アガサ・クリスティー「愛の旋律」 | chisaの水色blog

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愛の旋律
アガサ・クリスティー 中村 妙子
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本日の一冊感想文は、アガサ・クリスティーの「愛の旋律 です。


この作品はクリスティーがメアリ・ウェストマコットという別名で書いた小説になります。


クリスティーは、推理小説家として有名になり始めた頃に推理小説ではない小説を書いているのですが・・・「アガサ・クリスティー」という名前を使ってしまうと、ミステリーだと思って手に取った人が落胆するのでは・・・ということで「メアリ・ウェストマコット」という名前で何作品かを執筆しています。


本作は、そのメアリ・ウェストマコット名義で書かれた初めての作品となっています。


ストーリーはというと・・・ヴァーノンという主人公を中心としつつも、いとこで勝気なジョー、隣に引っ越してきたユダヤ人のセバスチャン、幼なじみのネルの四人の人生を織り交ぜて(時に視点を変えながら)ドラマチックな人間ドラマが描かれています。


まずは本のボリュームに驚かされます(笑)

厚い・・・意外と厚いです。←京極夏彦ほどではありませんが・・・(^^;


同じくクリスティーの作品「ナイルに死す」よりもちょっと薄いかなぁ・・・という感じなので、かなり厚いという事がご理解いただけるのではないでしょうか。

かなり長編の部類に入ると思います。


厚い分、人間描写や心の機微が(クリスティー作品としては)非常に細やかで緻密なのが特筆すべき点です。

よく、クリスティー作品の登場人物に関して「紋切り型だ」とか「似たようなタイプの人間ばかり登場している」という批評を目にしますが・・・決して人物描写や人物の書き分けができない作家ではない、という事が本作を読むと良くわかります。

特に作中で病院看護の描写があるのですが・・・非常にリアルな描き方で、看護婦としての経験があるクリスティーの本領発揮!という感じの描写でした。


この「愛の旋律」はミステリー作品ではないにも関わらず、グイグイと読ませてしまう力を持っていました。

登場人物達もクリスティー作品で見かけるタイプも見受けられますが・・・人間的な存在感に深みがある描写で、「クリスティー作品」よりも一歩突っ込んだ描かれ方をしている為に新鮮です。


ただし最後数ページの結末がドラマチックすぎて、後味が悪い・・・というか、かなり割り切れない思いが残るクリスティーにしては珍しい作品でした。

本当に割り切れない感の残るラストです。


ポケットにライ麦を」で号泣したやるせないラストと、「バートラムホテルにて」での後味の悪さを、はるかに凌駕するようなラストに驚きました・・・うーん、この辺の畳み掛けるようなアッと言わせるラストは「さすがクリスティー!」としか言い様がありません。


タイトルに反して、単純なラブストーリーではなく・・・むしろ、人間の業とかサガとか・・・ドロドロしたようなものに満ち溢れているおですので、軽い気持ちで読むのには適さない話です。

たぶん25歳以上が対象年齢だろうなぁ~(笑)←そうじゃないと、人生経験が浅いこの作品の根底にある怖さがイマイチ判らないかも。

登場人物の誰に感情移入するかによって印象がガラリと変わると思うのでその点も面白いかもしれません。


まぁ読後感はともかく、面白いし一気に読めるくらいの力を持っているので非常にオススメです。

クリスティーファンは必読でしょう。

・・・そういえば、読み終わってから気づきましたが・・・確かドラクエ5に「愛の旋律」っていう曲がありましたよね。


主人公がビアンカかフローラのどちらを結婚相手にするか悩む夜にBGMとして流れていた曲のタイトルだったと思うのですが、非常に良い曲で私は好きです。(ちなみにドラクエ5だと「愛の旋律」と「結婚ワルツ」、ドラクエ全体だと「この道わが旅」、「おおぞらをとぶ」、「時の子守唄」あたりが好きですね~)


クリスティーの作品「愛の旋律」もネルかジェーンのどちらの女性を主人公ヴァーノンが選ぶのか・・・という点も作品中の気になる展開になっているので、偶然の一致につい思い出しました。


・・・が、このクリスティーの「愛の旋律」では主人公ヴァーノンのラストでの選択に、そんなドラクエ5での切ない思い出が思いっきり吹っ飛ばされました(^^;


うーん・・・芸術家肌の男というのは、やはり怖い・・・

そして、人間の血と肉を糧にして誕生する真の芸術(=巨人)というものは本当に恐ろしいですね・・・(^^;←ちなみにこの作品「愛の旋律」の原題は「巨人の糧」です。


読み終わったら9割の方は最初のページをじっくり読む直すでしょう・・・そういう作品です。