石原良純

岩城令子:長谷直美

 

 

北原志保:中村明美

荻尾知子:根岸明美

山岸恵子:川口敦子

荻尾秋生:塚本信夫、北原信夫:高岡一郎(現:谷本一)、山岸孝史:小笠原弘、山岸史彦:井上肇、山田鑑識課員:三上剛仙

伊藤正博、鳥井千恵、熊本敏雄、鈴木正人、北原哲男:村上幹夫

 

 

西條昭:神田正輝

井川利三:地井武男

山村精一:露口茂


 

挿入歌:「思い出のキーラルゴ」 ファンハウス

協力:熱海温泉伊豆山ホテル水葉亭

 

 

脚本:小川英、亜槍文代

監督:高瀬昌弘