289. 歓送迎会が増えてまいりました | 宿屋のおやじ日記

289. 歓送迎会が増えてまいりました

各企業さん、行政さん、あるいはいろんなグループさんでの歓送迎会が

増えてまいりました。


僕自身がサラリーマンとして長い勤務をしたことがないから 直接の感慨

とか淋しさを体験した事はなくて 想像の世界でしか分からないのだけれど

・・・・。


もう二十年以上も前に こんな思い出があります。

ある会での送別会の事。


当時 僕は専務という立場で カラオケの出し入れ、まだまだ8トラックの

カセット型のテープが最新鋭の時代。それを出し入れするのをお手伝いして

いる時代でした。


そこで乾杯の前に 退職される方が お礼のご挨拶。


順調に 余興も続きまして その方の番になりました。

司会の方が 「 今日が見納め 」なんて言われてましたっけ。

かなり その世界では というか その会社では有名な おひと だったようで

ヤンヤの歓声の中、どじょうすくい を始められました。皆さんの爆笑の中 

素人とは思えない芸が披露されまして・・・これまた大拍手。


お着替えがすんで しばらく経って 今度は カスバの女 を歌われたのですよ。


歌手になりたくて 家出をし 国立音大を中退した、そして 今はない 赤坂の

月世界で  イヨマンテの夜 を歌ったという父を持つ僕が、子供の頃から 時々

聞かされていた歌のひとつでした。


これもまた全員が聞きほれる出来栄えで 大拍手。


しばらく後で「 もう手伝いはいいよ、僕達でするから 」と言っていただいて 

少し様子見をして失礼した 事務室までの途中でした。


わが宿は ちょっとつくりが変わっていて 主要道路が三階の位置にある事から

通常の三階がフロントロビーになっています。そして、宴会場やお風呂が 

一階や二階にあるのですよ。 この時の会場が一階でして、ここからは 湯本

温泉中央を流れる 清流 音信川・おとずれがわ・が眼の前を流れているのが

見えます。


この川を眺めながら お一人の方が 煙草を吸っていらっしゃるようでした。

すぐにあの方だ、とわかりまして、 送られる側のかたですから やはり 会場に

いらした方がいいのでは といらぬ気がおこりまして 「 お酔いになられ

ましたか。素晴らしいお歌を聞かせていただきました。父も大好きな曲なんです

よ。」なんてお話できたらと ゆっくり後ろから近づいたのですが すぐに泣いて

いらっしゃるのが理解出来ました。


その頃には まだ 早期退社 とか 退職金上乗せ なんて 言葉は存在して

いなかったと思いますから キチンと精一杯努め上げられての その日の行事

だったのでしょう。 大人の人の泣き顔なんて見る体験も少なかった僕は

もうドギマギして 事務室に帰ってからも そのことを話すのは その方に失礼

のような気がして黙っていました。


私共の宿屋の中で 本当にいろいろの物語が発生し 進行し その中には 

出会いや 別れや 活字に出来ないようなストーリーが展開しているのだろう

なぁ。


その時まで 何気なく感じていた 飲まれて 騒がれて お風呂に入られて 

やすまれて・・・・・などという 日常の業務に 得もいえぬ 責任みたいなものを

初めて感じた出来事だったのでした。

 

その時の方の所在は不明なままですが 多分 おやさしい おじいちゃんに

なられて・・・その時すでに そうであったかもしれませんが・・・。 お元気に

お過ごしであろう あって欲しいと思う 宿屋のおやじ でした。