第188話「切札」

放映日:1976/2/20

 

 

ストーリー

歩行中の糸崎公一(三田村賢二さん)は、乗用車がライトを点灯したことで、背後から乗用車が近づいていることに気が付いた。

糸崎は車に猛スピードで追跡され、全速力で靴を落としながらも疾走したが、轢かれて即死してしまった。

運転手の大町昇(山本聰さん)は糸崎の遺体を確認した後、乗用車を置いて走り、通行中の乗用車の運転手に救急車の手配を依頼した。

糸崎の殺害現場に山村が駆けつけた。

昇は既にパトカーの後部座席に座らされていた。

山村は現場状況を観察し、乗用車が急速なスピードを出していること、糸崎の靴が片方無くなっていることに気づいた。

昇は父親の乗用車を初めて乗ったため、アクセルとブレーキを踏み間違えてしまったと供述していた。

糸崎は大町商事の社員、昇は大町商事社長の大町平蔵の息子だった。

一係室にて、既に待機していた大町(松宮五郎さん)と昇が対面した。

昇は必死に事故であること、大町の乗用車を何となく使ってしまったことを弁明した。

大町は糸崎の遺族に責任を持って償う覚悟を決めていた。

昇の取調べが開始されそうになった直前、大町家の顧問弁護士の多々良一男(岸田森さん)が一係室に入ってきた。

多々良は山村に、昇と二人での面談を要求した。

多々良は現場の状況が計画殺人のように見えるため、事件を事故として処理しなければならないと告げた。

多々良は昇に、取調べに対して何も答えず、多々良から聞くように供述するよう吹きかけた。

昇と糸崎は同じ大学を同年に卒業し、同年に大町商事に入社している同期生であった。

昇は将来を約束されていた。

事故現場は大町宅とも糸崎宅とも方向違いだった。

多々良の言い分は偶然出会ったことが罪になるかというものであり、昇はすぐに救急車を呼んでいた。

多々良が一係室に、昇の身柄を引き取りに現れた。

三上と田口は昇の釈放に反対だったが、昇には身元引受人がおり、再犯と逃亡の恐れがなく、示談が成立していた。

藤堂は昇を釈放した。

山村には事故の写真を見て、糸崎の靴が無くなっていることに違和感を覚え、ドブ川の捜索を鑑識に依頼した。

ドブ川から糸崎の靴は発見されなかった。

糸崎の葬式を訪れた山村は、糸崎と昇の大学の同期生である吉沢早苗(深田ミミさん)という女性に声をかけ、喫茶店で会話した。

糸崎と吉沢は婚約中の身だったが、糸崎の母親に反対されていた。

糸崎は父親を亡くし、母親の手で大学まで金を出してもらっていた。

吉沢と糸崎は大学の同窓会の夜、結婚を誓い合っていた。

吉沢は糸崎が殺害されたのではないかと思っていた。

昇は吉沢を車に押し込めようとして糸崎に止められた。

昇は自分に逆らう糸崎を脅迫したが、糸崎に殴られていた。

事故現場は吉沢のアパートの近くであり、糸崎も昇も吉沢に会いに行く途中だった。

事件は殺人よりも事故の線が濃厚になった。

多々良が相手では全て偶然の一致で片付けられてしまうため、山村は昇から殺意の有無を尋ねるのが重要と考えた。

署長により、事故は過失致死で書類送検と決定し、捜査が打ち切られてしまった。

一係室に花巻通りでのチンピラの銃撃戦の通報の電話が入り、野崎と石塚と島と田口が現場に急行した。

藤堂は三上に、山村と一緒に昇の事件の証拠探しに協力するように命じた。

山村は三上から、どの時点でただの事故でないと気づいたのかと尋ねたが、糸崎の顔が恐怖に引き攣っていたからと答えた。

山村は以前、ビルの屋上から突き落とされて、糸崎のような表情で死亡していた男を見たことがあった。

事故は一瞬で恐怖に変わる前に死亡してしまうものであった。

多々良は大町に、刑事が昇の事件を捜査していることを報告し、法的に事故で処理できる自信があると伝えた。

多々良は山村を、食いついたら絶対に離れないスッポンのような男と警告し、大町に、絶対に山村と昇を会わせないように強要した。

山村と三上は昇に会おうとしたが、家政婦に追い返された。

山村は昇がじっとしていられないと推測し、証拠固めから行く方針とした。

大町は自室の窓から、山村が立ち去るのを目撃した。

山村と三上は大町商事の社員(篠田薫さん)から、糸崎が大町が殺害された日に、会社が終わった後に麻雀をする予定だったが、呼び出しの電話がかかり、帰宅していたという情報を得た。

電話交換室では、吉沢から電話が入り、アパートにすぐ来るようにという伝言が残されていた。

糸崎には電話交換手が伝言していた。

吉沢は事件当日、編集会議が延長し、夕食を同僚ととっていたため、伝言したのは吉沢ではなかった。

山村は三上に事件当日の昇の行動を捜査するように命じ、昇の女性関係を捜査することにした。

山村は帰宅していた。

高子(町田祥子さん)は医師から心臓病の薬のことを聞いていたが、保険に適用されず、1ヶ月に3万円かかるため諦めていた。

しかし、今日に薬を貰うつもりで待機していたところ、保険が適用されたのか、従来通りの500円で処方されていた。

山村は有隣病院に直行し、心臓病の薬が山村名義で前払いになっていたという事実を掴んだ。

山村は薬を支払おうとしたが、病院に二重取りということで受け取りを断られた。

藤堂と山村は多々良の買収工作と直感した。

昇のガールフレンドに電話をした者はいなかった。

昇は午後4時に大町商事を退社し、午後4時23分に大町の車で駐車場を出ていた。

糸崎宛ての電話は、糸崎が退社してから32分後の午後5時5分にかかっていた。

電話交換手は女の声で電話がかかってきたとき、背後に音楽が流れていたことを覚えていた。

山村は昇が大町商事から30分以内の距離にある喫茶店かスナックから、女性に依頼して、大町商事に電話をかけさせたという仮説を立てた。

山村は大町商事近辺の喫茶店とスナックを探し回った。

山村と三上は昇がスナック「サンルート」に先週まで働いていた川上夏代(龍のり子さん)という女性に、吉沢名義で電話を頼んだという明確な情報を入手した。

川上は電話の件を否定し、昇のことを知らないと述べた。

山村は川上を逮捕しなかった。

夜、当直勤務の山村は電話で高子から、自宅の光熱費が5日前に何者かに払い込まれているということを聞いた。

山村家は光熱費を銀行の自動振り込みにしていた。

山村は金を振り込んだ男を突き止め、誰の工作かを吐かせようと思っていたが、そこに多々良が現れた。

山村と多々良は銀座アスターで食事をしていた。

多々良はなぜ昇の事件を捜査し続けているのかと尋ね、昇が殺人を犯した小さな状況証拠や心証だけでは裁判で有罪にならないと警告した。

山村は故意と過失では違うとして、多々良に取り合わなかった。

多々良は山村に、趣味が犯罪者を作り上げることなのかと質問した。

山村は罪を犯しながら逃げようとする者を逮捕するのが自分の仕事であると決心していた。

山村は自分の食事代を支払った。

本庁宛に、山村が職権濫用を行って、光熱費を他人に払わせているのではないかという投書が来ていた。

藤堂は署長室に呼ばれていた。

藤堂も西山署長(平田昭彦さん)も山村の汚職を信じていなかったが、本庁では査問委員会を開こうとしていた。

西山は査問委員会までに山村の無実を証明するように命じた。

山村は事件を殺人と断定し、捜査の継続を藤堂に告げた。

三上はドブ川を捜索中に糸崎の靴を発見した。

多々良は大町に、昇の殺人に確定的な証拠がなく、査問委員会の開催もあり、山村の行き先が見えていると言い聞かせた。

三上は山村に、事故の地点より上流に靴が落ちていることを報告した。

田口は大町宅を張り込み中、昇が密かに家を抜け出すのを目撃し、山村に連絡した。

昇はクラブに向かったが、クラブには山村が居合わせていた。

山村は事件現場に昇を連れ出した。

山村は昇に事故のときと同じように車を運転するように指示した。

昇は人がいないことから、現場検証に反対だった。

昇は山村の指示通りに自動車を運転し、ブレーキを踏んだ。

山村は事故当時に車が50km以上の速度になっていたことを指摘し、昇に再度スピードを上げさせた。

山村は昇に、最初に人影に気づいた地点を聞き出そうとしたが、そこには停車したパトカーと田口がいた。

山村は昇に田口の地点までバックするように指示した。

山村は事故当時、車のヘッドライトが上向きになっているにもかかわらず、糸崎に気づかなかったのかと指摘した。

昇は自動車を降り、ライトの先に島と川上がいるのを確認して動揺した。

川上は昇に頼まれて会社に電話したこと、口止め料を貰ったことを自供していた。

昇は動じなかったが、三上と田口に、糸崎の靴が糸崎を轢いた地点より手前で発見されたことを叩きつけられた。

三上は糸崎の靴を拾った場所に、田口は昇が糸崎をはねた地点に向かった。

山村は、糸崎の靴が糸崎がはねられた地点まで遥か手前で脱げており、ドブ川が車の進行方向から流れていることから、糸崎の靴が脱げたのが川の上流と断定した。

山村は、糸崎が襲撃する自動車に気づいて逃げ、靴が脱げたまま必死に逃走したが、昇に追い詰められて殺害したと突きつけた。

昇は吉沢の前で自分を殴った糸崎を許せなかった。

山村は多々良にガス代4675円、電話代3265円、水道代1540円、電気代4383円の合計1万3863円を返却した。

多々良はヤクザの坂田に、病院に手を回し、光熱費をこっそり払わせていた。

多々良は物証がないという理由で否定した。

山村は多々良の事務所に、多々良が坂田に金を払った領収書が残っていると思っていた。

領収書は多々良にとっては坂田を押さえ込むためのものだったが、逆に山村にとっては証拠となるものだった。

多々良は取調室に連行された。

 

 

メモ

*トシさんの以前に呼ばれていた「スッポンの山さん」。

*「ある日、女が燃えた」に次いで、敵に買収工作されそうになる山さん。山さんの弱点は高子の心臓病であるが、山さんはそれを気にせずに工作を払いのけた。(その結果、「刑事の妻が死んだ日」に繋がってしまうのかもしれない)

*大町昇の山本聰氏が何となく鶴田忍氏に似ている。

*「あなた(多々良)にとっては(領収書が)坂田を押さえ込むための切札だったが、今度は私の切札になるわけです。人を呪わば穴二つってね。(以下略)」

*多々良弁護士が最後、取調べられることが決定したところで物語は終わる。その後どうなったのかは不明。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

三上順:勝野洋

田口良:宮内淳

野崎太郎:下川辰平

 

 

西山署長:平田昭彦、山村高子:町田祥子、矢島明子:木村理恵

多々良一男:岸田森

大町平蔵:松宮五郎、大町昇:山本聰、吉沢早苗:深田ミミ

糸崎公一:三田村賢二、海野かつを、川上夏代:龍のり子、手塚敏夫

大町商事社員:篠田薫、菅原慎予、山川みどり、西山三保子

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

 

 

脚本:長野洋、小川英

監督:児玉進