第635話「いい加減な女」(通算第329回目)

放映日:1985/2/1

 

 

ストーリー

澤村は泉(渡瀬ゆきさん)に夜食の準備をするように電話した。

泉はスーパーマーケット「シヅオカヤ」で買い物をしていたが、大下ミカ(4歳)が買い物籠に物を入れてきた。

ミカの母親の大下春美(野見山夏子さん)が泉と接触した。

春美は泉の名前を聞いた後、自分の名前と住所と電話番号を教え、母親が事故で重傷を負い、危篤であるため、泉にミカを2日間預けるように頼んだ。

春美は泉の話を聞かず、強引に押し付けるように店を去った。

大下家は「シヅオカヤ」の近所にあるパールハウスに住んでいた。

澤村は泉が牛乳を買うため外出している間に帰宅し、ミカと初対面した。

澤村は泉から、ミカの事情を聞かされた。

ミカが澤村と泉に預けられてから、2日が経過し、澤村はミカのために紙包みを購入していた。

紙包みの中身はコアラの縫いぐるみだった。

ミカの父の大下勇二(32歳)(藤田宗久さん)はミカにコアラの縫いぐるみを買う約束をしていた。

泉のもとに春美から連絡が未だに来ていなかった。

澤村は母親のことだけ心配し、ミカを心配しない春美に憤りを感じていた。

パールマンションの管理人(市原清彦さん)は、春美の家族について何も知らなかった。

春美の両親はずっと前に死亡しており、春美は大下が一人前であることから、ミカを他人に預け、遊び歩いていた。

大下の母親は健在だった。

捜査員は春美から連絡が来ていないことに不審を抱いた。

大下は新宿の中流商社「邦友商事」に勤務していた。

山村は令子と澤村に春美の立ち回り先の捜索を指示し、自身も水木を連れて出動した。

大下の母親(木田愛子さん)は大下に、春美と別れない限り絶縁すると強調していたため、ミカを孫娘と認識していなかった。

山村と水木は東光共済ビルに赴き、警備員(牧田正嗣さん)から、6階の邦友商事を案内された。

邦友商事の社長(小林勝彦さん)は山村から春美が行方不明であることを告げられると、大下も行方不明になっていることを話した。

大下の集金のための出張は昨日までで、今朝は定刻通りに出勤する予定だったが、まる一日連絡がなかった。

出張は月曜日から3日間の予定で、名古屋、静岡を回り、昨夜の1月25日遅くに帰宅する予定だった。

大下は新商品のサンプルなど荷物が大量にあったため、会社の車で出発したが、名古屋からも、静岡からも社長のもとに連絡が入り、集金も予定通りに行っていた。

集金の金額は合計で2600万円だが、現金が200万円、手形と小切手が2400万円という配分だった。

令子と澤村は山村から指示を受け、パールハウスを調査した。

ミカは令子と澤村に、ミカの赤ん坊のときのアルバム写真を手渡した。

ミカはテレビで遊園地の映像を見て、遊園地に「母親の内緒の叔父」がいることを教えた。

令子と澤村はミカを引き連れ、遊園地を訪れていた。

神出鬼没のミカの「母親の内緒の叔父」は、遊園地の警備員の川井登(28歳)(佐藤仁哉さん)だった。

令子と澤村はミカの補助で川井を発見したが、川井は澤村の姿を見た直後に逃走した。

澤村は川井を見失ってしまったが、遊園地管理事務所で川井の身元を突き止めた。

川井は昭和31年(1956年)8月生まれで、東京都新宿区松木町に住んでおり、共和警備会社から派遣された警備員だった。

共和警備保障は邦友商事のある東光共済ビルの警備も担当しており、川井が東光共済ビルの夜勤を担当していた。

川井と大下が繋がった。

川井は東光共済ビルの警備員の欠員のため、1週間代行していた。

川井は遊園地を3日間休んでおり、昨日で東光共済ビルの勤務を終えていた。

令子と澤村は川井のアパートの第一ハイム久松に直行し、川井の部屋に入ろうとしたが、部屋には春美がいた。

川井は煙草を購入するために外出していた。

春美は泉のことを、ミカを持て余して警察に突き出したと中傷したが、澤村の妻が泉であることを知り、軽い態度で感謝した。

令子と澤村は春美を七曲署に連行させようとしたが、直後に川井がアパートに戻ってきた。

川井は澤村の姿を見て逃走し、澤村に取り押さえられたが、澤村をサラリーマン金融の取立屋と勘違いしていた。

川井は大下のことを知っていたが、大下の行方を知らなかった。

大下は川井と春美の関係を承知しており、川井に時々、春美のことを他人に告げないでくれと言って、小遣いを与えていた。

春美はミカを引き取り、帰っていった。

大磯の崖下で転落した車が発見され、現場に七曲署捜査一係が駆けつけた。

死亡した車の運転手は大下だった。

大下はかなり泥酔しており、山道を運転中、酒酔い運転で崖から落下していると推測され、ブレーキの痕跡が全くなかったため、自殺の可能性が十分にあった。

大下の所持品のボストンバッグは助手席の床に落ちており、集金した2400万円の小切手は無事だったが、200万円の現金が無くなっていた。

大下のボストンバッグの中の本から、炉端焼き店「磯忠」の栞が発見された。

井川と令子と澤村と水木は大下の車を調査していたが、シートの上から煙草の吸殻が発見された。

澤村は遺体確認のため、神奈川県西大磯署に春美を連れていき、面通しさせた。

春美は大下が酒を一滴も飲まず、慎重で実直で真面目な人物だったことから、大下の死が自分への当てつけであるという疑念を抱いていた。

春美は西大磯署を飛び出して海岸まで激走した。

春美は自分がいい加減でどうしようもない女であると自覚しており、冷酷で勝手な大下のことを忘れ、自分も勝手に生きていくと決意した。

大下は春美に黙って出勤し、帰宅後に春美に冷酷な仕打ちをしていた。

春美は大下に怒り、自分を笑わせ、楽しくしてくれる川井のところに入り浸っていた。

春美は結婚生活について、結婚して2年ほどは楽しいという感想を抱いていた。

しかし、大下の母親は結婚生活を気に入らず、遊んでばかりいて出世が危うくなった大下を堕落させた春美を憎んでいた。

事件は捨て子事件から無軌道女房の浮気事件、夫の遺体発見と変化し、混沌としていた。

春美と川井が共謀して大下を殺害したものと推測されたが、2人とも当日に東京におり、アリバイが成立していた。

大下の死亡推定時刻は5日前の水曜日、午後11時から午前1時の間で、死因は車の落下による全身打撲と頭蓋骨陥没だった。

5日前の水曜日は、澤村がミカの送迎が来なくて苛立っていた頃だった。

煙草の吸殻は大下のものではなかった。

事故死とした場合、ずっと酒を飲まなかった大下が急に酒を飲んだこと、運転席に残された煙草の吸殻、現金200万円という3つの疑問点が残った。

西條は200万円を横領したか紛失してしまい、酒を飲んで自暴自棄になり、暴走して事故死したと推理した。

澤村は捜査員に、大下が川井に小遣いを与えていたことを伝え、大下がその気持ちを知っていたら、春美が浮気しなかっただろうと思っていた。

澤村は春美が、怒鳴りつけて殴りつけてでも、大下とミカのそばに連れ戻してほしかったという感情を抱いていたと思っていた。

山村の捜査で、大下に1億円以上の、災害時倍額の保険金がかけられていることが判明した。

保険金の受取人は春美の分が8000万円、母親の分が4000万円であり、自殺の場合は受取金額が半分になった。

澤村は川井が、近々大量の収入が入ると発言していたことを覚えていた。

春美は事件に関与しておらず、サラリーマン金融の返済に困窮している川井が大下の保険金を入手するため、春美との関係を繋ぎ止め、大下を殺害したという可能性が浮上した。

水木は競艇場にて、大下の煙草の吸殻を入手した。

西條は新宿の「磯忠」に赴き、主人(中島元さん?)と店員に大下の写真を見せた。

店員は遅番の5日前の金曜日の午後8時頃、大下に酒を零されたこと、大下が若い男と一緒に午後10時頃まで酒を飲んでいたことを記憶していた。

山村と澤村は邦友商事の大下の机の引き出しから、大下の城西中央病院消化器科の診察券を入手した。

大下が病院に診察に行ったのは2年前の昭和58年(1983年)1月28日だった。

大下のロッカーに入っていた「バラエティショップ ペルダ」の紙袋から、ミカが大下に約束していたプレゼントの、コアラの縫いぐるみが発見された。

コアラの縫いぐるみは、5日後のミカの誕生日プレゼントだった。

紙袋の中のレシートに記載されている日付は、事件が発生した1月25日であり、大下が縫いぐるみを購入した場合、出張先から邦友商事を訪れたことになった。

山村は澤村に担当警備員を捜査させ、自身は「ペルダ」に向かった。

西條の捜査で大下の連れが川井であることが判明した。

山村は事件の計画者が大下であると推測し、西條に、病院に直行して大下のカルテを調査するように命令した。

「ペルダ」の店員は1月25日の昨夜の午後5時、大下が縫いぐるみを購入したと証言した。

1月25日の東光共済ビルの警備員は川井のみだった。

大下は2年前に自分が手遅れの癌であることを知っていた。

大下は2年間ただ死に場所を求め、最終的に春美とミカと母親のために殺害されたと推理された。

澤村は人間の気持ちが通い合わないことに恐怖を感じていたが、山村に諭された。

車内の吸殻と川井の吸殻が一致し、川井は山村と澤村に取り調べられた。

川井は1月25日、邦友商事の夜勤を担当していたが、大下が出社したこと、大下から電話がかかってきたことについて否認した。

七曲署捜査一係の事件の推理は

*大下は早めに仕事が終わり、夜に東京に帰り、午後7時頃に邦友商事に電話を入れていた。

*午後7時頃には邦友商事の社員が退社し、ビルに残っているのは川井だけだった。

*川井は大下から、200万円を邦友商事の金庫に入れたいという内容の電話を取っていた。

*大下は邦友商事に戻り、川井から鍵を受け取って入ったが、金庫に鍵がかかっていたため、200万円を抱え、鍵を川井に返した。

*川井は大下を酒飲みに誘い、「磯忠」に連れていき、強かに飲酒させていた。

*大下は誤って酒を零し、店員の着物を濡らしてしまい、川井が店員に対応している隙に、ポケットに川井の吸殻を隠した。

*川井は泥酔した大下を邦友商事の車に乗せ、東名高速道路を激走し、大磯の山中まで運んだ。

*川井は2400万円の小切手と200万円の存在を知り、現金200万円を抜き取り、大下を運転席に座らせ、自分のタバコの吸殻を取り去った。

*大下は意識を取り戻し、川井のタバコの吸殻を証拠として残した。

*川井は自分の吸殻が落ちていることに気付かず、車を崖から落下させた。

川井の目的は春美に入る保険金8000万円だった。

川井は推理に激しく反論した。

川井は2年前から冷酷になった大下に絶望していた春美の心の隙に付け込み、春美を繋ぎ止めていた。

川井は春美への愛情に対し、絶望している女性に希望を与えて何が悪い、ただの退屈しのぎであると主張した。

大下は退屈凌ぎで春美と交際した川井を許さず、川井は大下を罠に陥れようとして逆に陥れられ、大下を殺害していた。

澤村は犯行を否認する川井に、「ペルダ」の領収書、「磯忠」の栞、川井の吸殻を見せつけた。

大下は2年前から不治の癌を患い、春美にたいして冷酷な態度を取りながらも、家族を愛していた。

川井が全面自供した。

山村は春美の心境を見抜いた澤村の眼力を称賛したが、澤村は死亡した大下の気持ちのあまり、喜べなかった。

 

 

メモ

*澤村家の住所は「コーポヤマノ」。

*泉から見たブルースは「顔は怖いけど凄く優しい人」

*ミカのことで捜査員全員にからかわれるブルース。「僕もあんな子供が欲しいな」(ラガー)、「耳が赤くなっていますよ」(マイコン)、「昼休みに買ってきた紙包み、中身なんだ?」(山さん)

*被害者の「大下勇二」だが、「あぶない刑事」で柴田恭兵氏が演じる同姓同名の刑事とは関係ない。(「あぶない刑事」の放送開始は1986年10月5日、「太陽」では「小鳥のさえずり」が放映された時期。)

*春美が飛び出していった海岸は「こわれた時計」にも出てきた海岸?

*今回の事件を纏めると「愛情のある計算が愛情のない計算に打ち勝った」(by山さん)

*ボスに、ミカのような子供がいつできるのかと質問されるブルースだが、ブルースの子供は1年後の「ベイビー・ブルース」にて誕生する。

*脚本の山中氏は小川氏主宰の「英塾」1期生。「太陽」は今回が唯一の執筆作となった。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

竹本淳二:渡辺徹

澤村誠:又野誠治

水木悠:石原良純

岩城令子:長谷直美

 

 

澤村泉:渡瀬ゆき

大下春美:野見山夏子

川井登:佐藤仁哉、邦友商事社長:小林勝彦、パールハウス管理人:市原清彦

東光共済ビル警備員:牧田正嗣、井上麻美、英有加、大下の母親:木田愛子、米沢由香

遊園地管理事務所所員:鶴岡修、大下勇二:藤田宗久、増田再起、山田美生子、小田切和美

ノンクレジット 「磯忠」主人:中島元

 

 

西條昭:神田正輝

井川利三:地井武男

山村精一:露口茂

 

 

脚本:小川英、山中茉莉

監督:澤田幸弘