A 逆流性食道炎
胃液が食道に逆流してくる病気を胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease:GERD)といい、胃液の逆流によって食道に炎症が生じたものを逆流性食道炎といいます。
胃液中の酸によってさまざまな症状がおきますが、最も多い症状は胸の後ろが焼けるように熱くなる胸やけです。その他の症状としては、胸の痛み、みぞおちの痛み、せき、口の中が苦い、ときには喘息症状となどといったものがあります。
胸やけという典型的な症状があるので、後述する薬物療法で改善するようならば、特別な検査をしなくても逆流性食道炎の診断がほぼつきます。
症状からでは診断がつかない場合には、食道内24時間pHモニター検査で胃酸の食道への逆流をチェックします。
食道炎がひどくなると食道が狭くなり、食べたものがひっかかる感じがしたり、出血したりすることがあります。このような場合は、がんなどの病気と判別するために内視鏡検査が必要です。
さらに、逆流性食道炎の重大な合併症のひとつにバレット食道(胃酸の刺激によって食道粘膜の一部が胃の粘膜に置き換わってしまった食道をさし、食道がんの原因になるとされています)があります。これを確認するためにも内視鏡検査は行うほうがよいでしょう。
胸の痛みなどがある場合には、心臓の病気を除害するために適当な検査が必要となります。
薬物療法の奏効率は90%だが
逆流性食道炎の治療の第一選択は薬物療法で、薬によって胃酸の分泌を抑えます。この種の薬としてはH2ブロッカー、PPI(プロトンポンプ阻害剤)などがあります。その他、腸管運動改善薬なども使用します。薬物療法の奏効率は約90%とされています。しかし薬物療法を中止すると症状が再燃する率が高く、長期にわたる服用が必要となります。
手術治療が必要なケース
逆流性食道炎の手術適応には一定の見解はありませんが、おおよそ以下のような場合には、手術を考えるほうがよいでしょう。
・薬物療法が有効であるが、何らかの理由で長期にわたって内服できない場合。または本人がそれを希望しない場合。
・食道炎によるバレット食道、狭窄、重度の食道炎が存在する場合
・薬物療法に反応しない典型的症状
ただし、薬物療法で症状がまったく改善しない場合だと、手術によっても症状が残ることが多いようです。この点は注意するほうがよいでしょう。
内視鏡治療
最近では内視鏡による逆流性食道炎の治療が、欧米を中心に報告されています。これはエンドルミナル・テクニックと呼ばれ、腹腔鏡手術よりもさらに体への負担の少ない治療法として注目されています。その方法としては次の3つがあります。
・特殊な縫合器を用いて食道と胃の境目にひだを作る縫合法
・食道と胃の境目付近の両方の壁を電気メスで焼いて、ここを厚くすることで胃酸の逆流を減らす焼灼法
・やはり境目の筋肉に特殊な物質を注入し、この部分を硬くして筋肉の弛緩を防止し、逆流を防ぐ局注法
いずれも内服薬を手放せるようになる割合は50-80%であり、短中期的には良好な成績を収めているようです。日本にはまだ導入・紹介されてから十分な経験数が足りていないこと、欧米でも長期的な成績がまだ出ていないことなどから、この治療を行っている施設は全国的にも少ないようです。
腹腔鏡手術の実際
逆流性食道炎の手術は、おなかの臓器を取り出す必要がなく、また、おなかの非常に深い場所の操作となるため、視野のよい腹腔鏡手術がとくに適しています。その治療効果は開腹手術と変わりがないうえ、合併症が少なく、入院期間も短い、という報告が多くなされています。その治療効果は開腹手術と変わりがないうえ、合併症が少なく、入院期間も短い、という報告が多くなされています。
逆流性食道炎に対する外科治療は次の3つの操作からなります。
①胸のせり上がった胃を、おなかの方に引き戻します。
②胸とおなかを隔てている横隔膜を食道が貫く穴を縫い縮めます。
③胃底部(胃の一番頭の部分)を食道の襟巻き状に巻きつけます。
巻きつける程度によって手術名が変わりますが、巻きつけて弁の働きをもう一度作り直すという考え方は同じです。
通常、おなかにあけた5個の5-12mmの孔をとおして、器械を操作しながら行います。
術後は、手術当日もしくは翌日から水分摂取を開始し、それで問題がなければ順次食事が始まります。病院にもよりますが、術後2-7日程度で退院となります。
予後について
腹腔鏡手術を受けた人々の95%は4週間以内に症状が消滅し、2年後でも90%以上に症状の再発が見られません。
手術後の合併症としては、狭窄症状(食べもののつかえ感)、胸の痛み(襟巻き部分が胸の中に引き込まれるための症状)、膨満感、下痢などがあります。
なお、これまで述べた手術成績などは、腹腔鏡手術に習熟した医師が行った場合の結果であり、決して腹腔鏡による逆流性食道炎の手術が簡単というわけではありません。むしろ狭いスペースでの縫合手技が必要であるなど、高い技術が要求されますので、腹腔鏡手術を受ける場合には、術者が腹腔鏡手術にどの程度習熟しているかがポイントといえるでしょう。
腹腔鏡手術の症例
この男性(57歳)は、10年前から胸やけや胸の不快感があり、胃内視鏡検査をしたところ、食道がただれ、逆流性食道炎と診断されましたら、その後も治療せずに放置していましたが、症状が悪くなったために制酸剤による治療を開始しました。しかし、調子がよくなって薬をやめると、決まって症状が出現しました。
眠っている間に胃液が上がって来て、むせて目を覚ますこともあり、症状の持続と薬の継続がつらくなったために、腹腔鏡下ニッセン噴門形成術を行いました。これは、食道に胃の一部をぐるりと1周巻きつける方法です。
手術後は翌日から歩行と飲水を開始し、2日目には流動食から食事を開始しました。手術前にあったような胃液の逆流症状は、手術の翌日から消えました。また、手術翌日は飲み込んだものがつかえるような感じがありましたが、これも2日目には消えました。
術後6日目に退院し、その後も自覚症状の再出現はなく、胃内視鏡検査では以前認められた食道の炎症が改善されていました。
保険の適用について
薬物療法、手術治療ととも健康保険が適用となります。保険点数は、開腹手術で1万6200点、腹腔鏡手術で2万5200点です。保険点数は1点を10円で換算し、その3割が個人負担となります。
手術には、一時的に金額的な負担がかかりますが、この病気が再発しやすく長期にわたる服薬が必要とされることを考えると、長期的には手術を選択するほうがトータルの治療費は少なくてすむという報告があります。
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