僕は自転車を無我夢中でこいでいた。


AM8:00

この時間帯は通勤通学をする人たちで込んでいた。

周りの人たちはみんな僕を見ている。


振り返るサラリーマン、指を刺して笑う小学生、スカートを抑えるOL。


それもそうだ、だって…


サドルのない自転車を一人のサラリーマンが必死にこいでいるのだから。珍しいのだろう。


それでも僕は自転車をこぎ続けた。周りの目を気にせず、むしろ声援だと思うようにした。


「バカヤロー!なんで昨日朴さんの話聞いてやらなかったんだ!なんで…」
独り言を言っていた。周りに聞こえるほどの声で周りの目を気にせず。


朴さんと出会って数週間、僕は思い返していた。


初めて朴さんに出会った電車、偶然に僕の前に現れた。


偶然、同じ会社で働くことになった。


そこから平凡でつまらなかった生活が一変した。


毎日が楽しかった。





そのころの朴は・・・・・

AM8:10
空港に向けてタクシーで移動をしようとしていた。


「お客さん、どちらまで?」


「えっと、新潟空港までお願いします。9:15まで行きたいんですけど間に合いますか?」


「ああ、間に合うよ。」



朴はタクシーに乗り込み空港に向かった。そして何かを思い出したかのように携帯電話を取り出した。。。






一方、高男は
いまだに、自転車を無我夢中にこいでいた。疲れを知らないかのように。

空港まで1/4程度進んだ…その時だった。





プルプルプル、プルプルプル…

ポケットの奥の携帯がなった。


僕は自転車を止めて電話に出た。


「もし…も…し、はぁはぁ…朴さん今どこ?」


「空港向かってるけど。高男さんどーしたの!?そんな息切らして。」


「い、今…空港に……むかってチャリ…こいでて…。それより、朴さん帰るんだって。韓国に?何時の飛行機?」


「9:15だけど。昨日高男さんに話そうと思ったんだけど、忙しそうだったから。。。だから今、お別れの挨拶しようと思って。短い間でしたけどお世話になりました。…え?空港に?どーして?今日から出張でしょ?」


朴さんの淡々とした言葉に、僕の張り詰めていた気持ちが突如切れてしまった。


「…そんな勝手な。」

怒鳴ってしまった。


「理由は小田切先輩に聞いたけど、そんな簡単に、、、挨拶って。。。朴さんにとってB.E.M…僕はそんなもんだったんだ。」


沈黙が続いた。


「私だって…本当は帰りたくないんだよ。。。もっと高男さんと…」



プー、プー、プー…



電話が切れてしまった。


何言ってるんだ僕は。こんなこと言いたいんじゃないのに。ちゃんと伝えなきゃ。


高男は時計を見た8:30。


空港まで車で1時間。


冷静になって考えれば自転車で1時間以上掛かるに決まっている。


ただ、1/4進んでいる。朴さんに会える確立は0%に近いが、向かうしかなかった。


また、無我夢中で自転車をこぎだした。




・・・・・・・・・・



空港に到着した。…が、9:10。。。朴さんを必死に探した。11分、12分、と時は刻一刻と過ぎていく。

9:15になった。その時アナウンスが流れた。

「韓国行き2便出向しました。」

間に合わなかった。



・・・・・・・・・・



それからどうやって会社に戻ったのか記憶にない。。。


上司に「仕事サボって!」と怒られたがどうでもよかった。


幕張には行ったが、仕事に気持ちが入らず、失敗ばかり。


それでもなんとか3週間、幕張で過ごし帰ってきた。


翌日、3週間ぶりに本社に出社した。


会社に入り、いつものようにエレベータに乗り、IDカードで部屋のロックを解除し、いつもの缶コーヒーを買い、自分の席に向かった。


席につく途中、小田切先輩と井藤課長の席を通るのだが、小田切先輩の机はパソコンやら資料やら自転車のサドルやらで散らかってて、井藤課長の机は整理整頓されきれいだった。


いつもとなに一つ変わってはいなかった。



ただ変わっていたのは、、、朴さんの机の上が何もなかったこと。



その時である。




「おはようございまーす。」




と朴さんの声が聞こえた。







つづく