虫垂炎とは
虫垂炎は何らかの原因で虫垂内部がつまり、二次的な細菌感染で炎症が起きた状態である。原因についてはアレルギー説、自立神経失調説、ウイルス説等があるが、腸の内容物やリンパ小胞が増殖してつまることが多いようである。
よくある疾病だが、炎症が起きた虫垂を治療せず放置すると、やがて破裂、細菌を含む腸の内容物が腹腔内へ漏れだして、腹膜炎につながる恐れがある。また、虫垂が破裂すると、膿がたまる膿瘍が形成される。女性では卵巣や卵管に感染が広がり、卵管閉塞を併発、不妊の原因となる場合もある。さらに細菌が血流とともに全身に広がり敗血症を起こすと命に関わる。
主な症状は、吐き気、嘔吐、右かふく部の激しい痛みといわれるが、自覚症状がない場合も半数を超える。上腹部やへその周囲の突然の痛み、吐き気・嘔吐の後、吐き気は止まり右下腹部に痛みが移り、その部分を押してはなすと痛みが増す。この痛み方を圧痛といい、虫垂炎の診断で特徴的なものだ。しかし、乳児や子どもでは痛みが腹部全体に広がることが多く、高齢者や妊婦は痛みが症状に比べて強くなく、圧痛がない場合もあるので注意が必要である。発熱も見られるが37℃台後半-38℃台前半程度であることが多い。
早期の場合、エックス線検査、超音波検査、CT検査等の診断では確定できないことも多く、疑わしい場合は早々に試験開腹が行われる。
虫垂炎の治療
虫垂炎の治療は手術による虫垂の切除が基本である。虫垂は、化膿等の症状が出ると24時間以内に破裂するので早急な切除が必要である。開腹して虫垂に異常が認められず、腹痛等の原因が不明でも、虫垂は切除される。虫垂炎は措置の恐れが命に関わることがあるからだ。
成人では通常腰椎麻酔で施術されるが、高齢者や子どもは全身麻酔で行われることもある。虫垂の位置や症状によって、傍腹直筋切開法、腹直筋外縁切開法、交互切開法、横切開法等の術法がある。切開部は4-6cm程度で、虫垂の切除法には順行性虫垂切除術と逆効性虫垂切除術の2通りの方法がある。重症で腹膜炎を起こして腹腔内に膿性滲出物が出ている場合は、ドレーンを挿入して膿を出す。
虫垂切除の手術が完了すれば、死亡率は非常に低くなる。50年程前までは虫垂の破裂による死亡が多かったが、現在は手術と抗生物質投与の治療で、早期回復が見られ完治することがほとんどである。
・虫垂炎の圧痛点と圧痛
McBurney圧痛点(M)…へそと右上前腸骨棘を結ぶ線の右から5cmの部分。虫垂根がある。
KÜmmell(K)圧痛点…へそから右下方部1-2cmの所。大網が虫垂の炎症で引き寄せられている部分。
Lanz圧痛点(L)…左右の上前上前腸骨棘を結ぶ線上を3等分した右1/3の所。へそから4-6cm右下方。
圧痛域…盲腸の位置により圧痛点が異なる。四角形の圧痛域に圧痛が存在する場合は虫垂炎が疑われる。
・主な開腹法
①傍腹直筋切開法
②腹直筋外縁切開法
③交互切開法
④横切開法
・順行性虫垂切除術の手順
虫垂が周囲にあまり癒着していない場合行われる。
①虫垂の先端から根部まで虫垂間膜とその中にある虫垂静脈を結紮し切り離す。
②虫垂根部を結紮し、虫垂を切除する。虫垂断端を縫合し、盲腸壁に埋没させる。
・逆行性虫垂切除術の手順
虫垂が後腹膜、盲腸壁に高度に癒着している場合。
①虫垂根部を結紮して切除する。虫垂断端を縫合し、盲腸壁に埋没させる。
②切除した虫垂末梢側を癒着した後腹膜、盲腸壁から剥離しながら、虫垂間膜内の血管を結紮し虫垂を切除する。
・虫垂の縫合
①巾着縫合、②Z縫合、③レンベルト縫合
※盲腸の合併症で膿瘍が形成されることがある。膿瘍は盲腸の周辺だけでなく、横隔膜の下、側腹部、直腸前壁、他の腹腔内への形成もあり、多発性の肝膿瘍も見られる。
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