三日月村の満月~4/1の会話より | 【作品集】蒼色で桃色の水

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…



いつもはあまり語らない彼女が

満月の晩になると

よくしゃべる


私はそれがうれしくて

いつもとは逆に聞き役になる


彼女の白い手を満月に翳すと

透き通ってしまうかのように見える…


ひらひらと動かす手のひらが

桜の花



じっと見つめている私に




「融けてしまいそう・・・」





「貴方はどうやって死ぬの?」




彼女は月に手を翳したまま

私に訊ねる


「玄関に置いてある古い三輪車の置物…車輪が錆びているでしょう」


私は、彼女が昔の恋人にもらったその置物をよく眺めていた


「あれ…血なの。」




彼女の庭に置いてあるブランコに揺られながら


「このブランコの左上・・・疵があるでしょう」




私は木製のブランコの疵に手をさしかける

これも彼女の昔の彼からのプレゼントだ





「そこで首を吊ったのよ」






「リビングに飾ってある・・・」






一体、彼女は何人の恋人を亡くしたのだろうか・・・

私は彼女の言葉には耳を傾けず

やっと満開になった桜を見つめていた






「ねぇ、あなたはどうやって死ぬの?」







「君と一緒に・・・太陽に焼き尽くされて死ぬよ」







「じゃぁ、貴方はあと100年生きなければ死ねないのね・・・」













三日月村の夜はとても静かだ







彼女はブランコから降りると

真直ぐ桜の木を指差し


「あそこに穴を掘りましょう・・・二人がすっぽり納まるような」


「でもダメね・・・二人で入ったら土を被せる人がいないもの」




「あの樹の下ならゆっくり眠れるはずなんだけど・・・」






「咽が渇いたわ・・・貴方の血をちょうだい」




私は彼女をゆっくりと抱きしめた






彼女は今日が4月1日ということを知っているのだろうか


君が嘘をついているのか

私が嘘をついたのか


次の満月の夜には判るだろう・・・