月はどうなるの?

           ~太陽と月と真子~ ⑪

 

 

ホワイトハウス、シチュエーションルーム――

「メッシの覚醒は、確認されたのか?」

ツッチーノ首席補佐官は、イライラして叫ぶ。

国防長官「覚醒した・・とまでは、確認できないが・・」

「覚醒したのなら、ルールブックを始末しなければ・・」

そこへヒフミンスキーが入ってきた・・

「ヒフミンスキー、覚醒があったなら、瞬時に・・」

「ない。国防長官にすでに話した通りだ。

 もし覚醒なら、第一に伝える」

「だが・・」

「メッシは起動した・・」

「なに?覚醒と起動は違うのか?」

「どうやら・・そのようだ・・・

 2時間前に、全世界同時に、計器の誤作動があった。

 研究所の分析によれば、時間の断層があったのだろう、と。

 そのような現象は、メッシ以外に考えられない・・

 が、もしメッシの覚醒があった場合―

 それは、首席補佐官、わたしに聞く必要はない・・」

「どういうことだ?」

「その衝撃は世界規模となる。

 計器が拾うだけにとどまらない。

 一種、地震に似たものになるだろう。

 また、時間の断層も、

 一般の人が感知するほどの規模になるだろう・・」

「そんなにか・・」

「なんせ―

 暗黒の大魔王の降臨、だからな・・・」

国防長官「“鍵”は、前に考えられたような、

   持ち運びできるような、装置ではないのだと?

   いや、もちろん、このことは周知ではあるが・・」

ヒフミンスキー「以前は、我々の知識は不十分なものだった。

   それゆえ、前は、ジュリーの射殺を最優先にしていた。

   “鍵”というものは、メッシの一側面に過ぎない。

   メッシはとても手に負えるものじゃない。

   鍵として起動すれば、それは同時に、

   メッシが起動したことになる」

ツッチーノ「ジュリーを射殺することが、

   甚大な結末をもたらすことについては、

   情報を広めることに手を尽くしたが・・」

国防長官「残念ながら、ギャング団の方は、

   その情報を我々の陰謀だと、とらえたようだ。

   まあ、はじめから、信じてもらえるとは、思わなかったが・・」

ヒフミンスキー「残念なことだ・・

   で・・ルールブックの方は?」

国務長官「メッシの・・起動・・だったかな・・

   その時に、自動的に日本政府にすべて明かした。

   また、ルールブックを米軍の管理下に置くよう要請し、

   了承してくれた」

ツッチーノ「その辺はうまくいっている。

   あとは、実際にルールブックを管理下においてからだ・・」

ヒフミンスキー「あと・・良い報せもある。

   “鍵”は・・ジュリーという女は・・

   我々が思ったよりも、理性的である可能性がある・・

   そうでなければ、とっくの昔に、

   メッシの最終形態に移行していただろう・・」

ツッチーノ「その女が事態をコントロールできていると?」

ヒフミンスキー「まあ・・その可能性はある・・

   うむ・・解析の進展がいつも遅くて申し訳ないが・・

   今の段階では、あくまで可能性だが・・

   覚醒前のメッシとは、交渉が可能であるかもしれない・・

   まだ、あやふやだが ― 重大なことであるので、

   あらかじめ、伝えた方がいいと思ってね」

国防長官「もちろんだ。準備がいる。

   情報が確定次第、すぐに行動に移りたい」

ツッチーノ「む・・・ハルマゲドン寸前だったか・・・

   まさか、地球の命運を、

   女チンピラが握ることになるとは・・・」

ヒフミンスキー「AKBというのは、結局・・」

ツッチーノ「むう・・ヤクザと秘密教団の中間というところ・・

   だが・・まったく要領を得ん」

国家情報長官「本部はもぬけの殻だ。

   最高指導者は逮捕したが、

   意味不明のことしか言わない・・・

   ルールブックとメッシがそこで、

   どういう役割をしていたかも、不明だ」

大統領だ・・

と、いう声とともに、

室内がざわついた。

ツッチーノは、目を疑った。

ぺー大統領が、かわいくて、愛らしくて、

超ミニ姿が似合っているのは、いつも通りだったが・・

なんと・・・・・

コミーと、手をつなぎながら入ってきたではないか!

しかも・・恋人つなぎだ――

薔薇が咲き乱れるかのような、ふたりの見交わす笑顔・・・

ツッチーノは怒りを通り越した。

覆水盆に返らず―

ふたりは考えに考えた末・・

この行動に出たのだ。

まさに、クーデターともいえた。

決意の実力行使だ―

今さら首席補佐官がどう動けるものでもなかった・・

ここにいる者はみな―

大統領のスキャンダルをもらすようなことはしない。

ツッチーノは指をくわえて見ているしかない・・

だが―

ひとつだけ―

米大統領のぺー大統領は、計算違いをしている・・

状況は変えられずとも、

ツッチーノは全力でペーをいびりに出る。

いびっていびっていびりまくる・・・

ツッチーノは我知らず、鬼の形相になっていたが、

そこで、コミーとバチバチと目が合った―

コミーは戦闘態勢にあった。

コミーの目は殺気を帯びていた・・

首席補佐官は目をそらした。

コミーとやり合っても仕方がない・・

首席補佐官の立場で、

いくらでも大統領をいびる機会はある。

ツッチーノは酷薄な笑みを浮かべた・・

コミーはぞっとした―

コミー自身は、不敵なまなざしでツッチーノをとらえ、

ペーの腰に手をまわし、エスコートした・・

ふたりの上気した頬は、まだ、さめきってはいなかった―

そして、からみ合わんばかりの、ふたりの美あんよ・・

腰がふれ合い・・・

だが、だれも―

そこに目線をやるものはいなかった・・・

たった一人を除いて―

ヒフミンスキー!

あの、じじい・・・

ツッチーノはギョッとした。

科学者のくせに、こんな生臭い好色じじいだったのか・・

さりげなくいちゃいちゃしてるペーとコミーの、

腰のあたり・・腿のあたり・・を・・・

クワっとガン見し―

目玉が・・ふたりに張り付くのでは・・と思わせるほどだった。

ツッチーノはヒフミンスキーをにらみつけた。

が、ヒフミンスキーはじりじりと、

ふたりとの距離を縮める・・・・

ツッチーノは介入しようと、立ち上がったが・・

なぜかふたりは、きぃちゃんきぃちゃん・・と、

黄色い声を上げ―

ヒフミンスキーにべたべたするではないか・・・

さすがにこの場面には、みな当惑し、

視線が集まった・・

が、すぐにみな、視線を散らした・・・

ツッチーノは迷ったが・・

ここはコミーに任せることにした。

ヒフミンスキーの方は―

悪い気はしてなかったが・・

どうして自分が、ふたりのミニ姿に、

こんなに引きつけられるのか、見当がつかなかった・・

また・・キーちゃん呼ばわりも・・

なぜそういうことになったのか、わけがわからなかったが。

今では悪い気はしていない・・

気がついたら、キーちゃんが、もっとかわいくなって・・

きぃちゃん・・みたいに・・変化していた―

が―

突然の騒ぎ―

国家情報長官「大変なことが起きた。

   アサシンがトーキョーのヤマノテ・ラインに乗っている・・」

国防長官「バカな!」

コミー「そんなはずはないでしょう!」

首席補佐官「それは位置情報の解析からか?

   目撃情報はないのだろうね?」

国防長官が連絡を取っている間、

不穏な空気が流れた・・

国家情報長官「位置の解析では、ほぼ間違いない。

   だが―

   物理的に不可能だろう・・

   ありえん!」

国防長官「まことに言いにくいことながら・・」

全員の目が集まる・・

「目撃情報はないが、

 位置の解析では、間違いなく、

 アサシンはヤマノテ・ラインに乗っている・・

 それだけではない・・

 我々の計画には―

 暁の刺客作戦には、当初から、

 トーキョーの鉄道の利用が入っている・・」

ありえん!バカバカしい!クレージー!

あちこちから声が出た・・・

首席補佐官「これはマイナーな情報だから、

   みなが共有する情報ではなかったが・・

   これもやはり、歴史の書き換えか・・?」

ヒフミンスキーの方を見た。

「おそらくそうだろう・・

 アサシンは暴走し始めている、

 と・・見なければならない・・」

首席補佐官「アサシンを回収する作戦を、

   立案・即実行してほしい・・」

統合参謀本部議長「わかりました」

国家情報長官「特別顧問、歴史の書き換えとは・・

   常に、自覚症状のあるものなのだろうか?

   つまり・・」

ヒフミンスキー「つまり、違和感とか・・

   そういうことですかな?」

国家情報長官「そういうことだ・・

   メッシ覚醒の件でも、今回の件でも・・

   状況は違うが、自覚症状がある。

   いつでもそうなのか?」

ヒフミンスキー「残念ながら・・」

全員が、聞きたくない話が始まる・・という顔をした・・・

「例えば、ここにいる我々にしたってそうだ・・

 本当に閣僚はこのメンバーだったのか?」

みな、ポーカーフェイスをするしかなかった。

少なくとも、大統領を除外しているようには、聞こえた。

国務長官「今我々は世界線のループにいる、と・・

   いう・・話だった・・と思うが・・・

   それはみな、たぬたぬの・・ルールブックの・・

   太陽・月同一説から始まっている・・と・・・」

「その通りだ。

 だが、因果関係は逆かもしれない・・

 つまり・・世界線のループ形成が先にあって、

 どこが、その逸脱ポイントになるか ― は、

 偶然だったかもしれない・・」

国務長官「前の説明では・・

   太陽月・同一説が、不安定な太陽を刺激し、

   月が太陽の強迫観念である、という、強迫観念―

   を、引き起こしたか―

   あるいは、我々が逸脱した世界線に載っていて・・

   月は太陽の強迫観念による産物であり、

   月は実在しない―

   そのような世界に、今我々がいる・・

   その逸脱ポイントは、たぬたぬ、であった・・と・・

   すなわち、ルールブックである・・と」

「そのような説明を、確かに、した・・

 それは、わかりやすい説明だ。

 あるいは、見取り図、とも思ってほしい。

 どこがどことどうつながっていて・・

 何階にはなにがあるか・・

 一目でわかるような、シンプルな図―

 たぬたぬの、太陽・月同一説で、

 世界線がコースを逸脱し、ループを形成した。

 そのループを作ったのは、太陽だ・・」

国家情報長官「太陽が時間を作ったと・・

   時間を一直線と考えれば、

   ループができるというのは、

   本来の時間とは、ちがう時間が―

   創作された・・と。

   以前の説明を、そのように理解したが・・」

「その通りだ。

 そして、基本的な考え方は、

 我々は、そのループを完成させなければならない―

 と、いうことだ。

 そうなれば、世界線は出発点に戻る・・

 だが、気をつけてほしいのは・・

 あくまでそれは、便宜的な概略図だ、ということだ。

 信用しないでほしい。

 これからいくらでも、まったく違う説明が出てくる・・

 と、いう風に、思っていてほしい」

首席補佐官「よくわからないのは―

   太陽が強迫観念をもつ・・という点だ。

   それだと、太陽が精神をもつ、ということに・・・」

「それも・・その場限りの、苦しまぎれの比喩だった・・

 数式があらわす意味を、うまく説明できないので、

 比喩的に表現したのだったが・・

 その後も案外とつじつまが合うので、

 そのままにしているが・・

 まあ・・なかなか質疑応答ができる余裕もなかった・・

 まあ・・比喩は、比喩だが・・・

 それを前提としたうえで、

 太陽の精神的不安定が、

 世界線の逸脱の原因だ。

 そういう見方をすれば、

 大まかな理解はできると思う」

首席補佐官「で・・太陽は歴史を捏造しようとしていると・・」

「その通り・・」

国家情報長官「今現在は、月はないんだな?」

「そうだ。天体望遠鏡では、月を観測できる。

 だが、それは太陽の強迫観念に過ぎない。

 太陽が捏造しているのだ・・」

国家情報長官「いや、太陽が捏造しているのは・・・」

「つまり、太陽が精神的なやまいを患っている。

 自分の中でも、矛盾しているのだ。

 太陽が創作した、新しい世界で、

 つまり、月のない世界で、

 太陽は、月を捏造している・・

 それが、正確なところだ」

首席補佐官「だが・・ポイントは・・・

   この話のポイントは、どこにある?

   どうも、わかるようでわからない・・」

「その通りだ。首席補佐官。

 この話にはポイントがある。

 理論物理学者として、

 ここにはあるべきポイントが欠けている・・

 そう結論することができる。

 そのポイントがまだわかっていない。

 それがわかれば、

 問題解決のテコを得ることができるだろう」

首席補佐官「もうひとつある・・

   結局、補正項というのは、

   魔術的な力なのか?」

「比ゆ的に言えば・・そういうことだ。

 新しい世界線に載るにあたって、

 物理学法則も書き換えられた・・

 それが、超自然的ともいえる現象の原因だ。

 我々は、とりあえずの応急手当として、

 ニュートンの運動法則への、

 補正項を算出した。

 その初等的な解が、マコ解だ。

 だが、そもそもそれは、我々には理解しがたい、

 魔術的なものだ―

 それは、ルールブックという形で現れ・・

 それが物理法則に補正を加える、ということは―

 早い話が、魔術―

 と・・いうことになる・・・」

そこで、どんよりとした空気が流れる。

一瞬であれ、みなが投げやりな気持ちになっていた・・

そこへ―

国家情報長官「緊急事態です。

   ルールブックが逃亡した!」

みな―

最後の審判を頭に浮かべた。

この世の最後が訪れる―

だれもが直感した。

指原のえっち。