1種類の抗原に対して、1種類の抗体が作られる
ウィルスなどの外敵から身を守る手段として、生物の体には「免疫」という働きがある。免疫とは、自分の体内にないタンパク質(「抗原」という)が体に入ってきた場合に、それに対する「抗体」というタンパク質が作られる現象のことだ。
たとえば予防接種という方法で、あるウィルスのタンパク質を体内に注入すると、生物の体内ではそのウィルスに対する抗体が作られるが、このようにして特定の抗原に対する抗体を1度作っておけば、あとは万が一に問題のウィルスが侵入したとしても抗体がこれをつかまえてくれるので悪さを働かれずにすむ。
抗体は、骨髄で作られたリンパ球が細胞分裂してできる「抗体産生細胞」から作り出される。もう少し詳しくいうと、まず、抗原に出会ったリンパ球は細胞分裂して抗体産生細胞になる。そして、抗体産生細胞の遺伝子をもとに抗体が作られるのだ。
抗体にはさまざまな種類があるが、すべて同じ形と大きさを持つY字型のタンパク質で、H鎖とL鎖という2種類の分子鎖からなる。また、どちらの分子鎖も、抗体の種類によってアミノ酸配列が異なる「可変部」と、種類に関係なく一定のアミノ酸配列からできている「不変部」と、種類に関係なく一定のアミノ酸配列からできている「不変部」の2つのパートでできているという特徴を備えている。つまり、可変部のアミノ酸配列の違いにより、抗体にバリエーションが生まれるわけだ。自分の体内にないタンパク質というのは無数に存在し、生物はそれら1つ1つに対して抗体を作らねばならないため、このようなバリエーションを生み出しているのである。
・抗体はタンパク質の一種で、血液のガンマ・グロブリンと呼ばれる成分の中に含まれる。
・抗体の種類によってアミノ酸配列が異なる「可変部」と、種類に関係なく一定のアミノ酸配列からなる「不変部」の2つのパートでできている。
・1種類の抗体には1種類の抗体が対応する。
リンパ球にはT細胞(Thymus=胸腺に由来する細胞)とB細胞(Bone marrnw=骨髄には由来する細胞)の2種類があり、抗体を作るのはこのうちのB細胞だ。
B細胞の細胞表面には、抗体とほとんど同じ構造をした「抗原レセプター」と呼ばれるものが存在する。抗原レセプターはいわば抗原の種類を調べるアンテナのようなもので、B細胞はそのアンテナで抗原と結合し、抗原の種類を認識するのだ。抗原と結合したB細胞は分裂・分化して抗体産生細胞となり、抗体レセプターで結合したのと同じ抗原に対応する抗体を作り出すことになる。
例えば、あるB細胞がBというウィルスと結合した場合、そのB細胞は抗体産生細胞となってウィルスAに対応する抗体を産生する。
このようにいうと1個のB細胞で何種類もの抗原を認識できるように思うかもしれないが、そうではない。実際のところ、1個のB細胞で認識できる抗原はたったの1種類のみである。なぜなら1個のB細胞は1種類の抗原レセプターしか持たないためだ。例えば、Aという抗原に対応するレセプターをもったらB細胞は、抗原Aにしか結合しない。つまり私たちの体内には、抗原Aを専門とするB細胞(=抗原Aに対応する抗体のみを産生する)、抗原Bを専門とするB細胞、抗原Cを専門とするB細胞…といった具合に、莫大な種類のB細胞が存在するわけだ。その数はなんと10の8乗と推定されている。
・1個のB細胞は1種類しか抗原レセプターを持たない。
・抗体産生細胞は、そのもととなったB細胞が持った抗原レセプターと同じ種類の抗体のみを産生する。
遺伝子の再配列によって免疫遺伝子が完成する
B細胞は骨髄中の多能性幹細胞が分化することで作られるが、十分に分化していないB細胞には抗原レセプターは存在しない。というのも、抗原レセプター(および抗体)を作り出す遺伝子がまだ完成されていないからだ。この段階では、免疫遺伝子はいくつかの遺伝子群としてDNA上に存在しているだけである。
免疫遺伝子は「読み取り制御部」「可変部の遺伝情報」「不変部の遺伝情報」の三部域からなり、可変部は遺伝子の種類によってさらにいくつかに分けられる。H鎖を作る遺伝子の可変部V遺伝子とD遺伝子とJ遺伝子の3つのパートで構成され、L鎖を作る遺伝子の可変部はV遺伝子とJ遺伝子の2つのパートで構成される(VはVariable=可変性、DはDiversity=多様性、JはJoining=連結の略)。
分化しきっていない細胞の段階では、V遺伝子、D遺伝子、J遺伝子は、それぞれ複数の遺伝子からなる遺伝子群に過ぎない。ところが、B細胞が成熟する過程で免疫遺伝子の再配列が起こる。可変部の各遺伝子群の中で、それぞれ1個の遺伝子だけが任意に選び出され、その他の遺伝子は切り捨てられてしまうのである。簡単にいうと「V遺伝子1個+D遺伝子1個+J遺伝子1個」で免疫遺伝子の可変部が完成するわけだ。例えば仮にV遺伝子が100個、D遺伝子が30個、J遺伝子が6個であるとすると、遺伝子の再配列によって100×30×6=18,000種類ものH鎖を作り出すことができる。
以上のような再配列がH鎖、L鎖のそれぞれの遺伝子で起こって最終的な免疫遺伝子が完成する-これが比較的少ない遺伝子から膨大な種類の抗体が作り出されるしくみだ。
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