私の夫は某大学で教授をしています。

まぁ、仮にZ大学とします。

 

あれは三年前、

ある事件を発端に、大学の良識と勇気ある教授人が

大学トップの総入れ替えを嘆願する署名運動を行った。

 

夫は、それに署名してもいいかと尋ねてきた。

一週間ほど前に署名運動のことは聞いていたので、

もうとっくに署名したと思っていた私は、まだしていないのかと驚いた。

何を今更…

「どうぞ!」と即答。

 

夫は、

「もし、署名したら大学を辞めさせられることになるかもしれない」という。

私 「でも、以前から、コンピューターや備品を買うのに、決まった業者から高額で購入するという縛りがあって他に値段の安い業者から購入したいと思っても出来ない 他にも変な縛りがあって訳がわからないとぼやいていたでしょう?」

 

学生のために環境を良くしたいと思っていても予算に限りがある中、覚束ない、学生がかわいそうだと歯痒い思いをしていたのを都度都度聞いてきた。

 

夫は勉強の好きな人だ。

好きな学問に限ってだけど。

でもどんな学問でも、学問に関して積極的な学生にあたると心底嬉しそうにしている。

 

Z大学は、夫にとっては転職三度目の大学。

最初は会社勤め、恩師に呼ばれて出身大学に戻り、次ははたまたその恩師に呼ばれてC大学に移り、そしてこのZ大学。

 

より良い研究場所、学生との学問のより良い環境の共有を心から求めている夫にとって、疑問に思うこと、臍を噬むようなことが多々あったようだ。

 

私 「働くところはどこでもあるよ。あなたは頭がいいんだし、教えることが上手なんだから、塾でもどこでも、なんでも出来るよ。別に全然気にしない。それよりも今それに賛同しないなら、逆にあなたの人間性疑う。」

 

いいのか悪いのか、私はなんか変、と思ったら、身動き取れなくなる。軽く目をつぶって…なんて器用なことは出来ない。

まぁ、そんな世渡り上手なら、きっと今頃、そこそこ食える役者になっていただろう。

 

夫が無職になるかならないは問題じゃない。

 

「大丈夫!何も気にするな!私が食わしてやるから!」

と言えないのが、なんともかんとも悔しい。

情けない。

 

あ〜ぁ、食える役者になりたいよ。

 

で、署名運動から三年、署名運動は無かったに等しく何事もなく過ぎ、事件の発端で一度は理事の一員から省かれた人がいつの間にやら返り咲き、訳がわからんと夫はほんのりとぼやいていた。

 

そしてやっと!

警察の手が入り、この度、理事は総入れ替えとなったそうな。

 

良かったねぇ。

 

けど、「わからんぞぉ、どうなるか。」と夫。

私大は特に同窓会が力を持つらしい。

 

穴はいくらでもあるんだねぇ…

 

相変わらず、ニュースで聞く取っ捕まえられた元理事長の言葉に、学生にすまないことをしたという言葉は一言も無い。

 

「学生がかわいそうだ」と はたまた夫が呟く。

 

そうだねぇ、ああいう大人を見て育った人間は一体どんな大人になるんだろう?

 

金の亡者で人非人。

 

つくづく、

そんな人に私はなりたくない。

 

損だらけの人生でも全うするよ。