2020年1月26日
QUEEN + Adam Lambertの来日公演、さいたまスーパーアリーナの2日目に行ってきました。
15年前(!)に同じ場所で観たQUEEN + Paul Rogersの時とは、思い入れも期待感も満足度も全く違っていました。
正直、ポール・ロジャースは好きなタイプのボーカリストではないし、その時はやはり過去の幻影を追いかけていて、クイーンの再始動を喜ぶ気持ちと、やっぱりこれは違うという否定の気持ちとが半々に入り混じっていました。
少年時代以来に見るブライアンやロジャー、スクリーンに映し出される在りし日のフレディの姿、思い出の名曲の数々に涙を禁じ得なかったけど、やっぱりそれは過去をなぞる「懐メロ大会」にすぎなかったと思う。
だけど、今回は違いました。
ブライアンとロジャーが揃ってアダムを「神さまからの贈りもの」と称賛する理由が、この公演を観てよく分かった気がします。
歌唱力や表現力はもちろん申し分ない、でもそれだけではなく、彼が醸し出す中性的でゴージャスな存在感が、クイーンの楽曲の持つ世界観にぴったりとハマるのです。
それはフレディのパフォーマンスとはまた違う、けれどもフレディ自身もおそらく好ましいと思ったであろう独特の雰囲気をアダムは持っています。
そのアダムのポテンシャルを最大限に引き出すべく、今回の公演は過去のクイーンのどのライブよりも、コンセプシャルで練られた演出がなされています。
これはもう「ライブ」というより「ショー」といった方がいいでしょう。
MCの中でアダムはこんな意味のことを言いました。
「僕たちはみんなフレディへの愛は同じ。だから今夜みんなでフレディ・マーキュリーのセレブレーション(祝祭)をしよう」
この言葉を手がかりに、今回のショーの演出を僕なりに深掘りしてみようと思います。
*
開演前、会場には低くブゥゥゥン、、、という唸るような効果音(おそらくレッドスペシャルのフィードバック音)が断続的に流れていました。
僕はすぐにこれが「トラック13」だと気づきました。
フレディの死後、遺された音源を最大限に生かして創られたクイーン最後のオリジナルアルバム「Made in Heaven」の13番目に隠しトラックとして入っていたもので、これは曲というよりも天上世界をイメージした心象風景ようなアンビエントです。
題名もクレジットもなく詳細は不明ですが、天国のフレディを偲び、その魂が安らかであれという祈りと瞑想の時間だろうと思われます。
会場に流れていたのがその「トラック13」そのものだったかどうかは分かりませんが、フレディの魂の存在を暗示していたことは間違いないでしょう。なぜなら、その後「Innuendo」のイントロに続いて始まった「Now I’m Here」は、明らかにフレディの「復活」を宣言しているとしか思えないからです。
巨大な女王のティアラがせり上がって現れたステージは、まるでオペラ座のガルニエ宮のような煌びやかな装飾が施されています。中央の赤い別珍のどん帳が厳かに開くとイントロリフを弾くブライアンが現れ、そのギターに呼応して、フレディの立ち姿そっくりのシルエットが現れます。
スポットが当たると、その「シルエット・マン」はアダム・ランバートの姿に変わり、「僕はここだ!」と高らかに宣言するのです。
これはフレディがアダムの肉体を借りて蘇った、あるいはアダムと共にあるという表明でしょう。
このショーのハイライトはいくつかあったけれど、演出的なポイントはこの「トラック13」を含むオープニングと、前半の「神々の業」、そして中盤の「Who Wants to Live Forever」からのギターソロを挟んで、終盤の「The Show Must Go On」だったと思います。
「神々の業」ではオペラ座の装飾がゆっくりと崩れ落ちていきます。黄金のレリーフが剥がれ、柱が次々と倒れ、瓦礫の中から現れたQUEENのエンブレムが最後は砕け散って空中に霧散していきます。
ここまでに演奏されたのは「Hammer to Fall」と「Don't Stop Me Now」を除いて、ほぼ「華麗なるレース」までの初期の(いわゆるタイツ期の)楽曲です。
実際のクイーンの歴史を辿ってみると、次作「世界に捧ぐ」からバンドは音楽的に新しいフェーズへと進化していきます。フレディも長髪を切り、タイツ姿からレザージャケットへとイメージチェンジをしていく過渡期に当たります。
演出の「オペラ座の崩壊」は、そうした音楽的な変革とともに、あらゆる古い概念や縛りから解き放たれたバンドの自由な姿を表していると考えられます。
ここでフレディの呪縛から解放されたアダムが、「Bicycle Race」「地獄へ道づれ」「Under Pressure」などのキラーチューンを独自の解釈で次々に披露していきます。
曲が進んで「You Take My Breath Away」の重厚なイントロでまた雰囲気がガラリと一変、続く「…Live Forever」でフレディの存在をあらためて思い起こさない人はいないでしょう。
そしてブライアンのギターソロへ、、、。
隕石に乗って空高く上昇し宇宙空間を浮遊します。ブライアンの周りにはいつのまにか色とりどりの惑星が取り囲み、「Innuendo」のジャケットイメージのようです。
幻想的なギターは、やがて「家路」のメロディを奏ではじめます。
何ということ、、、! 銀河に響く「新世界交響曲」といえば「銀河鉄道の夜」を思い出さずにはいられない、、、!
“嗚呼、カムパネルラ! 僕たちずっと一緒に居やうね!、、、(涙)”
遠い異世界で奏でる望郷の調べは、亡き人たちへの鎮魂歌、、、彼らの魂はやがて南十字星に到着し、光に満ちた安らかな世界へと導かれていきます。
ブライアンが「銀河鉄道」の物語を知っていたかどうかは分からないけれど、偶然にしてはハマりすぎだよ、、、(涙)
終盤近くの「The Show Must Go On」では、「神々の業」で崩れたオペラ座の柱が再び立ち上がり、巨大な神殿が築かれていきます。空中に散らばっていたカケラが再び集まって、新しいQUEENのエンブレムを形作ります。それはクイーンが新しい塊となって生まれ変わったことを意味するのでしょう。そしてショーは最後のクライマックスへ突入していきます、、、。
*
「フレディ・マーキュリーのセレブレーション」
それはつまり、ブライアンとロジャーが司祭となって天上のフレディを祝福し、使わされた神の子アダムに5番目のクイーンとしての洗礼を施すこと、それがこのショーのテーマだったと僕は受け止めました。
僕たち観客はその神聖な儀式に招かれた立会人であり、最終的に僕は(僕らは)否応なくアダム・ランバートをクイーンの正式なメンバーとして承認することになるのです。
「異議のある者は申し出よ」
カーテンコールに現れた巨人ロボットがいかにもそう問いたげに見えたのは、僕の気のせいでしょうか、、、?
実際、このショーを見終えて異を唱える人はいなかったろうと思います。
ショーの演出もバンドの演奏もアダムのパフォーマンスも、すべてが圧倒的で素晴らしかった。
今後、実際にアダムを迎えてクイーン名義の新作がリリースされるかどうかは別として、これはクイーンという音楽遺産を次世代に引き継ぐために再構築された、ひとつのリプロダクションなのだと思います。
メディアは違えど、ミュージカル「WE WILL ROCK YOU」もそのひとつだったし、ベジャールの舞台「バレエ・フォー・ライフ」や映画「ボヘミアン・ラプソディ」などもみなクイーンの一部です。
フレディでなければクイーンではない、といった狭義の批判はとうに飛び越えて、クイーンは様々に形を変えながら、これからもずっと生き続けていくのでしょう。
フレディとアダムとクイーンに祝福を!
*
[SET LIST]
0. Track 13(?)
1. イニュエンドウ (Intro)〜ナウ・アイム・ヒア / Now I'm Here
2. 輝ける7つの海 / Seven Seas of Rhye
3. 炎のロックン・ロール / Keep Yourself Alive
4. ハマー・トゥ・フォール / Hammer to Fall
5. キラー・クイーン / Killer Queen
6. ドント・ストップ・ミー・ナウ / Don't Stop Me Now
7. 愛にすべてを / Somebody to Love
8. 神々の業(リヴィジテッド) / In the Lap of the Gods... Revisited
9. アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー / I'm in Love With My Car
10.バイシクル・レース / Bicycle Race
11. 地獄へ道づれ / Another One Bites the Dust
12. アイ・ウォント・イット・オール / I Want It All
13. 手をとりあって / Teo Torriatte (Let Us Clinghether)
14. ラヴ・オブ・マイ・ライフ / Love of My Life
15. ‘39
16.ドゥーイング・オール・ライト / Doing All Right
17. 愛という名の欲望 / Crazy Little Thing Called Love
18. アンダー・プレッシャー / Under Pressure
19. ドラゴン・アタック / Dragon Attack
20. ボーン・トゥ・ラヴ・ユー / I was Born To Love You
21. ブレイク・フリー(自由への旅立ち / I Want to Break Free
22. You Take my Breath Away (intro)〜リヴ・フォーエヴァー / Who Wants to Live Forever
23. ギター・ソロ / Guitar Solo
24. タイ・ユア・マザー・ダウン / Tie Your Mother Down
25. ショウ・マスト・ゴー・オン / The Show Must Go On
26. RADIO GA GA / Radio Ga Ga
27. ボヘミアン・ラプソディ / Bohemian Rhapsody
アンコール: Ay‐Oh (Freddie on screen)
28. ウィ・ウィル・ロック・ユー / We Will Rock You
29. 伝説のチャンピオン / We Are the Champions