「逝かないで 逝かないで 逝かないで」

声がかれるほどに絶叫しながら

 

 

ダーさんの身体を揺らし

 

手を握り

握った手を上下に激しく動かし

 

 

「Hさん! Hさん!! Hさん」と何度も名前を呼んで…

 

 

そしてまた、気が狂ったようにダーさんの肩を揺らしました。

 

 

 

 

 

 

「ダメだよ。ダメだよおいて逝かないで!!!」

 

 

「約束したじゃない。結婚記念日に旅行しようって!」

 

 

なんとか呼び戻そうと必死でした。

 

 

 

 

 

 

ダーさんの右手の指が

微かにピクッと動きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

我に返り

ダーさんの顔を見ると

なんとも言えない穏やかな顔をしています。

 

 

 

 

 

頬を撫で

何度も何度も頬を撫でて

 

 

 

 

溢れる涙を堪えながら

 

 

「ありがとう」

「本当に幸せだったよ」

「誰よりも愛しているよ」

「お願いだからあまり長い間一人にしないでね」

「なるべく早く迎えに来てね」

 

 

そう語りかけて

頬を寄せて…

キスをしました。

 

 

 

 

 

 

 

ピー-という機械音

 

真っ直ぐな直線を映し出すモニター

 

 

 

 

 

 

もう一度ダーさんの顔を見ました。

 

ダーさんは微笑んでいるように見えました。

 

 

 

 

 

 

 

つい数時間前まで、多くの人がダーさんを見守っていた病室

 

 

つい数分前まで、娘と息子も一緒に居た病室

 

 

 

 

 

 

二人きりになった

ほんのわずかな間を待っていたかのように…

 

 

 

 

全く苦しむことも無く

少し微笑みすら浮かべて…

静かに静かに旅立ちました。

 

 

 

 

 

 

「最後も二人っきりだったね」

 

 

 

 

 

 

まだ暖かいダーさんの胸に顔を埋めて

 

 

 

 

泣き続けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

読んでくださりありがとうございます。

ブロ友の皆さんが笑顔溢れる毎日でありますように。