第650話「山村刑事左遷命令」(通算第344回目)

放映日:1985/5/24

 

 

ストーリー

5月4日の深夜、浮浪者の宮下一雄(50歳)(戸塚孝さん)と仲間の脇田(立川光貴さん)は泥酔しながら南町の車道を歩いていた。

脇田はトイレに行くために宮下と一時的に離れたが、宮下が車に轢き逃げされるのを目撃した。

現場に七曲署捜査一係が駆けつけた。

宮下は即死だったが、死亡推定時刻が真夜中だったため、目撃者の割り出しが困難だった。

西條と竹本は宮下の身元調査のため、付近の聞き込みをしていた。

宮下の住所は不定だが、秋田に家族がいることが判明した。

浮浪者はろくに名前が判明しないケースが多いが、宮下はかつて無銭飲食で城西署に逮捕されていた。

宮下を轢き逃げした車がホームズ三世により、1983年製造の茶色のキャデラック・セビルという高級車であることが判明した。

水木はホームズ三世に、1983年型茶色のキャデラック・セビル所有者のリストを出力したが、リストの中に代議士の横井隆三がいた。

横井は先日の選挙戦で、急死した父親の代わりに出馬し、トップ当選した人物だった。

牛島弁護士(織本順吉さん)が、横井のお抱え運転手である奥寺(下塚誠さん)を連れ、一係室に入った。

奥寺は轢き逃げ犯として自首してきた。

藤堂は西條と澤村に、事務所に置いてある車の調査を指示した。

山村と水木は奥寺を取り調べた。

奥寺は横井が車に乗っていたが、熟睡していたため何も知らないと供述したが、最後に寄ったバーのホステスの小田佳美(竹井みどりさん)のことを言い渋った。

令子は小田と対面した。

小田は運転手が奥寺であること、泥酔していたため轢き逃げ事件を知らないこと、横井が熟睡していたことを証言した。

井川と竹本は議員会館に赴き、横井(船戸順さん)と会った。

横井は身内の責任が自分自身の責任であることを実感し、遺族に出来る限りの謝罪をすることを約束した。

水木は現場のスリップ痕から、車が時速70kmで激走し、急ブレーキをかけたと測定し、乗員にかなりの衝撃がかかると指摘した。

奥寺はブレーキを踏んだことを認めたが、野良犬でも轢いたのではないかと思ったと発言した。

山村は奥寺の供述の嘘を見抜いていた。

横井が昨日に車を運転して人を轢き、怖くなって逃走し、露見を恐れ、今朝になって奥寺を身代りに立てたと推測されたが、立証はかなり困難だった。

山村は奥寺が決定的な証拠が出ない限り自白しないと考え、昨夜に横井が運転していたという証拠の発見を先決とした。

西條はバーのママや、横井を送迎したホステスにあたったが、全員運転手が奥寺だったことを、口を揃えて証言していた。

令子は小田が戸川組幹部の恋人であることを掴んでいた。

数年前、横井の死亡した父親が国会で戸川組との関係を追及されたことがあった。

井川は宮下が脇田と一緒に酒を飲んだという情報を入手していたが、脇田は昼から行方不明となっていた。

奥寺は自分が轢き逃げ犯であることを強調した。

山村は船着き場に停泊中の船にて、脇田を探し当て、食事を振る舞った。

脇田は宮下と一緒に飲酒したことを認めたが、轢き逃げ事件に関しては黙秘し、山村と別れた。

山村は脇田にタバコを差し入れた。

脇田は宮下について運が悪かったと思っており、新聞で轢き逃げ犯が奥寺であることを知っていた。

戸川組組員が脇田の周囲を固めていた。

検察庁が署長に抗議したことで、奥寺は送検されることになった。

山村はゴミを漁っている脇田に接触し、戸川組組員(山岡八高さん、星野晃さん、森岡隆見さん)に命を狙われていることを教えた。

山村は脇田と共に、自分を轢こうとするオートバイの襲撃を回避したが、単独で逃走しようとした脇田が組員に襲撃され、負傷してしまった。

脇田は一命を取り留めたが、完全に怯えきり、何も話そうとしなかった。

西條と竹本は奥寺を送検した。

澤村は藤堂に戸川組の捜査を上申したが許可されなかった。

山村は小田と会い、喫茶店にて、大金が入金していないかを調べるため、預金通帳を見せるように要求した。

小田は預金通帳を見せようとしなかったが、山村は金の出処によっては立派な犯罪の証拠となるため、令状を取ってもいいと話した。

山村は大声を出す小田に、戸川組の耳に入りやすくなると警告し、目撃者の脇田が殺害されそうになったことを告げ、熟考するように言い聞かせた。

山村は帰宅寸前に牛島に話しかけられ、自宅で対談した。

牛島は山村が小田と会っていたことを知っており、山村の言動が脅迫行為に相当すると指摘した。

牛島は轢き逃げ事件の捜査が終了しているにも関わらず、それでも捜査を続行する山村に、将来に響くと警告した。

山村は牛島に、警告は脅迫行為に相当しないかと質問したが、牛島はあくまで山村のためと答えた。

牛島は事件が下らない交通事故で、腕利きの山村が血相を変える事件ではないと主張し、吹き溜まりの人間である宮下のためにと言い放った。

山村は警察の仕事が罪を犯した人間を摘発すること、警察にとっては殺害された人間が浮浪者であろうと権力者であろうと関係なく、射殺されようが轢き逃げされようが殺人は殺人であること、浮浪者にも生きる権利があることを力説した。

山村は入院中の脇田と対面し、去り際にタバコを差し入れた。

山村は病院に駆けつけた竹本と合流し、竹本から組員についての情報を知らされた。

脇田が刺された翌日、背広をクリーニングに出した組員がいたが、背広に返り血らしき血痕が付着していた。

山村と竹本は6名の組員が会同する喫茶店「キャビン」に直行し、張り込み中の西條と澤村と合流した。

山村は組員のことを思い出し、「キャビン」に突入した。

西條は澤村を裏口に向かわせた。

山村は自分のことを知らないと恍ける組員を張り倒し、組員に背広を処分しなかったことが運の尽きであること、いくら洗濯しても化学検査で血液反応が出ることを言い放った。

山村は組員を殺人未遂容疑で逮捕しようとして、他の5人の組員と格闘になった。

西條と竹本も「キャビン」に突入し、山村に加勢した。

澤村は裏口から逃走した組員を取り押さえた。

組員は西條と澤村の取調べで脇田を刺したことを認めたが、脇田が衝突してきたために激情して刺したと述べた。

組員の自白から横井の線まで辿り着くのは不可能だった。

昨日、小田が大阪から海外旅行に出かけた。

井川から、奥寺の裁判がすぐに結審したという情報が入った。

判決は1週間後に下り、実刑か罰金で済むかは不明だが、奥寺が控訴しなければ事件が終わってしまうこととなった。

山村は七曲署の駐車場に駐車されている横井の車に目を付けた。

山村は辞表を用意し、「水炊き治作」で会食中の横井を、強引に現場検証に連れ出した。

5月4日の深夜、横井は車を運転し、南町の道を走行していた。

横井がバーを出た際には、奥寺が運転席に座り、横井と小田が後部座席に乗っていた。

横井は小田のマンションに行って一夜を過ごすため、途中で奥寺を降車し、代わって運転していた。

横井は事故後に事務所に逃げ帰り、牛島に電話し、帰宅していた奥寺を呼び出した。

横井は牛島と相談し、奥寺に因果を含めて身代り自首をさせようとしたが、事故の目撃者の浮浪者の殺害を、父親の代から懇意だった戸川組に依頼していた。

横井は山村の推測を下種の勘繰りと言い捨てたが、山村に下種以下の最低の人間と言い返され、車の座席に座るように強要された。

横井の身長は180cmだが、奥寺の身長は160cmの小柄な男だった。

横井は遂に、運転席のシートを奥寺の身長に合わせてずらせておくことを忘れていたことに感付いた。

横井は自白した。

藤堂と山村は大和田署長(草薙幸二郎さん)から、横井を即時に釈放するようにという命令を受けた。

大和田は違法捜査が通用しないと考えており、横井に対する違法な連行、自白の強要、令状無しの逮捕、どれ1つとっても大問題になることが分からなかったのかと激怒した。

藤堂は山村が非常手段をとらなければ真犯人を逮捕できなかったと釈明したが、牛島はあくまで真犯人が奥寺であると言い張り、5日後の判決で事件が終ると言い切った。

横井は牛島と一緒に七曲署を去った。

脇田は病院で新聞を購入し、山村の横井に対する行き過ぎ捜査、不法逮捕のことを知った。

脇田は戸川組組員に包囲され、看護婦に救助を求めた。

山村に西多摩署転勤の辞令が発令された。

横井が告訴に踏み切る前に山村を免職させるようにという声が上がっており、藤堂はそれを阻止させようとしたが、山村は藤堂に迷惑をかけたくなかった。

藤堂は山村に、転任前の3日間の自宅謹慎を命令した。

山村は引き下がらず、捜査を続行していた。

残る3日間で、横井の犯罪を立証するかが問題となったが、事件の判決の日と山村の転勤する日は同じだった。

深夜、脇田はシーツをロープとして使い、病室の窓から脱走を試みたが、山村に覆面車に乗せられた。

脇田は証言する気が無かったが、山村から故郷の秋田行きの新幹線の切符を渡された。

山村は脇田を戸川組が追跡してこない秋田に逃がし、夫人と男児に再会させ、脇田の再出発を望んでいた。

判決は午後2時に決定した。

山村は再び横井と対峙し、なぜ自分を告訴しないのかと質問した。

横井は牛島と相談中と答えたが、山村は横井が法廷で再度轢き逃げ事件を蒸し返すのを恐れるため、告訴する気などないことを看破していた。

横井は告訴を決意したが、そこに帰郷したものの戻ってきた脇田が現れた。

脇田は事件当夜、横井が宮下を轢いた車から慌てて出ていくところを目撃したことを証言した。

横井は山村に、なぜ目の敵にするのかと泣きついたが、山村は自分のしたことの責任を取るようにと説得した。

脇田は二度と会えないと思っていた家族と再会し、殺害されても思い残すことが無くなっていた。

脇田の子供は山村が贈ったグローブで、夢中になってキャッチボールをして遊び、喜んでいた。

脇田は田舎に土産物を贈ったことが初めてであり、山村に感謝した。

裁判所が判決を延期し、山村の転勤命令も取り消された。


 

メモ

*「ある日、女が燃えた」と「切札」をミックスさせたような作品。山さんの非情な捜査、弱者への優しさ、卑劣な権力者への怒りといった、山さん主演作の要素が入っている集大成的な作品で、後期の隠れた傑作。

*織本氏、立川氏、竹井氏、下塚氏とゲストが豪華。

*立川氏の珍しい善人役。今までの知能犯役とは違う見事な転身ぶり。

*「石塚刑事殉職」で壊滅したはずの戸川組が、何の言及もなく復活。「デュークという名の刑事」でも戸川組復活について触れられているが、そちらではドックが「ゴリさんが命をかけて叩き潰したのに」という台詞があるため、どうにも違和感がある。もしかすると、この「戸川組」は「外川組」(他変換)という全く別の組織の可能性もある。

*牛島は山さんに「しつこいまねをすると将来に響く」と警告するも、元から出世のことなど頭に無く、ただひたすら真実を追求する山さんにとっては「釈迦に説法」であった。

*もう一つ、牛島は山さんに「生きていたって役に立たない吹き溜まりの人間の宮下のために」と言い放つが、情報屋を仲間としており、一歩間違っていれば犯罪者となりかけていたらしい山さんにとっては完全に逆効果となったように思える。

*山さんの捜査方針、ボスと山さんのお互いの思いやりといった初期からの要素が描かれているのも高評価。

*横井を何とか自供に追い込んだ山さんには、降格処分と西多摩署左遷への辞令が発令された。しかし、横井が逮捕されたことにより、この辞令は取り消されている。

*西多摩署は七曲署のジプシーの転勤先であるが、ジプシーは健在なのだろうか?

*「夏の別れ」以来となる山村宅と隆(小椋基広氏)の登場。同作のラストで語られた、加代子の後釜の、「山さんより年上の」家政婦(町田博子氏)も登場している。

*山さんと隆のキャッチボールは初めてらしい。

*ラスト、ボスは山さんのデスクに「やっぱり山さん、あんたがいなくなっちゃな」と発言。これは「太陽」にはやはり山さんは必要不可欠であるということなのかもしれない。しかし、山さんは約1年後…

*今回はジーパン編から担当していた児玉監督の「太陽」最終作。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

竹本淳二:渡辺徹

澤村誠:又野誠治

水木悠:石原良純

岩城令子:長谷直美

 

 

横井隆三:船戸順

牛島弁護士:織本順吉

大和田署長:草薙幸二郎、脇田:立川光貴(現:立川三貴)、小田佳美:竹井みどり、奥寺運転手:下塚誠

山村家の家政婦:町田博子、戸川組組員:山岡八高、宮下一雄:戸塚孝、山村隆:小椋基広、松本悠希

ノンクレジット 戸川組組員:星野晃、戸川組組員:森岡隆見

 

 

西條昭:神田正輝

井川利三:地井武男

山村精一:露口茂

 

 

脚本:長野洋

監督:児玉進