第204話「厭な奴」

放映日:1976/6/11

 

 

ストーリー

午前2時5分、津川三郎(伊藤雄之助さん)は川崎の沖で船を出し、海で釣りを行っていた。

同時刻、屋敷にて、和泉保(幸野直樹さん)は朝倉泰造(高桐真さん)の寝室に入った。

和泉は朝倉の遺産を全て貰うため、朝倉を絞殺しようとしていた。

朝倉は和泉に拳銃を向け、人間の屑と罵ったが、射殺することはできなかった。

朝倉は和泉に出て行くように警告したが、和泉は退室するふりをして襲いかかってきた。

朝倉は警察に通報し、電話は繋がったが、声を出すことが叶わずに和泉に絞殺されていた。

現場に七曲署捜査一係が到着した。絨毯に和泉の毛髪と泥が付着していた。犯人が潜伏している可能性を示していた。

屋敷のガラスが割れており、壁によじ登った痕跡があったため、犯人は2階から侵入したと思われた。

山村は朝倉とともに同居していた、屋敷の使用人の老夫婦から事情聴取を行っていた。

老夫婦の夫の英吉(五藤雅博さん)は朝倉が護身用に拳銃を所持していたことを話した。

朝倉は5年前(1971年頃)に夫人が死亡してからは独身だった。

朝倉死亡の連絡を受け、屋敷に朝倉の秘書の秋月可奈子(倉野章子さん)が到着した。

秋月は、朝倉が本当は不必要なのだが、何もしないと老け込むことから金融業を経営していたことを説明した。

秋月は朝倉の会社への送迎をしており、8年間秘書を担当していた。

三上は犬舎の中の凶器のロープを拾おうとしたが、番犬に吼えられて苦心した。

そこに和泉が現れ、犬が落ち着いた。

番犬は昨夜には全く吠えていなかった。番犬が慣れているのは朝倉と和泉と老夫婦だけだった。

石塚の前に、朝倉の甥となる和泉が現れ、唯一の叔父である朝倉なので念入りな捜査をするように伝えた。

和泉は秋月のもとを訪れ、至急に朝倉の財産目録を作るように依頼した。

石塚は和泉を不謹慎と注意したが、和泉は石塚と秋月を挑発した。

緊急配備の結果は失敗に終わった。

朝倉の死因は紐による絞殺で、和泉が手袋をしていたために指紋は採取できなかった。書斎が荒らされた様子も無かった。

犯行時刻は午前2時15分と確定しており、同時刻に110番通報を受けた警官も朝倉のうめき声を聞いていた。

使用人の老婆の証言では、朝倉は常に書斎の引出しに30万から40万円の現金を入れていたが、現場からは発見されていなかった。

朝倉は10億円以上の遺産を所有していたが、唯一の相続人は和泉だった。

一係室に秋月が現れ、山村と石塚が対応した。

秋月は朝倉を殺害した犯人を、朝倉の遺産が狙いの和泉と決定していたが、確証を持っていなかった。

山村は秋月に朝倉の遺書は無いかと質問したが、3日前に和泉も自分に同じ質問をしていた。

秋月は朝倉が本当に遺書を書いていなかったので、和泉に遺書がないと返答していた。

秋月は和泉が、朝倉が遺書を残していないと確認したうえで、朝倉を殺害したと考えていた。

秋月は和泉を嫌っており、人間の屑と罵った。

和泉は傷害罪で1年間服役していたことがあった。

石塚は和泉に昨夜の午前2時の行動を尋ねた。

和泉は秋月が、遺産の分け前を渡さないと朝倉を殺害したと通報すると、脅迫してきたことを述べた。

和泉は午前2時の行動を答えず、葬式を速く行うために朝倉の遺体を返すように頼んだ。石塚は和泉の毛髪を採取した。

和泉は午後10時から午前4時まで、海上で津川と夜釣りを行っていたことを告げた。

和泉は何も釣れなかったのにも関わらず、石塚と三上に釣果を聞くように挑発した。

石塚と三上は津川家に赴き、津川から事情聴取を行った。

津川は2年前(1974年頃)に長年勤務していた工場が倒産してしまい、現在は守衛をしていた。

津川は和泉をよく知っており、午後10時から午後4時まで、川崎の沖で和泉と夜釣りをして、午後5時に戻ったと証言した。

津川と和泉は昨夜に1匹も釣れなかった。津川は釣りを、嫌なことを忘れる良いものと思い、大好きだった。

石塚は津川が偽証していることを見抜いており、言い逃れができないように周りを固めてからアリバイを崩そうとしていた。

石塚は和泉がアリバイ証人に、頼りない津川を選んだのが気になっていた。

屋敷で野崎が拾った毛髪と和泉の毛髪と一致した。

和泉は3年前(1973年頃)に屋敷に居住していたため、和泉が昨夜に屋敷にいたと断定することはできなかった。

野崎と田口は和泉の自宅を捜索していた。

石塚は朝倉の屋敷にて、和泉に朝倉が引出しに収蔵していた現金の行方を聞いたが、朝倉は石塚を挑発した。

和泉は自分に非常に真面目な朝倉が付いていることを自慢した。

鑑識から、釣具やラックから一昨日に和泉が釣りをした証拠が検出されたこと、釣具に付着していた海水が川崎沖の海水と同一のものであるという報告が入った。

三上は津川が釣具を2組持っていき、もう1式を和泉に渡したと伝えた。

石塚は藤堂に津川を連行するように要求した。

山村と石塚は津川を取調べ、事件当日に本当に和泉と夜釣りをしたのかを尋ねたが、津川は本当だと答えた。

石塚は悪い噂がない津川に、正業に付かずに口先一つで生きていた和泉のような悪党と結びつき、アリバイ証言をしているのかを強く詰問した。

山村と石塚は津川に、このままでは殺人の共犯になると警告したが、津川はそれでも証言を翻さなかった。

津川は任意の参考人として呼んでいたため、拘留期限は午後8時までだった。

島により、犯行当日に津川が船を借りていること、釣り好きな津川が前から船をよく借りていたこと、船を貸していた人が家にいたため、津川の連れを確認していないという情報が入った。

和泉が、かつて津川が勤務していた町工場に債権の取り立てに行っていること、その頃から和泉が津川に積極的に接近しているという情報が入った。

野崎は津川がどうみても犯罪のできるような人間ではないという感触を得ていた。

山村は取り調べ中の津川が、必死に一世一代の嘘を言い通していると思い、簡単に自白しないと思っていた。

津川家の隣人(岸井あや子さん)は、津川夫人(本山可久子さん)が最近に家を建てると嬉しく言っていたことを記憶していた。

石塚は津川に家を建てることについて質問したが、津川は夫人を喜ばすために冗談を言っただけで、そのような金は無いと答えた。

山村と石塚は津川に、和泉が嘘を言い通せば遺産をくれると言ったのではないかと突きつけ、家族のことを考えたことがあるのかと厳しく言ったが、津川は黙秘を通した。

山村は津川に文句一つ言わず、苦労を共にした夫人が、津川が何をしているのかを知っているのかと質問したが、津川は夫人とは何も関係ないと告げた。

津川は夫人が自分と一緒になったばかりに苦労を共にして可哀想だと悲しみ、号泣した。

津川の弁護士(幸田宗丸さん)は任意の参考人である津川を釈放するように主張したが、藤堂は捜査が終わり次第に釈放すると返した。

午後8時20分、石塚は津川が、真面目に、正直に働き続けたのに暮らしが楽にならず、長年勤務していた工場まで倒産したため、贅沢をしていないのに生活が苦しくなり、魔がさしてしまったのではないかと質問した。

石塚は津川に正直に事実を話すように求めたが、津川はタバコを要求した。

津川は金の節約のために煙草と酒を20年間止めており、この年齢になって、金を持っている者が勝ちと悟っていた。

津川はそれでも和泉のアリバイを主張し続けた。

藤堂は津川を釈放し、弁護士が津川を引き取った。

津川は和泉の運転する車で帰還した。

石塚は和泉が博打の金を催促されていたことを突き止めており、ヤクザに誰に催促されていたのかを詰問した。

和泉は津川に、朝倉の土地を担保にして金貸しから借りた3000万円を渡した。

津川は死ぬ思いをしていたが、警察の捜査に警戒し、更にそれが続くと予想し、もう1000万円増額するように頼んだ。

和泉は500万円を渡すことを約束したが、それ以上要求した場合に殺害すると脅迫した。

津川は500万円の増額で納得し、老後の生活に安堵した。

津川は金を良いものと思っていた。

石塚はノミ屋のもとを訪れた。石塚は和泉が博打の金を35万円支払ったことを突き止めており、ノミ屋に金庫を開けるように強要した。

石塚は和泉が支払った35万円を入手し、鑑識に指紋検出を依頼した。

35万円からは朝倉の指紋が検出されなかったが、和泉の指紋と一緒に秋月の指紋が付着している紙幣があった。

秋月は和泉に、朝倉が死亡した前日の午後10時に、朝倉に言われて40万円を書斎の引出しに入れたことを告げた。

秋月は朝倉を殺害した和泉が40万円を盗んで、使用したことを証言しようとしていた。

和泉は秋月を買収しようとしたが、そこに石塚と三上が現れた。

石塚と三上は秋月と和泉の会話を聞いていた。

和泉は秋月にはめられたことに激昂し、襲い掛かったが、三上に投げ飛ばされて逮捕された。

和泉は津川に与えた3000万円を返すように言い捨てた。

和泉が逮捕されたことを知った津川は崩れた。津川は高齢になって寂しくなったという理由で、生まれて初めて危険な選択肢を選んでいた。

津川は手を差し出したが、山村から着替えをすること、石塚から夫人の淹れた茶を飲むことを許された。

石塚は藤堂と三上と島から、借金を給料から天引きされた。

 

 

メモ

*和泉は朝倉が言うとおりの「人間の屑」で、まさしくサブタイトルと同じ「厭な奴」。

*「厭な奴」を演じた幸野直樹氏は、北條清嗣氏や早坂直家氏並に冷酷で憎々しい犯人を演じるのが上手い。

*朝倉家の犬に吼えられるテキサス。

*津川は真面目に、正直に、実直に暮らしてきた小市民。贅沢をしていないのに困窮し、家族にマイホームを建てられなかったことを後悔し、だからこそ、大金を掴む危ない賭けに目が眩み、必死になった。

*津川は3000万円のために石のように黙秘を貫き通した。山さんの取り調べですらも自白させることはできなかったのは非常に珍しい。

*和泉は性格が金の亡者だったようで、博打の返済のために40万円を奪ったことが決め手となった。

*最後、ボスとテキサスと殿下から、借金を給料から天引きされるゴリさん。贅沢に過ごしているように思えないのに、何で借金をしているの?

*予告編はクラシックが流れ、珍しく白黒スチールが使われている。

*今回は「手紙」と同時撮影。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

三上順:勝野洋

田口良:宮内淳

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

津川三郎:伊藤雄之助(特別出演)

秋月可奈子:倉野章子、和泉保:幸野直樹、朝倉泰造:高桐真

田代信子、津川夫人:本山可久子、英吉:五藤雅博(後の武内文平)、弁護士:幸田宗丸

小林勝也、肥土尚弘、福崎和宏(現:福崎量啓)、津川家の隣人:岸井あや子

ノンクレジット 警官の声:鹿島信哉

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:播磨幸治

監督:木下亮