第197話「ペスト」
放映日:1976/4/23
ストーリー
何者かが合鍵を使って城北医科大学の研究室に侵入し、ペスト菌の試験管を盗み出した。
警備員が研究室に入ったが、背後から犯人に襲撃され、殺害されてしまった。
事件が七曲署捜査一係に通報され、捜査員が出動した。
ペスト菌の管理にミスがあったとは考えられず、合鍵を使って侵入していることから、犯人は内部事情に精通しているものと思われた。
死亡推定時刻は午前0時~1時、死因は窒息であった。
北野教授(久富惟晴さん)は藤堂と石塚に、ペスト菌について説明した。
ペスト菌には強力な毒素があり、毒素が人体に侵入すると敗血症を起こして多くの病巣を作る性質があった。
ペストは現在にはほとんど根絶された病気だが、一旦発生すると大流行する危険性があった。
ペストの感染経路は主にネズミからネズミノミに伝わり、ネズミノミが人から吸血したときにペスト菌が人体に侵入する仕組みとなった。
ペスト菌を殺す一番簡単な方法は燃やすことだった。万一にペストの患者が発生した場合、早期診断が治療上重要になった。
ペストは重症になると40度を越す高熱、強烈な全身の痛み、嘔吐、急速な呼吸困難、精神錯乱を引き起こし、多くは4~5日で死亡してしまうものだった。
藤堂は山村と石塚と大森理事長(小栗一也さん)と待機していた。
午前11時頃、犯人から電話がかかった。
犯人の要求は要求を警察に伝えずに、午後1時までに使用済みの紙幣で5000万円を用意するというものだった。
犯人は要求に応じない場合、ペスト菌を東京にばらまくと警告した。
2時間では捜査の時間も紙幣のナンバーを控える時間も用意できなかった。
午後1時、大森は現金を用意した。
再び犯人から電話がかかってきた。
犯人は城北医科大学の職員にトランクを持たせ、午後1時20分に新宿駅東口の交番前に、単独で立たせるように要求した。
犯人は素直に大金を渡した場合、ペスト菌を返すと約束した。
藤堂は野崎に理事長室での待機を、石塚に職員に成りすまして東口前の交番に立つように命じた。
逆探知は失敗したが、山村は録音したテープを声紋検査に回すことにした。
藤堂は700~800mまで受信可能な、万年筆に偽装した送信機を渡した。
送信機には石塚の連絡、居場所、フォローの車が打てた。
藤堂は石塚に、ペスト菌の押収を最優先に命じた。
石塚は城北医科大学職員の石塚を装い、新宿駅東口の交番に移動した。
島と三上と田口が現場に待機していた。
交番に犯人から電話が入り、石塚はトランクに5000万円が入っていることを伝えた。
犯人は至急、南口ルミネの屋上の広告塔の前で待機するように要求した。
石塚と三上は南口ルミネの屋上の広告塔に移動した。
屋上の公衆電話に犯人から、西側の金網から裏道に向けて、100万円をばら撒くように要求する電話が入った。
石塚は大森に電話をするふりをして、藤堂に犯人の要求を連絡した。
犯人の目的が、紙幣が本物かどうかの確認と確信した藤堂は、10分後の午後1時47分にばらまくように指示した。
午後1時42分、犯人から電話が入った。石塚は納得できないと伝えたが、犯人はばら撒かないと取引を中止すると宣告した。
犯人は100万円の束だと思っていたが、石塚は急用だったので1000万円の大束で纏めたと誤魔化した。
石塚は午後1時47分に100万円をばら撒いた。
市民は興奮して金を拾ったが、パトカーが急行し、速やかに金を提出するように願い出た。
島と三上と田口は金を拾う市民を撮影していた。
犯人から、時間を延長させ、警察を呼んで100万円を回収させたのは金が惜しいからなのかと尋ねる電話が入った。
石塚は学生課の職員と偽り、独断で大学の金の100万円をばら撒くことはできないと伝えた。
石塚はサングラスの男が電話しているのを見たが、犯人ではなかった。
犯人はデパートを出て、周りの電話に注意して、城山通りを東に向かって歩くように強要した。
石塚は城山通りを歩いていたが、公衆電話が鳴っているのを発見し、犯人からの電話に出た。
犯人は電話の近辺にあるディスコ「チェスターバリー」に入るように指示した。
石塚は「チェスターバリー」に入り、三上も遅れて入った。
店内に犯人から石塚に電話が入った。
犯人はトランクを奥のボックスに置き、石塚に帰るように要求した。
犯人は5000万円を安全な場所で確認したら、ペスト菌を返すと約束した。
石塚は犯人の電話で聞こえる曲が、自分の背後で聞こえる曲だったことから、犯人が店内にいると直感した。
犯人は石塚が要求の内容を繰り返し音読していることから、誰かに連絡しているのではないかと疑問を持った。
石塚は三上に犯人が店内にいることを告げた。
三上は踊っている客を撮影した。
石塚はトランクを置いて立ち去った。
島と三上と田口は若者がアタッシェケースを回収するのを目撃し、逮捕した。
若者はトランクを届けるように頼まれただけで、無関係だった。
犯人から石塚に刑事が3人付き添っていることを指摘し、警告した。
石塚は単独で指示に従うことを約束し、犯人から元の道をゆっくり東に向かって歩き、1つ目の角を右に曲がるように強要された。
山村は城山通りに並行して脇道が走っていることに気づき、藤堂は捜査員に、石塚の送信を受けながらフォローを続行するように指示した。
石塚は3丁目のバス停から公会堂を通ったところで、犯人の阿部和也(27歳)(小野進也さん)にエーテルを嗅がされた後、トラックの荷台部分に乗せられ、誘拐された。
送信機は阿部が石塚を荷台に引き込む最中に弾みで落ち、トラックに轢かれて破損してしまった。
島は公会堂の前で石塚の連絡が途絶えたことを報告し、藤堂から石塚の捜索を命じられた。
三上はルミネの裏通りとディスコで撮影した写真を現像し、提出した。
2ヶ所で撮影した写真に、両方とも阿部が写っていた。
声紋検査の結果、20~25歳くらいの若者だったため、阿部が犯人と断定された。
山村は阿部が単独で可能な計画を練り、事前に入念な調査を行い、実行したと推測した。
藤堂は阿部の写真と推定年齢を頼りに、城北医科大学の関係者を捜査するように命じた。
石塚は阿部の自宅の、新宿区曙町8の6 横塚アパートに監禁されていた。
阿部は大金が偽物だったことを知って激昂し、気絶している石塚に、ペスト菌を水に溶かしたものを注射した。
山村らは城北医科大学の資料室にて、阿部の写真と関係者の資料を照合させていた。
石塚は目を覚ましたが、意識が朦朧としていた。
阿部は猟銃を構えていた。石塚は阿部により、自分がペスト菌を摂取させられたことを知らされた。
ペスト菌の潜伏期は2日~6日間だったが、稀に約15時間ということもあった。
石塚にはペストの症状である液化リンパ節の化膿が出ていた。
阿部は大森に、石塚がペスト菌に感染したことを告げた。
大森は石塚が誰かと発言してしまい、阿部に石塚が刑事と確信されてしまった。
阿部は、大森に自発的に金を用意し、「頼むから貰ってくれ」と言わなければ、次々とペスト患者を発生させると脅迫した。
阿部は石塚を猟銃で殴った。
藤堂は犯人が警備係を殺害してペスト菌を強奪した時から、最初からペスト菌と金を交換する気が無かったと推測した。
藤堂は阿部の電話どおりに、石塚がモルモット代わりにペスト菌を摂取させられていると推測した。
時間制限は明日の午前10時だった。
阿部は最初からペスト菌と大金を交換する気などなく、それが世間と大学への復讐であると自白した。
石塚はペスト菌を返すように頼んだが、阿部は取り合わなかった。
山村と島と三上と田口は資料室にて、城北医科大学関係者のリストと阿部を照合したが、阿部はリストにいなかった。
午前6時、大森宛に阿部から電話がかかった。阿部の要求は昼までに1億円用意するというものだった。
大森は金を用意すると約束した。
石塚は全身にペスト菌が回り、40度の高熱を出て、敗血症を発症し始めていた。
阿部は敗血症を発症させた者の70%が死亡することを語った。
石塚は阿部のペストの知識から、阿部が医大生と直感し、病人を助ける仕事の医師を志しているなら自分を放置できないだろうと述べた。
藤堂と山村は医大生の「受験に落ちた」という発言から、受験生を調査することを提案した。
阿部は幼少期から解剖と実験が好きで、将来の希望を医者と胸を張って言っていた。
阿部は4年前(1972年頃)、猛烈な受験勉強をして城北医科大学を受験し、希望通りに合格していた。
しかし、田舎で父親の阿部精一が経営していた町工場が倒産してしまい、阿部は入学金の180万円を払えず、城北医科大学に入学できなかった。
阿部は協力者無しでの状態でも医師になることを諦めず、独力で入学金を貯金し、再度受験しようと懸命に働きながら勉強をした。
しかし、阿部は労働と勉強を両立できず、年々に入学金が高騰していった。
阿部は自分を医師にさせない世間を理解し、世間への復讐を決定していた。
石塚は北野の発言を思い出しながらも、ペスト菌の症状に苦しんでいた。
山村はリストから阿部の受験票を発見した。阿部は昭和23年8月20日生まれだった。
石塚は物をはっきり視認できなくなっていたが、阿部に実験用のネズミのケースを見せられ、意識を取り戻した。
阿部は実験動物を飼育するアルバイトで生計を立て、城北医科大学にも何度か届けていたため、城北医科大学のペスト菌管理の実験室に詳しかった。
阿部は生命力と繁殖力の高いネズミにペスト菌を摂取して街に放とうとしていた。
阿部は都民を半永久的にペストの恐怖と不安に怯えさせ、自分に優しくなかったことを後悔させようとしていた。
阿部はブラジルに逃亡しようともしていた。阿部はペスト菌をネズミに接種させようとしていた。
石塚は目が見えず、動けず、考えが纏まらない状態になっていたが、なおも阿部に対策を打とうとしていた。
石塚は自分の手をライターの火にあて、意識をはっきりさせた。
石塚は北野の発言を思い出し、阿部の部屋からエタノールを発見し、水を要求した。
石塚は阿部が水を用意した隙に、阿部に抵抗しようとしたが、阿部に執拗に痛めつけられた。
石塚はエタノールを入手し、床にばら撒き、ライターで点火させようとした。
阿部は石塚に、自分は逃げられるが石塚は焼死するだけだと警告したが、石塚は自分を犠牲にしてペスト菌を根絶させることを覚悟していた。
石塚はエタノールを点火させたが、阿部は鎮火させようとしていた。
阿部宅に山村達が到着し、阿部は山村に逮捕した。石塚はペスト患者である自分に接触することを禁止させた。
石塚は城北医科大学に搬送された。救急隊員は山村達にも、隔離して検査するために病院に来るように頼んだ。
北野によると、ペストは早期発見であれば抗生物質が効く上に、ペスト菌も石塚の強靭な体力に勝てなかった。
藤堂は石塚の病室に入っていたが、山村達が既に石塚を見舞っていた。
メモ
*「太陽」ではたまにある感染症がテーマの作品の一つで、ゴリさんサバイバル編の一つでもある。
*メインゲストはゴリさんにゆかりのある俳優さんばかり。阿部の小野氏は後に「バイオレンス」でもゴリさんと対決し、互角の格闘を演じる。大森理事長の小栗氏は「知らない街で…」と「故郷の父」でゴリさんと接する中年刑事を、「高校時代」でゴリさんの高校時代の担任教諭を演じている。北野教授の久富氏は「同期生」でゴリさんの同期生の刑事を演じている。
*「ディスコティック」とはディスコの通称のことだが、死語である。
*ペストはネズミからネズミノミに、ネズミノミを媒介して人体に感染するものだが、ゴリさんの場合はペスト菌を直接注射されたため、危険度は遥かに向上。並外れた体力のゴリさんでなければ助からなかったかもしれない。
*大森理事長はゴリさんの本名を知らされていなかったのか、阿部からゴリさんがペストに感染したのを告げられたときに、うっかり石塚が誰かと発言してしまう。打ち合わせは的確にしましょう。
*医師になるという熱い動機はあったが、悲しい境遇で世間に復讐しようとした阿部。受験に成功したら立派な医師になっていたかもしれない。しかし、入学金が私立より安い国公立の医大に入学しようとは思わなかったのか?
*阿部はペスト菌を摂取させたネズミを用意していた。ネズミのシーンは何かの怖さを感じる。
*ペスト菌に感染したゴリさんのメイクは著しくリアルなもので、竜氏の演技と共に緊迫感を醸し出している。
*ゴリさんがペストに勝てた理由をゴリラだからとからかう殿下。
*ゴリさんにゴリラの大好物のバナナを差し入れるボス。
*永原氏と峯尾氏は、今作と同じくゴリさんサバイバル編の「人質」以来2年振りの脚本。そして永原氏は今作が「太陽」最終作となっている。
*予告編はBGMが無く、阿部の笑い声とネズミの鳴き声が背後に流れ、怖い。
キャスト、スタッフ(敬称略)
藤堂俊介:石原裕次郎
三上順:勝野洋
田口良:宮内淳
野崎太郎:下川辰平
矢島明子:木村理恵
阿部和也:小野進也
大森理事長:小栗一也
北野教授:久富惟晴
奥村真悟、辻義一、荒木肇、村上幹夫
石塚誠:竜雷太
島公之:小野寺昭
山村精一:露口茂
脚本:永原秀一、峯尾基三、小川英
監督:山本迪夫