第184話「アリバイ」

放映日:1976/1/23

 

 

ストーリー

野崎は田沢商事に直行し、社長の田沢啓介(安井昌二さん)と会った。

田沢宅に、秘密を公表されたくなければ、500万円を要求するようにという内容の脅迫状が届いていた。

田沢宛に年配の男の声で、日曜日の正午に、田沢商事の社員に金を持たせて、ビルの5階にある喫茶店「ジュリアン」に来るようにという電話が入っていた。

田沢商事は光学製品を主力輸出商品にしていたが、ここ数年に輸出が伸び悩み、累積赤字が1億円にのぼり、財政立て直しに苦労していた。

田沢は脅迫者に心当たりが無く、田沢商事の内情が公表されると、業界の信用や金融筋に影響を及ぼすため、穏便な処理を心がけようとしていた。

田沢が野崎を名指しで指定したのは、常連として行っている1丁目の「葉がくれ鮨」で野崎の評判を聞いているためだった。

田口は鑑識に脅迫状を提出した。

藤堂は野崎と島に「ジュリアン」の張り込みを、石塚と三上に車での待機を命じた。

野崎と島は1万円に偽装した新聞紙を鞄に敷き詰め、田沢商事社員の北村に持たせて「ジュリアン」に向かった。

田沢は田沢商事から双眼鏡を用い、「ジュリアン」を見張っていた。

北村は窓際の席で待機していたが、午後0時頃、「ジュリアン」に小林冴子(鮎川いづみさん)という女が入店し、北村の背中合わせの席に座った。

「ジュリアン」に、田沢から野崎に電話がかかった。

田沢は小林が不審でないと発言し、小林が帰ったため思い過ごしだったことを伝えた。

正午から30分が経過し、藤堂は野崎に、連絡に取って引き上げるよう命じた。

一係室に田沢夫人の田沢静恵がパークホテルで殺害されたという通報が入った。

静恵は隙を狙われたのか、抵抗なく背後から絞殺されていた。

パークホテルに野崎と田沢が入った。

静恵のハンドバッグから現金が盗まれていたため、強盗か脅迫者が犯人である可能性があった。

田沢は脅迫状の件から、大事を取って静恵をパークホテルに宿泊させていた。

田沢は要求通りに金を払えばよかったと後悔した。

ホテルのボーイによると、静恵は正午の頃に電話で昼食のオーダーを取っており、15分後にボーイが食事を運んで行った頃には殺害されていた。

犯行時刻は午後12時から午後12時15分の頃であると推測された。

「ジュリアン」からパークホテルまでの距離は車で25,6分の距離だった。

野崎が「ジュリアン」に張り込んだのは午前11時30分であるため、その時点で脅迫犯が張り込みに気づき、パークホテルに直行すると、犯行が可能だった。

野崎は同一犯人の容疑が濃厚だと思っていたが、藤堂と山村は会社ゴロが報復のために殺人まで行うかと疑問に思い、動機が怨恨であると思った。

石塚は保険会社から、殺害された静恵が1ヶ月前に総額1億5000万円の生命保険に加入していること、受取人が田沢であるという情報を得た。

田沢商事の赤字が1億円だったため、犯行の動機は充分だった。

野崎は田沢が午後12時に田沢商事のオフィスにいて、オフィスの窓から「ジュリアン」の様子を電話で話したというアリバイを主張した。

野崎は藤堂に小林のことを報告した。

山村は田沢が金の受け渡しを指示したのが年配の男だと言ったのに、なぜ女性の小林に気を取られたのかを疑問に思った。

野崎は葉がくれ鮨で食事をしながら、板前に事情聴取を行っていた。

板前は田沢が自分に野崎のことを聞き、田沢が野崎を良い人だと言っていたことを思い出した。

野崎は田沢が自分をお人好しの甘い刑事だと思い、絶対的なアリバイの証人に指名したと確信した。

野崎は犯人を田沢と断定したが、殺害方法と電話のやり方が不明だった。

田沢は野崎から、静恵の保険金のことを質問され、野崎に生命保険加入の契約書を野崎に見せた。

田沢は保険について、結婚15周年を契機に夫婦2人で加入し、2人の安全保障のようなものと説明した。

山村は田沢と小林が共犯ではないかと怪しんだ。

山村と野崎は現場検証と時間の計測を開始し、田沢商事からパークホテルに急行した。

パークホテルに到着したのが午後11時58分であった。

山村と野崎は

*田沢はウェイターに静恵の遺体を発見させるために、ルームサービスを注文させていた。

*正午、田沢は「ジュリアン」で張り込み中の野崎に、ホテルのバスルームから電話をかけた。

*電話をかけている最中に小林が立ち上がり、電話を切ると田沢は背後から静恵を絞殺して現金を抜いて偽装工作を行った。以上の終了が午後0時6分だった。

*田沢はタクシーを拾って「ジュリアン」に戻る。

この4つを実施してアリバイ工作を行ったと推理した。

捜査員は田沢家の近所の主婦(川口節子さん)や取引先の知人から聞きこんだが、田沢には仲の良い夫婦や妻を愛している立派な夫という情報しか得られず、女性関係も全くなかった。

田口は田沢が犯人ではなく、野崎が田沢に利用されて意地になっていると思うようになっていた。

藤堂は田口に、野崎の勘に狂いが無いと諭した。

山村と野崎は「ジュリアン」に向かい、小林が座っていた席に座った。

小林の席から、電光時計を見ることができたため、田沢と小林は電光時計に合わせて芝居に打ったものと思われた。

野崎は三上に、1秒でも早く時計の見える席を探すように指示した。

三上が電光時計の見える席を探し当てるまで時間がかかったため、小林が界隈のOLであると推測された。

野崎は街中を歩き回り、小林を探すことに執念を燃やした。

野崎は歩道橋にて偶然小林を発見し、尾行した。

小林は京浜観光経理課の事務員として勤務していた。

野崎は一係室に、小林を発見したことを連絡した。

野崎は田沢に会い、自分が田沢のアリバイの証人であることを強調し、自分の見た女性と田沢の見た女性が一致すればアリバイが成立するとして、特徴を話すように促した。

田沢は小林を、サングラスをかけてベージュのコートを着た、長髪で色白の美人と話した。

田沢は野崎から小林の写真を見せられ、自分が見た女性が小林であると証言した。

野崎は京浜観光経理課の伊藤課長(有馬昌彦さん)と会い、小林の写真を返却した。

京浜観光経理課は伊藤と小林の2人だけの会社であり、小林はよく働いており、帳簿を几帳面に書いていた。

しかし、先月10日に10万円の使途不明金が出金されていたが、月給日の26日に同額の入金があったため、帳簿上の問題は発生していなかった。

伊藤は記載漏れに気づいて帳簿上の操作をしたものと思い込み、銀行の口座と一致していたために問題が無いと断定していた。

現金の出納は伊藤の印鑑がないと出来ず、印鑑は伊藤の出社時には金庫に所蔵していたが、金庫の鍵は伊藤と小林の両方とも所持していた。

野崎は田沢が小林の写真を見て、動揺したのを確認していた。

島の捜査で、先月の9日に小林の弟が交通事故で入院し、アパートの管理人に借金をしていることが判明した。

野崎は小林が京浜観光経理課の金を10万円ほど横領したことが、小林にとって重大な秘密であったと思い、田沢が秘密を知って脅迫し、アリバイ工作に加担させたと推察した。

野崎は双眼鏡のことを思い出し、田沢の秘書から先月10日の田沢の行動を聞いた。

田沢は10日に、午前10時に出社し、夕方まで勤務した後、かかりつけの2丁目の松永歯科に行ってそのまま帰宅していた。

田沢は来週の水曜日にマーケティングリサーチのために渡米し、しばらく滞在する予定だった。

野崎は松永歯科に急行し、歯科医から、田沢がオペラグラスで窓を眺めていることを聞き出した。

松永歯科の窓からは京浜観光経理課が見えず、松永歯科は先月10日に医師の体調不良で休診だった。

野崎は歯科を探し回り、先月10日に田沢が診察した歯科を探し当てた。

オペラグラスを使用すれば、歯科の窓から京浜観光の経理課を見ることができた。

小林は野崎に取調べられ、田沢のことを尋問されたが、田沢を知らなかった。

野崎は小林に、脅迫に負けて田沢のアリバイ工作に加担されたのではないかと突きつけた。

小林は残業中に弟のことを考え、良心の呵責に苛まれて、金庫から伊藤の印鑑を盗み出したこと、翌日に脅迫電話がかかってきたことを認めた。

田沢が犯人である確証は何も無かった。

野崎は明子の髪型の変化で閃いた。

野崎は田沢に会い、真犯人が見つかったと鎌をかけたが、田沢は真犯人に興味が無かった。

山村は田沢に電話をかけ、アリバイトリックの説明をした。

田沢は怒って部屋を出たが、そこには小林がいた。

田沢は、ショートカットでサングラスをかけた小林を、小林と認識できなかった。

野崎は、田沢が小林を「ジュリアン」で目撃したはずなのに、髪の長い女性と証言したことから、田沢のアリバイを突き崩した。

野崎は田沢を逮捕した。

田沢は静恵を愛していたが、変わってしまい、重荷が分からなかったと述べた。

野崎は田沢に、小林が髪を切ったのは今日だったことを伝えた。

 

 

メモ

*「家族」以来、半年ぶりの長さん主演作。

*長さんと知能犯の対決、知能犯の緻密のアリバイを崩す推理もの。この他にも「偽装」と「ウサギとカメ」がある。

*話の大筋とテーマは悪くないのだが、アリバイのトリックと、田沢と小林の接点にかなり無理のある話。

*なぜか、長さんは「ジュリアン」の常連客の小林を探すのに、会社を1軒1軒聞き込むのではなく、街中をぶらつき回るという非効率な方法をしている。

*歯科から京浜観光経理課のビルまでの距離はかなり遠く、オペラグラスを使ったとしても横領を見ることは不可能。

*小林の横領金は、一応給料日に返済されている。作中では殿下が「犯罪にならない」と断定しているが、実際には横領罪となる。

*「旅行」の書き方が古い。

*話の流れはこの後の「待伏せ捜査」とよく似ている。

*小林は共犯だと思っていたが、単にアリバイ工作に利用されただけのようだ。

*アッコの髪型が、ゴリさん曰く「星の王子様」(?)っぽいものに変化。本人は女っぽくなったと主張している。

*最後、長さんがアッコにプレゼント。ボス曰く、長さんは「星の王子様」ではなく「星のおじさん」。(笑)

*近年の地上波再放送では放送されていない話。理由は不明。

*脚本の深見氏は中村勝行氏のペンネームらしい(2022年4月追記)。ということで、中村氏の『太陽』最初の執筆作品となる。中村氏は推理編を多く手掛けている。

 

 

キャスト、スタッフ(敬称略)

藤堂俊介:石原裕次郎

三上順:勝野洋

田口良:宮内淳

野崎太郎:下川辰平

 

 

矢島明子:木村理恵

田沢啓介:安井昌二

小林冴子:鮎川いづみ

伊藤課長:有馬昌彦、桐生かほる、藤城裕士、山田貴光、加藤雅子

田沢家の近所の主婦:東静子、田沢家の近所の主婦:川口節子、渡辺次雄、宍倉るみ、芳賀まり子

 

 

石塚誠:竜雷太

島公之:小野寺昭

山村精一:露口茂

協力:ミザール望遠鏡、日野金属産業株式会社

 

 

脚本:深見泰(中村勝行)、小川英

監督:児玉進