支援物資の箱
週末の代々木公園… いつも同じ男性から届けられる、という
支援物資の箱の周りに おっちゃんたちが集まっていました。
箱は2つあり、1つは洋服が入ったもの、もう一つは、主に薬でした。
マスクや うがい薬、胃腸薬に絆創膏、石鹸…
薬局で売られているような薬が何種類も入った箱は、大人気。
どれもこれも未開封のものばかりで…
純粋に薬が手に入って喜んでいる人もいれば、
「これは100円で売れるぞ」などと、収入源にしようとしている人も
いて… かなり盛り上がっていました。
「誰が こんなにもってきてくれるんだろうなあ…。」
「いつも同じ男の人が持ってきて、おいてってくれるんだよ。」
こんな会話が交わされたりして…。
皆、とてもうれしそうでした。
私の誕生日⑦最終話
みっちゃんが泣き始めると、I さんは こう続けました。
I:「でもよ、何時間待ってでも、結局会えたんだからいいじゃないか。
会えてよかったなぁ…ちなみちゃん。
みっちゃん!待っててくれる人間がいて、お前、よかったなぁ…。
そう思わないか?」
み:「……うん、そうだね。」
I:「ちなみちゃんもよぉ、こうして、結局会えてよかったなぁ、って
楽しくいかないと…せっかくのお前の誕生日が台無しだぞ。
せっかく会えたのに、これっきりになったら寂しいだろ?」
私:「そうですね…。」
I:「俺なんかさぁ、気楽でいいけどよ、気楽でいいんだぞ…でもなぁ、
待っててくれる人間がいたらなーって、時々は 思うね。」
私:「じゃあ、今度は I さんのお誕生日に集まろうよ!」
I:「生きてりゃいいことあんのかな、そのうち…。
とりあえず、俺は、もう少ししたらいいことあるぞ!
アパートに入れっからさ~!もうちょっとだ!!
で、今度さぁ、みんなで奥多摩にバーベキューしに行かねえか?
バーベキューはいいぞー。自然の中で食う肉はうめぇぞー。」
Iさんが 場の空気を変えてくれました。
それから、私たちは、ちょっぴり気まずい雰囲気の中、皆でわいわい
おしゃべりをし、
いつしか、いつものように笑い合って、楽しく時を過ごしました。
そして、気づけば夜・・・
別れ際、寝てる振りをしながら薄目を開けて、私をみていた I さん…
「またな。」 と言って 手を振ってくれました。
み:「駅まで送ってくよ、危ないから。」
みっちゃんが送ってくれるというので、駅までの道のり、一緒に歩きました。
その時、話をして分かったことがもう一つ。
遅れてきたみっちゃんは、私とIさんが楽しそうに話しているのを見て、
その輪の中に自分からは入ってこられなかったようなのです。
(…そんなこと、全く想像がつきませんでした。)
駅に着き、私たちは、仲直りの握手をしました。
私:「みっちゃん、今日は、強く言っちゃってごめんね。」
み:「私も、すみませんでした…。ごめんなさい。」
私:「また遊ぼうね。」
み:「また来てください。」
いつもお酒を飲み、冗談ばっかり言って楽しませてくれる Iさんは、
きっと、過去、いっぱい傷つく経験をしたりして…
人を信じられないけど、信じたいんだ…今日の出来事で、
Iさんの発する言葉から、「孤独感」や「やさしさ」が、
痛いほど伝わってきました。
そして、やっぱり人との付き合いが下手で不器用なみっちゃん…。
二人から、私は、とても大きな何かを学んだように思います。
私にとって、今年の誕生日は、忘れられない日となりました。
私の誕生日⑥
pm5:30すぎ…
「あれ!あそこ!みっちゃんじゃない?」…近くにいた人が教えてくれました。
あ!本当だ!みっちゃん!!!
思わず、駆け寄りました。
私:「みっちゃーーん!どうしたの?待ってたんだよー!」
み:「今日はもういい!帰ってちょーだい!!明日にして!帰って!!!」
…思いがけない反応が返ってきました。
・・・・・・。
私:「みっちゃん、今日約束してたの 忘れたの?」
み:「覚えてた!でも、もういい、もう寝るんだから帰ってよ!疲れた!」
・・・・・・・・・・・・・。
私:「分かった、帰る。でも、その前に、一つだけ聞いてもいい?
どうして みっちゃんは約束してて、覚えてたのに、そういうことを言うの?
悪いな、とか思いませんか?
何かあったなら話してくれてもいいよ。今日は何してたの?
Iさんも 私も、ずっと みっちゃんのこと待ってたんだよ…。」
み:「いい!! 知らない!疲れてる!!帰って!!」
私:「分かった… じゃあね。みっちゃんとは、もう約束しないかも。
そんなこと言うなら、もう来ないかもしれないから…バイバイ。」
すると、みっちゃんは、急に笑い始め、「あはははは。ごめんなさい。」
と言いながら、私のあとを追いかけてきました。
私:「みっちゃん、なんで急に謝るの?さっきまで帰れって怒ってたのに。
疲れてるならもういいよ。怒ってるみっちゃん、おかしいと思う。
謝るなら Iさんにも謝ったら?」
み:「悪かったよー。だから謝ってるでしょ!悪かったと思ってる。
ごめんなさい。」
私:「何がごめんなさいなの?」
み:「私、覚えてた。プレゼント買うよ。今から買うから。」
私:「プレゼントはいいの。いらない。でも、約束したなら、それは守ろうよ。
もし守れなくなったら電話してくれたらいいじゃん、みっちゃん。
みっちゃんは、そうやってお仕事も休むの?
お仕事は、一度も休んだことないって言ってたよね?
ちなみさんとの約束は、そんな風に破ってもいいって思ったの?」
み:「私、覚えてた。覚えてたけど、待ち合わせに早く着きすぎたんだよー。
早く着きすぎたからさー、電話したの。Nさんに…。
Nさんって、ホームヘルパーの男の人で、○○に住んでるの。
だいぶ前、道で声かけてきたの。
今日、アパートに来てもいいっていうから、そこに行ってた。
仕事の人は怒るから行くけど、ちなみさんは怒らないと思った。」
私:「分かった、Nさんの所に行きたくなったことはいいよ。怒らない。
でも、予定が変わったなら、せめて電話して。それを言ってるの。
いつも、みっちゃんは、よく電話してくれるじゃない?」
み:「Nさんと話してたからさあ…。だから、ごめんなさい!!
でも、いいじゃないのよ!Iさんがケーキ買ってくれたんでしょ?
Iさんがいたんだから いいじゃないのよ!!」
みっちゃんが投げやりになって、言いました。
…この言葉に、私は、大人気なく 腹が立ち、少し悲しくなってしまいました。
そのときです。今まで黙って聞いていたIさんが、口を開きました。
I:「ちなみちゃん! 俺なんて、10代の頃からそうやって裏切られっぱなしだよ。
もう、いちいち腹立てんな。仕方ないだろ?みっちゃんの気が変わったんだ。
誰も、誰かの気持ちをコントロールできねえってもんだよ。
でも、俺も○○駅には行けなかったんだし、なら、俺のことも怒っていいぞ。
期待して信用すっから、そうやって怒らなきゃいけないんだよー。
あんたはマジメなんだなあ。マジメなとこが大きいんだ。」
私:「……。でも、みっちゃんは、約束破った上に、こんなに怒ったりする
人だとは思わなかったから…。」
I:「甘いなあ。甘い! 人なんか、信用できねぇぞ。」
この会話を聞いて、みっちゃんが泣き始めてしまいました。(つづく)
私の誕生日⑤
Iさんと 雑談をしながら、みっちゃんを待つこと30分…。
私:「まだ来ないですねー。どうしちゃったんだろ、みっちゃん…。」
(落ち込みモードな私)
I:「そのうち ひょこっと顔出すよー。さっき俺に言いに来たんだから。
それよりさー、俺、喉渇いたなぁ。何か飲みもん買ってきてよ。」
(1000円札を差し出すIさん)
私:「えー。イヤです。みっちゃん来るかもしれないし…
ここで待ってますよー。Iさん、自分で行って来てくださいよ。」
I:「マジメだなぁ。マジメ、マジメ!!!
いいよ、じゃあ俺一人で行ってくるわ。じゃあな!」
私:「やっぱり私も一緒に行きます!!」
コンビニに買い出しに行くことに…。
I:「誕生日なんだから、好きなもん選びな!」
私:「いいよ、いいよー。自分で買うから…。」
I:「いいって言ってんだよ!ケーキも買うか…よし!コレとコレとコレな。」
…ロールケーキと フルーツがいっぱい入ったババロアと ジュースを
買ってもらいました。
I:「ちゃんとしたプレゼントはよぉ、ちょっと待ってくれよな。
7月の第一週になったら給料が入るんだよ。その時でいいか?
フェラガモの靴、買ってやるよ!オシャレは足元からって言うだろ?」
(なぜか、いつも "フェラガモの靴" を買ってあげる、と言ってくれる Iさん…)
私:「本当にいらない!!プレゼントはいいの!今日忘れずに来てくれた
だけで十分だってば!!それに、ケーキも買ってもらったし。」
…涙が出そうでした。(理由は上手く説明できません。)
元の場所に戻り、再びみっちゃんを待つことに。
Iさんと色々とお話をしつつも、時々、探しに 席を外したりしながら…。
私:「みっちゃん、見かけませんでしたか?」
みっちゃんがいそうな場所に行っては、色んな人に聞いてみました。
皆、"1時ごろに見かけたよ…" と、話は一致しているのですが、
手がかりは 何もありません。
私:「見かけたら、○○へ来るように伝えてください。お願いします!」
みっちゃんを知る人に お願いしておきました。
そして、それから約2時間後、pm5:30すぎ、やっとみっちゃんに会うことに
なるのですが…。 (つづく)
私の誕生日④
いつも集まって話している その場所に到着したのは、pm3:10すぎでした。
そこに みっちゃんの姿はなく、タオルをかぶって横になっている人が
目に入ってきました。(もしかして…Iさん?)
近くに脱ぎ捨てられていた靴に見覚えがあり、Iさんかな?という気がして、
声をかけてみようと思ったのですが…
"いびき" が聞こえてきたので、とりあえず やめました。
そこで、ちょっと 散歩でもしながら 時間をつぶそうかなあ…と
歩いていたら、Iさんのことをよく知る Rさん に会いました。
私:「Rさん、あのベンチで寝てるのって、Iさんかなぁ?
今日ね、2時に○○駅で待ち合わせしてたんだけど、会えなくて…。」
R:「あー、そうそう、あれ Iさん だから!起こしてみな!!
Rさんが起こしていいって言ったって言えばいいからさー。
あの人、珍しく、今日来てんだよねー。
ここんとこ、ずっと仕事があって、ホテルに泊まったりしてるから、
ちっとも顔出さないんだよー。ここには、昼すぎに来たばっかだよ。」
私:「え?そうなんですか?平日って、最近ここに来てないんですか?
先週も、先々週も、土曜とか日曜日、ここで話したりしたんだけどなー。」
R:「そうそう、なんかねぇ、土日になると来るんだよねー。」
色々と話を聞いて分かったのは、Iさんは、今日はおそらく、わざわざ出てきて
くれたのだということ…。(じゃあ、ひょっとして約束忘れてなかったのかな?)
はっきりしたことは分からないながらも、Rさんと話して 少しホッとしました。
そして、もう一度、その場所に戻ると… Iさんは 起きていました。
I:「よぉ!来たか!!」 …私の姿を確認するなり、Iさんが声をかけてきました。
私:「よぉ!じゃないですよ~!
Iさん、なんで 待ち合わせ場所に ちゃんといてくれないんですか?」
I:「俺、すっげー体調悪くてさー。あんな遠くまで歩けねーや、と思って。
ここにいりゃ、あんたのことだから、来っかなあと思って待ってたんだよ。」
私:「Iさん、それ調子よすぎですよ~。本当は忘れてたんじゃないですか?」
I:「そんなことねぇよ~!約束なかったら、俺、こんなとこに用はねぇから~。
ずっと覚えてたよ、ずっと!!先週も言ったろ?俺忘れてねぇよ。
あ、そういや、さっき、みっちゃんにも会ったぞ。みっちゃん、どうした?
ちなみさんが来るからって、確認に来たぞ。」
私:「え?だって、待ってたけど、みっちゃんも駅前にいなかったんですよ!」
I:「じゃあ、ここで待ってたら来るだろ、そのうち!」
そんな訳で、一緒に みっちゃんのことを待つことに…。(つづく)