特許期限問題、ジェネリック薬の台頭、人事転換、戦略の調整… これらは昨年、多くの大手製薬企業が共通して経験した変化と苦悩である。
2018年度MNCの財務報告が出揃った。Fierce Pharmaが発表した世界製薬企業営業収益TOP15リストを見ると、昨年とラインクインした企業に変わりはないが、順位の変動があったことが分かる。
昨年5位だったSanofiは販売額を2%近く落とし、7位に下がった。C型肝炎薬価格の圧力を受けているGileadは、順位を3つ落とし13位となった。一方、Keytrudaが好調なMerckはTOP5入りを果たした。“背水の陣”として2018年を迎えたBristol-Myers Squibbは15位から12位に上がった。BMSがもしCelgeneの買収に成功したならば、昨年度Celgeneの150億ドルの収入を参照に、TOP10に名を連ねる可能性も高くなる。
特許期限問題は、依然としてMNCが最も頭を抱えている問題の一つであり、ここ数年でいくつかの製薬企業が程度の大小に関わらず特許期限の崖っぷちにいる状態である。Fierce Pharmaが2019年アメリカにおいて特許挑戦を受ける危険性のある10大医薬品リストを発表したが、Rocheの“三大”抗癌剤やGileadの“二代”製品のうち2種類がランクインしたほか、Pfizer、GSKの特許保護が切れた医薬品もリストに挙がっている。
2018年販売状況を見ると、10大医薬品のうち半数以上の販売額が前年を下回っている。ジェネリック薬が次々と販売開始されている中で、10大医薬品は2019年更に厳しい状況に追い込まれるであろう。したがって、企業側は次の起爆剤を探し、特許期限によるマイナスの影響を埋めようとしているのだ。
製品面で見ると、新薬がやはり発展の主な推進力となっている。販売額成長の比較的早い企業のうち、Roche、Johnson&Johnson、AbbVieの新薬研究開発費は100億ドルを超えている。これに対して、Pfizer、Novartisは営業収益でこそ上位にいるが、特許期限問題やなかなか新薬開発が実現しないことにより、成長に陰りが見えてきている。また、新薬の中でも、抗癌剤は新たな成長分野となっている。Roche、Johnson&Johnson、AstraZenecaなど元々抗癌剤に重点を置いていた企業以外でも、これまではC型肝炎分野に専念していたGileadがCAR-T療法Yescartaを発表し、非常に好調である。
中国国内市場を見ると、過去一年間で、国家折衝・臨床代替・4+7帯量購買などさまざまな変化にみまわれたが、チャンスも見えてきている。2月に国家医保局が公表したニュースによれば、医保リストが間もなく調整され、抗癌剤・希少疾病治療薬・小児用薬などに有利になるとされており、これらはまさにMNCの“得意分野”である。重要な市場として、中国は依然として多くのMNCの業績のエンジン部分であり、人事調整や戦略の調整が継続的に推し進められているのだ。
1.Johnson&Johnson
2018年、Johnson&Johnsonは815.82億ドルの営業収入で、安定してトップの座に座り続けている。2017年と比較すると、製薬ユニットが12.4%増407.34億ドルの売り上げで、業績成長の最大の原動力となった。消費者保険商品と医療機器業務のユニットがそれぞれ138.53億ドル、269.94億ドルの収入である。地域分布を見ると、アジア太平洋およびアフリカはJohnson&Johnsonの2018年業績成長が最も早かった地域で、成長幅は10.5%、次いで欧州の9.5%である。
2018年、主要商品のRemicade(Infliximab)は、50億ドル以上の販売ではあるが、PfizerとMerckのバイオシミラーとの競争に加え、割引せざるを得ない状況や返金補償により、その販売額は2017年を15.7%下回った。
しかし、乾癬治療薬Stelara(Ustekinumab)の販売額が28.5%と大幅に拡大し、2018年の販売額が初めて50億ドルを突破、Infliximabの市場縮小を補っている。
Darzalex(Daratumumab)は多発性骨髄腫治療のためのモノクローナル抗体として初めて承認され、2015年の販売開始以降その範囲を拡大、販売開始から2年後には年間販売額12億ドルの主要製品となった。2018年10月19日、Johnson&Johnsonは中国NMPAにDaratumumabの申請を行い、優先審査を受けることとなった。2019年第三四半期には承認される見通しで、今後の成長が期待される。
しかし、Xarelto(Rivaroxaban)およびInvokamet(Canagliflozin)はどちらも競合製品の圧力を受け、業績は下降を続けている。2018年第四半期、FDAはCanagliflozinの新たな適応症を承認、さらに国内での大幅値下げもあり、市場規模は復活する可能性もある。
Johnson&Johnsonの昨年度の業績は、好調なものも不調なものもあった。しかし、2020年も首位をキープするのは確実であるとみられる。
2.Roche:新製品が大旗を担ぎ、全体を後押し
2018年度Rocheの実収入は581.21億ドルであった。業務ユニットで分けると、製薬・診断の二分野がある。2018年はどちらの分野も共に成長し、7%程度の伸び率となった。そのうち、製薬業務の実収入は449.53億ドルで、全体の77%を占める。
Roche三大商品(Rituximab、Trastuzumab、Bevacizumab)は、長年Rocheの業績を支えてきた。2018年も堅調であるが、バイオシミラーの出現により既にRituximabの業績に陰りが出始めている。EU地域での販売は47%減と大幅に下がった。
昔からの製品がバイオシミラーとの競合を避けられない中、Ocrevus、Perjetaといった新たな製品が大旗を担ぎ、Roche収入の成長を推し進めている。Perjetaの全世界での販売額は27%成長し、目を見張るものがある。
多発性硬化治療分野の見本製品であるOcrevusは、Rocheの最も成功した製品と称される。販売開始後1年ですぐに30億ドルの販売を達成した。2019年EUやその他地域でも販売開始され、ますますの増収の要因となると予測されている。
3.Pfizer:中国市場重視
年度報告によれば、Pfizerの2018年度営業収入は536億ドルであった。特筆すべきは、中国市場の第4四半期および通年業績がどちらも20%以上の成長であり、新興国市場での急激な増収のキーポイントとなったことだ。これによりPfizerは特に中国市場を重視するようになった。
新任首席執行官Albertは、非パテント薬やジェネリック薬業務に特化するアップジョン部門を中国に設立、Lyrica、Lipitor、Norvasc、Viagra、Celebrexといった20の主要薬を世界100以上の市場に普及させることを目的とする。
Pfizerは、無菌注射薬の欠品問題や、Viagra(Sidenafil)などの主要薬の特許期限の問題などにより、収益を落とす部分もあったが、第4四半期でバイオシミラーや中国を含む新興国市場業績の好転により、5%増の140億ドルの販売額を記録した。2019年にもさらに4つのバイオシミラーがアメリカにて販売承認される見通しである。
4.Novartis:戦略のモデルチェンジ
Novartisの2018年度営業収入は531.7億ドル、主に乾癬治療薬Cosentyx(Secukinumab)および心不全治療薬Entrestoの好調によるものである。Johnson&Johnsonと太陽製薬の競争相手が現れたが、Secukinumabの2018年販売額は36%増の28億ドルであった。SecukinumabおよびUstekinumabの臨床試験において、乾癬適応症ではSecukinumabがより優れた結果を出した。今後もSecukinumabの成長は続くであろう。
また、Secukinumabは第一回臨床急需境外新薬リストに入り、中国においても既に承認を受けている。
2018年、最も関心を持たれたのは戦略上の調整であろう。例えば、コンシューマヘルスケア合弁会社の36.5%の株を130億ドルでGSKに売却、また投資組合せ、地理的重点、コスト構成の簡素化等を含むSandozのモデルチェンジもしている。
5.Merck:がん治療薬に継続投資
Merckの2018年営業収入は422.9億ドルであった。成長の要因としてKeytrudaの功績が大きいのは明らかである。昨年癌治療分野においてPD-1が最も盛んであったとすると、MerckのKeytrudaとBMSのOptivoは、その栄誉に恥じない優れた製品である。また、肺癌治療においても、Keytrudaは絶対的王者として君臨している。2018年Keytrudaの販売額は、昨年同時期と比べ倍の71.7億ドルであった。
Keytruda以外にもMerckが近年投資を続けている製品が軒並み成功と言えるだろう。九価HPVワクチンの需要の高まりにより、Merckのワクチン分野収入も大幅に増えている。
また、他社と比べてMerckはM&Aについては慎重な姿勢をとっている。首席執行官Ken Frazierによれば、Merckでは近年大型M&A計画はないが、これは競争のし烈化によるもので、小型M&AがMerckが選択した方法であると述べている。
MerckとPfizerの共同開発PD-L1薬Bavencioは、2017年3月に承認されると同年の販売額が2100万ユーロ、2018年には三倍の6900万ユーロに達した。承認を受けるのが遅かったことや、適応症の承認が少ないことが原因となり、K薬、O薬といった70億ドル級の販売額と比べるとBavencioの販売規模は小さいが、成長速度は依然として早い。しかし、最近になって悪いニュースも入ってきている。K薬、O薬に対して承認の遅れをとったばかりでなく、卵巣癌、胃癌、肺癌の三分野においてBavencioのⅢ期臨床試験が失敗、適応症や販売にも影響が出ている。