太極拳とは東洋哲学の重要概念である太極思想を取り入れた
拳法で健康法としても広く普及している。
【はじまり】
元代、張三豊が少林寺で武術を修めた後に武当山に入って修行し、
道教の陰陽五行思想や吐納法と呼ばれる呼吸法を取り入れて
編み出したとされています。但し、張三豊は中国の他の伝説にも
現れる不老長寿の仙人の名前であり、この説については伝説の域を
出ていません。
実際の起源については諸説あるが、明代に河南省温県常陽村
(現・陳家溝)に強制移住させられた陳一族に家伝として
伝えられていた武術に、陳氏9世・陳王廷が様々な武術の要素を
組み合わせ、明代末期から清代初期にかけて創始されたとする、
武術史研究家・唐豪の説が通説となっています。
陳氏の武術は、一族と村を守るための門外不出の武術として
発展してきました。清代末期、陳氏14世・陳長興に弟子入りした楊露禅が
この武術を修め、北京に赴きこれを普及しました。
武術理論として王宗岳の『太極拳論』が重視されたため、
そこから取って『太極拳』という名称が用いられるようになったと
言われています。現在では、源流である陳家太極拳、陳家から分派した
楊式太極拳・武式太極拳を始めとして様々な門派が存在します。
一方、太極拳の健康効果は古くから知られていましたが、その習得は
容易ではなく、万人向けと言えるものではありませんでした。
そのため中国政府・国家体育運動委員会は、第二次世界大戦後、伝統拳の
健康増進効果はそのままに、誰にでも学ぶことのできる新しい太極拳を
作ることを計画しました。
著名な武術家に命じ、楊式太極拳を基に簡略化した套路を編纂し
1956年に制定。これが制定拳の始まりとなります。
制定拳は当初、国民の健康増進と、中国伝統文化としての太極拳の
普及を目的としていました。
世界的に普及した現在は、グループ表演や競技会も盛んに催されており、
運動競技としての一面も強くなっています。
それに伴って、武術的な側面から制定拳を再編する動きがあり、その一方で
健康効果を考慮した新たな総合太極拳(三十二式太極拳)が編纂される
などもしています。
日本においては、1972年の日中国交正常化以後、来日した中国人教師など
から太極拳の存在が徐々に知られるようになり、また中国政府の普及政策
によって中国から太極拳を持ち帰る日本人も現れ、健康体操としての制定拳が
広まっていきました。
激しい運動を伴わず場所を選ばずに容易に行えることから高年齢層を
中心に人気となり、現在では全国に草の根レベルで太極拳教室が存在
しています。
【どんなもの?】
東洋哲学の重要概念である太極思想を取り入れた拳法で、形意拳、
八卦掌と並んで内家拳の代表的な武術として知られています。
健康・長寿に良いとされているため、格闘技や護身術としてではなく健康法として
習っている者も多く、中国などでは市民が朝の公園などに集まって練習を
行っています。
日本国内でも愛好者は多く、『太極拳のまち』を宣言した福島県喜多方市の
ように、自治体単位で太極拳を推進している例もあります。
武術として継承されてきた太極拳は『伝統拳』と呼ばれています。
十三勢と呼ばれる基本功に始まって、套路、対練、推手、散手と進むのが
一般的な流れで、これによってそれぞれの門派における太極拳の技法を
習得します。
特に套路は、緩やかで流れるようにゆったりとした動きで行うことで、
正しい姿勢や体の運用法、様々な戦闘技術を身に着けます。
しかし実際の戦闘における動作はゆっくりしたものではなく、熟練者においては
むしろ俊敏で力強いものとなります。
徒手の応用として、太極剣、太極刀、春秋大刀、槍など武器術の套路も
伝承されています。