あ~あ・・ついてないことが重なり・・どよよ〜ん不安として数日すごしていました・


どよ~んとしながら、フォローしている方のインスタを読みながら、号泣えーん 皆さんも読んだことあると思いますが、この物語書き起こしてみたいと思います。






「繁殖犬という生涯 Part1」


この自由。

大地に体を横たえ、雨に打たれて。

終わったのだ。なにもかも終わった。

もう、苦しむ必要はない。

私は、自由だ。

その時、雲が割れて、光が差した。明るく照らす光の先へ、

ゆっくりと登っていこう。

そして、私はゆっくりと目を閉じた。


私の名前は、25-B。

みんながそう呼んでいる。

ここは、昼でも夜のように暗く、湿っていてかびだらけだった。それぞれ身動きの取れないほど狭いケージに詰め込まれていた。中は糞尿だらけで居場所がない。食事は日に一度きり。

衰弱したものには、与えられないこともあった。

誰もが極度の空腹に耐え、瞳は色を失い、宙をさまよっている。

そこにいる誰もが皆、皮膚病や感染症に侵されていた。

体にはウジがわいていて、狂うほどの痒さのために掻きむしるから、皮膚はただれて血まみれの者もいる。

目が潰れて見えないものや、柵に肉が食い込み腐敗しているものも。

夏はうだるような暑さで、水は枯れ果て腐っていた。老いた者は一夏で衰弱して死んだ。

冬は軋んだ窓枠から冷気が入り、寒さで手足が壊死する者もいた。

それでも、私たちにはやらなければいけないことがあった。

ここは、人間たちの利益のために、命を生産し続ける工場なのだ。

ここにいる者は皆、生産機でしかない。

私たちは生まれながらに、あらゆる尊厳や権利を奪われた者たち。

人間の望み通りに子どもを産む。私たちが生きる意味はただそれだけ。

私たちが生きる術はそれだけにかかっているのだ。

ここでは、心の弱いものは生きてはいけない。精神を病めばさらなる地獄が待っている。

通路の右手にいるものは、24時間休みなしにグルグル回り続ける。食べることも眠ることも忘れてしまったように。

その奥にいるものは、尻尾を食いちぎる自傷行為を続け、遂には男たちに血だらけの尻尾をナイフで切り取られてしまった。

彼らの鳴り止まぬ断末魔の叫びの中で、私が生きることを諦めずにいられたのは、彼女のおかげだった。

そう、彼女がいたから。


16-K。

彼女は、私のケージの隣にいた。私よりずっと歳上の頼もしい先輩だった。

彼女はどんなときにもメソメソしたりしない。気丈で芯が強く、いつも凛々しかった。

とても小さな母体でもう10回も産んだ。

ここの経営が苦しくなってからは、帝王切開も獣医の手にかけてもらえない。奴らは自分の手で私たちの切開をするのだ。それは、あまりにも酷い処置で、しかも、無麻酔で行うのだ。

16-Kは、歯を食いしばって泣かなかった。

「あたしたちは、使い捨ての命なのよ」

それが、彼女の口癖だった。


忘れられない、最初の切開の夜。その晩は長雨が続いていた。痛みに泣き続ける私を慰めようと、彼女は一晩じゅう喋り続けた。


雨をみたことがある?

あれは、死者たちの涙なのよ

あたしたちの死を誰も悲しまない。だから、誰かの命の終わりを亡き友が代わりに悼んでくれる。死を悼む雨は、だから温かいのさ。


16-Kの囁くような声を聴いていると、痛みが少し遠のく気がした。彼女はおしゃべりをやめなかった。朝まで一睡もせずに。


彼女がいたから私は生きていけた。痛みに耐えられたのも、孤独に耐えられたのも、愛しい我が子を奪われる悲しみに耐えられたのも、彼女が側にいてくれたから。


彼女は知っていた。私たちがこの錆びた檻から解放される日が来ないことを。その日は、つまり死を意味していることを。


そして、私は知っていた。彼女の子宮が悪性の腫瘍を抱えていることを。そして、酷使された彼女の肉体がもう限界を迎えていることを。


ある朝、目覚めると、いつものように隣のケージに向かっておはよう。と声をかけたが、16-Kは答えなかった。彼女はもう、息をしていなかった。


程なくして扉が開く音がして、男たちがやってきた。死んでるな、いつものところに埋めとけ。そう呟き、隣のケージが開かれ、16-Kは後ろ足を掴まれて逆さまに引き上げられた。

男たちはそこから部屋の奥の角に向かって、まるで廃棄前のゴミのように亡骸を無造作に放り投げた。

私の大切な友人を。

私をどんなときにも苦しみから救ってくれた友人を。


Part2につづく