第580話「名人」(通算第274回目)

放映日:1983/12/9

 

 

ストーリー

西條と澤村は車を走行中、恵愛病院から出てくる平山源次(殿山泰司さん)を発見した。

西條は澤村に、平山が自分の金庫破りの師匠であることを教えた。

西條と澤村は藤堂から、アサヒ緑川マンションのモデルルームのプレハブ小屋から空き巣の通報が入ったという連絡を受け、急行した。

モデルルームの窓ガラスが割れ、ソファーを動かした形跡があり、何者かの侵入が断定されたが、何も盗まれていなかった。

西條は浮浪者の侵入と推理した。

建設会社社員の水島伸男(山西道広さん)によると、アサヒ緑川マンションはほとんど完成しており、モデルルームのプレハブ小屋は建設会社が半年契約で借りている土地だったため、今月の9日に取り壊される予定になっていた。

西條と澤村は高倉安夫(30歳)(栗田八郎さん)の殺人事件の通報を受け、現場に直行した。

高倉の遺体はビルの工事現場に埋められており、今日にコンクリートを流し込む際、地下水が沸いたため、汲みだしたところ、高倉の遺体が沈んでいた。

高倉は検視の結果、死後2,3日と断定され、腹部から胸にかけて4ヶ所刺し傷があった。

令子と春日部は、新宿区西新宿2丁目4番地にある高倉の部屋を捜索していた。

春日部は高倉の部屋の押し入れから、金庫破りの7つ道具が入った鞄を発見した。

高倉は金庫破りの常習犯と推測され、同業者同士の仲間割れという線が浮上した。

高倉はサラリーマン金融に莫大な借金があり、一昨日の夜にも大口のサラリーマン金融業者が高倉宅に押しかけ、高倉の外車で無理やり連行されていた。

高倉は借金を抱え込んでいるくせに派手な外車を乗り回していたが、その外車も無くなっていた。

山村は高倉が平山の弟子という情報を入手した。

平山は金庫破りの大名人だったが、とっくに足を洗い、金庫会社のコンサルタントをしていた。

西條は澤村を置いて平山に会おうとしたが、平山は金庫会社を辞め、半年前にアパートを引っ越していた。

西條は恵愛病院に行き、平山のカルテから住所を確認した。平山は心臓に疾患があった。

西條は平山の現住所のアパートの階段を上る際、横井三郎(31歳)(長塚京三さん)という男とすれ違った。

西條は横井の顔に見覚えがあった。

西條は平山宅に入り、高倉が殺害されたことを告げた。

平山には心当たりが無く、金庫破りから足を洗っていたため、答えようが無かった。

西條が平山宅を訪れた真意は、仕事に便乗して平山の顔を見ることであった。

西條は平山宅を去る際、平山に心臓に良い漢方薬「ブタヤの薬 良効湯」を差し入れた。

西條は藤堂から、石戸自動車解体工場に直行するようにという連絡を受けた。

自動車解体工場では、主人の石戸(山岡八高さん)とサラリーマン金融の取立屋(佐藤晟也さん)が交渉していた。

西條と竹本と澤村は自動車解体工場を訪れたが、取立屋は3人が警察の身分を示した途端に立ち去ろうとしていた。

西條は自動車解体工場に高倉の乗っていた外車を発見したが、取立屋が逃走した。

取立屋と石戸は西條達によって連行された。

取立屋は高倉が調子の良いことばかり言っていたことに怒り、高倉を殺害したことを認めた。

生前の高倉は連行先の工事現場にて、取立屋に今月の9日に6ヶ月定期の大金が入手できると軽々しく話していた。

高倉は憤慨した取立屋に殴られ、殴り返して逃走しようとしたが、取立屋にナイフで刺されていた。

山村は高倉が期日を切ったことに意味があると考え、6ヶ月定期という発言も気になっていた。

半年前の6月9日に、東亜中央銀行の金庫が破られ、現金2億8440万円が奪われていた。

記録によると、犯人は3人組で、その後の捜査の結果、犯人の中に金庫破りの専門家が少なくとも1人いると推定され、何人かの容疑者がリストアップされたが、確証を得るに至らず、未解決となっていた。

高倉は容疑者の中に入っていなかったが、高倉が一味の1人であると推測された。

春日部と竹本と澤村は、高倉が犯人である場合、強奪した大金を3人で山分けしていたと仮定すると、高倉が多額の借金を背負ったことに納得していなかった。

山村は犯人3人組が強奪した大金をどこかに保管し、大金を山分けするのが半年後の12月9日だったのではないかと推理した。

しかし、高倉が犯人の1人という確証が無く、残る2人の身元も不明だったため、捜査員は高倉の身辺捜査に奔走した。

西條はバーの女性店員から、高倉が横井という男性と一緒に酒を飲みに来たという証言を得た。

横井はかつてボクサーをしていたが、右の眉の上に傷があった。

西條は平山宅の階段で横井とすれ違ったことを思い出した。

横井は依然、ウェルター級のラフファイターだった男だが、4年前(1979年頃)に傷害事件を起こし、ボクシング界を追放されていた。

横井と高倉ともう1人の謎の人物が、半年前に銀行を襲撃した可能性が強くなった。

西條と澤村は、平山が水島と話しながら歩いているのを目撃した。

平山が3人目の犯人である可能性も浮上したが、山村は金庫破りのプロフェッショナルが2人いるのは余計ではないかと考察していた。

西條と澤村は焼鳥屋の屋台で食事中の平山を張り込んでいた。

そこに横井が車に乗って現れ、平山と相席した。

澤村は2人を連行しようとしたが、西條は証拠がないため、澤村に覆面車を屋台付近に持っていくように指示した。

澤村はタクシーの故障による通行止めに遭ってしまい、覆面車を持っていけなかった。

西條は横井の車のトランクをピッキングでこじ開け、尾行中と書かれた伝言メモを道に落し、トランクに潜入した。

横井は平山を乗せ、車を発進させた。

トランクの中の西條は車の震動で物音を立ててしまったが、拳銃を隠した。

横井の車は飛び出してきたオートバイを回避しようとして高速でスピンし、西條は激しくぶつかってしまった。

平山はトランクに何者かが隠れていることに気付いた。

横井はビルで車を停車させ、拳銃を持ちながらトランクを開け、西條と対面した。

平山は心配しないように言ったにも関わらず、尾行してきた西條に激怒し、横井に西條が自分の弟子であることを教えた。

横井は西條のことを思い出した。

西條は老齢の平山が単独で仕事するのを心配したと弁解し、立ち去ろうとしたが、横井に制止された。

横井は平山に仕事を依頼したが、西條には依頼していないとして、強制的に2人を連れ去った。

井川と澤村、春日部と令子は西條を捜索していた。

横井は平山と西條をビルの地下室に案内し、一夜を過ごしてもらうように強制した。

西條は仲間の平山の扱いが酷い横井に抗議しようとしたが、拳銃を向けられ、失敗した。

西條は平山に地下室の鍵を開錠させ、一緒に逃走しようとしたが、地下室の扉は表から閂がかかったうえで、大きな南京錠が吊り下がっていた。

平山の技術でも、手の届かない錠前を開錠することは不可能だった。

西條は鉄格子を破壊しようとしたが、失敗に終わった。

平山は西條を助けた理由を、殺人が好きではないからと答え、西條から感謝された。

西條は平山に、半年前に横井達と東亜中央銀行の金庫を破った理由を尋ねたが、平山は犯行に関与していないと答えた。

平山は金庫破りを行ったのが高倉と横井達であると伝え、横井達が半年前に盗んだ大金が別の金庫に収蔵されているため、横井がその金庫を開けてもらうために自分に依頼したことを話した。

大金が収蔵されている金庫にはダイヤルの他に鍵が2つ付いていた。

金庫の鍵は横井と横井の仲間が所持しており、ダイヤルの番号を知っているのは高倉だったため、3人揃わないと金庫が絶対に開かない仕組みになっていた。

西條は平山の発言を全て信じ、一言通報して欲しかったと話した。

西條は寒さで咳き込む平山に上着をかけた。

井川は西條の行方の手掛かりを掴んでいなかった。

山村は別の線での捜査に出動した。

12月9日、西條は午前6時10分に目を覚まし、平山の背中を温めた。

平山は横井と横井の共犯の接近を足音で感知した。

西條は鉄パイプを構えて、横井を撃退しようとしたが、2人が来ると警告され、すぐに止めた。

横井が共犯の水島を連れ、地下室の鍵を開錠し、地下室に入室した。

横井は平山と西條を目隠しさせ、金庫の隠してある現場に連れて行った。

西條は水島に身分が露見するのが時間の問題として、どこかで逆転のチャンスを掴もうとしていた。

横井と水島が金庫の隠した場所は、マンションのモデルルームの跡地となっているプレハブ小屋の床下だった。

横井は西條に金庫の入った木箱を掘り起こさせ、木箱を開けて金庫を取り出した。

平山は横井と水島の指示のもと、渋々金庫破りに取り掛かり、指先が悴んでうまくダイヤルを回せなかった。

西條はダイヤルの回転に着手し、平山に聴診器の開錠音の聴取のみに専念させた。

山村の捜査のもと、3人目の強盗犯の容疑者に、元東亜中央銀行行員の水島が浮上した。

澤村は水島の前科者カードを見て、藤堂に水島が現在建設会社の社員となっていることを報告した。

平山と西條は努力の末、金庫のダイヤルの番号を突き止めることに成功した。

平山と横井は鍵で金庫を開錠しようとしたが、水島は西條がサングラスを外した際、西條の正体に気付いており、拳銃を突きつけた。

水島は西條が刑事であることを教え、金庫を開錠してから平山と西條を射殺しようとしていた。

横井は金庫を開けたが、中には大金が入っていなかった。

横井と水島は口論になった。

横井は異常がないか確認するため、モデルルームに忍び込んだことを認めたが、金庫には手を触れていないと否認した。

高倉も借金を背負っていたため、大金を奪ったとは考えにくかった。

横井は、動揺して密かに逃走しようとした平山を取り押さえようとしたが、西條の突撃で拳銃を手放した。

平山は逃走に成功し、水島も車に乗って逃走しようとしたが、捜査員に進路を阻まれ、逮捕された。

西條は水島のパンチ攻撃に苦戦したが、横井を穴に叩き落とし、勝利を得た。

平山は帰宅していなかった。

西條と澤村は一係室に帰ったが、そこには大金を返還し、自首してきた平山がいた。

半年前、横井と水島に銀行を襲撃しないかと、最初に誘われたのは平山だった。

平山は同時期、会社を辞めさせられて癇癪を起しており、半分以上乗り気だった。

しかし、高倉は横井と水島に、平山のような老人は役に立たないと吹き込んでおり、平山から仕事を横取りしていた。

平山は憤慨し、横井達がモデルルームの建てられる空き地の穴を掘っているのを監視していた。

平山は横井達の目を掻い潜り、トラックの荷台に積まれていた金庫を開けることに成功した。

平山は西條が土壇場で自分が金庫を開けたことに気付いたため、大金を警察に返還することを決意していた。

平山は金庫を開錠する際、金庫の中身が空だったことを知ったため、緊張していた。

平山は初めから大金を使う気が無く、ただ半年後、驚嘆する横井達の顔を見たかっただけだった。

平山は懲罰を覚悟しており、西條に地下室で自分の背中を擦ってくれた手が温かったことを告げた。

 

 

メモ

*「からくり」にて登場した、元金庫破りの名人の平山源次が再登場。「からくり」ではドックに金庫破りの技術を教える立場に過ぎなかったが、今回は事件に関与している。

*ドックが潜入する話は他にも「ドックとスニーカー」、「ドックの苦手」、「ホスピタル」、「相続ゲーム」などがあるが、どれもドックが犯人に刑事と露見するのが遅く、安定の面白さを誇る。

*ドックと平山の関係、次々と伏線が繋ぎ合っていく事件、金庫に何も入っていないという衝撃の事実、意外な真相、どれもかなり見応えのある作品となっている。

*今回は何といっても平山のキャラクターに尽きる。殿山氏の名演が光る。

*聞き込みに「太陽のオープニングテーマ’79」が使われている。

*山西氏と栗田氏は「ドックの敵は白バイ?」でも同じ犯人同士で共演している。

*かつての職業の故か、かなり耳の良い平山。

*漢方薬の差し入れ、上着かけなど、心優しいドック。

*平山は指先を温めないと金庫破りがうまくできない性質。「からくり」にて語られている設定が使用されている。

*平山はその後釈放され、「ドック潜入! 泥棒株式会社」にて再登場する。

*ラスト、ボスの代わりに、鍵が壊れた机の引き出しを開錠しようとするもうまくいかないドック。メンバーに色々からかわれてしまう。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

春日部一:世良公則

竹本淳二:渡辺徹

澤村誠:又野誠治

岩城令子:長谷直美

 

 

平山源次:殿山泰司

横井三郎:長塚京三、水島伸男:山西道広

取立屋:佐藤晟也、高倉安夫:栗田八郎、石戸:山岡八高、湊俊一

進藤静義、松原理衣、山形由美子、金野恵子、加藤千明

 

 

西條昭:神田正輝

井川利三:地井武男

山村精一:露口茂

 

 

脚本:長野洋

監督:櫻井一孝